イレヴス防衛戦 その一
さて、明日の予定はもう決まっている。半日は少しでも勝率を上げる為にレベルアップに勤しみ、もう半日を使ってイレヴスの近くまで移動するのだ。
魔物の群れよりも到着が遅れるに違いないが、それは別に構わない。私達は別にイレヴスを滅ぼしたい訳でも、逆に魔物達を滅ぼしたい訳でも無いのだから。
「さて、明日からレベリングに移るわけだが…雑魚を狩りまくるのと強敵に立ち向かって打倒するのか。どちらが効率的かは不明だが、とるべき道は一つだけだ」
「当然、大物狙いですよね!」
やる気十分のエイジに、私は肯定する。イレヴス防衛戦へちょっかいを掛けようと言うのだから、格上相手に戦うことに慣れる必要があるのだ。
何、格上相手でも勝つ方法はいくらでもある。幾度となく格上のボスを倒してきた私が言うのだから間違いない。それに倒せないのなら逃げればいい。そのくらいの気軽さで行こうじゃないか。
「じゃあ北上するの?」
「イレヴスの近付くに強い魔物なんて居なさそうだもんね」
「そう言うことだ」
都市から離れれば離れるほど、魔物は強くなって行く。実にゲーム的で結構なことである。
それに多少遠出したところで、私には【時空魔術】の拠点転移がある。なのでここへなら直ぐに戻る事が出来る。なので気兼ねなくレベリングに励む事が出来るのだ。
「ほなら一旦ログアウトして、移動とやら戦闘やらは明日からにせぇへんか?そろそろ寝たいわ」
「同感ですね。ゲームで夜更かしもいいですが、程々にしなくては」
七甲とモッさんが至極真っ当な事を言う。確かに私もそろそろ眠たくなってきた。年をとると徹夜で遊ぶというのが辛くなってくる。仕事なら義務感でどうにかなるのだが…遊びで無茶が出来ないのに仕事ならどうにかなるというのは社会人の悲しき性よのぅ。
「睡眠不足は美容の天敵だし、私も落ちるわね」
「ふあぁ…みんながそう言うから眠くなってきたわ~」
「え~、まだ早いだろ?」
「そうですよ!」
大半の仲間達は眠気に耐えられなくなってきたようだ。だが、セイやエイジはまだまだ元気だった。若いねぇ~。オジサン、付いて行けませんわ。
「それなら眠くない者達で狩りを続けたらいいさ。ただ、明日は午後から移動の予定だ。その時間になって眠いと言われても困るぞ?」
「わかってるよ」
「そのくらいの分別は出来ますって!」
なら別に構わないな。オジサンはもう眠いや。おやすみ!
◆◇◆◇◆◇
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
【尾撃】レベルが上昇しました。
【尾撃】の武技、尾突を修得しました。
【杖】レベルが上昇しました。
称号、『インセクトキラー』を獲得しました。
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レベリングは大体終了致しました。途中で休憩も挟みつつ、しっかりとレベルを上げられたと思う。充実した時間であった。
しかし、唐突に『従魔の~』という通知が来た時はビビったね。いや、カルは何をしとるんだ?勝手にレベリングしてんの?そんなことある?意味がわからないよ!
何がどうなっているのかは不明だが、それは一先ず置いておこう。それよりも、一つだけ訂正せねばならないことがある。私達は森の西側は虫の楽園だ、と言ったな?あれは間違いであった。正解は森の北側が蟻の支配下にあったのである。え?劣崩蟻なら余裕だろうって?全然違うのだ。これが、我々が最も多く戦った魔物のステータスだ。
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種族:崩労働蟻Lv21~28
職業:労働者Lv1~8
能力:【酸牙】
【外骨格】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
【物理耐性】
【地属性耐性】
【火属性脆弱】
種族:崩兵士蟻Lv25~29
職業:兵士Lv5~9
能力:【酸牙】
【外骨格】
【猛毒針】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
【連携】
【物理耐性】
【地属性耐性】
【火属性脆弱】
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『劣』の一文字が取れた蟻達なのだが、これが強いのなんのって。レベルが高いとかそういう次元じゃないよ、こいつら!
同じ労働蟻と名がついていても、同じ階級で10レベルも違う。見た目もかなり厳つくなっており、外骨格に鋭いトゲが追加されるなど、魔界からやって来たかのような姿をとっていた。この時点であらゆるステータスが一回り高くなっているのが確定なのだが、加えて厄介なのが【物理耐性】という能力だった。
『劣』の時は【斬撃耐性】だったので、打撃や刺突であればダメージを与えられていた。だが、【物理耐性】になっていたせいで、前衛組の攻撃が軒並み軽減されてしまったのである。
さらにタフで固くなったのに、ダメージを与えるのも一苦労。幸いにも【火属性脆弱】は残っていたので、私が全員に【付与術】をガンガン掛けたのでどうにかなったのだが。
「もう進化してる…どんだけ無茶なレベリングだったのよ」
「けどー、これでー、足手まといじゃーなくなったよー」
数の上でも勝っていた崩蟻だったが、蟻との戦いはもう最適化されている我々だ。相手が強くなっていたとは言え、それはこちらも同じこと。苦戦したのは最初だけで、途中からは雑談しながら狩り続ける余裕すらあった。
レベル20代組は全員もうすぐ30に到達するし、最もレベルが低かった紫舟とウールのコンビもレベル20代後半に差し掛かっている。そう、二人はこのイベントだけで二度目の進化を成し遂げたのだ。
紫舟は大殺蜘蛛からより殺意の塊のような魔物である大殺戮蜘蛛に、ウールは眠羊から更に眠らせることへ特化した夢羊へと進化している。より強力な攻撃役と妨害役として活躍してくれることだろう。
「称号…手にいれたのは嬉しいんだけどねぇ…」
「最初の称号がこれって…」
無数の蟻を殺しまくった我々は、全員が『インセクトキラー』という新たな称号を獲得した。その説明文は以下の通り。
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『インセクトキラー』
虫系の魔物を短期間で屠り続けた者へ贈られる称号。
虫系の魔物与えるダメージが増加する。
獲得条件:一日で一定数以上の虫系魔物を討伐すること。
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この『一定数』が具体的に何体なのかは明言されていないので不明だ。だが、我々が蟻を腐るほど倒したのも事実上である。というか、『インセクトキラー』があるのなら、『ビーストキラー』や『アンデッドキラー』などの称号もありそうだ。特定のアイテムの為に同じ系統の魔物を狩り続けると自然に得られるだろう。
経験値稼ぎや素材稼ぎ、また冒険を楽に進めるのに有用な称号だ。だが、この数を他の魔物に置き換えてやれと言われたら躊躇してしまいそうだ。…とか言いつつやることになりそうなのだが。
称号を得たのは喜ばしいはずなのだが、女性陣には不人気なようである。確かに字面がね…。なんというか、害虫駆除の業者のようだ。
「それで、そろそろ南に向かいますか?」
「そうしよう。祭りに遅刻し過ぎるのも寂しいものだし、な」
◆◇◆◇◆◇
こうして南下を開始した我々だったが、その道中は想像以上に楽だった。私達が結果的に援護した西の砦を襲った者達が行軍した跡を追ったのだが、無数の魔物が邪魔な木々を切り払い、地面を踏み固めていたのである。整備された街道とは比べるべくもないが、道無き道を行くよりも段違いに楽だったのは言うまでもない。
戦闘らしい戦闘は無く進んでいくと、遂に遠くから激しい戦闘音が聞こえてきた。おっと、もう戦争はガッツリ始まっていたようだ。
「何はともあれ、先ずは戦況を確認しよう。七甲、モッさん。頼めるか?」
「はいよ!任しとき!」
「了解です」
ここまで色々と暗躍しておきながら、闇雲に突撃するのはあり得ない。しっかりと状況を確かめて、最適な戦法をとるべきだ。そのためにも、空を飛べる上に身体が小さくて見付かりにくい二人に俯瞰から観察してもらったのである。
数分後、七甲とモッさんは現在の状況を頭に焼き付けて戻ってきた。まず大前提として、イレヴスは城壁に守られた円形の都市である。門は北と南に二ヶ所あり、魔物達は北側の門に集中して殺到していた。
北門の前では血で血を洗う激戦が繰り広げられている。数多の獣鬼が門を叩き壊さんと群がっており、対する防衛側は城壁の上から眼下の魔物達目掛けて魔術と矢の雨を降らせている。
防衛側の猛攻によって門は守られているが、獣鬼はその治癒能力によって粘り強く門に張り付いている。同時に他の魔物達も呆けている訳ではない。地上からも魔術と矢、投石などが飛んでいるし、城壁の僅かな出っ張りに捕まって壁登りを実行している者達もいた。
これでは決して門だけに集中することは出来んだろう。壁登りが可能な者がいる時点で、目を離した場所から登ってくる可能性があるからだ。
どちらかと言えば魔物側が優勢に見える。だが、本当にそうか?イレヴス側にも何かの秘策があるかもしれない。しかしなぁ…そんな事を疑っていてはどうにもならんし…
「ほんで、こっからどうするんや?」
「ああ、そうだな…」
「ちょっと待った。あっちに何かいるぞ」
ここからどう行動するのかについて七甲に説明しようとした矢先、セイが小声で囁いた。私達が顔を見合わせてから彼の棒が指し示す方へ視線を向けると、そこには二十人前後のプレイヤーの集団がいるではないか。
どうしてプレイヤーだとわかったのかと言えば、人類プレイヤーのマーカーの色と、集団の中に数人の武装した魔物がいたからだ。恐らくは表イベントに参加した魔物プレイヤーだろう。従魔師プレイヤーの従魔である可能性もあるが、会話しているようなのできっとプレイヤーなのだろう。
「あれは…?」
「奇襲部隊でしょ。面子を見る限り、単に攪乱するだけって感じじゃなさそうね。背後から引っ掻き回すつもりなのよ、きっと」
兎路の予測が正しいと私も思う。そのプレイヤー達は隠密が得意な斥候職だけではなく、重装備の戦士やローブを纏った魔術師なども含まれている。多少驚かせるのではなく、背後から奇襲を仕掛けて打撃を与えるつもりなのだ。
「きっとー、他にもいるよねー」
「えっ?どういうこと?」
「もし私が指揮する立場なら、奇襲を仕掛けるのは一ヶ所だけにはしません。最低でも三ヶ所で騒ぎを起こして混乱を誘いますね。ウール君も同意見、ということでしょう?」
「そーだよー」
いまいちピンと来ていない様子であった紫舟に、モッさんが補足する。私なら奇襲部隊の隠密性と打撃力を天秤に掛け、八部隊は送り込むかな?門の前の連中が動揺するくらいに騒ぎを起こさねば意味がないのだから。
だが、実際はもう少し少ないと思う。そうであれば私が撒いた不信の種は芽吹いていると言えるだろう。
「とりあえず、この奇襲を成功されたら初戦の流れは向こうに持っていかれる。それは避けたい」
「ってことは?」
皆が期待に満ちた目で私を見る。それに応えるべく、私は口を開いた。
「奇襲を失敗させるべく、逆にこちらが奇襲を仕掛ける。では、諸君。楽しく戦争しようではないか!」
カルが単独で狩りに行くのはシステム的に不可能ですが、随伴する従者がいれば可能。一体何號が付いていったんだ…?
次回は12月12日に投稿予定です。




