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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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森の西へ

 ところで、先程の戦闘で新たに習得した武技や魔術についておさらいしておこうと思う。色々あってちゃんと説明文すら読めていないからな。


 【鎌術】の五連斬、【虚無魔術】の物品破壊(ブレイクオブジェクト)、【召喚術】の三段階進化と従魔召喚、【付与術】の過剰強化(オーバーブースト)、そして【魔法陣】の大魔法陣だ。順に見ていこう。


 【鎌術】の五連斬はその名の通りに五回連続で斬りかかる武技だ。ぶっちゃけ三連斬の強化版である。三連斬と同じく斬る時の向きは無理の無い範囲で変える事が出来る。オーソドックスかつ使いやすそうな技だ。


 【虚無魔術】の物品破壊(ブレイクオブジェクト)分解(ディスアセンブリ)の効果を限定的にした術だ。分解(ディスアセンブリ)があらゆる物を消滅させるのに対し、此方はプレイヤーアバター、武器、防具、装飾品()()のあらゆるアイテムをバラバラに破壊するのである。


 分解(ディスアセンブリ)と違って術者の杖や四肢を傷付ける心配が無いので使いやすくはある。だが、使い所がわからん。用途の目途が立つまでは使うことはなさそうだ。


 【召喚術】の三段階進化と従魔召喚は二つともお世話になりそうだ。まず三段階進化だが、これはそのままの意味だな。三段階進化した魔物、即ちレベル30以上の下僕を召喚出来るようになった。これでより硬い壁が使えるようになった事になる。命令に絶対従う使い捨ての駒ほど便利なものは無い。逃げる時の殿や坑道のカナリアとしても使えるからな。


 もう一つの従魔召喚は自分の従魔、私ならカルを好きなときに召喚出来る術だ。つまり、今は別行動中のカルを即座に呼ぼうと思えば呼べるということ。…奥の手だな、これは。少なくともイベント中は本当に追い詰められない限りは温存しておこう。


 【付与術】の過剰強化(オーバーブースト)はより強力なステータス付与が行えるようになった代わりに、効果が切れた時に強化したステータスが一時的に下がってしまう術だ。短期決戦やエリアボス戦の最終局面で使うのがいい…のか?少なくとも連戦になるときは使わないのが吉だろう。


 そして【魔法陣】の大魔法陣だが、これが今回の目玉かもしれない。これは純粋な魔法陣の強化バージョンだ。一つしか展開出来ない上に展開してから発動するまでタイムラグが発生するが、その代わりに威力は絶大だ。単純計算で十倍になるらしい。


 私は自分の目を疑ったよ、うん。星魔陣を二回使うようなものだからね。しかも呪文調整をすれば威力は更に上昇する。それを考えればタイムラグなど安いものだ。使い所さえ間違えなければ大抵の敵は火力で圧倒出来るだろう。


「…ここいらの魔物は大体片付いたか」


 私は魔力探知(マジックエコー)を使って周囲を索敵してからそう呟いた。エイジ達と合流した後、我々は二パーティーで連合(ユニオン)を組んで協力しながら周辺の魔物を狩り続けている。当然、来るべき戦いに向けての経験値稼ぎだ。


 この連合(ユニオン)とは、複数のパーティーを一つの大きな集団とするシステムだ。一人当たりの経験値量は下がるが、人数が増えることで戦力と安全性が増す。ちなみに五パーティーで最大三十人までが連合(ユニオン)で、それを超えた場合は軍団(レギオン)と呼称が変わる。


 ゲームを始めた時期的なこともあって、私以外の全員がレベル20にも満たないのは流石に問題だ。最低でも全員が一度は進化出来るように、格上の魔物を狙って狩り続けている。連合(ユニオン)を組んでいるのだが、彼らのレベルはここの適正レベルよりも少し低めなのでそれでも大量の経験値が入っているのは嬉しい誤算だな。


 ちなみに私は経験値効率のためにも必要最小限の援護しかしていない。【召喚術】で産み出した骸骨盾戦士(スケルトンシールダー)、が更に進化した骸骨守護戦士(スケルトンガードナー)で前衛の手助けをしているだけである。それでもレベル的にエイジ以上の鉄壁を誇る盾であるのは変わらない。狩りそのものの効率は相当上がっているので、私達が合流するまでよりもサクサクとより強い敵を倒せているようだ。


「い、一度の戦闘毎にレベルが上がってる…!」

「ぼく達だけだと絶対勝てない相手ばっかりだからねー」


 今も三匹の刃馴鹿(ブレイドナカイ)という魔物を始末した所だ。刃物のような切れ味の角を持つ魔物である。数の利を活かして倒したし、特筆すべき事は何も無かった。剥ぎ取りで入手した角は、形状と大きさからしてエイジの斧になりそうと思ったくらいか。


 ガンガン上がっていくレベルに戦慄する紫舟とのんびりした調子を崩さないウールがそんな事を話している。既に二人は一度進化しており、紫舟は大殺蜘蛛ビッグキラースパイダーに、ウールは眠羊(スリープシープ)になっていた。


 大殺蜘蛛ビッグキラースパイダー大蜘蛛(ビッグスパイダー)から大きさはほぼ同じだが、全部のステータスが満遍なく向上している。スピードとパワーを兼ね備えた優秀な物理アタッカーとなるだろう。


 眠羊(スリープシープ)は敵を眠らせる事に特化した魔物である。鳴き声や角での攻撃によって睡眠の状態異常を引き起こす事が可能なのだ。しかもフワフワの羊毛のお陰で物理・魔術の両方に高い耐性を持つ。ただし物理攻撃力は低いので、鳴き声で敵を眠らせつつ魔術で攻撃するのが主な戦い方だ。


「フィルとテスの進化も順調だ」


 セイの従魔である狼のフィルと妖精のテスは、それぞれ大狼(グレーウルフ)光妖精(ライトピクシー)に進化している。前者はファース近郊の草原でフィールドボスをやっている魔物で、後者は光属性に優れた妖精だな。


「おおっ!僕も進化出来ますよ!」

「アタシもね。やっぱ後衛がいると早いわ」


 そして我々の中でも私に次ぐレベルだったエイジと兎路もレベルアップし、ついにレベル20に到達したようだ。二人の身体が白く光って変化していく。さて、二人はどんな種族(レイス)になるのかな?


豚頭戦鬼(オークウォリアー)、になりました!」

屍食剣鬼(グーラサイフ)…?サイフって剣のことかしらね?」


 豚頭戦鬼(オークウォリアー)屍食剣鬼(グーラサイフ)。それぞれ順当に進化の階段を登ったようだな。豚頭戦鬼(オークウォリアー)はより戦闘に最適化された豚頭鬼(オーク)と言うべきだろう。これまでも十分太かった腕は更に盛り上がり、全体的に大きくなったように見える。エイジの感覚でも筋力や防御力は随分と向上したらしい。


 ただし、魔術に関する能力(スキル)にはマイナス補正がかかるようだ。身近な例を上げるなら源十郎に似ているな。


「これで召喚された骸骨に少しでも追い付けますよ!」


 おや、どうやらエイジは魔術で作り出した魔物に防御力で劣っている事を気にしていたらしい。レベル差がある上、防御に極振りした魔物なのだから硬くて当然なのだが…この辺は理屈じゃないか。


「おぉ~。身体が軽いわ~」


 しかし、源十郎に似ているというのなら兎路の屍食剣鬼(グーラサイフ)の方がより近いだろう。この種族(レイス)は剣に特化した屍食鬼(グーラ)が至るようだ。別の選択肢もあったらしいが、どうやら彼女は将来的に魔術を使えるようになりたいからこれを選んだのだとか。


 というのも、屍食剣鬼(グーラサイフ)という種族(レイス)は剣以外の武器に補正が掛からなくなるが、引き替えに魔術へのマイナス補正が無い前衛職らしい。今も舞うように剣の素振りする彼女がどんな魔術戦士になるのか楽しみである。


「次は俺らやな、モッさん!」

「ええ。どんどんレベルを上げましょう」


 七甲とモッさんもあと少しということもあってノリノリだ。やっぱりレベルアップで進化するというのは一種のモチベーションになる。人類プレイヤーと違って目に見える形なのがいいな。バーディパーチやエイジと兎路が滞在している豚頭鬼(オーク)の都市国家のような魔物の集落に行けば装備も手に入るし、人類との差は余り無いと言えるだろう。


 そもそもその場所に行かねばどうにもならないし、種族(レイス)によって向き不向きがハッキリしているのは好みが別れそうだが。それに種族(レイス)によっては武器や防具が意味を成さないのも辛いところだ。武具を新調するのはやはりワクワクするからなぁ。


「大体狩っちゃったなら移動しなきゃね~。次は何処に行くんだい?」


 しいたけはそんなことを聞いてくる。なので私は考えを纏めながら口を開いた。


「北は『仮面戦団(ペルソナ)』の連中が狩りをしているだろうから行くのはよそう。南は砦があるはずだから今は避けるべき。となれば…西にしよう。これ以上駒を磨り減らす必要も無い」


 これまで我々が戦ったのはレベル20強の虫系と獣系の魔物か、小隊を組んだ鬼系の魔物だ。恐らくは鬼系の魔物が北から南下している集団なのだろう。


 我々はこいつらを作戦の一環として利用するつもりである。自分たちの良い経験値源なのだが削り過ぎるのも問題だ。そこで一旦奴らと距離を取るのである。ここにいる者達が南下する軍団の西の端である事は既に七甲とモッさん、そして私による空からの偵察で確認済みだ。


「わかった。じゃあ俺達は少し先行してみる」

「助かるよ」


 そう言うとセイと彼の従魔が森の西側へと消えていく。樹上と地上から敵を探す彼らの索敵能力は高い。獣の嗅覚と視力はやはり侮れんな。それに万が一地上の従魔が奇襲されても、樹上にいるセイが即座に奇襲で逆襲出来るのもいい。


 少なくとも、今までは問題が無かった。だから油断してしまったのだろう。この森はセイ達にとっては厳しい場所だと知っていたはずなのに。


「えっ?うわあああああ!?」


 しかし、彼らを見送ってすぐにセイの悲鳴が聞こえてきた。それと同時に彼の従魔の吠える声も聞こえてくる。我々は互いに顔を見合わせると、即座に声のした方に駆け出した。


「助けに来たでっ!」

「おりゃあああ!」


 我々の中で森の中を最も素早く移動出来るのは空を飛べる七甲とモッさんだ。私も飛べるが、種族(レイス)として最初から飛べる二人には劣る。次点で起伏の多い地形でも関係なく走れる紫舟、その後ろに兎路が続き、最下位争いをエイジとウールがしていた。


「硬っ!?なんやこいつ!?」

「牙も爪も通りませんね…!」


 一体何がいたというのか。二人に続いて現場にたどり着いた私が見たのは、人間程の大きさを誇る一匹のカミキリムシだった。そいつは前肢と体重を使ってセイを押し倒したまま、その顎で彼の首を咬み斬ろうとしているところであった。


「魔法陣遠隔起動、呪文調整、闇腕(ダークアーム)!」

「キシャアアアッ!?」


 甲虫特有の硬い外骨格で七甲とモッさんの攻撃を防いでいたその魔物であったが、私の巨大な闇腕(ダークアーム)によって後ろから掴み上げられてしまう。こうすればどうすることも出来まい!


 案の定、奴は少年に捕まった普通の虫のように六本ある節足をバタバタと動かすが、全て虚しく空を切るだけである。これだけで動けなくなる辺り、やはりレベルは大して高くなさそうだ。


「やってくれたな!お返しだ!」

「シシャァァッ!?」


 危うく殺されかけたセイは、怒りのままに取り落としていた棒を引ったくるように装備し直すと、全力でカミキリムシの頭部に振り下ろす。カミキリムシは声にならない悲鳴を上げるが、セイは意にも介さずに頭部を殴り続ける。


 一発一発は大したダメージが出ていないようだったが、私が捕まえている限りは何時までも殴り続ける事が可能だ。何度も何度も殴ることでジワジワと体力ゲージが減っていき、一分程で仕留める事が出来た。


「はぁ、はぁ…あー、ビビった!」

「無事で何よりだが、謝らせて欲しい。こうなる可能性を考えていなかった私のミスだ」


 私は判断を誤った事を素直に謝罪した。死亡可能回数が一回であるのに、無為にその一回を消費させてしまうところだったのだ。一言くらいは嫌みを言われても仕方ないと思っていたのだが、セイは軽く首を振るだけだった。


「別にいいよ、このくらい。奇襲を食らった俺が間抜けだっただけだし。それより、この辺はデカい虫の巣窟ってことかな?」


 セイは死体となったカミキリムシを棒でツンツンと突きながらそう言った。私がエイジ達を発見した時、彼らが戦っていたのは確かに巨大なカマキリだったっけ。


「一匹しか見つけて無いんだし、判断するのは早計じゃね?」

「そうだな。じゃあここからは警戒をより高めて行くとするか」


 判断材料に欠けるのだし、しいたけの言う通りか。何にせよ我々が鍛えるのに丁度良い強さであればそれでいい。ついでに興味深いアイテムを落としてくれれば言うことなしだ。


 そんなお気楽な事を考えながら我々は針葉樹林の奥へと進んで行くのだった。

 エイジと兎路が進化しましたね。エイジはガチガチの盾職、兎路は魔法剣士的なキャラになる予定です。


 次回は10月29日に投稿予定です。

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