閑話 その頃の仲間達
今回は他のクランメンバー視点だけです。
「ケェエアアアアアアア!」
「キョゥォオオオオオオ!」
だだっ広い道場の中で、耳をつんざくような奇声が止めどなく響く。正直うるせぇが、こういう雰囲気ってのは嫌いじゃねェ。むしろ気が引き締まっていい感じだ。
「権左衛門、参る!」
「おう!来やがれェ!」
おっと、ここじゃあボーッとしてる暇なんざ無ェよな。俺と対峙しているのはデッケェ金棒を持った鬼だった。種族は忘れちまったが、素のステータスじゃあ俺が負けてる相手だ。レベルで負けてんだから当然だがな!
「ぬぅん!」
「遅ェぞ!」
唸りを上げて迫る金棒を、俺はギリギリで躱しつつ、膝にローキックを叩き込む。だが、この程度じゃあまともなダメージにもなりゃしねェ。鬼ってなァ進化すりゃするほど体力がガンガン上がって行くからよォ。
「なんの、まだまだ!」
「どんどん来やがれ!」
◆◇◆◇◆◇
それからしばらく他の鬼やら妖怪やらと一緒に稽古した後、他の連中と狩りに行ってた源十郎と合流して一緒にメシを食うことになった。そこには妖怪の首領で、この天霊山の実質的なボスの大天狗もいる。
「おお、御客人。精が出ますな」
音もなく俺の背後から声を掛けたのは、その大天狗だった。このジジイ、一人で勝手にプラプラ出掛けてしばらく帰ってこなかったりするらしい。徘徊老人か何かか?
因みに、大天狗はまさにThe天狗ってな見た目をしてやがる。赤い皮膚に高い鼻、長くてサラッサラな白い髪と髭。それに背中からは三対の烏の翼が生えてて、山伏の格好をしてる。右手にゃ羽毛を何枚も纏めた扇、左手にゃジャラジャラ音を鳴らす錫杖を持ってら。
服も装備も全部高級品だな。俺もアイリスの作った結構良いモンに触れてっから、何となくわかるわ。聞いた話だとレベルは100らしいし、武装も一級品となりゃあ…勝てねェよな。今は。
「おう。すぐに強くなってボッコボコにしてやんよ、クソジジイ天狗」
俺はここへ来てすぐにこのクソ天狗に勝負を挑んだ。けど、決着は一瞬で着いちまった。アイツが扇を一振りしただけで、俺の身体はピクリとも動かなくなっちまったからだ。
いやはや、手も足も出なかった。いや、奴ァ動くことすらしなかったんだぜ?土俵にすら登れちゃいねェ。格の違いってのを見せ付けられたわ。
奴が何をしたのか、俺が何をされたのかすら不明。そこんとこをハッキリさせねェとどうにもなんねぇぞ。
「かっかっか!その意気や良し!好きなだけ励めば良いですぞ、強き風来者よ」
「余裕かませンも今の内だ。絶対に泣かせてやっからよ」
「おお、恐や恐や。若いモンに怒鳴られた憐れな老人は退散するとしようかのぅ」
わざとらしく怯えて見せたクソ天狗はそのままどっかに飛んでいった。一々からかいやがって…面倒なジジイだぜ。
「まぁだ喧嘩を売っとるのか、ジゴロウよ」
「んだ、ジジイ。アンタも説教か?」
今度はこっちのジジイが来たか。源十郎は意気投合した妖怪共と一緒に狩りへ行ってた。今俺達が食ってるメシも、ジジイ達が獲ってきたモノだ。何でもデカイ鼠やら虫やららしいが、どうせゲーム内のメシは味気ねェ。満腹度が回復すんなら何だっていいわ。
「そうではない。高い壁を越えようとする気概は、未だに儂にもあるわい。いやはや、己がまだ枯れておらなんだ事に、儂自身が一番驚いておるよ」
「おいおい、年寄りの冷や水って奴じゃねェの?いや、アバターなら年は関係ねェか」
何だかんだで源十郎もクソ天狗と戦ってみてェらしい。けど、アレを最初にぶっ倒す権利ってのは誰にも譲らねェがな!
「そういうことじゃ。それより、イザーム君にもルビー達にも良き出会いがあったようじゃな」
「ああ、新しいクランメンバーって奴か?いいんじゃねェの?アイツらなら変な野郎を身内に入れやしねェだろ」
イザームは突拍子も無い事をやったりするし、時々ガキ臭ェ事を言い出すこともある。だが、俺は奴を結構信頼してる。戦い方は真逆だが、何故か馬が合うからなァ。いや、むしろ逆だからこそ仲良くやれてんのかね?
「儂も疑ってはおらん。そうではなく、ルビー達の方じゃ。さっきSNSを確認した時、あの子達の会った者達に聞き覚えがあったのじゃよ」
「あん?有名なプレイヤーだってのか?」
「その通りじゃ。お主とも少なからず因縁のある相手でもある」
「因縁?」
なんのこっちゃ?因縁っつたら、俺がイザームと一緒にぶっ殺したプレイヤーとかか?そんくらいしか思い浮かばねェよ。
「プレイヤーは二人でその名は羅雅亜と邯那。第一回闘技大会におけるコンビ部門の優勝者であり、お前さんが迷宮イベントで倒してPVになっておった、最初の騎兵プレイヤーじゃ」
◆◇◆◇◆◇
アクアリオ諸島の華国を一言で言い表すなら、中華っぽい雰囲気の国です。道行く人々は中国人っぽい服を着ていますし、建造物の意匠もそんな感じです。三國志とか水滸伝とかの世界観をごちゃ混ぜにした、って言うのが良いのでしょうか?
「はぁぁ…堂々と街中を歩けるって、いいものですね」
「そうだねぇ。バーディパーチも街っちゃあ街だけど、あそこには人類が一人もいないしね」
そんな街の大通りを私たちは堂々と歩いています。この華国という国は、幾つかの簡単な質問に答えられる知性を見せればどんな種族でも街に入る事が出来るのです。…最初の街がここだったら魔物のプレイヤーももっと多かったでしょうに。
「あらあら、魔物のプレイヤーが苦労してるっていうのは本当だったのね」
「そうみたいだね、邯那」
私とルビーの苦労を滲ませる言葉に苦笑を返すのは、私達がこの国に来て出会った二人のプレイヤー。魔馬の羅雅亜さんと人間の邯那さんです。なんとお二人は闘技大会の優勝者だとか。凄いプレイヤーってことですね。
お二人はリアルでは夫婦で、一緒にプレイしておられます。何でも邯那さんの趣味が乗馬なんですが、仕事が忙しくてその時間が中々取れず、『だったら仮想世界で乗馬すればいいじゃない』と考えてここにいるんだとか。
旦那さんである羅雅亜さんは、最初は妻である邯那さんのためにゲームを始めたのですが、今ではすっかりハマっているようです。人間では決して出せない速度で駆けるのが快感になりつつある、と言っていました。
「しーちゃんは『蒼月の試練』のための最終確認があるから仕方ないけど…それで、あのクエストはどうするの?」
私たちと一緒に来たシオは、『蒼月の試練』に挑むための準備を、一緒に挑む鳥人達と整えているところです。種族レベルを上げすぎると挑戦権を失うので、魔物を倒すのではなく、訓練所でひたすら能力のレベルを上げています。よく使う能力なんて、もう種族レベルを大幅に超えていますね。
というか、それだけの能力レベルとシオの腕前があれば、単独で攻略することも出来るのでは…?源十郎とルビーにおんぶに抱っこだった私とは大違いです。
それはともあれ、私とルビーは街中で偶然ばったりと羅雅亜さんと出会うとすぐに意気投合。それからは一緒にブラブラしていたのですが、突然現地のNPCに呼び出されました。それも社会的地位のありそうな方に、です。
最初は有名人である邯那さん達が目当てだと思っていましたが、何故か用があるのは私とルビーでした。どうして私達に?と思いつつもせっかくのクエストフラグっぽいものを無視するのも勿体ありません。私もゲーマーの端くれですから。
その方の要件とは『天の憐憫』という討伐クエストでした。そしてその時に一緒にいたお二人も受けています。二人ずつの二パーティーでのクエストですね。
「全力で事にあたるわ!」
「前金を含めて全財産を使っちゃっているからね。失敗したら目も当てられないよ」
クエストに挑む前に、依頼者は戦う相手についての情報をいくつか教わりました。それと同時に、大金を前金として全員が貰ったのですが、それを邯那さんはもう全て使ってしまったのです。
「ああ~…やっぱりカッコいいわ…方天戟って」
お金を全て注ぎ込んで購入したもの。それは邯那さんがうっとりとしながら今も擦っている、方天戟という武器でした。それも華国で一番の鍛治職人が魂を込めて造り出した業物です。少なくとも、今の私では同じものを造ることは出来ません。でもいつかは造れるようになりたいですね!
「聞いてないか。まあ、そもそも妻は戟とかが使いたくてハルバードを担いでたくらいだからね。長柄武器が大好きなのさ」
「長い武器は馬上戦闘にうって付けですし、趣味が噛み合ったってことでしょうか?」
「その通り。しかも扱うのが妙に上手だろう?だからあれよあれよと言う間に有名プレイヤーの仲間入りさ」
羅雅亜さんは心底疲れたようにそう言いました。どうやら闘技大会の一部門で優勝した後、色々なパーティーから執拗に勧誘され、クランシステムが解禁されてからはそれが更に酷くなったようなのです。
その結果、二人は他のプレイヤーがいない場所を求めていち早く大陸を離れたと言っていました。邯那さんは純粋に乗馬を楽しんでいただけのようですが、羅雅亜さんは面倒なしがらみから逃れる為に努力していたのです。
「そもそも、僕が魔物化してしまったせいで妻はあの大陸で活動し続けるのは難しかっただろうね。それもあって、クラン入りの件ではアイリスさん達には感謝しきれないよ」
だからお二人、というか特に羅雅亜さんにとって、私たち『夜行衆』はとても都合がいいのです。人外のみで構成された、現在では唯一の拠点がルクスレシア大陸の外にあるクラン。プレイヤー同士のいざこざからは隔離された組織ですから、気兼ねする必要もありません。
それに鬱陶しい勧誘も、『もうクランに入っている』というのが断る口実にもなります。羅雅亜さんは結構強かな方のようですね。
「いえいえ!まだ確定ではありませんし!」
「けど大丈夫だと思うよ?ジゴロウとお祖父ちゃんは強い人なら歓迎だろうし、イザームはあれでもお人好しだから」
私は断言を出来ませんが、内心ではルビーと同じ考えです。三人ともクラン加入を嫌がる事は無いでしょう。兎に角戦いたい二人と、面白そうな事には必ず首を突っ込みたくなるリーダーですから。
「ははは、それは頼もしい。『北の山の悪夢』と『銀仮面』の仲間になれる訳だしね。では、頑張るとしようか。化け蛇退治を、さ」
大天狗の爺さんは実質的なトップ。といことは…?
女子三人と出会ったのは有名人のお二人。しれっと戦力増強していきます。
次回は12月8日に投稿予定です。




