表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十章 灼熱の砂漠
154/688

オアシスの戦い その一

 ビグダレイオの軍は五十人の精鋭部隊で構成されていた。全員がレベル50以上で構成されている。その中には国内最強である猪頭鬼戦王ボアオークウォーロードであるサルマーン陛下や宮廷魔術師長であるマハード殿も含まれていた。掛け値なしで最大戦力で向かうのだろう。


 一方の我々だが、決して精鋭と肩を並べられる強さであるとは言えない。強くなったし、平日の狩りによってより良い装備に換装している。それでもエイジと兎路、そして生産職であるアイリスは一段劣ると言わざるを得ない。それでもちゃんと役割はきちんと与えられているぞ。それもかなり重要な役割だ。


 そうそう、アイリスと言えばレベルが50に到達して目出度く名匠大触手ビッグローパーマスターアーティザンに進化した。見た目は匠大触手ビッグローパーアーティザンからほとんど変わらないが、性能は遥かに上昇している。更に触手を器用に動かし、アイテムや装備作成に大きな補正が加わるようになったらしい。


 実際、私が防具の修理を彼女に依頼すると、終わるまでの速度がかなり上昇していたし、エイジと兎路の武器もビグダレイオの職人と遜色ない質に至っていた。腕の良い生産職が仲間にいると出費が抑えられて助かるなぁ。


 閑話休題。それで我々に与えられた役割とは、サルマーン陛下とその軍隊が戦っている間に、敵の背後と上空からちょっかいをかけて牽制することだ。序盤は私とカルとアイリスが空中から攻撃し、ジゴロウとエイジと兎路は戦車に搭載されたバリスタを撃ちまくる。そしてタイミングを見計らって三人も背後から接近し、ちょっかいをかけるのだ。


 確かにレベルでは劣っているものの、問題はない。ジゴロウ達地上戦を担当する三人は平日のプレイで見事な連携を確立していた。更にビグダレイオの猛者達と手合わせして強さを示しており、一線級の武力を持っていると判断されたからだ。


 それにジゴロウ達が敵に接近戦を仕掛ける者が多ければ多いほど、棘を【射出】する隙を潰せるハズだ。そうなれば数の暴力で倒せるか、最低でも撃退出来るだろうと言うのがサルマーン陛下達の見込みであった。


 あと万が一敗走することになれば、我々が殿を務めることになっている。これは我々が死んだとしてもどうせ復活するプレイヤーであるからだ。戦車一台と我々の命で全員が逃げ切る時間が確実に稼げるとは思えないが、それ以上に戦う前から負けた時の事ばかり考えていても仕方がない。頭に入れておくだけでいいだろう。


「サルマーン陛下~!」

「軍人さん!生きて帰ってこいよ!」

「オアシスを頼む!」


 私は出陣のパレードの最中にそんなことを考えていた。国民は皆、生活基盤の一つであるオアシスを取り戻す事を望んでいる。パレードの派手さや歓声の大きさはその期待の表れにちがいない。


「おう、兄弟。そういやぁ聞いてなかったんだがよォ」

「なんだ?」

「お前、『秘術』は何にしたんだ?」


 カルに跨がっていると、戦車の荷台から身を乗り出したジゴロウがそんな事を聞いてきた。ああ、そういえば使う機会が無かったから教えてなかったっけ。進化した時には今も肩の側で浮いている【浮遊する頭骨】のせいでゴタゴタして決められなかったのだ。ん?逆にジゴロウの方も聞いていなかった気がするな。


「そう言うお前は?」

「俺か?俺ァ【鬼神の剛体】ってヤツだぜ」


 【鬼神の剛体】は鬼系の魔物限定で取得できる『奥義』で、知力以外のあらゆるステータスが一時的に激増するという非常に分かりやすいものだ。シンプル・イズ・ベストという言葉もあるが、素の戦闘技能が高いジゴロウにはうってつけの『奥義』だろう。


 ただし、二つのデメリットもある。一つは発動中だと魔術を一切使えないこと。まあこれはジゴロウには関係ない。しかし、もう一つが厄介なのだ。


 それは体力が減少し続けること。一秒に最大体力の一パーセントが減って行くのである。その特性上、効果時間はピッタリ百秒らしい。しかしながら、発動中にポーションや魔術で体力を回復する事は出来ないらしく、最大効果時間まで戦っているとそのまま死んでしまう。幸い、任意のタイミングで効果を終了させられるので、自滅することはないだろう。


 それにしても、ジゴロウはやはり攻撃系の『奥義』を選ばなかったようだ。彼は普段から武技をほとんど使わない。それは並外れた格闘技の技量があってこそであり、強化系の『奥義』ならジゴロウの強みをさらに引き出せるはずだ。


「そうなのか。私の『秘術』は【怨霊の呪沼】と言う」


 【怨霊の呪沼】は【大地魔術】と【水氷魔術】、加えて【呪術】と【降霊術】が使える者だけが習得出来る『秘術』だ。現在の私が選択可能な『秘術』の中で、最も習得条件が厳しかったので選んだ次第である。


 まだ使っていないので威力の程は不明だが、これだけ習得条件が厳しいのだからきっと強いはずだ。…強いよね?


「見るのが楽しみですね!」

「…絶対ホラーチックな術ですよね?ぼく、正直言って苦手なんですよぉ~」

「強いなら何でも良いんじゃない?」


 それを聞いた残りの三人の反応は三者三様であった。そして生産職であるアイリスの選択したのは、【匠の業】という()()()()の『奥義』だった。これは制作難易度の高いアイテムを作りやすくしつつ、効果時間以内に作成したアイテムの品質とレア度が上昇しやすくなるというもの。品質とレア度とは即ち性能に直結する。なのでこの『奥義』は生産職御用達となることだろう。


「けど、『奥義』は早く使えるようになりたいわね。面白そうだし」

「それには同意するよ」


 最後尾にいる我々は、ビグダレイオの住民にさほど注目されてはいない。これは我々がビグダレイオで英雄的活躍などしていないからだろう。そのお陰で気兼ね無く雑談を交わす事ができる。こうして我々はリラックスした状態で進軍するのだった。



◆◇◆◇◆◇



 進軍の最中に幾度か魔物に襲撃されたが、それらは全て我々が討伐した。理由はもちろん、ビグダレイオ軍の消耗を抑えるためである。


 かと行ってきます不満かと問われればそうでは無かった。エイジと兎路は経験値が稼げたし、ジゴロウはウォーミングアップに丁度良かったのか機嫌がいい。カルに至っては()()()を食べることが出来てご満悦だ。私とアイリスとしても素材が得られてホクホクである。と言うのもアイリスが普通に活動するために結構な量のアイテムを消費したからだ。


 これまでのプレイでわかった事だが、やはり環境によって特殊な状態異常が引き起こされるらしい。砂漠や荒野の広がる地域では『猛暑』という状態異常が起きる。これは耐性の無い者に不快感を与えるだけだが、リアルで暑いのが苦手な人だとひどい倦怠感を覚えるのだ。これがアイリスの調子が悪かった原因である。


 ビグダレイオから南下すると更に『酷暑』という状態異常へと切り替わり、こちらになると【火属性耐性】や【状態異常耐性】の無い者は対策をしていないと満腹ゲージの減りが速くなって継続ダメージを受けてしまう。ダメージはともかく、満腹ゲージは脱水症状的なものなのだろうか?どちらにせよ、暑さ対策はしっかりしておかねばならない。


「これが最後の休憩になる。皆はしっかり食っておいてくれ」

「おう…しっかし、残念だなァ兄弟。せっかく()()()()味のするメシがあるってのによ」

「ああ、全くだ」


 VRにおける食事には味覚に関する制限がかかっているのだが、高級な食材を用いたり、【料理】という能力(スキル)のレベルが高い料理人が調理した料理だと味がするらしい。味そのものは安っぽいので決して美味しくはないようだが、重要なのはそのような料理を摂取すると特殊な効果が得られることだ。


 なのでこれから臨む大きな戦に際して、ビグダレイオ軍はとっておきの料理を用意していた。保存食なのだが、食べるだけで筋力が一時的に上昇する効果がある。魔術師である私にはあまり関係は無いのだが、食事による強化が出来ない不死(アンデッド)はこういう点では不利であった。


「多分だが、食事を摂れるようになる『奥義』もあった。余裕があれば取得するさ」

「へぇ?何て言う『奥義』なの?」

「【偽りの躰】と言ってな、私のような動く骸骨(スケルトン)幽霊(ゴースト)が仮初めの肉体を得られるらしい」


 【偽りの躰】は肉体を持たない不死(アンデッド)ならば誰でも習得出来る、ある意味最も条件の緩い『奥義』だった。VR内での食事には興味があるものの、無条件で『奥義』か『秘術』を習得出来る10レベルに一度だけのチャンスを使うのは、絶対に後悔すると思ったのである。


 それにしても『奥義』や『秘術』は種族(レイス)職業(ジョブ)能力(スキル)の組み合わせによって無数に存在するのだろうか?全ての『奥義』と『秘術』が解放されるにはどれだけの時間がかかるのか…予想もつかない。


「…あっ、なんだか騒がしくなってきましたよ。もう休憩は終わりってことですよね」

「そうだな。では、我々も移動を開始しよう」

「「「「了解!」」」」



◆◇◆◇◆◇



 ビグダレイオから南に進んだ位置にあるオアシス。そこからギリギリで攻撃を受けない地点に、ビグダレイオの精鋭部隊は整列していた。


 彼らは今から命懸けの戦いになる事を知っている。それでも臆する者は誰一人としていない。それは彼らが国を守るために命を懸ける覚悟などとうの昔に決めていることと、何よりも全員が全幅の信頼を寄せる、ビグダレイオ最強の戦士が出陣しているからだ。


「あれが件の砂嵐か」


 ビグダレイオ軍の先頭でそう嘯いたのは、国王でもあるサルマーン十三世であった。彼は一国の主であり、実際に砂嵐が起こっている現場に出たのはこれが初めてである。なので忌々しげ、と言うよりは興味深そうにそれを眺めていた。


「陛下、それでは殿下の事をとやかく言えませんぞ?」

「むぅ、マハードか…」


 サルマーンを諫めたのは、宮廷魔術師長のマハードであった。彼はサルマーンが王子であった時から王家に仕えており、故に幼い頃の王も知っている。当然、彼が息子以上に()()()()であったことも、である。


「やれやれ、お主には頭が上がらぬな」

「それで結構。して陛下、最初の一撃はお任せ致しますぞ」

「うむ」


 サルマーンは頷くと、控えていた侍従から愛用の大剣を受け取った。一般的な猪頭鬼(ボアオーク)とは一線を画する体格に見合った剣は、刃渡りだけでも二メートルを越えている。複雑な紋様が刻まれた刀身の周りは、陽炎のように揺らめいていた。誰の目から見ても強力な武器である事がわかる。


 この剣は『ビグダレイオの炎牙』と言い、国王が代々受け継ぐ『継承武器』の一振りであった。『継承武器』とはその国を背負って立つ者へ受け継がれ、使い手の最も使いやすい形状に変化する特徴がある。実際、先代のビグダレイオ王の時は戦斧であったし、魔術師であった先々代の時世では杖であった。


 国の威信を象徴する『宝具』の一つであり、これら全てを奪われれば国の支配権を奪う事が出来る。それほどに重要であり、同時に強力な武器なのだ。


「ふううぅぅぅ…」


 サルマーンは大剣を構えると、周囲の空気が一変する。自分達の王が何をしようとしているのかを知っている彼らは、戦闘がすぐに始まる事を察したからである。


 サルマーンは目を瞑って息を吐く。この行為は集中力を高めると同時に、彼が大技を使う前の()()でもあった。


「奥義…暴炎猪王牙!ぬううぅぅぅぅぅん!」


 サルマーンが目を見開くと同時に剣を振るうと、剣が一気に炎を纏ったかと思えばその炎は猪を象ったではないか。この【暴炎猪王牙】は『ビグダレイオの炎牙』を装備したビグダレイオの当代の国王のみが使用可能な『奥義』である。剣の素材であり、伝承ではビグダレイオの王家の祖とも言われる猪を模した炎を産み出す大技だ。


『ブオオオオオオオオオオオッ!!!』


 これは単に猪を象った炎を作るだけではない。炎に猪には『ビグダレイオの炎牙』の持ち主に立ち塞がる全てを薙ぎ倒す意志があるのだ。そして今その標的となったのは当然、棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードであった。


『ブガアアアアアアアアアッ!!!』

『ギギャアアアアァァァァッ!?』


 炎の猪は砂嵐に向かって猛然と突撃する。砂嵐からは無数の針が飛んでくるが、実体の無い炎の猪には意味がない。勢いを全く損なわずに砂嵐に突っ込んだ炎の猪は、棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードに衝突すると同時に大爆発を起こした。


 その爆風には棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードも堪らずに絶叫を上げる。大ダメージを食らうと同時に、自分を守っていた砂嵐は内側から爆風によって吹き飛ばされてしてしまった。一国を支配する王にしか使えない『奥義』の威力を、イザーム達プレイヤーが初めて目の当たりにした瞬間であった。


「突撃!行くぞ、者共!余に続けぇぇ!」

「「「おおおおお!!!」」」


 サルマーンと精鋭部隊は、炎の猪もかくやという勢いで突撃していく。戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 国の象徴である『宝具』は最低三つ用意する必要があります。それを全て奪うと…?


 さらにプレイヤーが制作することも可能。ということは…?


 次回は3月30日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] かと行ってきます不満かと問われればそうでは無かった。 とありますが かと言って不満かと問われればそうでは無かった。 ではないですか?
[気になる点] 「かと言って不満かと問われれば」が「かと言ってきます不満かと問われれば」になってる
[気になる点] 誤>かと行ってきます不満かと問われれば 正>かと言って不満かと問われれば
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ