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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十章 灼熱の砂漠
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王と王子

 ビグダレイオのオアシスに浮かぶ小島に王城はあった。大きさだけで言えば、そこまで巨大とは言えない。この前襲撃したアールルの神殿よりも一回り大きいくらいだ。


 しかし、その美しさは神殿を遥かに上回る。純白と黄金が基調となっているのは同じだが、随所に見られる彫刻のなんと力強いことか!繊細で優美なのではなく、重厚で雄々しさを感じさせるのはビグダレイオの気風を表しているのだろうか。


 加えてオアシスから引いた水路と噴水は、美しい幾何学的模様を描いている。これだけでも人類に負けずとも劣らぬ文明を築いているのがわかってしまう。魔物が必ずしも野卑で愚鈍な存在ではない証拠であった。


 閑話休題。王城へはちゃんと話が伝わっていたらしく、衛兵であった猪頭鬼(ボアオーク)は敬礼と共に我々を通してくれた。その姿はバッキンガム宮殿の衛兵を彷彿とさせる直立不動っぷりである。素晴らしい練度だ。


豚頭鬼(オーク)のイメージとは全然違いますね」

小鬼(ゴブリン)も似たようなもんよ。人類は食料であって、()()()()対象じゃない。人間が猿に欲情しないのと同じよ」

「兎路!君は女の子なんだから、もうちょっとオブラートに包んだ言い方をだね…」


 エイジが兎路に苦言を呈するが、説教されている本人は全く気にしていない。これまでの道中でも似たような流れだったのだろうか?割りと自由人的な兎路と、それに振り回されるエイジ…きっと苦労したことだろう。


「ようこそお出でくださいましたな、風来者のお歴々」


 王城に入ると、一人の老いた豚頭鬼(オーク)が待っていた。彼は白くてゆったりとした民族衣装に身を包み、先端に黄色い宝石が填まった何かの骨で出来た杖を携えている。


 この服はカンドゥーラと呼ばれるアラビア人などが着ているものに酷似していた。ビグダレイオの住民は豚頭鬼(オーク)に限らず皆がこの服を着用しているのだが、この老人のそれは一般人よりも布が高級に見える。それに大粒の宝石をあしらったネックレスを首に掛けている。見るからに高級品とわかる出で立ちで、王城に出仕しているこの老人はただ者ではないのだろう。


「出迎えてくれたこと、感謝する。私はイザーム。このパーティーのリーダーだ。ところで、貴方は?」

「おお、これは失敬いたしましたな。我輩は宮廷魔導師長を、猪頭大賢鬼ボアオークハイワイズマンのマハードと申す。以後、お見知り置きを」


 猪頭大賢鬼ボアオークハイワイズマン!?きっと高いレベルの魔術師に違いない!魔術に関する知識などをご教授願えないだろうか?機会があったら頼んでみたい。


「さあ、こちらへ。我が君がお待ちです」


 マハード殿に連れられて我々は王城を進んでいく。床には柔らかな絨毯が敷かれ、壁にはジゴロウよりも大きな絵画が掛けられ、天井には王城の外側と同じような彫刻が刻まれている。うーむ、いつか私達もこの城のように立派な拠点を構えたいものだ。


「国王陛下、風来者の方々をお連れいたしました」

「通せ」


 五メートルはありそうな大扉を、その前に控えている近衛兵が開く。その奥には肌触りの良さそうなクッションが円形に置かれており、一際大きな猪頭鬼(ボアオーク)を含めて四人が上座に座っていた。


「よくぞ参られた、客人よ。好きな場所に座るがいい」

「では失礼して」


 我々は用意されていたクッションに座る。地面に座る形になるが、床に座る文化が根付いている日本人である我々に抵抗は無い。イメージしていた謁見とは随分と雰囲気が異なるが、これがビグダレイオ式だと言うのなら従うまで。郷に入りては郷に従え、である。


「まず名乗っておこう。余がビグダレイオの王、猪頭戦鬼王ボアオークウォーロードのサルマーン十三世である。此度の異変の解決に協力してくれると聞いておる。それは誠か?」


 猪頭戦鬼王ボアオークウォーロード豚頭鬼(オーク)系の上位種だろう。これまで見たどの猪頭鬼(ボアオーク)よりも体格は大きく、分厚い。下顎から伸びる牙に至っては、他の猪頭鬼(ボアオーク)が二本であるのに対し、彼には一際太いものが四本もあった。


 今は武具の類いを装備していないが、ビグダレイオの文明レベルを鑑みると間違いなく優秀な武器と防具を持っているはず。それらを身に付けたサルマーン陛下は、他の追随を許さない強さを誇るに違いない。


「はい、サルマーン陛下。私と後ろに控えている従魔のカルナグトゥールは上空からの偵察が可能でございます」

「それは頼もしい。だが、貴殿だけに任せてよいものか疑問視する者もおる。理由はわかるか?」

「…ろくに実績を示していない旅人に、重要な仕事を手放しで任せられる訳がない、といった所でしょうか?」


 サルマーン陛下は厳かに頷いた。考えてみれば当然のことだ。ビグダレイオにおいて、私は何も成し遂げてはいない。強いて言えばボウイ達を助けたことだが、こんなものは微々たるものだろう。そんな相手に国の存続に関わる仕事を任せる、というのは難しいに決まっている。


「理解が早くて助かる。故に一人、余の息子を同行させて欲しい」

「ご子息…と仰いますと、王子殿下をということでしょうか?」

「うむ。挨拶せよ」


 サルマーン陛下に促され、一人の猪頭鬼(ボアオーク)が立ち上がる。身体的特徴から察するに、彼は猪頭鬼(ボアオーク)であるようだ。しかしその背丈は低めで、身体も細い。その猪頭鬼(ボアオーク)は我々に近付くと、その場で背筋を伸ばして口を開いた。


「は、はじめましてっ!ぼ、私が第一王子、猪頭鬼王子(ボアオークプリンス)のジャハルで…だっ!」


 ジャハル王子は猪頭鬼王子(ボアオークプリンス)という種族(レイス)らしい。王子(プリンス)と言うくらいだし男の子なのだろうが、声は少し高い。まだ声変わり前なのか?


 身長は私とほぼ同じだが、彼はまだ猪頭鬼(ボアオーク)では子供なのかもしれない。口調も安定していないし、我々の視線にさらされてプルプルと震えているのは幼さ故の緊張を感じさせる。


「ジャハルは少々幼いところはあるが、知識は豊富だ。必ずや貴殿の役に立つであろう。これも経験だ。息子を扱き使ってやってくれ」

「承知致しました。よろしくお願いいたします、ジャハル殿下」

「はい!じゃなかった、うむ!善きに計らえっ!」

「それで、いつ頃出立するべきでしょうか?私と致しましては今すぐでも構いませんが」

「ならばジャハルの準備が終わり次第、行ってもらうとしよう」


――――――――――


緊急クエスト:『砂漠の異変を探れ!』を受注しますか?

※受注しなかった場合、二度と受けられません。

Yes/No


――――――――――


 ここでクエスト受注画面が出るのね。一応四人の顔を伺っておくと、全員が黙って首肯してくれた。よし、じゃあYesだ!


「そして報酬の件だが…マハード」


 私が仮想ディスプレイのYesをタップすると同時に、サルマーン陛下がマハードに目配せをする。彼は一度頷くと、背後に控えていた侍従に懐から取り出した一つの箱を渡した。その侍従は私達に恭しくその箱を差し出して、そのまま蓋を開ける。


 その中にはぎっしりと宝石が詰まっているではないか!上手く売り捌けばかなりの金額になりそうだ!いや、装備品にしてもいいかもしれない。い、いいのか!?こんなに貰っても!?


「これは前金だ。調査が上手く行ったなら、これと同額を支払おう」

「こ、これほど…宜しいのですか…!?」

「構わん。それだけこの国の一大事ということだ。今のところ死者は出ておらんが、調査に成功した者もおらん。それだけ余が期待もしている事を忘れるな」



◆◇◆◇◆◇



 高額の前金を受け取った後、打ち合わせは解散となった。今、我々は王城の一室にてジャハル殿下の準備が終わるのを待っている。


「さてと…この隙に進化と転職を終わらせておくか」


 ここまでバタバタしていて後回しにしていたが、私はもう進化と転職が可能な状態になっている。レベル50の大台であり、この進化と転職によって間違いなく『奥義』か『秘術』を習得できるはず。楽しみで仕方がないぞ!


「うっし!進化完了ゥ!」


 私の横で何かが光ったかと思えば、ジゴロウが進化したらしい。同じタイミングでレベル50になっていたのか。それは知らなかった。


「おお、ジゴロウも進化したのか」

「おう!炎雷邪悪鬼(エンライノジャアクキ)だとよ」


 炎雷邪悪鬼(エンライノジャアクキ)は、前身である炎雷悪鬼(エンライノアッキ)をそのまま強化したような種族(レイス)だ。身長や見た目の筋肉量に大きな変化は無いが、本人曰く特に魔力が増えたようである。


 その最大の特徴は魔術に依らず炎と雷を操る能力(スキル)を持つこと。『古の廃都』ではこの特性が輝いていたし、ジゴロウの場合は通常の格闘戦でもたまにこの能力(スキル)を使っていた。戦い方そのものが大きく変化するわけではなさそうだ。


 我々の中でも、最も攻撃に特化した魔物と言っても過言ではない。逆に防御方面の能力(スキル)はほとんど無いし、ジゴロウも攻撃的な『奥義』を選んだので守りに関しては能力(スキル)の補正は一切働かない。ジゴロウというリアルチート野郎でなければ使いこなせないぞ、これは。


「んで?今回は何をくっつけるつもりだ、兄弟?」


 おっ、流石はジゴロウだ。私が今回も新しいパーツを増やそうとしている事を察していたらしい。


「ふふふ。今回挑戦するのは…これだ」

「これ…って、おいおい!頭蓋骨じゃねェか!」


 そう!この進化において、私はコツコツと準備していたのは頭蓋骨の増設である。随分と無茶苦茶な挑戦だが、骨の形状そのものを弄るのはもう慣れたもの。やってやれない事はないさ!


 私は首の付け根辺りにある骨を腕を増やした時の要領で変形させ、そこに準備していた頭部を嵌め込む。成功してくれよ?このために幾つか骨を使っているから、体力の最大量が減っている。もし失敗したら減った体力がどうなるかわからないんだ!牛鬼の時には成功しただろう!?


「ここをこうして…よし!完成したぞ!よしよし、ちゃんと動くぞ!」


 頭部の増設は恙無く完了した。新しい頭部もちゃんと動いてくれる。私は二つある頭を不規則に動かす。うーむ、こんな異形でも思った通りに動かせるとは、モーション補正って偉大だ!


「む…?だが視界は悪いな?」


 しかし、増やした頭部に視界は無い。いや、正確に言えばどちらか片方の頭部でしか物を見ることが出来ないようだ。常人の二倍の視界を得られるかと思ったが、そう都合よくは行かないか。


「ウヒャヒャヒャ!サイコーにイカれてるぜ、兄弟!」

「カッコイイですねっ!」

「えぇ…あの…えぇ…?」

「…ノーコメントで」


 私が異形と化していく事に耐性のある二人は楽しんで見ているが、初めて見た二人には刺激が強かったらしい。エイジはオロオロしているし、兎路は露骨に目を反らした。


「お次は進化だが…うん、これだな」


 私は一つしかない進化先を選択する。するといつも通りのエフェクトが発生した。これで進化が…!?


「うおっ!?おごごごごごご!?」


 その時、私に異変が起きた。何と二つの頭部は強力な磁石で引き合うようにくっつき、そのままメキメキと音を立てながら合体していくではないか!ああっ!折角増やしたのに!私の努力がぁぁっ!


「あ…頭が…私の頭が一つになってしまった…っ!」

「いや、それが普通だろ」


 ジゴロウが何か言っているようだが、私の耳には入ってこない。同時に何かログが流れたようだが、それも目に入ってこなかった。それだけ私は打ちひしがれていたからだ。


 地味に手間が掛かる作業を経てようやく完成したと言うのに、その努力が報われなかった。この事実は私を落ち込ませるのに十分であったのだ。


「萎えた…今日はもう落ちようかな…」

「ちょ!イザームさん!?これから偵察のクエストでしょ!?」


 あっ、そうだったなぁ…。でもなぁ…正直、モチベーションが上がらないって言うか…わかるだろ?このやるせない気持ち…ほら、目の前の骸骨君も心なしか悲しげに…うん?


「何だ、これは?」

「ず、頭蓋骨が浮かんでますね…?」


 私は目の前に浮かぶ、私と瓜二つの黒い頭蓋骨を見て呆然とすることしか出来なかった。

 次回は3月18日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「あ…頭が…私の頭が一つになってしまった…っ!」 サイコーにイカれてる状況と台詞に笑うしかない
[一言] よかった流石に頭部2つはキモイしクソダサいから合成してよかった
[気になる点] 誤>我輩は宮廷魔導師長を、猪頭大賢鬼の 1.我輩は宮廷魔導師長を務める、猪頭大賢鬼の 2.我輩は宮廷魔導師長の、猪頭大賢鬼の
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