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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十章 灼熱の砂漠
152/688

進化と転職(五回目)

――――――――――


混沌深淵龍骨古賢者カオスアビスドラゴンボーンエルダーリッチが選択されました。

混沌深淵龍骨古賢者カオスアビスドラゴンボーンエルダーリッチへ進化を開始します。

進化により【不死の叡智】レベルが上昇しました。

進化により【深淵の住人】レベルが上昇しました。

進化により【深淵のオーラ】レベルが上昇しました。

進化により【浮遊する頭骨】スキルを獲得しました。

進化により【生への執念】スキルを獲得しました。

進化に伴い、蓬莱の杖、髑髏の仮面、月の羽衣が一段階成長しました。


――――――――――


 これが進化した時のログである。うん、この骸骨君は紛れもなくこの【浮遊する頭骨】の効果に違いない。今の状況そのままだし、絶対にそうだ。


 そして私の選べる唯一の進化先だが、混沌深淵龍骨古賢者カオスアビスドラゴンボーンエルダーリッチという種族(レイス)だった。説明文がこちら。


――――――――――


混沌深淵龍骨古賢者カオスアビスドラゴンボーンエルダーリッチ

 深淵系魔術を全て使え、身体に龍の一部が含まれ、更に【錬金術】によって様々な部位が追加された骸骨古賢者(エルダーリッチ)の新種。

 通常の骸骨古賢者(エルダーリッチ)とは比較にならない強さを誇ると予想されるが、新種故に正確な戦闘力の測定は不可能。


――――――――――


 前の混沌深淵龍骨大賢者カオスアビスドラゴンボーンハイリッチとほぼ同じ文面である。きっと正当な進化系なのだと思う。新種であるのに変わりはないので正当も何も無さそうではあるが。


 そして新たに増えた二つの能力(スキル)である【浮遊する頭骨】と【生への執念】だが、これはどうやら骸骨古賢者(エルダーリッチ)が獲得出来る能力(スキル)であるらしい。順に確認して行こう。


 【浮遊する頭骨】だが、これは骸骨古賢者(エルダーリッチ)の周囲に援護射撃を行う頭蓋骨が浮かぶようになる能力(スキル)だ。援護射撃と言っても、勿論制約は存在する。打ってくれるのは事前に設定した一種類の属性の魔術だけ。【浮遊する頭骨】の放つ魔術には杖や装備品による補正が働かない仕様らしく、威力があまり伸びない。しかも【浮遊する頭部】攻撃を食らって破壊されたら復活するまでリアルタイムで六時間、ゲーム内では一日かかる。援護の魔術も魔力をしっかり消費するので、決して頼りになるとは言えないし、普通の意味で切り札にはなり得ないな。


 だが、保険にはなる。それがもう一つの能力(スキル)、【生への執念】の効果だ。これは私の体力が尽きた時、【浮遊する頭骨】が残っている場合にのみ瀕死状態で復活するというもの。要は一度だけ死を免れる事が出来るのだ。だからこそ『執念』という名前なのだろう。


 これは面白い能力(スキル)だし、普通に冒険をするのならば有用だ。しかしなぁ…対人だと活かしにくいぞ、これは。初見相手なら死んだふりしてからの反撃とか出来そうだけど、絶対に情報が出回ってすぐに対策されてしまう。少なくとも私が戦うならなら真っ先に【浮遊する頭骨】を破壊する。鬱陶しい援護射撃も潰せて一石二鳥だ。


 それにしても、結局頭を増やす事は出来なかった。増やしていなかったとしても骸骨古賢者(エルダーリッチ)なら【浮遊する頭骨】は獲得出来たのだから、本当に無駄骨である。悲しいなぁ…


「…取り乱してしまってすまなかった。もう落ち着いたぞ」

「それはいいんですけど…その骸骨は一体何なんです?」

「後で纏めて説明するから待っていてくれ。先に転職(ジョブチェンジ)を終わらせたい」


 そう言って私はパパっと職業(ジョブ)を選ぶ。選んだのは当然、前回選ばなかった深淵賢者である。仲間の中に回復手段が無い者ばかりだったので、前回は神官系である死と混沌の使徒を選んだ。その時の目的でもあった【魂術】という回復魔術の一種を使えるようになった今、私は私の本来の道へと進むのだ!


――――――――――


『深淵賢者』が選択されました。


――――――――――


 ふむ、今回は転職(ジョブチェンジ)によって能力(スキル)が得られたりはしないらしい。というか、あの職業(ジョブ)が特殊だったのだろう。それがわかっているので落胆はしていない。とりあえず、これで五回目の進化と転職は終了だ!


「終わったぞ。そしてこの骸骨についてだが…」


 私は私の側に浮かぶ骸骨について軽く説明した。これは私が頭部を増やそうとしたのが原因ではないと知って安心したようだ。だが、自分の視界に頭蓋骨がプカプカと浮かぶ様には中々慣れないようで、特にエイジはチラチラと見ていた。


「それで、王子さんはまだかァ?結構待ってんだけどよォ…」

「そうだな…今日は平日だし、あまり長時間のプレイは出来ないのだが…」


 イベントが終わってすぐの今日は平日だ。ゲーム内では現実の四倍の速度で時間が進むからいいが、今日は長くとも偵察することくらいしか出来ないだろう。時間も押しているし、なるべく早く来てほしいのだが…


「皆様、お待たせしました。殿下の支度が終わりましたので、王城の前にお集まり下さい」

「噂をすればって奴ね」

「そうだな」


 ジャハル殿下の話題になった時、ちょうど彼の準備が終わったようだ。それでは合流しに行くとしますか。



◆◇◆◇◆◇



 我々が王城から出ると、そこには完全武装したジャハル殿下と三人の猪頭鬼(ボアオーク)が待っていた。内訳は前衛が二人と杖を持った魔術師が一人。王子の護衛だろうか?いや、それよりも問題は偉い人を待たせてしまったことだ。


「お待たせして申し訳ございません、殿下」

「あっ、いや、気にしていないぞ、ご客人っ!」


 どうやらお咎め無しで済んだらしい。一安心である。


 猪頭鬼(ボアオーク)にしては小柄で細身のジャハル殿下だが、やはり武装していると威圧感たっぷりだ。父親ほどではないにしろ、彼も相当な手練であるのだろう。


 余談ではあるが、ビグダレイオでは金属製の防具はあまり人気が無い。何故かと言うと、この国では自分が倒した魔物の素材で作った武具が好まれるからだ。エイジと兎路は使っているがね。


 国の周辺には強力な魔物が闊歩しており、強い戦士であればあるほど下手な金属よりも硬い素材が手に入る機会は多い。なので武器はともかく、金属製の防具を使っているのはまだレベルが低いか何らかの()()()()がある者に限られるのである。暑いから、という訳ではないようだ。


 現にジャハル殿下の防具は魔物の素材が主であるように見える。自分で討伐した魔物の鱗や甲殻、あるいは外骨格を用いているのだろう。それよりも気になるのは彼が握っている武器であった。


「殿下は槍を使われるのですか」


 ビグダレイオに来てすぐの私ではあるが、豚頭鬼(オーク)猪頭鬼(ボアオーク)の戦士で槍を使っている者は見たことがなかった。大体はエイジのような大斧か大鎚、あるいは両手でしか振れないような剣ばかりである。彼らの有り余るパワーを活かせる武器なので違和感は無いのだが、ジャハル殿下はそうでもなうらしい。


「うっ、うん…じゃなかった、そうだぞっ!ぼ…私はこの方が使いやすいんだっ!」

「佐用でございますか」

「そんなことより、早く出発するぞっ!」

「ではここで別れるぞ、皆」


 ジゴロウ達は頷いた。ここからジャハル殿下と同行するのは私とカルだけである。これは調査なので無理に人数を増やす意味は無い。なので現地には私達が向かい、残りの皆には情報収集や連携の訓練代わりに魔物の狩りなどをしてもらうのだ。


 それに何よりも今日は平日なのだから、好きなタイミングでログアウトしてもらう為にここで解散するのだ。私は少しばかり寝不足になるかもしれんが、仕方がないだろうよ。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。そもそも調査が成功するのかも不明だ。だが、引き受けたからには全力で挑むのみである!



◆◇◆◇◆◇



 ジゴロウ達とのパーティーを一時的に解散し、即座にジャハル殿下達のパーティーへ参加してから私達は出発した。現地まで徒歩で向かうかと思われたが、そこは王子の出陣ということもあって特別であった。乗り物が用意されていたのである。


 それは体毛の代わりに鱗を持つ駱駝の魔物、鱗駱駝(スケイルキャメル)が牽引する、大型のソリであった。ソリと言っても、これはビグダレイオの戦車である。これは砂漠仕様であり、ソリの部分を外して車輪を付けると荒野仕様になるそうだ。


 どうやらソリそのものが魔道具となっているらしく、車体は非常に頑丈でそう簡単に壊れはしない。加えて搭乗者が使うための設置型弩砲(バリスタ)も搭載されている。二メートル程の槍のような大矢を発射する強力な兵器だ。しかも鱗駱駝(スケイルキャメル)への攻撃には自動で魔力盾(マジックシールド)が発動する優れ物。おまけに荷台の揺れを抑える機能まで着いていると来た。便利ですなぁ。


 これを見た時のアイリスは暑さでグロッキーだったのを忘れるくらいに食い付いていた。インスピレーションを刺激されたのだろう。これからの創作に役立てて欲しいものだ。


「ひゃっほおおおおぉい!風が気持ちいいぃぃぃ!」


 下からそんなはっちゃけた声が聞こえて来る。これ、誰の声だと思う?声の主は何とついさっきまで頑張って硬い話し方を心掛けていたジャハル殿下なのだ。


 護衛の人達曰く、王子は俗に言うスピード狂であるらしい。本人も猪頭鬼(ボアオーク)の中では群を抜いて敏捷だそうだ。実は戦車よりも速く走れるのだが、戦車などに乗って疾駆することそのものが大好きなんだとか。


 いやいや、戦車より速く走れるって、凄すぎないか?しかし本人は「父上…陛下はもっと速く走れるぞっ!」と言っていた。冗談だよね?


「で、殿下!落ち着いて下さい!ご客人の前ですぞ!?」

「嫌だっ!こんな風に爆走出来る機会はあんまり無いんだぞっ!」


 立場もあって、ジャハル殿下は戦車に乗って思い切り駆けることは中々出来なかったそうな。だから素早く調査に向かわねばならない、という大義名分を得て戦車をほぼ最高速度で疾走させているのだ。


 …案外ヤンチャ坊主なのかもしれない。好奇心の塊であったリュサンドロス殿下といい勝負だ。どこの王族も子供だと好奇心の塊ということだろうか。


「殿下はご自身の乗騎をお持ちにならないので?」

「欲しいのだっ!けど、ボクを乗せて全力疾走出来る魔物がいないんだ…」


 私の何気ない質問に、ジャハル殿下は項垂れてしまう。ああ、確かに彼を乗せる乗騎は大変だろう。何せ小柄だと言っても人類と比較すれば巨体であるし、筋肉量も明らかに多い。それに加えて立派な鎧に大型の槍だ。最低でも百五十キログラムはあるだろう。


 そんな荷物を背負って走り回るなど不可能だ。今彼らの戦車を曳いているのだって、鱗駱駝(スケイルキャメル)が四頭掛かりである。現にビグダレイオには騎兵隊はいても、その構成員に猪頭鬼(ボアオーク)はいない。騎乗に適する魔物が周辺にいない猪頭鬼(ボアオーク)が騎兵となるのは難しいのだ。


「それは残念ですな…」

「だがっ、ボクは諦めていないぞっ!何時かボクが乗っても平気な相棒を見付けてみせるっ!」


 どうやら王子は猪頭鬼(ボアオーク)初の騎兵となるのかもな。乗れる魔物を探し出すのは至難の業だとは思うが。


「むっ、もうすぐ目的地だぞっ!この辺が限界だっ!」

「では、この辺りで停止しましょう」


 ここより先に進むと感知されてしまうようだ。かなり先ではあるが、ここからでも分かるほどに巨大な砂嵐が見える。砂嵐の高さは百メートルを超えていそうだが、カルも私もそれよりも高く飛ぶのは容易い。恐らく大丈夫だろう。


 ここからが私の仕事である。上空から観察し、異変の原因が何であるのかを突き止めるのだ!

 次回は3月22日に投稿予定です。


 奇しくも予約しているゲームの発売日と重なっている…ッ!

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[気になる点] 【浮遊する頭部】になってるとこがある
[気になる点] 誤字報告です。 佐用 → 左様 or 然様
[気になる点] 左様
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