オアシスの戦い その四
ジゴロウ達の元へと向かうと、彼らは思った以上に安定した戦いぶりを見せていた。尻部をエイジが受け流し、ジゴロウと兎路がダメージを与える。おお、三人とも凄い適応力だ。頼りになるなぁ。
「ふんっ!」
「ケッ、つまんねェなァ…」
「楽でいいじゃないの」
お、おや?随分と余裕があるご様子…慣れてきたってことだろうか?いや、違うな。ジゴロウが何処と無く不機嫌そうだ。間違いなく何かあったに違いない。
「不満そうだな、ジゴロウ?」
「兄弟か?当ったり前ェよ!見た目だきゃァご立派だがよォ、こいつァ図体ばっかりの木偶だぜ!」
「…もう少し解りやすく説明してくれ」
「ぬぅん!えーっと、何て言ったらいいんでしょうか…」
「百聞は一見に如かず、よ。見てなさい」
兎路がそう言って剣先を尾に向ける。振りかぶるようにして二秒ほど硬直した後、先端によって高速で突いて来た。
「ここっ!」
それをエイジは盾で正確に弾き返す。おおっ!凄い!弾くタイミングを完全に見切っているじゃないか!
「次は…右からの薙ぎ払いね。飛んで避けて」
「え?なんでそんな事が…?」
私は疑問に思いつつも、兎路の指示に従って空に飛んだ。すると彼女の言った通りに尾による薙ぎ払いが来るではないか!さらに三人ともすれ違い様に攻撃を加えている。間合いまで見切っているというのか!?ひょっとして、エイジと兎路もジゴロウレベルのプレイヤースキルを有しているのか…!?
「わかるわよ。攻撃頻度は低めで、しかもパターンが突きと薙ぎ払いと毒の噴射っていう三種類しか無いんだから」
「それに軌道も固定なんですよ。それに予備動作は大振りなので、タイミングを計りやすいからさっきみたいにカウンターも決め放題でして。毒は当たったらヤバいんですが、着弾点も同じですし…フェイントやディレイも無いからもう慣れちゃいました、よっ!」
言いながらエイジは盾を使って尾を弾いている。単調過ぎて楽勝とでも言うことか?それにしても、固定パターンだけの攻撃とは最近のゲームにしては珍しいな。
FSWに限らず、最近のゲームは人工的な異世界とも言えるもので、同時にNPCはその世界の住人とも言える存在だ。なので人間顔負けのコミュニケーションをとれる者達は言わずもがな、小鬼のような雑魚であっても思考ルーチンはかなり複雑だそうだ。なので自然と攻撃パターンは多くなっていのだ。
確かに難易度は上昇しているが、代わりにプレイヤー側もコントローラーによる操作から自分の身体であるかのようにアバターを動かせる。なので相対的な難易度は変わっていないと言えるだろう。
このような事情もあって、攻撃パターンが三種類で、しかも決まった型通りにしか動かないというのは随分と珍しいし易しい。ビグダレイオ軍と共に包囲していて、しかもサルマーン陛下のような手練に集中しているからこその難易度なのだろう。それにしても、仮にも大王と名の付く種族である割には手応えが無いのは奇妙ではある。多数との戦いも熟したことは無いのか…?こちらとしては好都合なので構わないがね。
「だったら少しだけでいい。ジゴロウを連れていってもいいか?」
「いいわよ。けど、理由は?」
「弱点らしき場所を発見した。おそらく外骨格の内側に…」
「連れてけ、兄弟」
ジゴロウが食い気味に言った。硬い外骨格を破壊する力が私とアイリスには無い。カルの【龍息吹】なら可能かもしれないが、下手をすると致命傷を与えてしまうかもしれない。なので弱点を露出させつつ、死なせないためにはジゴロウの拳が丁度良いのだ。
しかし、ジゴロウが乗り気なのは勝利のためなどでは無い。きっと体力が減少することで行動パターンが増加したりして手強くなることを望んでいるのだろう。お前の考えていることが読めてしまうよ。
「そういうことなら行ってらっしゃい」
「弱点部位への攻撃が攻略に必須だってことはありますからね」
兎路とエイジは余裕があるからこそ、普通に送り出してくれた。自信の裏返し、とでも言ったところか?そういうことなら遠慮無く連れて行かせてもらおうか。
「では、行くぞ!」
「はいっ!」
「おうよ!」
私達三人は、弱点を破壊するべく空へと舞い上がった。
◆◇◆◇◆◇
アイリスの触手に掴まったジゴロウを連れて、我々は棘殻蠍大王の上空を飛ぶ。私は相変わらず【呪術】や【邪術】で断続的に状態異常を引き起こしている。
なんとなくだが、【呪術】よりも【邪術】による幻痛や幻覚などの方が効果があるように思う。ただ、同じ術は連続で効きにくいので、自然と様々な術を使う事を強いられている。こう言うときは自分の引き出しの多さが有り難い。
「んで?弱点ってなァどこにあるんだ、兄弟?」
「蠍の頭胸部、その腹部との境目に近い辺りに小さな瘤があるだろう?」
「あー…アレか」
ジゴロウが指差した先にある物を見て、私は頷く。それは棘殻蠍大王の頭胸部にある小さな瘤であった。奴はそこに攻撃が当たる事を極端に恐れていたのである。小さな、と言ってもそこそこ大きい。大体バスケットボール程の大きさであろうか。比較対象が巨大過ぎて目立ってはいないのだ。
「俺の仕事はアレを潰すことだな?任せときなァ!」
「頼りにしてるぞ、兄弟!カル!」
気合いを入れた我々は、上空から一気に接近する。自分の弱点を狙われていることに気が付いたからか、奴はビグダレイオ軍に使っていた二本の尾の両方で迎撃してきた。この瘤を守る本気度が、そのまま瘤を砕く事の重要さを表している。絶対に破壊してやるぞ!ジゴロウが!
「星魔陣、聖盾!」
この戦いでは偵察の段階から非常に世話になっている聖盾を展開し、一撃で割られつつもこれを防ぐ。エイジ達はああ言ったが、正直に言って尻尾攻撃の予備動作とかを見切るのは私には難易度が高すぎるのだ。しかもそれが二本と来たら、全部避けようなんて考えは現実的ではない。
しかも私達は空中にいる。地上にいた時と同じパターンであるとは思えない。対空攻撃モーションを観察することもなく、初見で尋常な速さではない尾の攻撃を捌くなど無理に決まっているだろ!
なので聖盾によるゴリ押し突破を狙う。私の魔力もゴリゴリ減っていくが、それは仕方がない。無茶しているのだから当然だ。一応カルは回避軌道をとっているが、躱すことそのものが難しいのでどんどん聖盾が割られていく。くっ、これは間に合うかどうか厳しいラインだ…!
『ギギャアアァァ!?』
「余を前に気を抜くとは、舐められたものだ」
そう思った時、棘殻蠍大王が絶叫を上げる。下を見ると、サルマーン陛下が口に程近い部分を深々と斬り裂いていた。私達を近付けないことに気を取られ過ぎたのだろう。
それにしても、ついさっきまで最も脅威であったハズの陛下への対処を疎かにするとは、どれ程あの瘤を狙われたくないのかがよくわかる。否が応でも破壊しなければ!
「今だ!総員、脚に集中攻撃!」
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
「行けっ!イザーム達よっ!」
眼下で戦っているのはサルマーン陛下だけではない。ビグダレイオ軍は脚へと攻撃を集中させ、動きを止めさせる。尻尾が無くなったことで自由になった彼らの攻勢は凄まじい。これまでの鬱憤を晴らさんとばかりに棘殻蠍大王の脚を瞬く間にボロボロにしていった。
ジャハル殿下も戦いながら応援してくれている。ここまでお膳立てしてもらって失敗することは許されん!私達は一気に近付いて、ジゴロウを投下した。
「んじゃ、行ってくるぜェ~」
ジゴロウは全く気負う事なく落下し、棘殻蠍大王の上に降り立った。膝を軟らかく使って音もなく着地する。体操の選手もビックリな動きである。
「星魔陣、呪文調整、麻痺!アイリス!」
「はいっ!」
私が【呪術】で、そしてアイリスは在庫の麻痺させる投擲アイテムを使いきるつもりで連投する。どうせジャハル殿下の時のように暴れるのだろう?ならばジゴロウが少しでもやりやすいように動きを止めるのは当然だ!
「【神獣化】、【炎雷の化身】、【破鎧之拳撃】、【鬼神の剛体】!」
その間にジゴロウは惜しみ無く『奥義』まで使って自己強化を重ね掛けしていく。【神獣化】によって全身の刺青めいた紋様から金色の燐光が吹き出し、【炎雷の化身】によって同じく金色の炎と雷を纏う。【破鎧之拳撃】が必ず外骨格を破壊する力を籠手に宿し、【鬼神の剛体】が文字通り鬼神の如き力を齎す。次に放つ拳打は、間違いなく彼に出せる最高の火力を誇ることだろう。
「砕けやがれ!岩砕剛拳!」
さらに普段は使いたがらない武技まで使って拳を叩き込んだ。いくら理にかなった動きをシステムの補正無しでとれると言っても、武技を使った方が威力そのものは増すのは事実。しかも使ったのは中でも最も重い一撃をお見舞いするものだった。
『『ギギイイィイイイィィィイイ!!?』』
打撃が叩き込まれた瞬間、棘殻蠍大王の体力がゴリッと減少した。やはり弱点であったのか、奴は今日一番の悲鳴を上げながら大暴れし始めた。
しかし妙だな。いや、しっかりダメージは与えられているのだが、期待していた程ではないのだ。奴の体力が私の想定以上に多かったのか?それとも急所は彼処ではなかったのだろうか…?
「あァ?なんだァこりゃ?」
肘まで腕を突っ込んだ状態のジゴロウが、何かを言いながらもぞもぞとしている。何かを発見したかのようだ。
『ギッ!?ギギギギギギギギ!!!』
対する棘殻蠍大王は今日一番の暴れぶりを見せた。サルマーン陛下やビグダレイオ軍に付けられた傷などなかったかのように全身を激しく上下させてジゴロウを落とそうとしているのだ。
ジャハル殿下の時も激しかったが、少し雰囲気が異なる気がする。何と言うか必死さが段違いなのだ。ジャハル殿下の時を顔に止まった蚊か蠅などの羽虫を払うようなものだとするなら、ジゴロウがいる今は蛇か何かに噛まれて命の危機を感じているかのように感じるのだ。
『ギイイィィィィィィ!』
「だあっ!畜生…ガァッ!?」
余りの暴れぶりに、流石のジゴロウも吹き飛ばされてしまった。そして動きが取れない空中で尻尾によって横殴りに殴打され、地面に叩き付けられてゴムボールのように何度かバウンドしていた。お、おい!生きているのか!?
「ッてェなァ!削られっちまったじゃねェか!」
…体力が一割になっているが、ピンピンしているじゃないか。心配して損をしたぞ。後から聞いたのだが、衝撃の瞬間に尻尾を殴り付けてダメージを相殺し、受け身をとることで生き延びたらしい。相変わらず化け物だな、お前は。
しかし、体力の常時減少というデメリットがある【鬼神の剛体】はもう効果を切っている。あのままだと十秒位で死んでいたから当然だな。私はすかさず【魂術】を掛けて回復させつつ、ジゴロウも回復ポーションを飲みながら後ろに下がった。
「イザーム!アレを見てください!」
「ん?」
アイリスが触手でジゴロウが砕いた場所を指した。そこにあるのは外骨格が砕けた頭胸部…いや、違う!何か細長い物が生えているぞ!あれは…
「砂魔蟲…?」
私は見覚えがある魔物の名前を思わず呟くのだった。
ボスの構想は章を書き初めた時に決めていました。いたのですが…
隻◯の獅◯猿と被ってるぅぅぅ!パクりだ!パクりになっちゃったぁぁぁ!
でも今更路線変更出来なかったのでそのままにしました。悲しいなぁ…
次回は4月11日に投稿予定です。




