進化と転職(六回目)
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
種族レベルが規定値に達しました。進化が可能です。
職業レベルが規定値に達しました。転職が可能です。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
【符術】レベルが上昇しました。
【魂術】レベルが上昇しました。
新たに黙癒、病癒の呪文を習得しました。
【考古学】レベルが上昇しました。
【錬金術】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
【死と混沌の魔眼】レベルが上昇しました。
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私はここ最近、ジャンクパーツ集めばかりしていた。だが、戦闘を熟していなかった訳ではない。邪魔しに来る人面鳥を蹴散らしたり、気分転換に『黒死の氷森』でカルと暴れたりしていたのだ。
新たな呪文は黙癒と病癒で、これはそれぞれ沈黙と病気の状態異常を治癒する事が可能だ。両方とも使ってくる魔物と遭遇した事はまだないが、私本人は使えるのだから油断は出来ない。何時でも治せることを純粋に喜ぼう。
その甲斐もあってジゴロウには随分と遅れたが、私も久々に進化が出来るようになった。ヴェトゥス浮遊島から飛び立つ前に間に合って良かった。進化は一つの区切りのような気がするし、それが旅立ちのタイミングと重なったのは運命のようにも思える…と言ったら大袈裟か。
「うーむ…次は何処を弄るか…」
今、私はとある悩みを抱えて戦艦のラウンジで頭を捻っていた。それは今回の進化に際して、私は自分の身体の何処を改造するかについてである。ぶっちゃけ、私の貧相な発想力ではこれ以上何処を増やせばいいのか思い付かないのだ。
「奇を衒うのではなく、初心に戻って骨そのものを強化するか」
「何を強化するって?」
「うおぉ!?」
ラウンジには私一人しか居なかったはずなのに、急に後ろから声を掛けられた。情けなくも驚いてビクリと身体を硬直させてから振り返ると、そこには悪戯を成功させた子供のめいた無邪気な笑みを浮かべるアルマーデルクス様が立っていた。
「驚かさないで下さいませんか、アルマーデルクス様?」
「いやいや、隙を晒している方が悪いんだぜ?」
拠点ですら気を抜いてはダメなんですか?私は常在戦場の心構えを地で行くジゴロウや源十郎とは違うんです。勘弁して下さい!
私の抗議の視線など何処吹く風といった様子でアルマーデルクス様は私の隣にドカッと乱暴に腰を下ろした。そして背凭れに腕を回して脚を組み、私に向き直った。
「それで、何を悩んでおるのかね?一人で物思いに耽っているよりも、頼れる年長者に相談してみるが良い」
そう言ってドヤ顔になるアルマーデルクス様だが、見た目は少年なので年長者の貫禄は全く感じられない。むしろ子供が背伸びしているようで可愛らしいだけである。
しかし、彼の主観的な時間では私よりも遥かに永い時を過ごしてきた筈だ。ならば有用な助言を下さるかもしれない。なので私は私が抱える悩みについて彼に語った。
「アッハッハ!お前、面白い方法で進化したんだな!そりゃあ、あの捻くれ女神が気に入る訳だ!」
私が進化する時に使った手段、即ち自分自身の改造手術が余程面白かったのか、アルマーデルクス様は腹を抱えて爆笑し始めた。
「…そんなに面白かったですか?」
「少なくとも、俺は聞いたこと無いぜ?まともな理性と知性が残ってる不死自体が珍しいからな。改造して強くなろう、なんて考えに至らないんだろ。改造する事がまともかは分からんが」
「つまり、私のような風来者は例外だと?」
「おう。いない訳じゃ無いし、そう言う個体は他とは比較にならん位には強いらしいがな」
ほうほう、やはり理性の残っている不死は強いのか。ファースの地下にいた墓守殿もその一体ということだろう。
「お前もそうだが、風来者ってのはどんな姿だろうが理性も知性もあるんだろ?だったら同じ事を思い付く奴も出てきそうだぜ」
「ええ、私もそう思います」
「話が逸れたな。何処を改造するか悩んでるんだったか…マリアにはこれ以上タダでアイテムを渡すなって言われてるし…そうだ!」
アルマーデルクス様は顎に手を当てて唸った後、パチンと指を鳴らして立ち上がる。何か名案を思い付いたのだろうか?
「俺から何か渡すのは駄目だが、助言はいいだろ。イザーム、お前はあの小僧の牙やら爪やらは集めてるか?」
「小僧…と言うとカルの事ですよね?勿論、保存してありますとも」
私は胸を張って即答した。カルは時々、牙と爪、そして鱗が生え変わる。アイテムと化したそれらは全て私が回収していた。子供の生え変わった乳歯を保存している両親も多いと聞くが、私はそのタイプであるらしい。アイリスに装備に加工してもらうでもなく、ただただ保存したままになっていた。
「それを使え。アイツはそもそもがお前の魔力を浴びて龍になったんだろ?絶対に馴染むぜ?」
アルマーデルクス様の仰る事は尤もだ。カルは元々、イーファ様からいただいた卵が孵化して産まれた龍である。私の魔力を吸収して成長したのだから、私の骨にも馴染むだろう。
「えっ…いや、それは…」
「あん?嫌なのか?」
「嫌というか…勿体なくて…」
理屈では分かるのだが、カルの成長を実感させてくれるアイテムを消費するのは勿体ない気がするのだ。最初の鱗こそ首飾りにしたのだが、いざまとまった数が集まったとなると使えなくなってしまった。
「はぁ…小僧の素材を埃の被った物置に放り込んだままにしておくつもりか?使った方が小僧も喜ぶぜ?」
「むむ…わかりました」
そうと決まれば早速作業を開始しよう。使うのは特に品質の良い物を厳選して選んでいる。使うと決めたのなら、出し惜しみをしないのだ!
元々尖っている私の指の骨にカルの短剣のような爪を、尻尾に付いている頭蓋骨の歯に短めの牙を融合させていく。特に戦闘時にしか使わない第三と第四の腕に着ける爪はあえて長いモノを使ってみる。すると異様に指が長い、凶悪な腕の出来上がりだ。既にこのような改造はお手のものである。
「最後に使うのは…これですね」
「こりゃ尻尾の脱け殻か?」
「はい。斬尾殻というらしいです」
私が最後に取り出したのは、私も一つしか持っていないカルの素材であった。【鑑定】した結界がこちら。
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劣破滅龍の脱け殻 品質:良 レア度:S
劣破滅龍・カルナグトゥールの尻尾の先端に備わった部位、斬尾殻の脱け殻。
斬尾殻は非常に鋭い鱗の集合体で、切れ味は業物の武器に匹敵する。
脱け殻であるが故に使い道は限られるだろう。
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劣破滅龍になってからしばらくして、カルの尻尾の先端からスポッと取れたのがこの脱け殻だ。龍は身体の部位が抜け変わるのだが、尻尾の先端部分の形状を保って取れたのは初めてだった。
他のモノと同じ理由で保存していたのだが、最も使い道が思い付かないアイテムでもあった。だが、元々尻尾の表面にあったのだから、私の尻尾にも馴染むはずだ。
この脱け殻を私の尻尾の先端に被せてみる。しかし、流石はカルの尻尾と言うべきか私の尻尾の普段の大きさではブカブカだ。なので魔力を使って大きさを調整し、ピッタリ合うようにしてから融合させた。
これで準備完了である。進化先はどうなりましたかね?
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|混沌深淵龍骨神代賢者《カオスアビスドラゴンボーンエンシェントリッチ》
深淵系魔術を全て使え、身体に龍の一部が含まれ、更に【錬金術】によって様々な部位が追加された骸骨神代賢者の新種。
通常の骸骨神代賢者とは比較にならない強さを誇ると予想されるが、新種故に正確な戦闘力の測定は不可能。
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前の時と説明文はほぼ一緒である。骸骨古賢者の次は骸骨神代賢者らしい。これしか進化先は無いし、そもそもがこれで良い。ならば進化だ!
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|混沌深淵龍骨神代賢者《カオスアビスドラゴンボーンエンシェントリッチ》が選択されました。
|混沌深淵龍骨神代賢者《カオスアビスドラゴンボーンエンシェントリッチ》へ進化を開始します。
進化により【不死の叡智】レベルが上昇しました。
進化により【深淵の住人】レベルが上昇しました。
進化により【深淵のオーラ】レベルが上昇しました。
進化により【浮遊する頭骨】レベルが上昇しました。
進化により【中位不死支配】スキルを獲得しました。
進化に伴い、蓬莱の杖、髑髏の仮面、月の羽衣が一段階成長しました。
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「うおぉ…!?」
「へぇ、いい感じじゃないか」
進化が終わるといつもの万能感に包まれるが、それ以上に自分の身体に起きた変化に戸惑っていた。指が鋭くなったのは想定内だったが、第三と第四の腕は何故か指だけではなく腕そのもののが長くなっていたのだ。何で?理由が不明過ぎて謎だ。
次に尻尾なのだが、見た目の変化はこちらの方が大きい。これまでは私のものと同じ三つ目の頭骨の口から、剣のような毒炎亀龍の棘が生えている形状だった。しかし、今では尻尾の先端がカルの頭骨のようになっているのだ。
しかも意識を集中すれば、カルのような頭骨をカチカチと噛み合わせることも出来る。棘は何処に行ったのかと思えば、カルの口から仕込み武器のように出せるのだ。
出せる棘はカルの尻尾とほぼ同じ形状になっており、私の低い筋力でも【尾撃】の武技を使えばそれなりに威力のある斬撃や刺突が繰り出せそうである。接近を許した時に重宝しそうだ。
能力に関しては、いつも通りの三点セットと試練の報酬として受け取った装備が一段階強化された。加えて前回覚えた【浮遊する頭骨】も1レベル上昇している。数は増えていないので、恐らくは性能が向上したのだろう。
増えた能力は【中位不死支配】だ。これはレベル40になった時に獲得していた【下位不死支配】の上位互換で、既に上書きされている。レベル50までの不死を服従させる効果があり、プレイヤーは動けなくなるだけというのも同じだ。
「…強くなったし、謎の変化は置いておこう。次は転職か」
わからない事に頭を悩ませても仕方があるまい。そう現実逃避のように己を納得させてから、私は職業の選択画面に移った。こちらはいつも通りに無数の選択肢があるが、選ぶモノはもう決まっている。
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『深淵大賢者』が選択されました。
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ふぅ、これで終わりだ。想定外の出来事もあったが、しっかりと強化されたように思う。アルマーデルクス様のアドバイスに感謝せねば。
「ご助言をいただき、感謝します」
「水臭いことを言うなって!俺とお前の仲じゃねぇか!ま、恩に思ってるなら時々顔を見せに来いや。土産も忘れんなよ?」
「ええ。勿論です」
頭を下げる私に、アルマーデルクス様は肩を叩きながら笑ってそう言った。浮遊島を出立すれば、暫しの別れとなるだろう。だが、今度会う時はアルマーデルクス様が驚くようなお土産を持参して会いに行こう。私は心の中で誓うのだった。
ゴテゴテしていく主人公。でも筋力は魔術師の範囲を出ないので、見た目よりも威力が低いです。
次回は9月14日に投稿予定です。




