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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十章 灼熱の砂漠
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都市国家ビグダレイオ

 ビグダレイオへ向かう途中、フレンドチャットにエイジから連絡が届いた。その内容は至極単純で、ついさっきログインしたということだった。


 兎路もログインしているのかは不明だが、していなかったとしても問題は無い。何故かって?それは…


「調査して何がわかったんだ?俺()も行くんだから教えてくれよ」


 うん。ジゴロウのせいだ。アイツ、完全に長居するつもりだぞ。少なくとも今の事態を引き起こした魔物を倒すまでは滞在するつもりだ。こうなったら説得するのは困難である。ならば少しでも早く戻れるように協力するしかない。


「うむ。奴はここから南に下ったオアシスに生息している。我らも含め多くの戦士達が調査に向かったのだが、未だにその姿を見た者すらいない」

「見たことが無ェだと?そりゃまたどうして?」

「それはな、奴が占拠したオアシスは現在、常に砂嵐に覆われているからだ」

「なんだそりゃ?兄弟、どう思う?」


 そこで私に話を振るのか?事情を知らないのに?


「さあな。魔物の能力(スキル)かもしれんし、【砂塵魔術】の砂嵐(サンドストーム)を連続して使っているのかもしれん」

「推測ばっかりじゃねェか」

「当たり前だろう!?」


 当たり障りの無い事しか言えんわ!私は何でも知っているとでも思っているのか!?


「イザーム殿と同様に我々も考えている。それを確かめるための調査だったのだが、今回も失敗だ。私以外にも多くの戦士が調査に向かったが、何れも上手く行かなかった。死者が出ていないのが唯一の救いだ」


 ほらな?私の予想は誰でも思い至る程度のものでしか無い。きっとビグダレイオの人々には、似たような状況を作り出せる魔物の知識があるのだろう。


 それが能力(スキル)なのか【砂塵魔術】の砂嵐(サンドストーム)を使っているのかを確認することによって、どの魔物なのかを特定する予定だったに違いない。それすらもさせない魔物とはどれ程強力なのか、想像もつかない。


「強ェ魔物っつってもよ、オアシスは結構遠いんだろ?放置するってわけにゃいかねェのか?」

「それは出来ない。あのオアシスでは農耕が可能な数少ない場所であるし、我々が遠征するときの拠点となるのだ。そのために常駐していた者達もいる。可及的速やかに取り戻さねばならん」


 そうだったのか。考えてみれば砂漠にあるビグダレイオでは農耕ができる場所は限られてくる。その数少ない場所を魔物に占領されてしまっては国の危機と言えるだろう。


「情報も無いのに攻めるのは危険だと調査を繰り返しているのだが…それも失敗続きだ。痺れを切らした若い衆には、無茶をしてでも攻めようと主張している状態だ。そろそろ成果を上げねば…」


 ボウイ氏は悔しそうに拳を握っている。ビグダレイオに住む戦士としては忸怩たる思いがあるのだろう。彼も若い者達と同じで一刻も早くオアシスを取り戻したいに違いない。しかし、そのために無駄な犠牲を出すのは馬鹿馬鹿しい。だからこそ、傷付きながらでも調査に出ているのだ。


 泣かせる話じゃないか!ジゴロウも乗り気だし、正直に言えば私も砂漠での戦いに興味がある。ならば協力するのも一興だ。状況に流されている気もするがね。


「討伐はわからんが、調査なら私とカルが役に立てると思うぞ」

「なんと?」

「我々なら上空から偵察が可能だ。空を飛んでここまで来たのだか…あっ、もう試した後だったか?」


 上空から見下ろして観察すればいいかと思ったが、その試みは既に彼らが終えているかもしれない。もしそうだったら余り意味は無いか…?


「上から…だと?それは是非とも頼みたい!ビグダレイオには鳥の魔物を従えている魔物使いはいるが、偵察して情報を持ち帰ることが出来るほど高度な知性を持つ魔物はいないのだ!」

「ならば出番はありそうだ。その辺りはビグダレイオに到着してから話を詰めることにしよう」


 これで魔物の調査に進展があるかもしれない。そうなれば討伐もスムーズに行えるだろう。クエストとして正式に受注すれば報酬も望める。まさに一石二鳥だ!



◆◇◆◇◆◇



 それから我々は色々と意見交換をしつつ、ビグダレイオまで到着した。ビグダレイオは無駄な装飾のない頑丈で無骨な城壁に囲まれた都市国家であり、その中央部には巨大なオアシスがある。


 このオアシスは住民全体の生活用水であり、水生植物の栽培や魚などの養殖も行われている。正に、ビグダレイオの国民全員を潤す命の泉なのだ。


「イベントで行ったイレヴスよりも立派な城壁だ」

「人類の都市と比べられても困る。この周辺にはより強力な外敵が跋扈しているのだからな」

「それもそうか」


 ボウイ氏からの説明を受けて私は納得する。城壁の外に出れば、砂蟲(サンドワーム)のような化け物がそこら中に蔓延っている。都市の周辺に出没する魔物は総じて弱い。それでもレベル20以上の敵が多いと言うのだから、アイリスのように暑さによって動きが鈍る場合があることも含めるとフィールドとしての難易度はそれなりに高いと言うべきだろう。


「む?あれは…」


 堅牢さを感じさせる城壁を眺めていると、入り口である城門の近くに立っている一人の豚頭鬼(オーク)が私の目に張った。体格は一回り大きくなっているような気もするが、彼が身に付けている装備は幾つか変わっているようだが見覚えがあった。


「エイジ!久し振りだな!」

「あっ!イザームさん!」


 やはり、あれはエイジだったか。どうやら彼も七甲やモッさんと同じくイレヴスでの激戦を経て進化を終えていたらしい。


「そちらがクランのメンバー…って、あれ?どうして百人長さんと一緒にいるんですか?」

「一つずつ説明するさ。先ずはお前達の拠点に案内してくれ」

「わ、わかりました。ぼく達が泊まってる宿屋に案内します」


 ここに来るまでの道中でも面白い出会いが二つもあった。それだけでも心踊る冒険譚である。その辺も含めてエイジと兎路には話しておくべきだろう。


「そういうことで、ボウイ殿。ここで別れたいと思う。一息ついたら打ち合わせをしたいと思うのだが、どこに行けばいい?」

「わかった。事が事なので、王城で話し合いたい」

「王城?」

「オアシスに浮かぶ島に建っている。話は私の方で通しておくから後で来て欲しい」

「承知した。では、後で会おう」



◆◇◆◇◆◇



 我々はエイジの後に付いて彼が逗留している宿屋へと向かう。そこのロビーは思っていた以上に広かった。それもそのはずで、ここは豚頭鬼(オーク)をはじめとした巨体の魔物にも対応しているからだ。


 ビグダレイオは魔物の国であり、砂漠地帯にある他の国からの旅人や流れ者の魔物がふらりとやってくる事がある。そういう者達でも国の法律をきちんと守るのであれば、誰でも迎え入れる懐の深さを持っているようだ。


 実際、入国の時に私は仮面を外して不死(アンデッド)である事をさらしたのに全く驚かれなかった。それはこの砂漠で隊商を組んでいる商人に木乃伊(マミー)がいるからだ。なので彼らが唯一驚いたのは、(ドラゴン)であるカルを見た時だけであった。


 因みに、そのカルは宿屋の裏側で待機している。流石に宿の中には入れてくれなかった。他の客がビックリするからだそうだ。それは仕方がないので諦めた形である。寂しそうにしていたので、後で可愛がってやらねばなるまい。


「羊に乗った巨人…ファンシーなのかそうではないのかわからないですね」

「絶対強ェんだろうなァ。戦ってみたかったぜ」

「え、何この人?戦闘狂って奴?」

「あ、あははは…」


 宿に着いて互いに自己紹介していると、兎路がログインしてきたのでそのまま顔合わせを終わらせた。うん、仲良くやって行けそうだ。


 イベントの後、エイジは豚頭重戦鬼オークヘビーウォリアーに、兎路は屍食剣舞鬼グールラクサートサイフに進化している。それぞれの種族(レイス)について見ていこう。


 エイジの豚頭重戦鬼オークヘビーウォリアーは重量武器の扱いにより特化した種族(レイス)であり、パワーとタフさに磨きが掛かっている。その代わりに機敏に動くのは難しいし、魔術の使用にも向かない。純粋に防御と物理攻撃に特化した壁役(タンク)である。これに私の【魂術】で常時回復などをかけてやれば、鉄壁の盾となってくれるだろう。順当な進化であり、クセのない強さを発揮出来るに違いない。


 対照的に兎路は屍食剣舞鬼グールラクサートサイフという一風変わった種族(レイス)だ。兎路曰く、この種族(レイス)になるためには一つ条件がある。それは剣舞士という職業(ジョブ)に就く事だ。では剣舞士に就くための条件が何かと言うと、『【剣術】、【舞踊】、【歌唱】、そして最低でも一種類以上の魔術系能力(スキル)の合計レベルが20以上』である。


 これ、知らないと条件を満たすのは無理だろ!兎路は本当に偶然全てを持っていたので、幸運だったと言わざるを得ない。そして種族(レイス)の特徴だが、エイジとは正反対で防御力が低い代わりに、素早い動きで敵を翻弄するスピードファイターである。なので回避能力も高いのだが、彼女の場合は【軽業】の能力(スキル)もあるので質が悪い。彼女と戦うなら、重い一撃を叩き込むタイミングを根気よく待つ必要があるだろう。


 加えて【舞踊】と【歌唱】によって自分と味方のステータスをほんの少しだけ強化しつつ、敵の攻撃をごく稀に惑わす事も出来る。兎路曰く、これはオマケ程度に考えておいた方がいいらしいが。


 万能なように聞こえるが、勿論そんな事は無い。魔術は言わずもがな、【剣術】の威力補正は純粋な剣士系には劣る。【舞踊】や【歌唱】も、舞踏家や吟遊詩人などそれぞれを専門にする者達には一歩劣る。能力(スキル)を上手く十全に使いこなせばそれら全てを凌駕するかもしれないが、それが出来なければ器用貧乏の極みになってしまうだろう。プレイヤーとしての腕前が問われる種族(レイス)であり、職業(ジョブ)である。


「さて、顔合わせが終わった所でこれからどうするかを話し合おう。私達はビグダレイオを発つ前にこの国を取り巻く異変の解決に手を貸す。これに異存のある者は?」


 私は全員の顔を見渡すが、否定する者はいなかった。我々が勝手に持ち込んだ案件ではあるが、エイジも兎路もこの国には恩があるので協力するのも吝かではないと言っていた。


「よし、ならば先ずは王城に向かおう。そこで依頼を受ける算段になっている」

「はいよ、兄弟」

「えっ、ぼく達もですか?」

「当たり前でしょ?パーティー組んでるんだから」

「そう言うことだ。行くぞ」


 こうして私、ジゴロウ、アイリス、エイジ、兎路、そしてカルのパーティーはビグダレイオの王城へと出発するのだった。

 ペラペラガン攻めの美女とパワー系盾職のコンビ。実は中の人同士は知り合いだが、それを知らないという裏設定があります。


 次回は3月14日に投稿予定です。

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