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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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イレヴス防衛戦 その七

 白光力天使(ホワイトデュナミス)はレベル50。つまり、仲間達と袋叩きにしても危ない場面が幾度もあった獣鬼騎士(トロールナイト)と同格の敵である。しかも女神の支援によって全回復しやがった上、神殿の内部に限れば強化されるというオマケ付き。間違いなく強敵だ。


 しかし、無理な進化の反動で所々にガタが来ているのも事実。それは【崩壊スル肉体】という能力(スキル)にも現れていた。パッと見ただけでは何がどう影響を受けているのかはわからない。戦って行くうちにわかるだろう。


「二人とも、今まで通りに戦ってくれ。私は遊撃に回る。きっとこれが私達三人での最適解だろう」


 七甲と私の喚び出した下僕とモッさんだけでは前衛はどうしても厳しいと言わざるを得ない。では七甲に任せられるのか、と言えばそれは私以上に無理だ。彼は私のように【鎌術】のような接近戦が出来る能力(スキル)を持っていないのだから。


 それに私は曲がりなりにもあのジゴロウと源十郎バトルジャンキーコンビに身を守る術を叩き込まれている。近付いて戦う手段も幾つかあるし、ほぼ純粋な魔術師である七甲よりは絶対に私の方がいい。


「わかりました」

「ここまで来たら最後までやったるわ!」

「では、行くぞ!」


 私は鎌を振り上げて空を飛ぶ。そして天使に向かって正面から突撃する。


『今よ!やっちゃいなさい!』

閃光(フラッシュ)、からの短距離転移(ショートテレポート)


 …とでも思ったか?いや、正面から戦って勝てるわけが無いだろう。さっきもやったが、これは【時空魔術】を使える魔術戦士の基本的な戦術になるだろう。


 ただ、【時空魔術】を取得するには【光魔術】と【闇魔術】を取得してレベルを上げた後、大量のSPを使う必要がある。しかも短距離転移(ショートテレポート)を戦闘中に使うのは地味にコツがいる。少なくとも私は二人にスパルタ教育されなければ、今のように使いこなせなかっただろう。


 戦闘スタイルそのものがトリッキーかつある程度の慣れが必要で、その戦い方が出来るようになるまでが結構長い。それにスタイリッシュではあっても、正直言って火力も低い。相当上手なプレイヤーでない限り、仲間の足を引っ張りかねない気がする。


 時空魔術戦士の考察はともかく、私は影を切り裂いてダメージを与える暗黒剣(ブラックソード)を使った。鎌を振り上げたからと言って、鎌を使わねばならない訳ではない。私は魔術師なのだから、魔術の方が火力が出るのは自明の理である。


『目潰しなんて効かないわよ!』

「そして星魔陣起動、暗黒剣(ブラックソード)


 無論、光を司る神に仕える天使に対して光を使った目眩ましが通用するとは思っていない。私の狙いは短距離転移(ショートテレポート)を使う事で、閃光(フラッシュ)暗黒剣(ブラックソード)のコンボを一人で使うことだった。


 これ、結構練習したんだよ?難易度は高く無いものの、確実に成功させられるようになるまでは苦労したものだ。


『振り上げたんだったら、鎌を使いなさいよ!』

「では、使おうか。飛斬」


 リクエストにお応えするべく、私は飛び退きながら鎌によって武技を使う。これまで幾度となく使ってきた斬撃を飛ばす武技、飛斬である。因みに、この斬撃には闇属性が付与されている。これは私の大鎌、古ぼけた大鎌の効果によるものだ。これまでは闇属性が効果的な敵と見えた事が無かったので非常に影が薄かったのだが、ここに来てようやく陽の目を見たようで非常に嬉しい。


 だが、フェイントも何も無い飛斬は天使の持つ剣によってアッサリと打ち消されてしまう。当てられれば確実にダメージが入るハズなのだが、そう上手くは行かないか。そして天使は主人の命令に従って私を追い掛けようとしていた。しかし、私に気を取られてばかりでいいのか?


「一斉射撃じゃあ!モッさん!」

「わかっています!」


 当然、背後へ回っていた七甲とモッさんが攻撃を加える。七甲と下僕の烏達による魔術の雨が降り注ぎ、その直後にモッさん率いる蝙蝠達が全身に満遍なく攻撃していく。以前、我々が同じ部位を攻撃し続けて部位破壊したことがあったが、身体の小ささと数を活かすのなら全身を包み込むようにした方がいいだろう。


『チクチク鬱陶しいわね!先に雑魚を蹴散らしなさい!』

「させん!星魔陣起動、暗黒糸(ブラックスレッド)!」


 ここでモッさん達前衛の数を減らされる訳にはいかない。なので私は暗黒糸(ブラックスレッド)によって天使を拘束する。呪文調整をしていないのでこのままでは直ぐに引き千切られるかもしれないが、問題は無い。地面の近くで拘束したなら、もうそれで十分なのだから。


「行け、獣鬼(トロール)達よ!」

「「グオオオオオオッ!!!」」


 何故なら、地上にはパワータイプの獣鬼(トロール)が居るからだ。二匹は天使の足を掴むと地面に引きずり下ろした。そして片方が正面から天使の両手首を掴んだ状態で首元に噛み付き、もう片方が背後から翼を鷲掴みにして思い切り捻る。物理と魔術の両方での拘束に成功したぞ!


「よし!出来るだけこの状態を維持するぞ!星魔陣起動、呪文調整、茨鞭(ソーンウィップ)!」


 今度は【樹木魔術】の茨鞭(ソーンウィップ)によってさらにガチガチに拘束していく。動きを徹底的に止めて叩く、と言うのは私の基本戦術だ。それに棘まみれの茨によって追加ダメージも発生する。一石二鳥である。


「今や!一気に…」

「いや、待って下さい!」


 今のうちに叩けるだけ叩いて…と思ったのも束の間、蝙蝠軍団を特攻させようとした七甲をモッさんが慌てて止めた。私も気が付いたが、何故か天使が発光し始めたのである。何が起きているのかは不明だが、ヤバいのでは?


『ザザッ…ザザザザザザザザザザ!』


 これまで一言も言葉を発しなかった天使が、大昔のブラウン管テレビの砂嵐が如き音を立て始める。これ、ひょっとして【崩壊スル肉体】の効果なんじゃ…


『ガガガガガガガガ!!!』

「うおおおおお!?」

「くぅっ!?」

「ギャアアア!め、眼がぁ!!」


 次の瞬間、天使の陶器を思わせる硬質な身体に刻まれた傷口が、罅割れたように広がった。かと思えば、そこから目を焼くような閃光が迸ったではないか!その輝きによって七甲は先ほど私が使った閃光(フラッシュ)を食らったような状態になり、地面に落ちてしまう。さらにこの光にはダメージ判定があるらしく、光を浴びた私とモッさんは体力をガリッと削られてしまった。


「「ゴギャアアアアアアアアア!?」」


 しかし、一番大きな被害を被ったのは最も近くにいた獣鬼(トロール)達だ。至近距離から光線をまともに受けてしまった彼らはそのまま即死してしまった。噛み付いていた口の中から頭部に光線が貫通していたのだから当たり前だ。くっ、あれらにはもっと活躍させるつもりだったのに!


『け、計算通りね!このままやっちゃ…』

『ガガガ』

『ひいっ!?』


 女神が何か言おうとしたようだが、何故か天使はその剣で女神像を斬りつけてしまった。壊れはしなかったものの、傷痕は深々と刻まれている。おいおい、いいのか?それはお前の主人だろう?


『あわわわわ…!ど、どうしよう!?』

「おい、アレはどうなっているんだ?なぜお前にも剣を向ける?」

『む、無理矢理進化させたせいで暴走して…って!なんでアンタに教えなきゃならないのよ!』


 なるほど、やっぱり全ての元凶はこのポンコツ女神にあると言う事か。自分の手下を制御出来ない状態にするとは、本当にろくなことをしない女神だな、お前は。


『ザザ…ザザザザザ』

「ちっ、お喋りをしている場合ではないか。二人とも、ここは様子見だ。強引に近付こうとはするなよ」

「はいよ、ボス」

「わかりました」


 天使は傷口からキラキラと輝く白い粒子をブスブスと吹き出しながら、こちらを向いている。元々表情に乏しい天使の虚ろさも相まって、とても不気味である。


「取り敢えずは牽制の魔術だ。星魔陣起動、闇球(ダークボール)!七甲!」

「おう!風槍(ウインドランス)!」


 私と七甲、そして彼の召喚獣達が魔術を放つ。こちらも質より量で押し潰す感じだ。さあ、どう動く?


『ザザザ…ザザザザザ…』


 自分への攻撃に反応したのか、天使は魔術を迎撃すべく剣を振るった。その速さはこれまでよりも一段素早く、力強い。そして全身から吹き上がる白い粒子を撒き散らした。それが魔術に触れると、そのまま消滅させてしまった。そして同時に我々の元にまでその粒子が飛んできたではないか!


「ぐっ…ん?」

「あんまりダメージは無いな?」


 どうやら弱体化している訳ではないらしいが、だからといって単純に強化されたとは言えないようだな。何となくだが、動きが雑なのだ。両手に持っている剣を力任せに振っているようにしか見えなかった。ジゴロウ達の()()()()()を乗り越えた私にはわかるぞぉ?あの二人には及ばないが、先ほど天使が見せた動きとは大違いだった。


 恐らくだが【双剣術】の補正が働いていないんじゃないだろうか?それだけで断言するのは総計だが、今の奴は能力(スキル)が使えなくなっているのかも知れない。もしそうだったらやり様はいくらでもあるぞ。


 それに動く度にギシギシと音を立てているし、傷口のエフェクトが少し大きくなっている。こちらも予想に過ぎないが、無理に身体を動かしているせいで何かしらアクションを起こすだけでダメージを受けてしまうのかもしれない。


「それに近付いてけぇへんぞ?」


 七甲の言う通り、攻撃したにもかかわらず天使はこちらに向かって来ることは無かった。私がダメージを食らったのは流れ弾のようなものだったのだろう。よし、それをハッキリさせるためにも一つ実験をしてみようか。


「七甲、モッさん。一つ試してみる。相手の様子を観察しておいてくれ」

「はいよ!」

「何をするんですか?」

「まあ、見ておいてくれ。召喚(サモン)


 私は七甲と同じ烏を三羽ほど召喚する。そして天使の周囲を取り囲むように飛ばせてみた。


『ガガ…』


 天使は先程と同じように全力で無茶苦茶に剣を振り回して烏を切り裂いた。やはりその動きは大雑把で、よく見れば掻い潜れる大振りばかりになっていた。同時に傷口の周囲がパラパラと崩れており、烏を斬り終わった瞬間に攻撃そのものを止めている。


「なるほどなぁ。そう言うことかいな」

「接近する敵に反撃しか出来なくなっていて、しかも自傷ダメージまで負っているみたいですね」


 モッさんの予想が正しいと私も思う。なのでここからは遠距離から攻撃しているだけでどうにかなるのだろう。何だ、虚仮威しじゃないか。楽勝、楽勝…


『さ、させないもん!ええいっ!』

『ザザッ…ピー…ガガガガガガガガ!』


 天使の不具合を利用して遠距離からネチネチと卑怯な戦法で倒してしまおうとした時、女神がまた何かしたらしい。それに呼応して天使は吹き上がる白い煙の量を増加させながらホラー映画のクリーチャーばりにガクガクと痙攣し始める。


 いや、普通に怖いんだが?なまじ元々が天使なのも相まってすごく不気味である。


「おい、何をした?」

『鼓舞しただけよ!天使って言う種族(レイス)は、主人である女神なら強制的に従わせる事が出来るのよ!』

「…さっき斬られとったんちゃうんか」

『う、うるさい!この際、神殿がちょっと荒れてもいいわ!アンタ達を倒してから直せばいいんだもの!やっちゃいなさい!』


 女神がそう言うが早いか、天使はこちらに突撃してきた。こ、この!余計なことばかりやりおってからに!こうなったらガチバトルでぶっ倒してやるわぁ!

 次回は2月6日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなんが女神なら人間も人間至上主義出すわ だって女神より賢いもん
[一言] ここまでポンコツだと一周回って女神様が愛らしく思えてきたわ。
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