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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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イレヴス防衛戦 その三

 魔物VS人類の戦争。それはそれは激しい戦いだ。少しばかり離れた場所から見るとよく分かる。魔物側も人類側も必死に戦っているぞ。


「だからこそ、茶々を入れるのは楽しいのだがね」

「…あんた、ホンマ悪いやっちゃなぁ」


 タイミングを計りながら呟いた私の独り言に、七甲が呆れたようにそう言った。感情の分かりにくい烏の姿をしているハズなのに、何故か白い目で見られているような気がする。何でだろう、とは言わんぞ。やっている事も、これからやろうとしている事も外道のそれなのは自覚しているからだ。


「うわぁ…あのラッシュ、エグいねぇ!よくもまあ直し続けられるもんだよ」

「あっちは人数もいるからね」

「あっ!こっちも攻め手を増やすのね!」


 私達の横では女子三人組が楽しげに観戦している。性格は異なる三人だが、イベントを通じて随分と仲良くなれたらしい。ただし、人間っぽい見た目なのは兎路だけなので目の保養にはならない。むしろ角の生えた女性と手足を持つキノコ、それに明らかに凶悪そうな巨大蜘蛛が歓談しているという光景は…慣れていない一般人には刺激が強いかもしれない。


「うーん…これは泥試合になる予感がしますよ、イザームさん」

「なればこそ、あの仕掛けは意味を成すでしょう。何事もやっておくものですねぇ」


 門がダメージを負う速度とそのダメージが回復する速度の近郊は崩れた。だが、離れた場所から見ただけでも分かる。完全に破壊されるまでにはそこそこ時間がかかるであろう事は。まあ、イレヴスの人々がもっと無能であれば私達の出番は無かったのだろうから文句は言わないでおこうか。


「そうだな、モッさん。では、そろそろやるとするか」

「うっし!じゃあ出陣ってことか!待ちくたびれたぜ!」


 イベント最後の戦いの時が来たからか、セイは興奮した様子でストレッチを始めた。ここはゲームなので身体を解す事に意味は無いハズなのだが、こう言うものは気持ちの問題でもある。ストレッチによって普段の力が発揮出来るならそれで良いのだ。


「予定通り、ここからはグループに分かれたら別行動だ。やりたいようにやるといい」

「そうさせて貰うわ。ま、無茶はしないから安心してよ」


 我々はここから三つのグループに分かれて行動する。一つ目は兎路をリーダーとしてエイジとセイと彼の従魔の戦争に参戦するグループだ。彼らは獣鬼王(トロールキング)の軍勢に混ざってプレイヤーやNPCの兵隊と戦うのが目的である。これで戦ってレベルを上げるという彼らの目的が叶うことになる。


「むふふふふ!地図のお陰で捗りますなぁ~!」

「大舟に乗ったつもりでいてよね!」

「出来るだけー、盗んで来るよー」


 しいたけ、紫舟、そしてウールの三人の役割は可能な限りイレヴスから略奪を働く事だ。元々は単に街の大通りでやればいいと思っていたのだが、ウスバのお陰で街の地図があるので何処に何の店があるのかが一目瞭然である。特にしいたけが求める錬金術関連の店舗は分かりづらい場所にありがちなので、これで店を探す手間が省けた。


 彼には感謝せねば…いや、これだけしてもらっておきながら奴の無茶振りに失敗すれば煽られるのでは?うわぁ、嫌だぁ!成功してくれぇ!


「七甲とモッさんにはしばらく付き合って貰うがね」

「分かっとるよ、ボス」

「護衛役はお任せ下さい」


 一方で私は私でやりたい事がある。そのための護衛は七甲とモッさんに任せるつもりだった。本当は二人はしいたけ達と共に装備品の強奪に向かうつもりだったのだが、私の道楽に付き合わせる形になった。しいたけ達に彼ら用の装備の事も頼んでいるのだが、自分で選べなくなるのは不本意だろう。なので計画が恙無く終われば、しいたけ達に合流してもらう予定だ。


「それでは、一発目の花火と行こうか。…自爆せよ」


 私は予め【召喚術】で喚び出して離れた場所に潜ませておいた炎幽霊(フレイムゴースト)を自爆させる。はてさて、期待通りの成果をあげてくれるだろうか?


 などと思っていた矢先に、城門の真下が突如として大爆発した。想定以上の威力があったことで、城門は周囲の城壁を巻き込んで崩壊した。同時に真上にいた獣鬼将軍(トロールジェネラル)獣鬼王(トロールキング)も手傷を負いつつ全員吹き飛んでいる。上手く双方に被害を与えられたようだ。


「おおー、思ったよりも威力があったのだな」

「それよりも、何か飛び降りてる人がいませんでしたか?」

「え?そう?ウールは見てた?」

「いーや?門をずっと見てたからー、気付かなかったよー」


 そんな奴がいたのか?全く気が付かなかったぞ?ただ、もし居たとすれば今頃リスポーンしているのではないだろうか。だが、単身で強敵に飛び出した気概は嫌いではないぞ!吹き飛ばした私が言うのもアレだが!


 それは兎も角、私がやったことは単純だ。【大地魔術】の地穴(アースホール)を最大限に利用して地面の下にトンネルを掘って密かにイレヴスに近付いたのである。そして現在地をマップで確認しながら城門の真下に到達すると、そこにウスバから託されたダイナマイトを全て設置。その後召喚した炎幽霊(フレイムゴースト)を待機させた状態で撤退したのである。


 しいたけには彼女の【大地魔術】で、七甲には【召喚術】で喚び出した動く骸骨(スケルトン)で掘った穴が崩れないように補強して貰っていた。そのせいで二人とも私と共に魔力の回復に努めることになったのである。口で言うのは簡単だが、中々に骨の折れる作業だった。私は骸骨だしな!


 …下らない駄洒落はさておき、その過程で【大地魔術】のレベルが上がって新たな術まで覚える事が出来た。その呪文である地牙(アースファング)は、任意の場所に地割れを起こして隙間を作ってから勢いよくその割れ目を閉じる術である。


 ダメージもさることながら、この術の真価は敵を地面に挟み込めた時の拘束効果にあると思う。補助系ばかりな印象の【大地魔術】だが、この呪文は攻撃と補助の両方をこなせる有用な術だと思われる。実戦に投入するのが楽しみだ!


「どこのバカがミンチになろうが、アタシ達のやることは変わらないでしょ?さ、早く行くわよ」

「兎路の言う通りだな。作戦開始!」

「「「「「「おー!」」」」」」



◆◇◆◇◆◇



「ここね」


 イザームさん達と別れた後、ぼく達は城壁の西側に取り付いている魔物達の近くの森に潜んでいた。ここにいる魔物達はぼく達が攻めた砦を攻略した部隊。つまり、イザームさんと『仮面戦団(ペルソナ)』の人達の作戦であっさりと砦を陥落させた部隊だね。


 だから被害が最も少なくて数が多いんだ。なので紛れて戦うのも街の中に入るのも、一番安全って寸法さ。イザームさんは自分のことを『卑怯なだけ』とか『悪知恵が働くだけ』とか言ってるけど、これって十分軍略って言えるんじゃないかな?


「こっちの数も多いけど、その分抵抗も激しいな」

「無計画に突っ込むと間違いなく死ぬと思うよ」


 魔物の数が多いから、それに対応するようにイレヴス側も対応してる。守ってる兵士とプレイヤーの数が結構多いんだ。これでも城門が破壊されたことでそちら側に戦力が割かれたのか、最初よりは攻勢が弱くなっているみたい。


 だから魔物は多いけどまだ城壁を昇るための梯子は架かっていないし、城壁を駆け登る試みも失敗してる。ぼくは梯子が無いとほとんど何も出来ないから、何か変化があればいいんだけど…


「これじゃ、埒が開かないわ。ちょっと行ってくる。二人は待っててちょうだい」

「えっ?ちょおっ!?」

「お、おい!待てよ、リーダー!」


 って!軽い感じでそれだけ言って、兎路が走り出したじゃないか!百歩譲って待つのはいいけど、少なくとも何をしに行くのかは教えてくれない!?


「レベルがそこそこ高いのがウスノロばっかりじゃ、どうしようも無いわよね。助走の距離は十分かな?」


 離れているから兎路が何を言ったのか聞き取れなかったけど、多分誰かをバカにしたんじゃないかなぁ。とりあえず挑発する癖みたいなものがあるし。


「よっ、ほっ、やっ…と!」

「嘘ぉ!?」

「い、一気に登りきっただと!?」


 ぼ、ぼくは夢でも見ているんじゃないだろうか?兎路は物陰から飛び出して城壁に向かって凄い速度で走り出したかと思ったら、その勢いのまま城壁を駆け上ったんだよ。そんな曲芸紛いの事が出来たの!?


「【軽業】って能力(スキル)が剣術以外でも役立つ日が来るなんてね」


 後から聞いた話だけど、兎路は【軽業】という能力(スキル)を持っているらしい。その効果で彼女はアクロバティックな剣術を可能にしていたみたいなんだけど、今回はその能力(スキル)で壁登りを実現したんだって。


 他にも怒濤のレベルアップラッシュで有り余るSPを【舞踊】とか女性アバター限定で効力が謎の【色香】という能力(スキル)を取得したって言っていた。一体、兎路は何を目指しているんだろうか?


「お、おい!登って来たぞ!?」

「殺せ!早く!」

「さあ、引っ掻き回すわよ」


 方法はともかく、こうして兎路はたった一人で城壁に登りきってしまった。これでは囲まれて押し潰される…かと思ったらそうはならなかった。彼女は城壁の胸壁の上を縦横無尽に跳び回って兵士達を翻弄している。


 反撃する余裕は無さそうだけど、回避に専念する兎路に攻撃を当てるのは難しそうだ。それにしても、凹凸のある平均台みたいな場所でよくあんなにピョンピョン出来るなぁ。ぼくのアバターだと絶対無理だし、もし彼女のアバターに入ったとしてもあんな事をやれる度胸は無いよ。


「おい、今だ!」

「誰かわかんないけど、ありがとう!」

「ガアアアアアア!」


 兎路の登場に一時だけ固まっていた魔物達が動き始めた。中に混ざっているプレイヤーやNPCの魔物がこの好機を逃さずに梯子を次々に架け始めたんだ。イレヴス側は慌てて対処しようとしたものの、兎路が逃げ回りながら魔術を放って邪魔をする。


 …なんだかやり方が随分と汚くなったなぁ。これってひょっとしてイザームさんの影響を受けてる?


「うおおおお!行けえええええ!」

「うわっ、喋った!?って事はプレイヤーかよ!」

「グオオオオオオ!」

「殺せぇ!奪えぇ!」


 兎路の撹乱のお陰で隙が生まれた。その甲斐もあって遂に梯子が架かった。そこからプレイヤーとNPCの魔物が一気に雪崩れ込んでいく。おおお!すっごく戦争っぽい!


「おい、エイジ!ボーッとしてないで行こうぜ!流石に兎路もそろそろキツイぞ!」

「あ、ああ!そうだね!」


 あ、危ない!思わず映画のような光景に見入っちゃったよ!どれだけ兎路の動きが軽やかでも、その分防御力はとても低い。だからこそ鈍い代わりに固いぼくとのコンビが上手く回っていたんだから。


「ねぇ、セイ君。こう言う時は、魔物っぽく行くのが正解だよね?」

「はぁ?どういうこったよ?」


 魔物になって人々を襲うんだ。だったら人の言葉を話すというのは野暮ってものさ。


「つまりはね…ブガアアアアアアアア!」

「うわっ、うるせぇっ!?って待てよ!」


 ぼくはわざとNPCの豚頭鬼(オーク)達の声に似せた雄叫びを上げながら突撃する。よぉし、一人でも多く敵を倒してやるぞ!

 二本の剣、舞踏、色香…もう察してる人は多そうですね。


 次回は1月17日に投稿予定です。

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