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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十一章 黒死の氷森
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黒死の氷森 その二

 探索を開始した我々だったが、早速現地人が恐れる場所の洗礼を受ける事になった。


「さ、寒っ!?」

「ぼぼぼ、防寒具着てるじゃん!アイテムも作ったじゃん!な、なん、なんで寒いのさ!?」


 『黒死の氷森』に足を踏み入れた途端、周囲の空気が凍りついたかのように気温が下がったのである。悲鳴を上げたのは紫舟としいたけであった。二人の体力バーは減少していないし、マーカーにも状態異常の類いにかかってはいない。周囲の環境によるペナルティは誰も受けていないのは、事前の準備を怠らなかった成果だろう。


 だが、想像してほしい。モコモコのダウンジャケットを着込んで、真冬の雪国へ行った時の事を。そう。どれだけ暖かくしていても、寒いものは寒いのだ!ゲームのステータス上では問題ないが、それが嘘のように寒いらしい。私?骨が冷えた所で何にも感じんよ。


「そう言えば、二人は黒森は初めてだったか」

「オイオイ、こんくらいで何言ってんだ?もっと奥に行きゃァ、もっと寒ィって話だぜ?」


 それを聞いて紫舟としいたけはそれぞれに行動を起こした。紫舟は無言でウールの羊毛に埋まり、しいたけはシオににじり寄ったのである。


 紫舟はいつものことなのでウールは反応すらしない。だが、しいたけはそう上手く行かなかった。シオのフワフワの羽毛にしがみつこうとしたのだろうが、スッと飛ばれて逃げられたのである。


「う~!暖めてよぉ、シオたぁん!」

「えぇ…いざと言うときに動けなかったら困るからダメっす」

「ぐっ!正論で諭されたら、お姉さん何にも言えないじゃんかよぉ…」


 立体的な軌道で飛行しながら射撃していくのが、シオの戦闘スタイルだ。故に戦術の要である機動力を損なう訳にはいかないのである。それを理解出来ているので、しいたけはあっさりと諦めた。


「まあまあ。すぐに慣れますよ」

「せやで!そもそも、防寒具着れるだけマシやろ、アンタら!」


 しいたけはまだマシだ。服を着る事が出来るのだから。逆にそれも出来ないモッさんや七甲は我慢するしかない。彼らも装飾品で耐性はあるが、寒さは我慢していた。


「あのー、騒いでる所悪いんだけどさ、敵が来るよ」


 おっと、早速戦闘になるのか。この辺りの敵は大体把握しているが、新種である可能性は否定出来ない。油断禁物だ。


「「「ギュギュー!」」」


 我々の前に飛び出してきたのは、うっすらと青みがかった水晶のような角が生えた白い兎の魔物だった。うん、見覚えがあるぞ。そのステータスがこれだ。


――――――――――


種族(レイス)氷角兎(アイスホーンラビット) Lv40~43

職業(ジョブ):水氷魔闘士 Lv0~3

能力(スキル):【氷角】

   【体力強化】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【敏捷強化】

   【水氷魔術】

   【連携】

   【水属性耐性】

   【火属性脆弱】

   【斬撃耐性】

   【寒冷無効】


――――――――――


「むっ、氷角兎(アイスホーンラビット)の群れか」

「チッ、雑魚の方かよ」


 つまらなさそうにジゴロウが悪態を付く事からわかるように、この魔物は初見ではない。むしろ幾度となく積極的に戦って、素材を回収している。


 何故かって?兎の毛皮って、防寒具の材料になるのだよ。それに能力(スキル)にもある【水属性耐性】が反映されて、防寒具にも同じく【水属性耐性】があった。なので防寒具が必要ない私も、余った素材で防具の裏地を張り替えてもらっている。


 ドロップアイテムは毛皮と肉と魔石、そして角と後ろ足だ。角と後ろ足はまあまあレアで、体感的に五パーセントと言ったところか。しかも戦闘中にそれぞれの部分を傷付け過ぎると品質が落ちるという罠付きである。


 特に後ろ足は全員が持っている寒冷耐性を得るための装飾品、『氷角兎の足飾り』の素材となるので面倒だが必死に集めていた。ドロップアイテムの為に乱獲してごめんなさい。


 因みに、強さそのものは大したことは無い。だが、常に群れで行動するので数が多いのが厄介だ。この群れも二十匹はいる。ぬいぐるみのように愛らしい見た目の氷角兎(アイスホーンラビット)だが、これだけの数がいて、更に敵意を剥き出しにしていては愛でたいとは我々の誰も思わなかった。


「ほな、行こか」

「ウォーミングアップに丁度良いぜ!」


 そう言って飛び出したのは、七甲をリーダーにしたパーティーである。今、我々は従魔を合わせて十九人いるので四つのパーティーを作り、連合(ユニオン)を組んで行動していた。今突っ込んだのは七甲、邯那、羅雅亜、セイそして彼の従魔二匹という、最も地上での機動力に長けたチームだった。


「うん。小さい敵にも当たるようになったわね」

「器用だなぁ」


 彼らも氷角兎(アイスホーンラビット)を幾度となく倒しているので、その様は正しく蹂躙であった。七甲の召喚したカラスが上空から襲い掛かり、召喚獣ごとセイと従魔が始末していく。邯那は騎乗したまま方天戟で正確に氷角兎(アイスホーンラビット)の首を刎ね、乗せている羅雅亜は感嘆しながら【雷撃魔術】で着実に数を減らしていた。


「一方的ですね」

「そうっすねぇ。けど、音に引き寄せられて他の魔物が来るかもしれないっすよ」

「じゃあ予定通り、ボク達で偵察に行こうよ!紫舟、大丈夫?」

「うぅ…寒いけど、行くわ。ルビーだって寒いのは同じだろうし…」

「ってことで私達は偵察に行こうと思うんだけど、いいかしら?」


 観戦していた私に、兎路が尋ねる。彼女もまた、パーティーのリーダーだ。構成しているのは兎路、ルビー、シオ、紫舟の女性四人組であり、最も身軽で機敏な動きが出来る。偵察や奇襲、そして遊撃を得意とするメンバーを集めた形だ。彼女達ならばしっかりと偵察してきてくれるだろう。


「頼む。くれぐれも気を付けてくれ」

「わかってるわよ。行くわよ、みんな」

「ハイっす、姐さん!」


 四人は速やかに行動を開始する。シオは木々の間を縫うように飛び、他の三人は木の枝を足場にしてヒョイヒョイと樹上を進んでいく。その様子はまるで忍者であった。


「おう、兄弟。アイツ等が帰ってくるまではここで待機か?」

「そうなるな。そもそも、四人に偵察を頼む前に戦闘が起こっただけで、偵察そのものは最初からしてもらう予定だっただろ?」


 五人だった時ですら、ルビーに斥候してもらって慎重に進んでいたのだ。人数が増えたなら、より慎重に動くのが私である。その事はジゴロウ知っていたハズだが…退屈なんだろうなぁ。


「そうだけどよォ、暇じゃねェか」

「そう言うと思っていた。だったらアイリスとしいたけを手伝ってくれ。目の届く範囲だと言っても、一応護衛は必要だろう」

「あいよ」


 なので採取に精を出している生産職二人の護衛をさせるとしよう。二人の作るアイテムの世話になっているのは間違いないので、ジゴロウは素直に従った。やれやれ、動いていないと落ち着かんのか、お前は。


「相変わらず回遊魚のような奴じゃの、ジゴロウは」

「全くだ」


 いつの間にか隣に来ていた源十郎と共に苦笑する。決して悪い奴ではないのだがなぁ。


「時にイザームよ。次のイベントの情報は調べておるか?」

「ああ。第三陣に合わせてのイベントだろう?」


 先日、運営から第三陣が発売されるという発表と同時に、新たなイベントについての告知があった。その内容は生産物の品評会とである。前は第一回闘技大会と同時に開催されたものを、今回はメインに行うようだ。


 そのイベントは第三陣の発売日の当日と翌日と翌々日の三日間も開催される。期間が長いし、最終日には品評会へ出品されたアイテムのオークションもあるので、その日には攻略組も来ることだろう。


 恐らく、古参プレイヤーと新規プレイヤーの交流を促す狙いもありそうだ。お互いにとって良い刺激になると良いね。私には関係ないけど。


「そうじゃ。二人も出品するのかの?」

「そうらしい。今回から開催地へ行く必要が無いシステムが追加されたからな」


 ファースで行われた前回は、会場にプレイヤーが持ち込む必要があった。だが、今回は事情が異なる。既に幾つもの都市にプレイヤーが分散しており、更には我々以外にも異なる大陸へ到達した者達も出ているのだ。


 しかもそのフラーマ火山島という新大陸は、生産全般における聖地とも言える場所だった。なので生産職のトッププレイヤーはそちらに移住しており、わざわざファースに戻るのはイベントとは言え面倒臭い。


 故にメニュー画面から生産ギルドへ出品出来る機能が追加されていた。生産ギルドとは生産職のプレイヤーが所属する場所で、今回の品評会を主宰する立場になっていた。


「アイリスは本気で取り組むつもりっぽいぞ。この探索で得た素材を用いるつもりらしい」

「ほほぅ、本格的じゃな。優勝を狙っておるのか?」

「出品すると決めた以上、手を抜くつもりは無いと言っていた」


 私は他の生産職が作った物について、ほとんど知識が無い。知っているのは掲示板に載せられているスクショの情報だけだ。


 それらがトップ生産職の最高傑作だとするならば、アイリスの作品も決して引けをとらない。しかも、現状では我々しか入手出来ないアイテムもある。十分に優勝を狙えるだろう。


「しいたけはどうなのじゃ?」

「あっちはネタアイテムを出品したいらしい。だが、本命は新規プレイヤー用の安価なアイテムを量産して一儲けすることだとさ」


 品評会と同時に、生産ギルドにはプレイヤーの委託販売ブースが設けられる。そこには初心者用アイテムの販売ブースもあるようで、しいたけはそこを利用して一財産築こうと画策しているのだ。


「儲かるかの?」

「さあ?薄利多売と言っても、相手はログインしたてのルーキーだ。持っている(ゼル)は初期の所持金からほぼ変わらんだろうし、儲けようと思うなら相当な数を売り捌く必要がありそうなものだが…」

「勝算があるのじゃろ。上手く行くかは知らんがの」


 源十郎も私と同じであまり儲け話に興味は無いので、しいたけが儲けようが逆に損しようがどちらでも良いというスタンスである。素材自体は全て我々の手で採取していて原価はゼロだから、売れれば売れるだけ儲けになると言えるが…人類プレイヤーの薬師や錬金術師も同じことを狙っていてもおかしくはない。


 どのプレイヤーにとっても、いい小遣い稼ぎになると映るに違いない。そこに割り込んで儲けられるとは思えないんだよなぁ…。競争相手が多すぎるのである。


「委託販売で少し手数料が必要だが現金収入にはなるさ。小遣い程度だろうけども」

「そうじゃろうて」

「誰もー、儲かるってー、思ってないねー。僕もだけどー」


 黙って聞いていたウールも私達に同意であるらしい。とにかく、今は自分が参加しないイベントよりも『黒死の氷森』を攻略することに集中しよう。私がそんなことを考えている間に、目の前で最後の一匹が狩られるのだった。

 次回は5月1日に投稿予定です。図らずも令和最初の日ですね!

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