オアシスの戦い その五
前回と今回の投稿する順番を間違えておりました!本当に申し訳ありません!
投稿する直前まで気付いておりませんでした。なので予約投稿ではなく、気が付いてすぐに投稿しました。二度とこのような失敗をしないように心掛けて参ります。
――――――――――
種族:傀儡魔蟲 Lv55
職業:傀儡士 Lv5
能力:【悪食】
【吸血牙】
【強酸】
【単為生殖】
【寄生】
【傀儡化】
【体力強化】
【防御力強化】
【知力強化】
【打撃耐性】
【土属性耐性】
【水属性耐性】
【火属性耐性】
【風属性耐性】
【砂属性耐性】
――――――――――
これがジゴロウが砕いた部分から飛び出したモノを【鑑定】した結果であった。種族は傀儡魔蟲という当然だが初めて見たものだったが、能力の構成から見て砂魔蟲の進化した個体だと予想は出来る。サイズが随分と小さくなっているが、そういう事もあると思っておこう。
レベルは大きく上がっているし、いくつかの能力は進化しているので、純粋な戦闘力は砂魔蟲を大きく凌駕するだろう。砂魔蟲の系統なので防御寄りではあるが、だからこそ無駄にしぶといと思われる。
しかし、注目すべきは増えている能力の【寄生】と【傀儡化】だ。これ、絶対に棘殻蠍大王に【寄生】してるよね?と言うことは【傀儡化】して操っていると思った方がいい。なるほど、こいつが全ての元凶と言うワケだ。
この傀儡魔蟲が操っていたから、棘殻蠍大王が北上というこれまで確認されていなかった行動をとったに違いない。そして本来は好戦的ではないのに、恐ろしく攻撃的となっていたのだ。
更にレベル80オーバーの強者でありながら背後にいたジゴロウ達のあしらい方が雑だったもこれが原因だろう。このゲームでは野生での食物連鎖が再現されていると聞くし、その厳しい環境を生き延びた魔物がお粗末な戦い方しか出来ないというのは流石に違和感があった。それにビグダレイオの調査部隊に死者が出ていないという詰の甘さの説明も付く。さっき叫び声が二重に聞こえたのも、錯覚ではなかったのか。
「あの蟲を狙えぃ!」
サルマーン陛下が号令を掛ける。きっと【鑑定】をして私と同じ結論に至ったに違いない。ただ、彼の表情と声色からは隠しきれない怒りが感じられた。
兵士達も【鑑定】したのかどうかは不明だが、王の命令には忠実であった。魔術師はこれまでのように脚を狙うのを止めて傀儡魔蟲を狙い、彼らを守る者達も反撃は出来る限りせずに防御だけに専念する。
『ギギギィ…!』
この作戦が上手く作用したようで、傀儡魔蟲は自分を守るために大きな鋏の片方を使わざるを得なくなり、そのせいでサルマーン陛下の攻撃を防ぎ切れなくなっていた。それにしても他者の肉体を乗っ取って道具のように扱うとは、私が言う資格があるのかは不明だが卑劣極まりない。俄然、殺る気が増すというものだ。
しかしなぁ、倒した後にどうなるのかはわからないのがネックではある。操られていたのだとしても、これだけ痛め付けたのだから怒っていてもおかしくないからだ。傀儡魔蟲を倒せば【傀儡化】は解けるのだろうが、正気に戻った棘殻蠍大王が本気で襲ってくる可能性もある。もしそうなった時に滅茶苦茶強かったりしたら…当初の予定通り死に戻り前提で足止めするしかない。
「ブッ殺してやるぜェ!オラオラオラァ!」
あ、ジゴロウがマジギレしてる。あれはもう殿下からのクエストなんて忘れ去ってるっぽいね。だって棘殻蠍大王の尻尾をボコボコにしてるんだもん。傀儡魔蟲なんて目に入って無いわ、アレ。
ジゴロウの拳にはもう【破鎧之拳撃】の効果はない。だが、他の強化系能力の効果は続いている。なので彼の拳や蹴りは、尻尾の外骨格を凹ませたり、罅を入れたりしていた。相変わらず出鱈目な火力だよ、お前は。
ただ、完全に頭に血が上っているのか、エイジと兎路との連携なんてまるで無い。二人は少し離れた場所で動けずにいる。なので私は先ずは二人に近付いた。
「イザーム、どうすんの?」
「止めた方がいいんですかね?」
ジゴロウの大立ち回りを見て、どうするべきか二人は迷っているのだ。気持ちはわかるが、我々の役割は変わらない。この戦いに勝利するために為すべき事を為すだけだ。
「私でも止められんよ、アレは。とりあえず、傀儡魔蟲を狙うのはビグダレイオ軍に任せよう。我々は今まで通り、尻尾の一本を引き寄せ続ける」
「オッケー。シンプルなのは好きよ」
「初志貫徹、って奴ですね」
方針が定まった後の二人は速かった。ジゴロウの邪魔にならないように尻尾へ対応していた。これまで通りにエイジが尻尾を弾いてジゴロウと兎路が攻撃する。サルマーン陛下とビグダレイオ軍がエイジが傀儡魔蟲を狙っているお陰で我々の脅威度が今までと変わらなかったから出来る事だ。
「うおおおおっ!」
「じゃ、ジャハル殿下!?」
そうして露出した本体を狙うせいで尻尾以外では攻撃出来ず、亀のように蹲っていた傀儡魔蟲と棘殻蠍大王に向かってジャハル殿下が突撃した。我々が驚愕している内に脚を伝って上へ登ると、傀儡魔蟲へ一直線に駆ける。一気に勝負を決めるつもりか!?流石に焦り過ぎだ!
『ギイイィィィィィィ!!!』
傀儡魔蟲に操られた棘殻蠍大王が、ジゴロウの時よりも更に激しく暴れる。ジゴロウの時とは違って、本体である傀儡魔蟲が露出しているのだ。そりゃあ嫌がるだろう。
「ぬうおおおっ!?負けるかあああぁっ!」
しかし、ジャハル殿下は外骨格の隙間に右手で握る槍の穂先を引っ掛けて耐える。片膝を付いて同じように外骨格の隙間に左手の指を差し込んで耐える。しばらくは耐えられるかもしれないが、すぐに限界が来る!どうしてそんな無茶を…
「僕は彼と友達になるのだっ!絶対になるのだぁっ!」
…なるほど?どうやらジャハル殿下は、私が想像していた以上に棘殻蠍大王がお気に入りだったようだ。友達になりたい相手を救うために命懸けで突撃した、と。
ふふふふふ!いいじゃないか!熱いじゃないか!こうなったら私も全力で援護するしかないじゃないか!
「ぶっつけ本番だが、見せてやろう!我が『秘術』を!」
私はまだ使った事の無かった『秘術』の使用を決断する。すると、視界に効果範囲を表す薄い赤色の円が映った。想像以上に広いが、広い方が都合がいいのも事実。棘殻蠍大王の後ろ側の脚四本が入るように調整して…発動だ!
「【怨霊の呪沼】!」
【怨霊の呪沼】が発動すると、棘殻蠍大王の真下からどす黒い液体が染み出す。それが瞬く間に広がって汚泥の溜まりきった沼を成したではないか。その沼はボコボコと泡立っており、割れた泡からは紫や緑色の毒々しい気体が吹き出ている。うわぁ…メッチャ禍々しい。自分でやっときながらドン引きだわぁ…。
『ギギッ!?』
【怨霊の呪沼】は底無し沼となっているらしく、棘殻蠍大王の脚はズブズブと沈み始めた。沈んでしまって動けなくなる訳にはいかないので、傀儡魔蟲は更に暴れるように命じたらしい。
だが底無し沼とは暴れれば暴れる程、余計に沈んでしまうもの。棘殻蠍大王の身体は徐々に、だが確実に沈んで行く。前脚を使って抜け出そうにも、前方にはビグダレイオ軍最強のサルマーン陛下がいる。出ようとしてもそのパワーで押し戻されていた。
『『『アアアァァァァァ…』』』
更に【怨霊の呪沼】の表面が沸き立つと、無数の黒褐色の手の形を成したではないか。そしてその手は沼に浸かっている棘殻蠍大王の身体に絡み付いて拘束していく。
よく沼の表面を見れば、人の顔のようなものが見える。それらは嘆きや怒り、悲しみの表情の浮かべていた。こ、怖っ!?しかも今気付いたがあの泥には状態異常にする効果もあるようで、棘殻蠍大王のアイコンには幾つもの状態異常マークがついている。
どうやら敵を足止めしつつ、状態異常にしてジワジワと追い詰めるのが【怨霊の呪沼】の効果であるようだ。それ以上にホラーが苦手な人にとっては悪夢のような見た目こそ、最大のダメージとなるかもしれんが。
「掴まえたァ!」
そうこうしている内に、ジゴロウが動いた。脚が沈んだ事で踏ん張りが利かなくなり、尻尾の力が落ちた事をこれ幸いと抱え込むようにして捕らえたのである。
「お返しだァ!」
『ギギイイィ!?』
更に全身を使って尾部の先端を捻り切ったではないか!ジゴロウはこれ以上無い程に邪悪としか形容出来ない笑みを浮かべている。さっき尻尾で殴り飛ばされた意趣返しに成功したからであろう。奴は結構根に持つタイプなのだ。
「ここだあああっ!」
我々によって引っ掻き回された戦場にあって、ジャハル殿下は全く動じていなかった。いや、むしろ誰よりも冷静に息を潜めて突撃する好機を窺っていたらしい。ジゴロウに尻尾が切られて傀儡魔蟲の本体が後ろを振り返る瞬間まで身動き一つ取らなかったのだから。
「瞬光穿撃っ!からの、ふんっ!」
ジャハル殿下の光もかくやという鋭い刺突が、傀儡魔蟲の身体を貫通する。更に槍を引き抜くのではなく、野球選手のように横にスイングした。するとどうなるか?
『ギギギッ!?』
その答えは傀儡魔蟲の一本釣りである!ジュルジュルッ、という湿った汚ならしい音と共に勢い良く引き抜かれたのだ。
槍の柄に刺さったままの傀儡魔蟲はまるで百舌鳥のはやにえを彷彿とさせられた。未だにウネウネと動いているのは生々し過ぎるがね。
そんなことよりも、抜かれたと同時に棘殻蠍大王の動きが止まった事の方が重要だ。きっと【傀儡化】が解けたのだろう。上手く行ったようだ!
「父上っ!」
「うむ!」
ジャハル殿下は槍を振ってまだ生きている傀儡魔蟲をゴミのように放り投げる。その先にいたのは、我等が最高戦力たるサルマーン陛下であった。
「大炎断命剣!」
『ギッ…』
燃え盛る炎を纏った剣が両断すると、その断面が燃え上がってそのまま傀儡魔蟲を焼き付くす。断末魔の悲鳴を上げることすら許されず、ビグダレイオに多大なる被害を与えた元凶は討伐されたのだった。




