進化と転職(カル編 二回目)
今回から新章が始まります。
――――――――――
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
従魔、カルナグトゥールの種族レベルが規定値に達しました。進化が可能です。
従魔、カルナグトゥールの主人、イザームが進化の操作を行って下さい。
従魔、カルナグトゥールの職業レベルが規定値に達しました。転職が可能です。
従魔、カルナグトゥールの主人、イザームが転職の操作を行って下さい。
【尾撃】レベルが上昇しました。
【尾撃】の武技、鞭尾を修得しました。
【杖】レベルが上昇しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【鎌術】の武技、斬首を修得しました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力精密制御】レベルが上昇しました。
【水氷魔術】レベルが上昇しました。
新たに氷雨の呪文を習得しました。
【暴風魔術】レベルが上昇しました。
新たに風鎚の呪文を習得しました。
【樹木魔術】レベルが上昇しました。
新たに魔樹召喚の呪文を習得しました。
【溶岩魔術】レベルが上昇しました。
新たに溶柱の呪文を習得しました。
【砂塵魔術】レベルが上昇しました。
新たに砂刃の呪文を習得しました。
【煙霧魔術】レベルが上昇しました。
新たに毒霧の呪文を習得しました。
【符術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
――――――――――
そんなこんなでビグダレイオでの戦いから約一週間が経過した。我々は戦いの報酬を受け取ったら直ぐに出発し、ヴェトゥス浮遊島へと帰ってきた。サルマーン陛下にはまた来た時は歓迎すると言われたし、今回は行けなかったメンバーを連れて冒険したいものだ。
ヴェトゥス浮遊島に戻った時、既に七甲達他のメンバーはバーディパーチに辿り着いていた。合流した我々はこれまで、『古の廃都』の人面鳥や『古の泉』の魔魚を狩って、レベリングしつつ連携の練習をしている。
レベリングも練習もとても上手く行った。ただ、それ以上に全体的な戦いの技量がかなり磨かれている。何故かって?
「ハハハッ!いい読みだったぜェ?」
「クソッ!あれも避けるのかよ!」
「ほっほっほ。まだまだ、動きに無駄があるのぉ」
「ぐはっ!?今のも通用しませんか…!」
そう、今も私の前で繰り広げられている模擬戦のお陰だ。前衛組はジゴロウと源十郎の二人によって徹底的に扱かれていた。しかもいつの間にか彼らの訓練は、今ではバーディパーチの戦士も巻き込んだ訓練や演習のクエストとして彼らの収入源の一つとなっている。
皆の腕前が上がるし、私が巻き込まれる事は減ったし、いいこと尽くしである。え?ジゴロウと源十郎以外は辛そうだって?いやぁ、何の事やらさっぱりですわ。
「おっ?兄弟じゃねェか。どうした?そこの生産コンビとレベル上げしに行ったんじゃなかったのか?」
ジゴロウが私に気が付いて疑問を口にする。彼の足元には精魂尽き果てた様子のセイが転がっていた。一対一でそれなりに粘っていたようだが、そう易々と勝たせてはくれないらしい。
そしてジゴロウの言う生産コンビとは、アイリスとしいたけのことである。アイリスは装備を始めとした様々なアイテムを作り出すが、【錬金術】だけは能力を持っていない。逆にしいたけは【錬金術】を使う専門職である錬金術師だ。創造することを求めてプレイする女性二人は意気投合し、最近は十八號のサポートを受けながら二人で工房に籠って色々と試行錯誤している。
そんな二人は最近生産活動ばかりで工房の外に出ていなかった。なので気分転換も兼ねて外に出たいと思っていた時、丁度ログインした私が手助けするべく同行していたのである。
「ああ。それが出発した直後にカルが進化出来るようになったのだよ」
それがとんぼ返りした理由だった。ビグダレイオから去った後、私の種族レベルも能力レベルも結構上がった。それに伴って新しい武技と魔術も覚えている。だがそれよりも注目すべきは、先程の狩りで遂にカルが進化する条件を満たしたことだろう。
アイリスとしいたけも龍であるカルの更なる進化に興味津々で、フィールドではなくて落ち着けるバーディパーチに戻ろうと提案してきたのは彼女等であった。私はそれに乗っかった訳である。
「マジかよ!オイ、爺さん達!こっち来いよ!」
「む?呼んだかの?」
ジゴロウが背後を振り返って仲間達を呼んだ。そしてカルが進化出来ると伝えると、他のログインしているメンバーも集めてくれた。ここにいないメンバーにはクランチャットを使ったので、もうすぐ全員が集まるだろう。
「ほほぅ、それは目出度いのぉ」
源十郎はカラカラと笑いながら祝福してくれた。彼は私達とほぼ同時期に進化を果たしている。彼の新たな種族は武士甲蟲人と言う、極限まで刃物に特化した虫人の一種となっていた。
基礎的なステータスの上昇に加え、これまでよりも更に刀剣類による攻撃力に高い補正が乗るようになったらしい。代わりに斬撃属性の無い武器は使えなくなったが、元々使っていないので問題は無いだろう。進化した身体の具合を確かめると言ってジゴロウと行った模擬戦という名のガチバトルは見物であった。どちらが勝ったのかは…想像にお任せする。
「カルちゃんって、劣龍だったよね?次は何になるんだろう?」
「んー、わかんないねー」
そう言ったのは紫舟とウールだった。二人は相変わらず仲が良いようで、紫舟はウールの頭の上にちょこんと乗っている。
二人は随分と姿が結構変わっている。紫舟は血濡剣蜘蛛という、近接戦に特化した蜘蛛へと進化していた。魔術は不得意なようだが、体力と攻撃力、防御力と素早さが大幅に上昇している。身体のサイズも小さくなって、小回りも利くようになった。
超強化されているように思えるが、そこまで単純ではない。最大の変更点だが、何と糸は使えるが罠を張れなくなってしまったのだ。完全に徘徊性の蜘蛛である。能力から【罠】の文字が消え、さらに再取得も出来ないそうな。
全体的に真っ黒で暗い赤色のラインが入った、毒々しい外見をしている。節足は全て刃物のように鋭く、恐ろしく攻撃的なデザインだ。厳つ過ぎる外見を本人はちょっと嫌がったそうだが、前のようにウールの背中に乗って丁度いいサイズに戻れたので今では気に入っているようだ。
ウールは悪夢羊という、更に眠らせる事に特化した種族になった。特に進化した時に増えた能力である【悪夢】は強力で、ウールが眠らせた相手は睡眠時にダメージを負うのである。正に、悪夢へ誘う羊となったのだ。
鳴き声を十全に扱える吟遊詩人の職業にもなっているし、それによって【呪歌】という吟遊詩人専用の能力も取得している。歌声によって味方の強化や敵の弱体化を狙う、と言うのはクランの中でも異色の戦い方だ。戦術の幅が広がるし、彼にしか出来ないことも増えることだろう。
「イザームはんに龍見せられた時きゃ、びっくりしたけどなぁ」
「食べられそうになりましたしね」
染々と語るのは七甲とモッさんだ。二人はイベントで別れた後、ビグダレイオに居なかった仲間達をここまで引っ張って来た。二人とも良識があるので、色々と助かっている。ほら、ウチにはヤバい奴がいるから…
そんな二人だが、カルは美味しそうだと思ったらしい。即座に襲い掛かって食べようとしたのだ。慌てて止めたから事なきを得たが、二人には未だにカルへ苦手意識がある。やはり普通に攻撃されそうになるのと補食されそうになるのは違うのだろう。食欲全開で襲われた経験は無いからわからないが。
「…ジゴロウの兄貴も源十郎の爺さんも、ホントにプレイヤーかよ」
「強すぎだよねぇ~。あの二人は反則級だわ。ほい、薬」
「サンキュー」
先程までジゴロウにボコボコにされていたセイは武猿猴に、ポーションを渡したしいたけは猛毒針茸に進化していた。セイの従魔もフェルは鋭角狼に、テスは幻蝶妖精に進化している。
セイは悔しがっているが、彼の腕前はメキメキと上がっている。それが楽しいのか、ジゴロウは彼と積極的に模擬戦を繰り返していた。そのお陰だろうか、今では地に足を着けた戦いならあの二人に次ぐ実力者へと成長していた。
しいたけはしいたけで充実している。これまでの冒険やイベントで採取していた素材とヴェトゥス浮遊島の素材を用いて多種多様な実験を繰り返しているのだ。錬金術に特化した職業を選んだだけあって、私の作るポーションや攻撃アイテムよりも品質が上である。もう生産はあの二人に任せていいんじゃないかな?
「あらあら、進化するの?どうなるのかしら?」
「とりあえず大きくなるんじゃない?エイジは食べられないように気を付けなさいよ?豚肉だし」
「兎路…君って奴は…」
「ははは。仲が良いね、君たちは」
次に来たのは邯那と兎路、そして羅雅亜とエイジであった。邯那と羅雅亜は共にレベル50に到達しており、それぞれ高位人間と迅雷馬へと進化している。
これで邯那は僵尸となる条件を満たした。彼女が進化した身体の調子を確認したいと言うのでまだ僵尸化はさせていない。五の倍数になっていないのでインフォには記載されていないが、【死霊魔術】と【符術】は随分とレベルアップしている。なので直ぐにでも施術は可能だった。
「あっ!ボク達が最後だよ!」
「完全に自分のせいじゃないっすか!申し訳ないっす!」
「住民と会話中だったんですし、仕方がないですよ」
少し遅れてやって来たのは、ルビーとシオだった。どうやら丁度シオがNPCと会話中だったようで、直ぐに動けなかったようだ。別に絶対に集まらなければならない訳じゃないから構わないのだがね。
最初の五人であるルビーも、当然レベル50に達している。彼女は中級暗殺宝石粘体を経て、上級暗殺宝石粘体へと至った。隠密行動の巧みさとスピードにおいて、彼女はクランでぶっちぎりのトップである。
防御力もエイジに次ぐ固さであり、攻撃力は据え置きだが敵のど真ん中に突撃して撹乱させるのが非常に得意であった。混乱に乗じて親友であるシオが指揮官を狙撃してやれば、数で勝る相手でも二人で蹂躙出来る。恐ろしいコンビだ。
「ふむ。そろそろ進化するか、カルよ」
「グオゥ!」
私は仮想ディスプレイを操作する。まず決めなければならないのは、能力に関するものだ。おや?前と少し違うな。前回は『選択可能な能力を追加して下さい』とあったが、今は『選択可能な能力を追加する、もしくは進化可能な能力を選んで下さい』となっているのだ。
ちょちょいと掲示板を調べると、どうやら従魔は進化する時に能力を追加する枠を消費して熟練度が貯まっている能力を進化させられるようだ。進化させられるのは大体がレベル40オーバーの従魔になってくるようだが、流石は龍。このレベルでも進化出来るとはね。レベルアップに必要な経験値がとても多いのだから、仕方がないか。
「カルよ。能力を増やすか進化させるか、どっちがいい?」
「グルルゥ」
「進化か?」
「グオゥ!」
どうやらカルは進化させたいようだ。カルの能力で進化させられるのは【爪】、【牙】、【角】、そして【尾撃】の四種類だ。さて、どれがいい?
「ふむ…【爪】と【尾撃】がいいのか?」
「グルゥ!」
カルはこれ見よがしに爪と尾の先を私に近付けて来る。ここまでされれば何を求めているのかは丸分かりだ。ならば選択して、進化だ!
――――――――――
従魔、カルナグトゥールの【爪】が【龍爪】に進化しました。
従魔、カルナグトゥールの【尾撃】が【龍尾】に進化しました。
従魔、カルナグトゥールが進化を開始します。
――――――――――
「グルルル…グオオオオオオオオオオオオオ!!!」
前回と同じく、カルは雄叫びを上げながらバキバキと音を立てて脱皮していく。ガラガラと古い鱗が剥がれて行き、更に一回り大きくなった。
ただし、感じられる力強さはこれまでの比ではない。鱗の下には隠しきれぬ分厚い筋肉が眠っており、目付きの凶悪さは増す一方だ。進化した爪と尻尾は背筋がゾクリとするような鋭さを秘めていた。
――――――――――
従魔、カルナグトゥールが劣破滅龍に進化しました。
従魔、カルナグトゥールが新たな称号を獲得しました。
――――――――――
劣破滅龍!劣は取れなかったが、どう考えても強い龍になったはずだ。それに称号まで…感無量だ!
――――――――――
従魔、カルナグトゥールが劣破滅龍に転職しました。
転職に伴い、カルナグトゥールが【威圧】を獲得しました。
――――――――――
転職先だが、やはり種族と同じ名前のものしか選べなかった。そして転職と同時に得た【威圧】の能力。これはジゴロウも使える能力で、発動中は対峙した格下の相手のステータスを下げる効果がある。ジゴロウは雑魚と戦うのが面倒だからと時々使っているので知っているのだ。
「グルルルル…」
「ふふふ、もっと大きくなったのに甘えたがりなのは変わらんのだな」
私を一口で噛み砕いてしまいそうなカルだが、何時ものように頭を擦り寄せて来る。相変わらず可愛い奴だ。そう思いながら、私はしばらくカルを撫で回すのだった。
次回は4月23日に投稿予定です。




