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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十二章 修理と強化と変態と
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大天狗vs蛮闘狒々王

 セイがシェントゥを追跡し始めた頃、『天霊の都』に攻め寄せる者達がいた。勿論、シェントゥに命令された狒々(ヒヒ)達である。彼らは蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)に率いられた精鋭部隊であり、以前のイベントでの攻め手が彼らであったならプレイヤーとNPCの連合軍は一瞬で壊滅していただろう。


「ウゴホオォォォォォォォ!!!突撃ダ!」

「「「ウキイィィィィィ!!!」」」


 蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)の大号令に従い、狒々(ヒヒ)達は眼を血走らせて突撃を敢行した。洗脳によって判断力が低下していても、前衛タイプが先陣を切り、後衛タイプが魔術などで援護するという最低限の連携は取れている。しかも王がいることでステータスが上昇しており、決して油断していい相手ではない。


「今だ!撃てぇい!」


 対する天狗達も黙ってはいない。守護の任に就いていた天狗達と鬼達も攻撃を開始したのだ。天狗の強力な魔術が狒々(ヒヒ)達を薙ぎ払い、鬼の剛力でしか引き絞れない強弓から放たれた矢が数匹の狒々(ヒヒ)を纏めて貫く。防衛を勤める精鋭達は、数任せの狒々(ヒヒ)の精鋭を軽々と雑魚同然に蹴散らしていった。


「ウッホオォォォ!」

「ウゴォォォォォ!」


 だが、狒々(ヒヒ)の中にも猛者と呼べる者がいる。源十郎を追い詰めたサブロウと互角の者達である。彼らは槍のように先端を尖らせた大木や、自動車ほどもある巨岩を投げて攻撃する。


 城壁は頑丈だが、流石にそれほどの質量をぶつけられたら一部が崩落してしまいかねない。なので天狗達は魔術でこれを相殺せざるを得なかった。


 城壁からの攻撃の密度が低下したことで、遂に城壁に取り付く狒々(ヒヒ)が現れた。これが人類の軍であれば、梯子や攻城櫓が必要であろう。


 しかし普段は樹上で暮らす彼らにとって、城壁を素手で登ることなど児戯に等しい。ほんの少しの出っ張りに指を器用に引っ掛けるなど朝飯前である。地面を走るのと同じ速度で一気に駆け上がった。


「ふん!」

「落ちろ!」


 しかし、城壁を登りきっただけでは意味が無い。王のお陰でステータスが向上していても、地力で鬼に劣っているのだ。強くなっていても、纏まった数がいなければ城壁にいる鬼達の敵では無いのである。


 ある者は登りきった直後に頭部を潰され、ある者は登りきる前に強弓に貫かれて落下していった。集団で登ろうとする者達は集中的に狙われ、城壁の上でまともな戦果を上げられた者は今だに皆無であった。


「ウホオォォォォ!何ヲ手間取ッテイル!」


 そう吠えたのは蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)であった。未だに攻めあぐねている狒々(ヒヒ)達に業を煮やしたのである。


 普通に考えれば、しっかりとした城壁と統率の取れた防衛の兵が守っている都市の攻略が一瞬で終わる訳がない。しかし、戦争に関する基本的な知識すら有していない蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)には分かるわけがなかった。彼にあるのは、脳裏にこびりついた『迅速にこの巣を奪い取らねばならない』という義務感だけであった。


 当然、この感情はシェントゥによって植え付けられたものである。仮にも王である蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)を洗脳するのは普通であれば不可能だが、二つの要素がそれを可能にしていた。


 それは彼がシェントゥに洗脳された後に王へと進化した事と、『仙桃の種』による増幅効果であった。既に強力な洗脳が施されていたからこそ、シェントゥの枷から逃れられなかったのだ。この偶然も、彼奴が運命に愛されていると勘違いした理由の一つでもあった。


 しかしながら、自分よりも圧倒的に格上の相手を洗脳して命令通りに動かすのはシェントゥの技術を以てしても至難の業であった。試行錯誤した結果、思い通りに動かすには単に命令するのではなくて『しなければならない』と思い込ませるのがコツであった。


 閑話休題。蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)は全身から黄色い闘気を立ち上らせ、偽物の義務感に駆られて自ら突撃を敢行した。彼の正面にいた狒々(ヒヒ)達は、慌てて左右に避けて道を開けようとする。間に合わなかった個体を轢殺しながら、闘気と同じ黄色い尾を引いた隕石の如く城門に迫った。


「やれやれ、己の同胞を巻き添えにするとは感心せんぞ?」

「ヌゥ!?」


 直撃すれば城門を一撃で吹き飛ばしたであろう体当たりであったが、間に割って入った者によって止められてしまう。蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)は驚いて止めた者を見ると、そこにいたのは長く白い髭を蓄えた一人の天狗がいた。


 他でもない、大天狗その人である。彼は右手に持った錫杖だけで、蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)の拳を受け止めていた。


「何者ダ!ソコヲ退ケ!」

「退けと言われてものぅ…退いたらお主、城門を壊すじゃろ?それは困るでの、邪魔させてもうらうわい」


 そう言うと、大天狗は左手に持つ羽団扇を振るった。すると軽く扇いだだけであったのに、突風が吹いて蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)を吹き飛ばしてしまったではないか。


 蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)は信じられないと言いたげな表情で立ち上がる。その時、ズキンと全身に鋭い痛みが走った。自分の身体を見下ろすと、細かい切り傷が至るところに走っているではないか。


「ほほう、流石にこれだけで死にはせんようじゃな」

「キ、貴様…何ヲシタ!?」

「何をしたと言われても、団扇で扇いだだけじゃて。尤も、この団扇は特別な品じゃがのぅ」


 『天霊の都』を治める大天狗は、幾つもの特別なアイテムを装備している。この団扇はその一つであり、名を『風神黒羽団扇』と言う。『風と探索の女神』ホリュセの試練を越えて得た、彼だけの武器である。


 その機能の一つとして、扇いで起こした風を自在に操る事が可能であった。なので軽く扇いだだけで無数の鎌鼬を含んだ突風を生み出すことが可能なのである。


「ウホオォォォォォォォ!殺ス!殺シテヤル!」


 もしも、蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)が洗脳されていなければ、最初の一撃を受け止められた時点で警戒しただろう。そして大天狗が引き起こした異常な現象を見て、実力差を悟って撤退したかもしれない。


 だが、今の一刻も早く奪い取らねばならないという思いしか無い彼の頭に、様子見や一時の撤退しようという思考など微塵も無い。只管に、愚直に、無謀とも理解せずに戦うだけである。


 蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)は更に濃密な闘気を大量に放出し、威風堂々たる巨人を象っていく。サブロウのそれとは比較にならないエネルギーを包含した巨人は、体格に見合った巨拳を振りかぶって殴り付けた。


「力はあるようじゃが…それだけじゃの」

「ナンダト!?」


 大天狗ごと城門を砕くつもりで繰り出した闘気の拳だったが、大天狗は錫杖を一振りするだけで闘気を巨人そのものを真っ二つにしてしまった。錫杖の頭についている環が立てるシャランと言う澄んだ音が、騒がしいはずの戦場に響き渡る。


 理解の及ばない事態に、洗脳状態ではあってもようやく実力差について考えが至るようになったのか、蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)の顔には焦りと恐怖が浮かんでいた。しかしながら、行動の根本に都の奪取が据えられているせいで撤退の指示を下す事も出来ない。どうすれば良いのか判断出来ず、彼の動きが完全に止まってしまった。


「これこれ、呆けておる場合では無かろうに」

「ゴェッ…!」


 硬直して隙だらけの蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)の喉に、大天狗は錫杖の頭を突き刺した。刺した瞬間に眩い閃光が迸り、喉を貫通して風穴を空ける。


 その衝撃で蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)は地面に引っくり返って無様にのたうち回った。その姿からは、王としての威厳など全く感じられない。本来ならば痛みによって絶叫を上げたのだろうが、喉を潰されているのでくぐもった音を出すことしか叶わなかった。


「図体とレベルは高いが、戦い方がなっておらん。まあ、お主に掛ける情けなど無いが」


 宙に浮く大天狗は全く感情を感じさせない眼で蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)を睥睨していた。彼らに事情があったのかもしれないが、己の都を襲撃した相手に掛ける情けなど持ち合わせてはいないのだ。


「オォ…ヴゴオオォォォォォ!!!」

「戦いを選ぶか、小僧。それもまた良し。この大天狗、フウケイに討たれた事を冥土の土産とするがよい」


 それから数分後、蛮闘狒々王(バントウヒヒオウ)は奮戦虚しく本気を出してすらいない大天狗・フウケイに討ち取られた。王を失っても、洗脳されている狒々(ヒヒ)達は我武者羅に都へと突撃するのを止める事はない。結局、最後の一匹が力尽きるまで『天霊の都』での攻防戦は続くこととなった。



◆◇◆◇◆◇



「よォ、戻ったぜェ~」

「おお、戻ったか」


 私が浮遊戦艦の中で作業をしていると、ジゴロウ達が帰ってきた。彼らには拠点転移(ベーステレポート)の札を渡しているので、帰ろうと思えば何時でも拠点に帰ることが可能なのだ。


 ジゴロウ達は向こうで抗争に巻き込まれたようだが、此方は此方で大変だった。戦艦のためのジャンクパーツを集めたり、アルマーデルクス様や半龍人(ドラゴニュート)達の依頼を熟したりしていたからだ。


「何だか久し振りだなァ、兄弟」

「実際に久し振りだからな。三人も元気そうで良かったよ」

「うむ。そちらも大事なかったようじゃの」

「大変やったけど、収穫は多かったで!」

「俺もだぜ、イザームさん」


 源十郎、七甲、そしてセイも充実した遠征だったらしい。成果については後で色々と聞かせてもらうとしよう。


「それよりよォ、新入りは何処だァ?居るんだろォ?」

「ああ。今はアイリスに装備の相談をしているところだ」


 新入りの二人は、どうにかラングホート様の課した試練に打ち勝って我々と合流するに至っている。その試練とは、彼女の牙から作られた龍牙兵(スパルトイ)を倒すことだった。


 神代光龍女王エンシェントライトドラゴンロードであるラングホート様の牙から産み出されたのは、予想通りに普通の龍牙兵(スパルトイ)からはかけ離れた化け物だったよ。黄金の鎧を身に纏い、白銀の剣と盾を熟達した動きで操る戦士に二人は苦戦を強いられた。


 それでも二人のコンビネーションが上回り、満身創痍ながら倒すことに成功していた。ラングホート様も『番人としての役割を果たせた』と上機嫌である。彼女はマクファーレンを利用していたが、どうやら本当は自分の手で試練を課したかったようだ。クールな性格かと思っていたが、可愛いところもあるようだ。


「おお!アイリスと言えば、イベントの成績は見たぞい。お祝いせねばならんのぉ」

「せやな!最優秀賞は逃したけど、アイリスはんは最高額賞取ったし、しいたけはんはアイデア賞取ったんや!大勝利やで!」


 源十郎と七甲が言ったように、アイリスとしいたけはイベントにおいてそれぞれ最高額賞とアイデア賞を受賞している。イベント全体での最優秀賞は山人(ドワーフ)のプレイヤーが作った絢爛豪華な甲冑だったが、それにしても受賞した事実は目出度いことだ。


 ちなみに、アイリスはイベントで提出する時にプレイヤーネームを非公開にしていた。オークションの売上金や賞を取った事実はシステムで管理されているので、彼女は問題なく(ゼル)称号(タイトル)を得ている。


 しかし、非公開にしていたのが災いしたのか、『最高額賞を取ったのは自分だ』と騙る者が数人現れたらしい。どうせすぐにボロが出るだろうし、放置しておけばいいさ。


 一方でしいたけはプレイヤーネームを公開していたので、今は上質な薬品を求めるプレイヤーが躍起になって探しているようだ。見付けるのは困難を極めるだろうが、頑張ってくれ。


「イザームさん、この船はもう動くのか?」

「ああ、各種機能の試運転は既に済ませた。航行に問題は無いだろう」

「ってこたァ…」

「全員が揃い次第、未知なるティンブリカ大陸を目指して出航するぞ!」


 私の宣言に、四人はニヤリと笑う。彼らもチャットで次の目的地については聞かされていたので、楽しみに待っていたようだ。長く世話になったヴェトゥス浮遊島から離れることになるが、寂しくなる事はない。何時でも飛んで戻って来られるのだから!

 次回は9月10日に投稿予定です。

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