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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十章 灼熱の砂漠
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全員集合!

 今回から新章開幕です!

「なるほど…僵尸(キョンシー)にしてほしい、と。それならそうと最初に言って貰いたかったよ」

「ごめんなさいね、ややこしい言い方をして」


 邯那の頼みとは、私の【死霊魔術】で僵尸化する事であった。元々、我々は数少ない魔物のプレイヤーが紆余曲折あって集まった集団なので、魔物のプレイヤーしかいない。それで一人だけ人間(ヒューマン)である彼女は自分だけが仲間外れな気がするのだと言う。


 私が勧誘した皆も魔物だし、確かに彼女は浮いてしまう。私は気にしないのだが、『一人だけ』となっている本人は気にしてしまうものなのだろう。


 そして何故彼女が僵尸化を知っているのかと言うと、何とアイリス達が行ったアクアリア諸島の華国では、特別な強者だけが僵尸化して国を守護する防人となる風習があるらしく、実際にアイリス達と共に僵尸に会っているそうな。彼らはとうの昔に僵尸の弱点である【火属性脆弱】と【光属性脆弱】を超越していたらしく、生きていた時のほぼ上位互換と化しているのだとか。


 代わりに新たな能力(スキル)を取得するのに必要なSPが倍加し、僵尸化後に取得した能力(スキル)はレベルアップに必要な経験値が増加するという制限が加わる。新しい事をやりにくくなる代わりに、弱点を克服すれば間違いなく強くなれるのが僵尸化らしい。強くなれて魔物にもなれるのだから、邯那からすれば渡りに舟だろう。


「あ、でも今すぐって訳じゃないのよ」

「ほう?」

「僵尸化する人のレベルが高くないと、ただ弱体化するだけらしいのよ。最低でもレベル50だって。あと2レベル足りないわ」

「そうなのか」

「ええ。けどそれを知った上で僵尸を自分の兵士として利用していた教団がいたらしいわ。かなり昔に殲滅されたみたいだけれど。それ以降、華国では僵尸化を使える人はきっちりと管理されるようになったんですって」


 おや?私が僵尸化を学んだきっかけは洞窟に隠れ潜んでいた死霊道士(アンデッドメイジ)だったが、彼は華国から来たと日記には書かれていた。殲滅された後に管理されるようになったのなら、彼を含んだ一部には逃げられたのだろう。


 だが、そうなると食い違う部分が出てくる。彼の日記には教団云々は書かれていなかったし、何よりも逃げ出した原因は政変による追放だったと続いていたはずだ。この違いは何だろう?通説と事実が異なると言うのは現実の歴史でもよくあることだし、陰謀や情報操作の匂いがする。後ろ暗い何かがあったのだろうか?


 その辺りを詳しく調べるのも面白いが、今は私の胸に仕舞っておくに留めておこう。ちょっかいをかけると藪蛇で手痛いダメージを負う気がする。手を出すなら我々がもっと力をつけてからだな!


「ではレベルが50を超えたら教えてくれ。それまで私は可能な限り【死霊魔術】と【符術】のレベルを上げておくよ」

「助かるわ。ありがとう」

「じゃあ私はもう一人のメンバーに挨拶しに行くとしよう」

「あ、私達も行きますよ」



◆◇◆◇◆◇



「おぉ…これは…」


 我々は五人でバーディパーチの外へと降り、邯那の夫である羅雅亜(らがあ)氏とカルの元へと向かった。そんな私の目に飛び込んできたのは、カルが高速飛行しながら金色の鬣を靡かせる白馬を追い回している姿だった。


 傍目に見ると、カルによる狩りにしか見えないのである。これ、本当に遊んでいるのか?イジメとかじゃないんだよな?


「ほ、本人達は普通に追い掛けっこしてるらしいんですけど…」

「ぶっちゃけ襲われてるようにしか見えないよね」


 アイリスとルビーが私の気持ちを代弁してくれた。二人とも表情は無いのだが、顔があれば間違いなく苦笑していただろう。


「グオッ!?グオオオオオオン!!!」

「おお、よしよし。いい子だ、カルよ。留守にして悪かった」

「グルルルルゥ…」


 空を元気に飛び回っていたカルだったが、私の姿を見つけると一息に近付いて来た。そして私の目の前に着地すると、頭を擦り寄せてくる。ふふふ、愛いやつめ。甘えて来よるわ!


「ああ、貴方がイザームさんですか」


 私がカルの頭を抱え込むように撫で回していると、それまでカルに追い掛け回されていた馬が駆け寄って来た。闘技大会の録画映像を見た時よりも一回り以上大きいし、鬣も金色に変化している。彼も幾度かの進化によって姿を変えてきたのだろう。プレイヤーネームから大体何へ進化したいのかは予想が付くしな。


「ええ。私がリーダーのイザームです。よろしくお願いします」

「これはご丁寧にどうも。ご存知の通り、僕は羅雅亜と申します」


 羅雅亜氏の声は、思った以上に渋い。年齢は四十路くらいだろうか?私よりも間違いなく年上である。握手…は出来ないので、私達二人は互いに会釈をした。


「妻共々、よろしくお願いします」

「いえいえ。闘技大会での優勝者が仲間になっていただけるのはこちらとしても力強い。それに、カルと遊んでいただいてありがとうございました」

「ははは。むしろこちらとしても楽しかったですよ。このアバターで駆け回るのはそれだけでエキサイティングですし、ドラゴンに追い掛けられるというのは刺激的な体験でしたよ」


 そう言って羅雅亜氏は快活に笑っている。本当にあの状況を楽しんでいたようだ。それなら構わないのだが、カルに追われるのを楽しめるとは見た目に反して随分と豪胆な性格のようだ。


「イザームさん、主人とも砕けた調子で話して下さって結構ですよ。この人、いい年をして余所余所しくされると落ち込んでしまいますから」

「ほう、そうなのか?では、羅雅亜。改めてよろしく頼む」

「はは。こちらこそよろしく」


 年上相手でも、ここでは共に遊ぶ仲間だ。タメ口の方がいいのなら合わせた方がいいだろう。こうして私が邯那と羅雅亜の夫婦と親好を深めていると、カルが頭を擦り付けるのを止めると、首を持ち上げて遠くを見る。連れて私も同じ方向に目を凝らすと、一つの影がバーディパーチの崖を登ってくるではないか。


「よっしゃあ!俺が一番乗りだぜ!」

「くぅ、翅があるのにあっても飛ぶのは苦手なこの身が悔しいのぅ」

「ガハハハハ!負けたわい!」


 続けて二つの影が登って来たかと思えば、追随するように幾人かの鳥人(バーディアン)が飛び上がってくる。あの声には聞き覚えがあるな。


「おお?おーい!兄弟!先に帰ってきてたのかよ!」

「ああ、今さっきな。そっちも元気そうで何よりだ」


 崖際から登って来たのはジゴロウと源十郎のコンビと、二人と共にアイリス達とは別の島へ行っていた者達だった。彼らもまた、心踊る冒険をしてきたのだろうか。


「皆元気なようで何よりじゃ。そちらが新しい仲間かの?」

「ああ、そうだ。さて、積もる話もあるだろう。ホームに戻らないか?」

「おうよ。じゃあな、オッサン!世話んなったぜ」

「構わんさ!また機会があれば共に行こうぞ!」


 こうして集結した私達は、鳥人(バーディアン)と別れて再びクランハウスへと戻るのだった。そして互いの情報を共有するとしようか!



◆◇◆◇◆◇



 まず、アイリス達三人娘のグループが何をしていたのかについてである。彼女らは華国に着いた後、同じプレイヤーという事で意気投合した邯那と羅雅亜と共に行動するようになった。


 その後、シオが数名の鳥人(バーディアン)と共に『蒼月の試練』に臨む直前にアイリス達はある魔物の討伐クエストを受注した。クエスト名は『天の憐憫』。双龍島では数ヶ月に一度、蛇っぽい様々な魔物が大量発生するのだが、彼女らはその中で街外れに巣を作った個体の討伐が主な内容だった。


 どうして依頼者はそのようなクエストにアイリス達を選んだのか。その理由はアイリスとルビーが持つ称号(タイトル)、『水龍王の友』に由来する。依頼に来たのは華国の役人だったのだが、真の依頼人はなんと華国の頂点に君臨するのは二頭の龍帝(ドラゴンエンペラー)だったらしい。


 (ロード)ではなく、(エンペラー)である。私が見えたアグナスレリム様よりもさらに上の種族なのだ。称号(タイトル)の効果で知能が高い龍から我々は好感度が高くなっており、その縁もあって依頼が来たのだという。どこで何がフラグになるかわからんものだ。


 そしてクエストを熟したら全員が新たな称号(タイトル)、『風龍帝の知己』を得たそうな。ステータスに変化は無く、『水龍王の友』と効果とほぼ変わらないらしい。しかし、効果が重複するならば面白い事になりそうだ。


 お次はジゴロウと源十郎の戦闘狂(バトルジャンキー)コンビだが、あの二人はアクアリア諸島にある大きな島の片割れである天霊島で只管闘争に明け暮れていたらしい。大体は様々な妖怪達と道場で手合わせし、時折強大な妖怪と殺し合っていたそうな。


 その後ジゴロウは新たな称号(タイトル)である『大天狗の直弟子』を、源十郎は『天霊島剣術指南役』を得たという。更に二人とも武器術系能力(スキル)を進化させたのだとか。


 いや、これだけは言わせて欲しい。皆イベントよりもイベントやってない?日本語がおかしくなっているが、この際は仕方がないだろ!


「皆がどう過ごしていたのかはよく分かった。じゃあ次は私と迎えに行くのを誰にするかを決めたいと思う」


 まあ、いい。私は私で女神に喧嘩を売ったと言ったら爆笑されたから、インパクトでは負けていないはずだ。それよりも、状況の共有を終えたところで今後は何をするのかが問題である。


 真っ先に私がやらねばならないのは、エイジと兎路をここまで連れて来る事だ。他の皆と違って、彼らは余りにも離れた場所にいる。なので迎えに行く必要があるのだが、そのメンバーを選出しなければならないのだ。


 と言うのも、幾つかの事情からどうしても人数を制限しなければならないからだ。何故なら、拠点転移(ベーステレポート)はその場所に行った事の無いプレイヤーを連れて使う事が出来ないからである。なので二人をどうにかしてヴェトゥス浮遊島へと連れて来る必要があるのだ。


 まず私が行くのは確定として、運搬手段となってもらうカルは間違いなく必要である。次に迎えに行く相手であるエイジと兎路を入れるとこれで四人。となれば一パーティーの人数である六人の定員の枠で残っているのは二人分だ。そこを誰が埋めるかが問題なのである。


「俺ァ付いてくぞ!砂漠の敵ってのにゃ、興味あるからなァ!」

「武人の国…興味深いのぅ」

「生産系の新技術とかありそうですね!」

「色んな場所に行くっていいよねぇ…」


 そう、古参の四人全員が行く気マンマンなのだ。気持ちはわからんでもないが、譲ろうとは思わんのか!特に成人男性二人!


「自分はレベル上げをしたいからパスっすね。この辺は練習になる飛行系の敵が多いっすから」

「私はこの周辺を走り回ってみたいわぁ」

「という事で、僕達も遠慮させてもらいますよ」


 シオ、邯那、そして羅雅亜の三人は行かないつもりのようだ。三人はハッキリとやりたいことがあるからと言ってくれたが、間違いなく気を使ってくれた部分もあるだろう。まあ、「自分はレベル上げをしたいからパスっすね」

「私はこの周辺を走り回ってみたいわぁ」

「という事で、僕達も遠慮させてもらいますよ」


 シオ、邯那、そして羅雅亜の三人は行かないつもりのようだ。まあ、羅雅亜は身体が随分と大きいので運搬役であるカルへの負担が大きくなりすぎるから説得するつもりだったので助かったのは事実である。


「えっ、しーちゃん行かないの?だったらボクもパース」

「ふむ、ルビーが行かないのなら、儂も残るとするかのぅ。せっかく同じゲームで遊んでおるのに、連続して離れるのは寂しいわい」

「もう!お祖父ちゃん!」


 照れ隠しにルビーが源十郎をペシペシと叩く。祖父と孫娘が戯れている光景は、例えそれが虫人(インセクター)粘体(スライム)であっても微笑ましいのに変わりは無い。そして二人が辞退したことで、私と同行する二人が決定した。


「最初の三人で決まりだな、兄弟?」

「そうなるな」

「何だかんだで、この三人での行動って久し振りですね」


 アイリスの言う通りだ。最初に徒党を組んだ二人と三人だけで冒険するのは珍しい。


 それはともかく、これでメンバーは決まった。次にログインしたら、エイジと兎路を迎えに行くとするか!

 次回は2月26日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] シオ、邯那、そして羅雅亜の三人は行かないつもりのようだ。三人はハッキリとやりたいことがあるからと言ってくれたが、間違いなく気を使ってくれた部分もあるだろう。まあ、「自分はレベル上げをしたいか…
[気になる点] >『シオ、邯那、そして羅雅亜の三人は~助かったのは事実である。』 長いので対象文は省略させて貰いましたが、この範囲に重複している部分が有るのですが、誤字報告を受け付けていないようなので…
[良い点] とても面白く楽しませてもらっています! [一言] 初コメ失礼します 最後の誰が迎えに行くのかを決める際に同じ文が使われてしまっています。 言われているかもしれませんが一応伝えておこうと思…
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