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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十二章 修理と強化と変態と
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天霊島にて

 ログインしました。三人が魔界へ拉致された後、私は休日出勤のためにログアウトせざるを得なかった。なのでその後の顛末はチャットのログを見るしか無かった。


「…という事があったのです」

「あのサタンって奴、絶っっっ対性格悪いよ!」

「まー、マジメじゃーないよねー」

「それは…本当に災難だったようだな」


 だが、本人から直接聞いた方が正確だし手っ取り早い。何より、モッさんからチャットによってライブ中継のように魔界の様子を実況していたのだが、最後の方はモッさんも慌てていたせいでチャットの内容が意味を成していなかった。なのでログを読んでも意味不明な部分に関して、彼らに聞いてみたのだ。


 三人から魔界での顛末を聞いた我々は、心の底から同情した。彼らだけホラーゲームめいた体験をしたのだ。そう言うのが好きな人ならともかく、そうでなければ苦痛でしか無いだろう。私だったら気分が悪くなっていたかもしれない。


「それで、どうするつもりだ?勧誘に応じて三人とも悪魔(デーモン)になるのか?」


 コロコロと態度が変わって正直気持ち悪いサタンや、悍しいが便利な機能を持つであろう悪魔宮殿(デーモンパレス)にも興味はある。だが、私が最初に気になったのはそこだ。悪魔(デーモン)となればほぼ確実に戦闘力は強化されるのだろう。なので強くなりたいだけなら、選択肢など最初から決まっている。


 しかし、代償の無い力など存在しない。悪魔(デーモン)になったら魔界に住む悪魔(デーモン)からのクエストを達成しなければならず、失敗を繰り返せば重いペナルティが課されるのだ。軽々に決められる事では無いと私は思っていた。


「私はそのつもりです」

「ほぅ?」


 故にモッさんが即答したのは想定外だった。私と同じく慎重派だと思っていた分、驚きは大きなものだった。


「その心は?」

「クエストは難しいものになるでしょうが、イザームさん達に手伝いを頼めばどうにかなると思いますからね。ああ、報酬は山分けにしますけど」

「なるほど…手伝う側にもメリットはあるか」


 報酬として魔界産のアイテムなどが入手出来るのならば、私を含めて多くの仲間達が手伝うに違いない。部外者に手伝わせることを禁じてくる場合もあるが、その時はその時だ。


「二人はどうする?」

「正直、悩んでるの。強くなれるんだろうけど、キモくなるかもしれないし…」

「ぼくはー、悪魔(デーモン)にー、なろーかなーって」


 紫舟は外見的な問題から保留、ウールは前向きか。理由はきっとモッさんと同じだろう。なった後が面倒そうな悪魔(デーモン)だが、仲間がいればそこまででもないようだ。


「それで、イザームさんは今日どうするんですか?早速、修理のためのパーツ集めですか?」

「そのつもりだ。先ずは『古の廃都』から行く。エイジと兎路も一緒だ。規模の大きな遺跡として見つかっているのは彼処だけだしな」


 モッさん達がどう進化するのか。それは少し先の未来の話である。今は浮遊戦艦の修理だ。必要なパーツそのものが手に入るかは不明だが、それに加工出来るらしいジャンクパーツは『古の泉』や『古の廃都』に唸るほど眠っている。しばらくはそれらを回収してアイリス達に託すのが私の仕事になるだろう。


「手伝いますよ。紫舟さんとウール君はどうしますか?」

「ごめん!ルビー達と約束してるの!」

「バーディパーチでー、クエストを受けるんだよー」


 どうやら紫舟達にはバーディパーチで予定があるらしい。バーディパーチと言えば、随分と世話になった。浮遊戦艦という新たなる拠点が出来たこともあって近い内に出ていく事になるが、立つ鳥跡を濁さずという諺もある。出来るだけ気持ちよく去れれば良いものだ。


 閑話休題。他の面子も私に付き合ってくれる者達以外は別行動をしている。アイリスとしいたけは『龍の聖地』で作業に没頭しており、ルビーとシオは共にバーディパーチに行ったはずだ。邯那と羅雅亜は趣味の遠駆けを兼ねてヴェトゥス浮遊島に残る遺跡を探してもらっている。残りのメンバーは全員が修行のためにアクアリア諸島の天霊山に向かった。きっと強くなって帰ってくるに違いない。


「各々に予定があることだし、ここらでお開きとするか」

「うん!じゃあまた後で!」

「じゃーねー」


 こうして我々は別れ、別の場所で待つ仲間の下へと向かう。新たな発見があるかもしれないと思うとワクワクするなぁ!



◆◇◆◇◆◇



 イザームがモツ有るよやエイジ達と共に『古の廃都』で何時の間にやら繁殖していた人面鳥(ハーピィ)に包囲されながら探索している頃。ジゴロウに連れられて天霊山に来ていたメンバーは、その五合目辺りにて全員で死闘を繰り広げていた。


「ハッハァ!良いねェ、それなりに強ェじゃんかよォ!」

「オラァ!数が多すぎるぜ、ジゴロウの兄貴!」


 彼らに襲い掛かるのは主に動物のような妖怪達である。この島ではジゴロウ達が以前に訪れた天狗と鬼の勢力とは別に、強大な力を持つ妖怪が率いる集団がいた。彼らは天狗達と敵対しており、ジゴロウ達も滞在していた時はこの者達と戦っていた。


 また、彼らが戦っている相手が何者であるのかをジゴロウと源十郎は知っていた。敵の群れを構成している妖怪は二種類。片方は下っ端の妖怪、そしてもう片方は指揮官の妖怪が【召喚術】で水増しした召喚獣だ。小型だがすばしっこく、鋭い爪と牙を持っている、(ムジナ)という妖怪である。


「数に頼りすぎじゃ、阿呆め。連携も何も無いしのぅ…七甲に比べれば、【召喚術】の使い方が雑過ぎるわい」

「褒めてもろうて恐縮ですけどねぇ!ワイ、いっぱいいっぱいなんやで!?何でそんなに余裕があるんでっか!?」


 源十郎からすれば、数に任せて押し潰そうとする召喚獣の群れなど敵では無い。そしてレベルが高く無い下っ端は、召喚獣よりは強いものの、雑魚に変わりは無かった。だからこそ連携の一つでもしなければ相手にもならないのだが、知能が低い妖怪ばかりなのでそれも不可能だった。


 そして七甲は召喚獣の(ムジナ)に向かって烏をけしかけていた。姿を隠しているので術師がどんな相手なのかは不明である。だが、【召喚術】のレベルでは己よりも勝っていると七甲は考えていた。一匹一匹の質が高く、数も多い。きっと魔物としてのレベルでも劣っているのだろう。


 それでも戦えているのは、イザーム達と潜り抜けてきた修羅場で培った召喚獣を巧みに操る技術と勝負勘の成せる業だった。ただし、本人も自己申告しているように限界間近の状態だ。技術でどうにもならない地力の差、というものである。


「見えた!総員、突撃ぃ!」

「「「おおおおおおお!!!」」」

「チッ!天狗共カ!撤退ダ!」


 彼らの戦いを察知したのか、ジゴロウ達が登っていた獣道の上から一人の天狗に率いられた鬼達が下ってきた。天狗が手に持つ錫杖を軍配のように振り下ろすと、鬼達は全速力で突撃を開始する。エイジでも力業では防ぎ切れないかもしれない圧力があった。


 頑強な肉体にそれを活かす金棒や大刀などで武装した彼らが恐ろしく強いことを、古来より争ってきた獣達はよく知っている。故に撤退の判断は早かった。森の茂みの奥から指揮官のものであろう濁声が発されると同時に、下級の妖怪達は素直に退却する。同時に召喚獣はよく言えば勇敢な、悪く言えば無謀な突撃を開始した。明らかな時間稼ぎである。


 時間稼ぎだとわかっていても、召喚獣を放置するのは下策だ。何故なら、イザームが幾度となく使っているように召喚獣は自爆させられるからだ。自爆される前に倒さなければ危険であると知っている鬼達は、手際良く始末していく。だがその間に妖怪達には逃げられてしまった。


「追撃は不要だ。深追いすれば、手痛い反撃を食らうぞ」

「へい、お頭」


 鬼達の中に熱くなって追い掛けようとする者は一人もいない。この程度の小競り合いは日常茶飯事なのだ。全員が武器を肩に担いで臨戦態勢を解除した。


「よう。久し振りだなァ、天狗さんよォ」

「おお!ジゴロウ様ではありませんか!」

「「「お疲れ様です、指南役!」」」

「うむ」


 『大天狗の直弟子』という称号(タイトル)を持つジゴロウは、天狗と鬼の一族に尊敬されている。同様に『天霊島剣術指南役』である源十郎も、一部の戦士には崇拝すらされていた。現に今も鬼達は背筋を伸ばして整列している。


「大天狗のジジイはいるか?」

「はい。大天狗様はいつも通り、道場におられます」

「そっかァ…」


 朗らかに答える天狗とは対照的に、ジゴロウはニヤリと顔を歪めた。それは獲物を狙う猛獣を彷彿とさせる狂暴さを滲ませている。まるで抜き身の刃のようなジゴロウの雰囲気に、仲間であるはずのセイと七甲ですら些か恐怖していた。


「それはそうと、お主らはどうして山を下って来たのじゃ?この辺りまで来るのは珍しいのではないかの?」

「それは…」


 大天狗と戦うことしか頭に無いジゴロウとは違って、源十郎は以前訪れた時との違いについて問い掛けた。天狗達の縄張りは、この山の頂上から八合目ほどまでの高い場所だ。そこから狩りなどで下ることはあるが、今彼らがいる五合目付近まで来ることは無いと聞いていた。


 質問された天狗はとても苦々しそうに顔を歪めた。だが彼は一度深呼吸してから大きく息を吐いて気持ちを落ち着けると、真面目な面持ちになって源十郎の目を真っ直ぐに見て言い淀んだ続きを述べた。


「その事については大天狗様からお話があると思われます。とりあえず、『天霊の都』へ共に参りましょう」

「ふむ、承知した」



◆◇◆◇◆◇



 天霊山の頂上には、『天霊の都』という街がある。街の雰囲気は江戸時代の日本を彷彿とさせる。しかしながら、街道を行き交う人々は天狗や鬼などの妖怪であるし、牛車に繋がれているのは獣の妖怪だ。和風の都ではあっても、やはり妖怪の土地であるのを嫌でも理解させられる光景であろう。


 『天霊の都』の中心部には、一際大きな建物がある。そこには街の有力者達が集まる集会所や、ジゴロウ達が天狗や鬼達と切磋琢磨した道場があった。ジゴロウが道場を訪れると、珍しく修行している者は誰もいない。その代わりに、上座でゴロゴロしている人影がいた。


「よう、ジジイ。遊びに来たぜ」

「ほほ?久しいのぉ、我が弟子よ」


 道場にいたのは他でもないこの都の長、大天狗である。彼は自分の家があるというのに、何か他の用が無い時はいつも道場で寛いでいた。


「お久し振りですな、大天狗殿」

「源十郎もおるのか。ふむん?他にもおるようじゃの」

「俺達の仲間だ。ほれ、行けや」


 大天狗は身体を傾けてジゴロウ達の背後へ目を向ける。ジゴロウは二人の背を叩いて前に押し出した。


「ダメージ入ったんやけど…はぁ。ええと、自分は七甲言います。よろしゅう頼みますわ」

「セイだ。よろしく頼むぜ、兄貴のお師匠さん」

「うむうむ、元気でよいのぉ」


 大天狗は好々爺然とした雰囲気を漂わせて笑っている。だが、ジゴロウと源十郎は知っている。大天狗は見た目に似合わぬ悪戯好きのトリックスター的な気質であり、なのにいざ戦いとなれば人が変わったかのように激しく暴れる厄介な化け物だ、と言うことを。


「しかし、この困っておる時分にお主等が来てくれた事は僥倖と言う他に無いわい。のう、一つ頼まれてくれぬか?」


 これは面倒な案件に違いないが、逃れる事も出来ないに違いない。ジゴロウと源十郎はそれを悟ってため息を吐くのだった。

 次回は7月20日に投稿予定です。

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