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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十章 灼熱の砂漠
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異変の元凶

 えー、私は現在、地上から約五百メートルほどの高度から地上を見下ろしております。非常に良い景色でございますね…真下にある砂嵐さえなければ。


「うおーーーーーーーっ!高いぞぉーーーーーーーーっ!」


 そして隣にいらっしゃるジャハル殿下。彼は今、カルの背中に乗って私の隣で飛んでいた。これには勿論、理由がある。


 私がよく用いる能力(スキル)に【鑑定】というものがある。この能力(スキル)は非常に便利ではあるが、余りにも距離が離れた場所にいる相手に使うことは出来ない。この砂嵐を生み出している何者かの索敵範囲は、【鑑定】の射程距離よりも広いのである。


 そのせいで【鑑定】する前に遠距離から狙撃されてこれまでの調査は失敗していた。しかし、遠距離から【鑑定】する手段が無い訳ではない。その一つがジャハル殿下の持つ『賢者の遠眼鏡』という魔道具であった。ビグダレイオの国宝でもあるこのアイテムは、視界に入った者を【鑑定】出来る便利な効果を持つ希少なものである。


 しかし、この『視界に入れる』という条件が厳しかったのは言うまでもない。濃密な砂嵐によってその姿は隠されていたからである。よって折角の国宝も活かすことが出来なかったのだ。


「シルエットしか見えないが…全く見えない訳ではないのが救いか」


 砂嵐のせいで上空からであってもハッキリとその姿が見えはしない。だが、砂嵐の中心部に何かの影がいるのはよく見えた。かなり大きい。カルの五倍くらいはあるのではないか?


 王子が仰るにはもう少し明瞭に見えなければ【鑑定】は出来ないらしい。と言うことは砂嵐の中に突入しなければならないという事になる。うん、命懸けの任務になったわけだ。


 という訳で、一度地上に降りて護衛の三人と作戦を立てたのだが…緊張感を持ってはくれなかったよ。因みに、王子がカルに乗っているのは、国宝を使えるのは王族だけであることと、この作戦において護衛の三人は地上にいなければならないからであった。


「殿下、そろそろ…」

「うむっ!わかっているぞっ!」

「グルルゥ…」


 ただし、カルに乗っているジャハル殿下は、ひたすらにはしゃいでいた。空を飛べるのが嬉しいのだろうが、これが喧しいのなんのって。命懸けになるというのがわかっているのだろうか?


「行くぞ、者共!作戦開始だっ!」

『『『はっ!』』』


 ジャハル殿下はトランシーバーのような効果を持つ魔道具を使って地上で待機している護衛達に命令を下した。さあ、一発勝負の調査作戦の始まりである!


「「「ウオオオオオオッ!!!」」」


 作戦の第一段階として、護衛の三人が雄叫びを上げながら突撃していく。当然、これは陽動である。彼らがわざと発見させて攻撃させ、我々が気付かれるまでの時間を稼ぐのだ。


バシュシュシュシュ!!!


 もう気付かれたか!予定よりも少し早いが、誤差の範囲だ。小高い丘のようになっていた場所に隠れていた彼らが身を乗り出した瞬間、砂嵐の中から何かが高速で射出されるのが見える。これがボウイ氏の言っていた謎の針なのだろう。


石壁(ストーンウォール)!」


 その針を魔術師が【大地魔術】で作り出した石壁(ストーンウォール)が受け止める。深々と突き刺さってはいるが、貫通はしていない。完全に防ぎきったようだ。


「「行くぞぉぉぉぉ!!」」


 残りの二人は盾を構えながら壁の左右から躍り出る。針は双方に向かって飛んでいくが、その数は明らかに減っているし、精度も落ちていた。それに彼らの持つ盾の性能も良いらしく、針をしっかりと弾いている。


 その間に魔術師も飛び出して右側の猪頭鬼(ボアオーク)の護衛に合流する。すぐさま左側にいた猪頭鬼(ボアオーク)も合流した。すると最初と同じように石壁(ストーンウォール)を使って飛んできた針を防ぐ。このルーティーンを繰り返すことで、ある程度接近する事が出来る。この戦術は幾度も行われた調査によって確立されていた。


 しかし、何時かは限界が訪れるのもこれまでの調査で判明している。射出されている針の威力は彼我の距離が詰まるに連れて上がっていくからだ。何れ魔術でも盾でも防ぎきれなくなって撤退することになるのが常であった。それでも時間稼ぎにはなる。我々にはその時間が必要であった。


防御強化(ディフェンスブースト)防御強化(ディフェンスブースト)防御強化(ディフェンスブースト)防御強化(ディフェンスブースト)防御強化(ディフェンスブースト)光鎧(ライトアーマー)、星魔陣、起動待機。…ジャハル殿下?」

「うむっ!第二段階開始だっ!行くぞっ!」


 私は【付与術】と【神聖魔術】でカルの防御力を引き上げ、いざという時の為に【魔法陣】で魔術の発動を待機状態で維持する。攻撃を受け止める役割を一手に引き受けるのはカルなのだから当然だ。


 そしてカルに出来る最高速で以て砂嵐に潜む影へと突撃する。私はカルの後ろから必死についていく。ものの数秒で我々は砂嵐へと突っ込んだ。


 げっ!?この砂嵐ってダメージ判定があるのか!?ほんの少しずつだが、体力が削られていくではないか!これでは長居することなど出来ないぞ!


「グオオオオオオオン!!!」


 轟々と吹き荒れる砂嵐の音に混ざって、カルの咆哮が木霊する。敵は此方に気が付いたらしく、針を連射してきた。だが防御力を底上げしたカルの鱗を貫く事は出来なかった。やはり龍の鱗の硬度は半端ではないらしい。


 それでもいつかは貫かれてしまうと思う。そうなる前に【鑑定】を終わらせて欲しい!


「殿下!まだですか!?」

「もう少しだっ!あと少しっ!」

「グガアァッ!?」


 マズイ!針が遂にカルにダメージを与え始めた!今は翼膜に穴を開けただけだが、今にも鱗を突き破って肉に刺さるだろう。こうなれば奥の手を切るしかない!


「待機解除!防げてくれぇっ!」


 私は起動待機させていた魔術を解き放つ。それは【神聖魔術】の聖盾(ホーリーシールド)であった。一定のどんな威力であっても一撃なら耐えられる障壁が、五枚も展開される。流石に一発で砕けはしないだろうが、長くは保たないだろう。


ガガガガガガッ!バリィン!


 くっ!もう一枚壊れたのか!しかし、一枚辺り数秒は稼げるはず!カルも複雑な軌道で飛行することで回避しつつ近付いている!行けてくれぇぇっ!


ガッガガガガッ!バリィン!

ガガガガッ!バリィン!

ガガガッ!バリィン!


 ぬああああ!割れるまでの間隔が短くなってきた!?距離が詰まったせいで回避自体が困難になっているのだ。カルがいくら縦横無尽に飛ぶ事は得意だと言っても、的としては巨大過ぎるのだ。


「よしっ!【鑑定】出来たぞっ!」


 終わったか!私の目では捉えられないが、魔道具の力もあってどうにか【鑑定】が通ったらしい。これで任務完了だ!あとは逃げ帰るだけである!


「撤退だ、カル!」

「ゴォアアアアアアアアアア!!!」


 撤退の合図として、カルはとっておきでもある【龍息吹】を影に向かって放つ。カルの口から放たれたのは、先日私が使ったのと酷似した黒いビームであった。流石は私の魔力に影響されて産まれた龍である!


『ギギギギギィィィィィッ!?』


 カルの【龍息吹】は飛んでくる針を焼き払い、砂嵐をも貫いて敵に直撃したらしい。砂嵐の向こう側から悲鳴のような鳴き声が聞こえて来る。怯んでいるのか、針が飛んでこないぞ?今しかない!


 その隙に我々は真上に飛行して離脱に成功した。背後から最後の聖盾(ホーリーシールド)が割れる音が聞こえてきた気がするが、それはもうどうでも良い。今は兎にも角にも逃げ帰り、情報を持ち帰るだけなのだから!


『ギオオオオオオオオオオオ!!!』


 砂嵐に潜む者の怒りの雄叫びは、そそくさと逃げる我々の耳にいつまでも残るのだった。



◆◇◆◇◆◇



――――――――――


種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

従魔の種族(レイス)レベルが上昇しました。

従魔の職業(ジョブ)レベルが上昇しました。


――――――――――


 はい、今日は土曜日の夜になります。今から異変の原因を討伐しにビグダレイオの軍隊と共に向かうのだが、これまでの経緯をまとめようと思う。


 ジャハル殿下が『賢者の遠眼鏡』によって【鑑定】した結果、敵の正体が判明した。その名前は棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードという化け物であった。そのステータスがこちら。


――――――――――


種族(レイス)棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロード Lv83

職業(ジョブ):大王 Lv3

能力(スキル):【堅棘殻】

   【剛鋏】

   【???】

   【鋭尾撃】

   【大地魔術】

   【暴風魔術】

   【???】

   【体力強化】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【敏捷強化】

   【奇襲】

   【???】

   【棘再生】

   【???】

   【???】

   【???】

   【???】

   【???】

   【???】

   【砂塵の守護】


――――――――――


 言いたいことは色々あるが、何よりも言いたいのは久々に【鑑定】で不明な能力(スキル)が幾つもある点だ。『賢者の遠眼鏡』はレベル70までならば完全に判別出来るらしいが、今回の相手はレベル83だ。むしろこれだけ判別出来た事を喜ぶべきだろう。以前に神代水龍王エンシェントアクアドラゴンロードであるアグナスレリム様を【鑑定】した際、全く見えなかったことを考えれば尚更だ。


 そして棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードについてだが、この魔物はこの地域ではよく知られた魔物だった。ビグダレイオよりももっと南側に生息しており、自分の縄張りに入られない限りは襲って来ない穏やかな性格だったそうな。だからこそ、敵の正体が判明した時には驚かれたものだ。


 しかし同時に納得する者も大勢いた。何故ならオアシスを襲撃した時からこれまでの調査まで、怪我人は大勢いたが死人は出ていなかったからである。どうして北上してきたのかは不明だが、死人が出ていなかったのはこの性格のお陰かもしれない、と言うのが彼らの考察だった。


 それから今日に至るまで、我々はレベル上げをしつつビグダレイオの出陣に向けた準備を手伝っていた。アイテムの作成や武具の素材の調達など、正に戦支度という様相を呈していた。


 それが完全に終わったのが今日の午前中であったらしい。らしい、と言うのは私がログインしていなかったからである。何故かって?休日出勤だよ!午前中だけだけどね!


「よう、兄弟!仕事は片付いたかァ?」

「…ああ、なんとかな」

「イザームがこんなクエストをすっぽかす訳ないですよね」


 そう、我々はクエストとしてこの戦争に参加している。調査を終えて報酬を貰った後に受注したのだ。クエスト名は『砂塵纏う王』。クエストの目標はレイドボスである棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードに占領されているオアシスの解放だ。


 つまり、棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードという強敵を必ずしも倒さねばならないという訳ではない。撃退でも良いのである。また同じように攻撃され続けるならば、居座っても良いことは無いと相手に思わせればいいのだ。まあ、ジゴロウは戦って倒してやりたいと思っているようだが。


「何はともあれ、このクエストをさっさと終わらせよう。皆を待たせる訳にはいかない」

「アジトに着くのはアタシ達がビリね。残念だわ」


 しいたけを始めとする仲間達だが、彼らは『古代の移動塔』を経由してヴェトゥス浮遊島に到達したそうな。今は私が渡したマップデータに従い、バーディパーチを目指して進んでいる。なのでエイジと兎路がヴェトゥス浮遊島に到着するのは最後になってしまうのだ。


「みんなー!出陣の時間ですよー!」


 そんなことを話していると、エイジが向こうから手を振りながら近付いて来る。遂に戦争が開幕らしい。攻城戦の次はほとんどNPCのレイドボス戦とは…うむ!楽しみだな!

 次回は3月26日に投稿予定です。


 本日(2019/3/22)発売のゲームをやりまくりますが、書き溜めはあるので更新は出来ます!

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