表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二章 仲魔と共に
16/688

銀仮面の魔術師

「双魔陣起動、闇波(ダークウェーブ)!」


 私はまず暗黒界(ブラックフィールド)で闇属性の威力を底上げし、その状態で闇波(ダークウェーブ)を後衛に向かって二つ放つ。更に鬼火(ウィスプ)に命じて空中から闇属性の魔術で爆撃を開始。


「きゃあああ!」

「うわあああ!」


 上手く行ったな。最低でも体力の半分は削り取ったし、一部に至っては【奇襲】が成功したらしく即死している。油断するからこうなるのだよ、馬鹿共め!


「行け、そして…爆ぜろ」

「「「「「カタカタカタ!」」」」」


 私は更に追い討ちを掛ける。後衛をこっそりと背後から半包囲させていた下僕を突っ込ませたのだ。


 敵の人数は十八名。そのうち弓と魔術というジゴロウの邪魔になるだろう相手は十名いた。遠距離からチクチク攻めるつもりだったのだろうな。接近して戦うには危険過ぎる相手なので、戦術としては正解だ。


 しかぁし!各個撃破を恐れて後衛を一ヶ所に固めたのはいただけないなぁ!弓使いとかの中衛も後衛を守ろうと集まってるけどねぇ、それじゃあ全員が下僕の自爆に巻き込まれちゃうぞぉ?


「な、何が…?」


 後衛十名、殲滅完了。我ながら鮮やかな手際だ。勇者君をはじめ、生き残った全員が呆気にとられているな。登場するのは今だ!


「ふむ、他愛もない」


 私は死屍累々の後衛側から徐に姿を表す。ただでさえ遅い時間のせいで暗いのに、暗黒界(ブラックフィールド)が月と星の輝きすら覆い隠している。


 光源は各人が持つカンテラだけという心細い明かりしか無い中では、私が闇の奥からやって来たかのような恐怖を煽る演出になった。嬉しい誤算である。


 黒いローブに宝珠の嵌まった美しい杖、そして顔を覆う髑髏の銀仮面。異様な姿にプレイヤー達は一人を除いて息を飲んだ。


「神の寵愛を受けし者が率いる精鋭、と聞いて楽しみにしていたのだがな。私如きの拙い奇襲で壊滅とは…期待外れだ」

「お、おい!何だよこの状況!?」

「し、知るか!何かのイベントだろ!?」


 よしよし、いい感じに勘違いしてくれたようだな。拙い奇襲だって?十八番の間違いだが、何か?


 このままあくまでも不遜に、しかし周囲をしっかり警戒してロールプレイを続けてやる!強敵っぽさを強調するのだ!それが勝利と最高の演出の為の最適解だ!


「まあ良い。面白いものは見られそうだか…」

「ふっ!」


 私の背後から迫って来たのは勇者君のパーティーの盗賊の少女だった。恐らく私よりも高レベルの【忍び足】や【隠密】、そして【奇襲】を持っているのだろう。


 しかし、その程度は想定済み。そこには私の罠が仕掛けられているのだ。問題は無…


「うぐっ!?」

「む?」


 罠が起動しない?何故!?動揺を悟られないようにゆっくりと振り返ると、少女は何故か緑色の触手に拘束されて空中で固定されているではないか!


 どういうことだ!?こんなのは台本に無いぞ!?ええい、アドリブだ!


「全く…悉く期待を裏切ってくれるな。私が気付いていないとでも思ったのかね?魔力剣(マジックソード)

「ッ!」

「メグ!?」


 私は呆れたと言わんばかりに首を横に振りつつ、魔力剣(マジックソード)で少女の首を跳ねる。想定内!そう思わせるのだ!良くやったぞ、私よ!よくぞ声を震えさせること無く、自然と倒せたな!


 なお、単に首へ攻撃を当てただけなら体力がごっそり減るだけだが、切断すれば即死させられるのは仕様である。やっばり妙な所でリアルなんだよなぁ。


 それはさておき、私が少女を即死させたことで、その身体が粒子へと変わる。拘束する対象を失った触手は、スルスルと森の奥へと戻っていった。…一体、何だったのだ?敵では無かったようだが。


「貴様ァァ!」

「キクノ!ダメだ!」

「…君達は本当に無粋だな。双魔陣起動、闇腕(ダークアーム)

「がはっ!」


 勇者の仲間であろう美女が大きな斧を振りかぶって此方に走ってくる。しかし、私は二本の闇腕(ダークアーム)を展開し、片方で武器を持った右腕を、もう片方で大盾を持った左腕を掴んで固定する。


 そしてこちらも魔力剣(マジックソード)を鎧の隙間から首に突き刺して殺害。まだゲームも序盤だから、攻略組と言っても装備に隙間が多いからやり易いな!


 ふう、しかし焦った。まさか突っ込んでくる者がいるとは。余程熱くなりやすい性格だったのか、それとも私の登場が本来の目的を忘れさせる程に強烈だったのか。どっちでもいいか。


「それで、呆けておっても良いのかね?そこの勇敢なる者を忘れておらんか?」

「なっ、しまった!」


 そうだ。私の登場に唯一動揺していなかった者。それはジゴロウだ。彼はタイミングから私がイザームであると察しただろう。そして少女の襲撃と美女の突撃の際に背中を向けていた前衛の首を静かに折っていた。


 …正直、私もドン引きである。本当に、そんな衝撃映像を視界に納めつつよくぞ動揺して声が裏返ったり震えたりしなかったものだ。自分を褒めてやりたいところだ。


 生き残っているのは勇者君を合わせて三人だけ。勇者君と彼と一緒にジゴロウに蹴られた少女、そして鈍色の鎧を着込んだ巨漢である。


「さて、勇敢なる鬼の眷属よ。君は戦いを望むのだろう?」

「ゲギャ(当然だ)」


 おや?鼠男(ラットマン)と違って副音声のように声が聞こえるぞ?【言語学】はプレイヤー相手なら本格的にコミュニケーションを取れる、と考えていいのか?


 考察は後回し!それよりも、一応聞いておこうか。


「この三人では荷が重いかね?」

「ゲギャギャ(余裕ゥ)!」


 ふふふ、凄い自信だな。ならば、見物させてもらうとしよう。当初の予定通りにな!


「ならば見せてくれ。君の戦いを!」

「ゲェギャアアアアア(行くぜオラアアアアア)!」

「くっ、仕方がない!ローズは援護!クロードさん、盾役をお願い出来ますか!?」

「わかったわ!」

「任せろ!」


 ふう、私の出番はここまでだ。あとはジゴロウ君が三人をどう料理するのかを見物するとしよう。それで、だ。


「…アイリスさん?」

「ふぁ、ふぁい!?」


 いや、話し掛けられてびっくりしてるけれども。暗闇に紛れていて人間三人には見えて無いだろうが、【暗視】のある私にはバッチリ近付くのが見えていた。


 というか、真横に胸までの高さがある岩が近付いてたら流石に気付くわ。と言うかこの状況で加勢してくれる人など、アイリスさん以外に心当たりは無い。


 あの触手は、彼女だったのだ。


 劣岩触手(レッサーローパー)とは、岩にしか見えない()()()で身を固めつつ隙間から伸ばした触手で敵を捕縛・補食する肉食可能な植物系の種族なんだとか。


 …何故、そんな極悪な種族をこの子は選んだのか?声からして女の子だろうに。


「どうしてここへ?」

「あの、その、魔物系同士、助け合い、です!」

「…なるほど」


 ええ子や…。私の仲間に飢えている気持ちを誤魔化す建前を信じてこっちに来たってことだろ?何だろう、急に罪悪感を覚えてきたぞ?騙しているみたいだ。


 あ、クロード氏、脱落。死因は受け身を取らせないように工夫したパワーボムか。痛そう。いや、死んでるのか。


「取り合えず、パーティー申請しておきますね」

「わぁ、ありがとうございます!」


 必要無かったとは言え、彼女に助けて貰ったのは事実だし、何より最初からこうするつもりだったから問題ない。予定が前倒しになっただけ…あ、ローズ氏も終わりか。剣を奪い取ってそれで斬り殺すって、無刀取りって奴?柳生の開祖か己は。


「うっ、くうっ!」

「ゲゲェ(ハハッ)グギャギャ(楽しいな、オイ)!」


 ジゴロウは勇者君の剣筋を完璧に見切っているようだ。一対一になった途端、掠りもしなくなったのである。


 一頻り戦闘を楽しんだ所でジゴロウは屈んで脚目掛けてタックル。そして勇者君の脚を掬い上げるように持ち上げて転ばせると、掴んだ脚を挫きながら後頭部に足刀を叩き込んで首を踏み折った。


 え、えげつない!残虐ファイターだな、オイ!



――――――――――


戦闘に勝利しました。

種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

種族(レイス)レベルが規定値に達しました。進化が可能です。

職業(ジョブ)レベルが規定値に達しました。転職が可能です。

【杖】レベルが上昇しました。

【魔力制御】レベルが上昇しました。

【暗黒魔術】レベルが上昇しました。

【虚無魔術】レベルが上昇しました。

【召喚術】レベルが上昇しました。

新たに一段階進化の呪文を習得しました。

【付与術】レベルが上昇しました。

【魔法陣】レベルが上昇しました。

【死霊魔術】レベルが上昇しました。

【罠魔術】レベルが上昇しました。

【言語学】レベルが上昇しました。

【鑑定】レベルが上昇しました。

【隠密】レベルが上昇しました。

【隠密】が成長限界に達しました。

【忍び足】レベルが上昇しました。

【奇襲】レベルが上昇しました。


――――――――――


 色々と上がったが、まずは激励せねばなるまい。


「終わったか、ジゴロウ君」

「おうよ、イザームさん」


 やはり察してくれていたか。これは重畳。


「先ずは助太刀に感謝するぜ。アンタが居なかったら、俺ァ小鬼(ゴブリン)の村に死に戻ってたからよ。それで、アンタ一体何なんだ?NPCなのか?」

「ハッハッハ!味方をも騙せたのなら、私の演技力も中々馬鹿に出来無いな!」

「って事はプレイヤーか。迫真の演技だったぜ?んで、そっちの岩は?」

「紹介しよう、と言うほどの仲では無いが…こちらはアイリスさん。アイリスさん、彼が『北の山の悪夢』ことジゴロウ君です」

「ゲギャギャ(よろしく)!」

「シュルルル(よろしくお願いします)!」


 うーん、シュール。何がって、【言語学】を持っていない二人は互いに意志疎通が取れないのだ。私の言葉は人語なので二人にも通じるのだが…不便だなぁ。


「ジゴロウ君、いや、面倒だ。私を呼び捨てていいから、此方もそれでいいか?」

「ああ、いいぜ」

「ありがとう。それで私は元々、進退窮まっていたアイリスさんの力になれないか、と思ってここに来たんだ」

「へぇ、そうなのか。んで、『北の山の悪夢』って何?」


 やはり彼も私と同じく掲示板を読まない人なのだな。自分がどれ程恐れられているのか知らないようだ。


「君のことだ」

「え?」

「数多くのプレイヤーを血祭りに上げてきたんだろ?それに恐れを抱いた連中が君に付けた二つ名だな」

「わーお、なるほどな」

「因みに、さっき君が全滅させたのは君のために組まれた討伐隊だつたらしい。返り討ちにあったがね」

「そっか、それでそこそこ強かったのかぁ…」


 ジゴロウは額に手を当てて空を仰ぐ。いつの間にか有名人に、それもわざわざトッププレイヤー達が集団で殺しに来る程の悪名を轟かせていたんだから仕方がないか。


「で、どうする?二人さえ良ければ、私の隠れ家に招待するが?」

「マジで?」

「本当ですか!?」

「ああ。魔物同士、助け合おう…というのもあるけど、最大の理由は違うな。正直なところ、せっかくのMMOでボッチを続けるのも味気なくてね。仲間が欲しかったのさ。不躾な頼みだが、二人とも私の仲間になってはくれないか?」


 二人とも初対面だが、悪い人物では無いように思う。ジゴロウは戦闘狂の気と言葉が少し汚い事を除けば気のいい好青年だし、アイリスさんは騙され易そうな所はあるが素直ないい子だ。是非とも仲間となって欲しい。


「水臭ぇぞ、イザーム。むしろ助けて貰った俺の方から頭下げて頼みてぇと思ってた所だ」

「あの、その、脚を引っ張るかもですけど、よろしくお願いします!」


 おお、二人とも了承してくれたか!良かった。


「ありがとう。ではすぐに出発しよう。日光が上ると、私は灰になってしまうからね。ジゴロウはこれを。私が作成した回復薬だ。効果はそこそこだぞ」

「何から何まですまねぇな。借りは戦闘で返すぜ!」


 そう言ってジゴロウは回復薬を一気飲みする。私は飲むことも出来ないし、掛けたらダメージを食らうから試し様がないが…味はどうなのだろう?


 それはともかく、ここから拠点まで普段のペースで歩いて二時間強か。日の出迄には確実に戻れるな。


「あ、あの!いいですか!」


 おや?アイリスさんがおずおずと触手の一本を伸ばしている。何か言いたいことがあるのだろう。


「どうしました?」

「あの、私も、呼び捨てに、してください!」


 あ、そうだよな。仲間なんだから何時までも他人行儀なのはダメだろう。ジゴロウとはタメ口なんだから、彼女にもそうするべきだ。


「わかった、アイリス。…これでいいか?」

「は、はい!」

「それはそうと、イザームのアジトはどこに有るんだ?」


 あ、そう言えば言ってなかったな。結局は知ることになるのだから、先に覚悟を決めておいて貰おう。


「私の拠点の場所はファースの街、その下水道にある隠し部屋だ」



◆◇◆◇◆◇



「『爆笑する大腿骨』」

「「おお!」」


 二人は微かな音を立てつつ開いていく壁と、その奥から現れた研究室の扉を見て感嘆の声を上げた。このワクワク感は誰にでも共通しているのかもしれんな!


 あ、合言葉は変更しておいた。他人が絶対に言わない言葉にしておけば安心だからな。


「スゲーな!隠し部屋っつってもここまで完璧に隠れてるとは思わんかったわ!」

「わわわ、見つけただけで10SP貰えちゃった!」


 お、発見ボーナスは二人目以降も有効なのか。けど、SPの量は減っている。一人目とそうでないものの違い、と言うわけか。


「ようこそ、我が研究室へ。物を壊したりしないのなら、好きに使ってくれて構わない。さっきの話もあるしね。どうだい?」

「えっと…大丈夫です!」


 アイリスは拠点の土壁を触手で触って感触を確かめる。我々が道中話していたのは、拠点の改造計画についてである。


 アイリスはキャラクタークリエイトの時、神に『同時に色んな作業が出来る種族がいい』と言ったらしい。その結果が劣岩触手(レッサーローパー)と言うわけだ。


 確かに沢山の触手でマルチタスクをこなせそうではあるが…ちょっとその神様、感性がズレてませんかね?


 そして作業という言葉で分かったかもしれないが、アイリスは生産職である。能力(スキル)も種族で決まっているもの以外は全部生産と採取用だ。私とは違う方向で徹底しているな。


 数ある彼女の能力(スキル)の中に【採掘】というものがあり、それを使って拠点を拡張出来るかもしれないと言うのがアイリスの提案だ。非常に面白いではないか。


 アクシデントはあったが、新たな仲間が加わったのは素直に喜ばしい事だ。人が増えたということは、やれる事ややりたい事がどんどん増えていくはず。今後が楽しみだな!

 はい、『主人公は卑怯上等』タグを回収しました。そしてまさかの触手がヒロイン候補筆頭。筆者の頭が心配だ!


 ジゴロウは単騎で場を引っ掻き回すタイプですが、イザームは相手を自分のペースに誘い込むタイプ。二人が上手く噛み合えばどうなるか…



――――――――――


名前(ネーム):イザーム

種族(レイス)動く骸骨(スケルトン) Lv10 max!

職業(ジョブ):見習い魔術師 Lv10 max!

称号(タイトル):理の探求者

   称号を得し者

   異端なる者

   下剋上

   神算鬼謀

   試練を越えし者

能力(スキル):残りSP 138

   【杖】Lv13 up!

   【魔力制御】 Lv15 up!

   【土魔術】 Lv9

   【水魔術】 Lv9

   【火炎魔術】Lv0

   【風魔術】 Lv9

   【暗黒魔術】Lv2 up!

   【虚無魔術】Lv1 up!

   【召喚術】 Lv10 up!

   【付与術】 Lv7 up!

   【魔法陣】 Lv9 up!

   【死霊魔術】 Lv7 up!

   【呪術】 Lv5

   【罠魔術】 Lv7 up!

   【考古学】 Lv7

   【言語学】 Lv6 up!

   【薬学】 Lv7

   【錬金術】 Lv7

   【鑑定】 Lv10 up!

   【暗視】 Lv-

   【隠密】 Lv10 max!

   【忍び足】 Lv9 up!

   【奇襲】 Lv7 up!

   【状態異常無効】 Lv-

   【光属性脆弱】 Lv6

   【打撃脆弱】 Lv10

固有能力(ユニークスキル)

   【イーファの加護】


――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アイリスちゃんが美少女触手娘になることを願う
女神から依怙贔屓されてるふたりが揃っちゃった
【誤字報告】  上手く行ったな。 ⇩  上手くいったな。 「取り合えず、パーティー申請しておきますね」 ⇩ 「取り敢えず、パーティー申請しておきますね」 「ありがとう。ではすぐに出発しよう。日光が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ