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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十二章 修理と強化と変態と
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風が吹けば桶屋が儲かる

 私はダーム殿達と共にバーディパーチを目指して空を飛び、無事に送り届けることに成功した。途中でネナーシ達と合流したが、村人と違って彼らは特に忌避感を覚えることは無かった。その理由も判明しているので、想像通りの展開である。


 ダーム殿から成功報酬の金銭を受け取ったところで、バーディパーチでのクエストを終えたルビー達と合流した。そこで軽くネナーシ達を紹介した後、現在は彼らと別れて『龍の聖地』へと帰っているところだ。


 ちなみに彼らは問題なく宿をとる事が出来たようで、ようやく安全な寝床を確保している。バーディパーチならテント等も売っているはずなので、これで危険な野宿する必要も無さそうだ。


「それで、あの二人も仲間に迎え入れるんですよね?ちょっと変わってますけど、悪い人じゃ無いですし」

「あー…実害は無いし、私は構わない。ちょっと変わり者ではあるが…」


 カルに抱えられて飛ぶエイジの質問に、私は言葉を濁しながらも肯定する。二人とも悪人というわけでも、他者に配慮が出来ない愚か者というわけでも無い。むしろ、二人とも紳士的で頼りになりそうな男達であった。


 ただ、口調が特徴的なだけのネナーシとは違って『殿』はちょっと…いや、かなりの変わり者である。転生先として、わざわざ我々でも一瞬硬直してしまう外見の魔物を選ぶところからもわかるだろう。それに…


「でもさ、イザームに憧れて魔物になった、何て言われたら悪い気はしないでしょ?」

「いやいや、ルビー。イザームさんはグイグイくるファンに若干困惑してるんすよ」


 シオの言う通りであるのだ。すっかり忘れていたが、私は人間(ヒューマン)だった頃の彼と会っていたのだ。それは『古代の移動塔』で移動する直前に、墓守(グレイヴキーパー)殿に挨拶しに行った後の帰り道である。


 ルビーを乗せて空を飛んでいると、眼下で逃げるプレイヤーを三人掛かりで追い掛けるPKがいた。弱い者イジメのようなやり方が気に入らず、PKを【邪術】で即死させてやったのだが…その時に助かったプレイヤーが彼だったらしい。


 私に助けられた後、彼は私、と言うか助けてくれた者に関する情報をかき集めた。しかし、遠目に見ただけで正確な見た目は不明であり、調査は遅々として進まなかった。ファース近郊では埒が開かないと、彼は一人で旅に出たそうだ。


 それから紆余曲折あって、彼は『死と混沌の女神』イーファ様が管理する転生の隠し神殿を発見した。そして転生に必要なアイテムを収集した後、それを捧げて転生した。その後、加護とヴェトゥス浮遊島を目指せと神託を受けたようだ。


 イーファ様!貴女、私達がここに居るのを教えたんですかい!そう叫びたい気持ちもあったのだが、二人とも得難い人材であるのは間違いない。掌の上で踊らされているようで悔しいが、感謝はするべきだろう。


 それにしても、己の行動がこんな形で返ってくると誰が想像出来ようか。出来る者がいるなら、是非とも友人になりたいものだ。


「確かに、ああいうファンは複雑よねぇ」

「おや?やけに実感が込もってますね?」

「あ、リアルに関係あるからこれ以上は聞かないでよ」

「おっと、それは失礼」

「仲間が増えるのは良いことよね!」

「そーだねー」


 兎路はひょっとして有名人なのだろうか?まあ、詮索はしないが。紫舟とウールは私の悩みなど気にせずに仲間が増える事を喜んでいる。


 二人のように、素直に歓迎する方がいいのかもしれない。そんなことを考えながら、私は帰るのだった。



◆◇◆◇◆◇



 蛮闘狒々(バントウヒヒ)が率いる群れと戦った後、源十郎達は大天狗達に戦闘の内容とサブロウが口走った情報を伝えた。その辺りで時間が遅くなりつつあったので、彼らはその日はログアウトすることとなった。


 後日、彼らがログインすると、『天霊の都』がざわついていた。気になって彼らが泊まっている宿から出てみると、住民の多くが都の入り口に武装して集まっているではないか。


「なんだ、祭りかァ?」

「ジゴロウはん、アンタの言う祭りやったとしても参加したらあきまへんで!」

「わァってンよ~」


 暴れられるチャンスかもしれないと笑うジゴロウを、七甲が抑えるように釘を指した。ジゴロウはヒラヒラと手を振りながら、本当にわかっているのか不安になる返事をする。種族(レイス)から『狂』の文字は消えたが、戦いの臭いを追い掛ける性格は全く変わっていないのである。


 しかし、近付かないと何も始まらない。故にジゴロウ達は野次馬に混ざって騒ぎの元へと向かった。すると、城門の前に何かの団体が来ている。狒々(ヒヒ)による襲撃かと思われたが、事情が異なるらしい。


「ありゃあ…(ムジナ)か?」

「向こうにいるのは河童(カッパ)かの?」


 来訪者は狒々(ヒヒ)ではない妖怪達であった。大天狗達と彼らは互いの生活圏を脅かす敵である。基本的に森で遭遇すれば、当たり前のように殺し合いになる。


 にもかかわらず、彼等は白旗を掲げて立っていた。一体何が目的なのだろうか?


「おい、そこの兄ちゃん。アイツ等、何しに来たっつってンだ?」

「あ、はい。何でも休戦協定を結びたいとか言ってるみたいですよ」


 ジゴロウが近くにいた鬼に尋ねたところ、(ムジナ)達は休戦協定を結びに来たらしい。この時期に休戦を申し出る理由は一つしかあるまい。


狒々(ヒヒ)共を本格的に潰すつもりじゃろう」

「まあ、理由はそれしかありませんわな」


 どうやら狒々(ヒヒ)による被害は、『天霊の都』以外でも甚大であるようだ。共通の敵と戦うために共闘する、という訳では無いにしろ狒々(ヒヒ)の問題が解決するまでは徒に戦力を削り合うのは確かに馬鹿馬鹿しい。その愚を避けようと言うことなのだろう。


 源十郎がそう解釈していると、大天狗の側近であった眼鏡を掛けた天狗を先頭にした一団が現れた。そして(ムジナ)達とその場で交渉を開始する。声を張り上げているわけではないので、交渉の具体的な中身はわからない。後で聞けばいい事だ。


「これ以上ここに居っても何にもならんじゃろう。儂はちょいと席を外そうかの」

「例の鍛冶屋かい、源十郎さん?」

「うむ」


 セイの言う『例の鍛冶屋』とは、都にいる唯一の鍛冶屋のことである。サブロウとの戦いで、源十郎はかなり傷付いた。その時に折れた角や剥がれた外骨格は、例のごとくアイテムとして回収することが出来た。


 源十郎はそれらを回収して、鍛冶屋に頼んで武具へと加工して貰うことにしたのである。源十郎の持ち込んだ素材だけで武具が作れるとは思っていないので、他に使った素材の代金に関しては別途に支払う事になっていた。


「じゃあ俺も付いていっていいか?そろそろ俺の棒も買い換え時だと思ってたんだ」

「構わんよ。共に行こう」

「ほな、ワイらは事の成り行きを見守っておきますわ。ジゴロウはんが暴れださんように見張りも必要やろうし」

「アァ?流石に俺でも今空気を読まねェで暴れたりやしねェぜ!」

「…ほんまでっか?」


 七甲とジゴロウの漫才を背に、源十郎はセイと彼の従魔を引き連れて鍛冶屋に向かうのだった。



◆◇◆◇◆◇



 『天霊の都』にある鍛冶屋からは、金属を叩く作業音と職人達の怒号が聞こえてくる。狒々(ヒヒ)達と引っ切り無しに戦っているので、最近は武具の消費も激しい。なので彼らの仕事はとても多く、作業に追われているのだ。


 そんな忙しい鍛冶場に併設された店舗に、源十郎とセイは訪れた。店番をしているのは若い鬼の青年で、涼やかで凛々しい風貌は鬼の女性の間でも人気があるらしい。その二枚目鬼は、客が来たのを見て人当たりの良い笑顔を浮かべた。


「おっ、この間の風来者さん達かい!いらっしゃい!」

「うむ。頼んだモノは完成しておるかの?」

「ええと、そいつぁ親方の仕事だからなぁ…」


 源十郎が尋ねると、店員は困った顔になってしまう。親方ならば難しい仕事を多数抱えており、まだ完成していないのも仕方がないと納得しそうになっていた。


「親方!親方ぁ!」

「喧しい!聞こえとるわ!」


 出直すべきかと源十郎が考えていると、店員は大きな声で鍛冶場にいる親方を呼ぶ。青年の声も大きかったが、鍛冶場から帰ってきたのはまるで雷鳴のような怒鳴り声だった。


 ドカドカと音を立てながら鍛冶場から店舗に出てきたのは、一人の巨大な壮年の鬼であった。二メートルを超える身の丈に、丸太のように太い腕。頭には鉢巻きが巻かれ、全身からは玉のような汗が噴き出している。右手に握った金槌を見るに、ついさっきまで作業をしていたのだろう。


「アンタか…ちょいと待ってな。持ってきてやる」


 親方はチラリと源十郎を一瞥すると、踵を返して鍛冶場へと戻っていく。それから数分後、親方は一本の棒を担いで戻って来た。全体を覆うように粗布が巻かれているせいで、シルエットから棒状の武器であることしかわからない。


 親方は無言でその棒を源十郎に差し出した。受け取った源十郎は、粗布をゆっくりと丁寧に解いていく。そうして露になったのは、五十センチ近い黒褐色の刀身を持つ槍であった。刀身に比例して長い柄には、東洋風の(ドラゴン)が絡み付くような蒔絵が施されている。現実でも刀剣を幾度と無く見たことのある源十郎でも、その力強さと美しさに思わず見惚れてしまった。


「…ほう、大身槍じゃな?」

「おう。アンタの角を最大限に活かそうとしたらこうなったぜ」


 大身槍とは、穂先が長い槍のことである。刃の部分が大きく、刺突の威力は通常の槍よりも遥かに高い。一方で先端が重くなるので扱いが難しいことでも知られていた。


 源十郎はその大身槍を受け取ると、四本中二本の腕で構えてみたりゆっくりと動かしてみたりしてその具合を確かめた。さらに四本の腕全てを使って同じような動作を繰り返す。そうして一通り試した後、納得したように頷いた。


「良い仕事をしてくれましたな、親方。最高のバランスじゃ」

「へっ!誉めても何も出ねぇぞ、指南役殿」


 源十郎が手放しで絶賛するも、親方は素っ気ない言葉を返す。しかし、誉められて嬉しくない訳では無いらしい。隠しようもなく口角が上がっており、ニヤケ顔になるのを必死に堪えているのは誰の目にも明らかであった。それを指摘して殴られたくはないので、鬼の青年は何も言わなかったが。


「刀身は言うまでもなくアンタの角を使った。刃にゃ器用と貫通力を上昇させる紋様を彫ってある。ちょいと火で炙ったらそこらの金属よりも遥かに固くなりやがってよ、硬度を上げる必要はなかったぜ」

「儂の角にはそのような特性があったとは初耳じゃ」

「知らなかったのかよ…続けるぜ。柄の蒔絵は装備してる奴の体力と槍そのものの耐久力を回復させる効果がある。長丁場も乗り越えられる仕様だ」

「素晴らしいのぅ」


 今使っている武器に勝るとも劣らぬ性能に、源十郎は満足していた。一刻も早くこの槍を振るいたいと身体が疼く気分であった。


「あの、俺は棒が欲しいんだけど…丁度いいモノはあるか?」

「棒ですかい?ええっと…この辺がそうですぜ」


 源十郎が静かに興奮している一方で、セイは己の目的を果たすべく店売りの武器を確認していた。バーディパーチや『天霊の都』でのクエストを通して、彼もそこそこ稼いでいる。レベルに合った武器の一つくらいなら、ポンと購入できる資金はあるのだ。


「ふむ…親方殿、素振りをしてもよろしいか?」

「なら裏庭を使いな。訓練用の木人も置いてあるし、そっちの若ぇのと模擬戦をしてもいいぜ」

「かたじけない。では行くぞ」

「んえっ!?なっ、ちょっ、待っ!俺まだ選んでる最中…!?」


 源十郎は礼を述べつつ、セイの首根っこを掴むと裏庭目指して歩き出す。セイは突然の事に思わず声を上げるが、源十郎は聞く耳を持たない。抵抗虚しく、セイは引きずられていくのだった。

 『殿』の事を覚えている方はいらっしゃったでしょうか?あの頃から仲間にする予定だったので、ようやく登場させられて安心しております。


 次回は8月21日に投稿予定です。

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