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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
115/688

取り引き

――――――――――


【鎌術】レベルが上昇しました。

【鎌術】の武技、五連斬を修得しました。

【魔力精密制御】レベルが上昇しました。

【虚無魔術】レベルが上昇しました。

新たに物品破壊(ブレイクオブジェクト)の呪文を習得しました。

【召喚術】レベルが上昇しました。

新たに三段階進化、従魔召喚の呪文を習得しました。

【付与術】レベルが上昇しました。

新たに過剰強化(オーバーブースト)の呪文を習得しました。

【魔法陣】レベルが上昇しました。

新たに大魔法陣の呪文を習得しました。


――――――――――


 ウスバとの戦いは決着が着かなかったので種族(レイス)職業(ジョブ)のレベルは上がらなかった。だが中々の密度であったことも相まって、能力(スキル)に関しては多くの経験値を得られた。


 色々と出来ることが増えた訳だが、その確認は後回しだ。今は共に行動している『仮面戦団(ペルソナ)』の者達の事を整理しよう。


 PKクラン、『仮面戦団(ペルソナ)』。クラン名に違わず、全員が何らかの仮面を被っている。服装も多少の違いはあってもほぼ統一されており、かなり結束の強い者達と言えるだろう。


 彼らの目的は単純明快。強者と戦い、殺し、奪う事を楽しむ。それだけである。その中で最も重要視されているのは獲物の『強さ』である。彼らは常に最前線で戦う攻略組を相手に、しかも相手が狩場へ行く前の、つまり万全の状態の時に襲い掛かるのだ。しかも単独で。


 もちろん襲撃の成功率は決して高くないし、その時も奇襲や毒物の使用など何でもアリで殺しにかかるのだが、特徴的なのは彼らのモットーが『殺るか殺られるか』である点だ。彼らは死ぬまで戦うのを止めようとはしない。死ぬその瞬間まで、戦う事を楽しんでいるのだ。ある意味、ジゴロウや源十郎以上にイカレた連中である。


 PKクランの中では最も人数が少ないが、同時に最も強力なクランでもあるそうな。なのでその界隈では加入希望者が非常に多いのだが、その条件が異常に厳しい。それは『蒼月の試練』の単独攻略だ。


 それを聞いた時、私は目が点になってしまったよ。『蒼月の試練』の単独攻略だって?私もやったけどさ、取得していた魔術を総動員してやっと勝てた激戦だった。初めてマジで死にかけた戦いだったし、もう一度やれと言われて勝てる自信はあまり無い。


 そんな死線を潜り抜けたのが、六人。私とジゴロウもその条件をクリアしているし、源十郎もやろうと思えば出来ただろう。だが、生産職のアイリスは言わずもがなルビーとシオは少し怪しい。いや、シオなら行けるか?なんと言ってもVRSのプロ級なんだし。


 閑話休題。つまるところ、クランの総戦力は彼らの方が我々『夜行衆(ナイトウォーカー)』よりも彼らの方が上かもしれない。まあ、此方には劣龍(カル)というジョーカーがあるので何とも言えないが。


「…ここが、今のアジト」


 案内された場所は、地面を掘って作られた穴であった。何かの魔物の巣穴だったようだ。何故分かるかって?名称が『魔物の巣穴跡』であるからだよ!そのまんまだな!


 ここが彼らの初期地点らしい。我々はウスバを除いた五人に連れられてその中へ降りていく。首領であるウスバはどうしたのかというと、「気分を鎮めてきますね」と言って何処かに行ってしまったのだ。どこかジゴロウと似た雰囲気を感じるな。


「…ボスはすぐに帰ってくると思う。ちょっと待ってて」

「わかった。待たせてもらおう」


 我々は穴の深部で円座して奴が戻ってくるのを待つ事にした。するとここまで一切言葉を発しなかった七甲とモッさんが口を開いた。


「なあ、イザームさん。アンタ、ごっつ強かったんやなぁ」

「正直、ここまでとは思っていませんでした」


 私とウスバの戦いを見た感想がそれだったらしい。彼らは私の魔術を少しだけ見ているが、それは私と同等のレベルまで能力(スキル)を鍛えればいいだけの話だ。それは『私』という個人の実力とは言えない。


 だが、あの対人戦は私の実力と言える。魔術を使うタイミングや術の選択など、戦いの流れを作っていたのは私だからな。七甲なら【召喚術】の使い方が参考になっただろうし、モッさんであれば近接戦闘の参考程度にはなっただろう。


「俺達もあのくらい出来るようになれるかな?」


 セイが此方を見ながら尋ねてくる。なので私は正直に答えを返す。


「なれるさ。切磋琢磨する相手がいれば、な」


 私の技量は全てジゴロウと源十郎のスパルタ訓練の賜物だ。そしてあの二人と魔術も絡めて全力でやり合うならどうするのかを前々から考えてもいた。そのお陰でPKの頂点とも言えるプレイヤーと引き分ける事が出来たのである。


「そうか…せやったら、イザームさん。俺らもアンタのクランに入れてくれんか?」

「さっきの戦い…あんな風に戦えるようになりたいですからね!」

「俺もだ!」


 おおお、そんなに感じ入ってくれるとは。ウスバとの戦いも無駄では無かったようだ。


「私個人としては歓迎だ。彼らも受け入れてくれるだろうが…やはり独断で決めるのは、な。仲間達に確認する必要がある。だからイベントが終わるまでは保留にさせてくれ」

「あー、そらそうか。ええで。待たしてもらいますわ」

「右に同じく」

「ああ、わかった」


 三人とも、聞き分けがいいな。社会人っぽい七甲とモッさんはともかく、学生っぽいセイも同じであったのは少し驚いた。最近の子は賢いなぁ。


「さっきから気になってたんだがよ、アンタらって同じクランじゃねぇのか?」


 『仮面戦団(ペルソナ)』の中で二番目に体格が大きく、獅子の仮面を被った男が尋ねてくる。それに対して私は首肯した。


「今はな。というか、この作戦のために集まった私以外のメンバーは君たちを除けば全員クラン未所属だぞ」

「おいおい、マジかよ!」

「おいおい兄さん、むしろ魔物のプレイヤーでクラン組んどる奴の方が少数派やで。この国は魔物に厳しいからなぁ」


 その根本的な理由は魔物を街中に入れてくれないことだ。人類プレイヤーのように街にある自然と人が集まるギルド等に行くことが出来ないので、必然的に出会いが限られるのである。


「ふ~ん。でもキミ、作戦には自信があるっぽいねぇ?」


 そう言って探りを入れてくるのはハートマークが入った仮面の女性だった。顔はわからないが声からして私と同世代だろうか?


「ああ、勝算は十分にある。ただ、最初は私の命をチップにした賭けに出る予定だった。君たちが参加してくれれば成功率は跳ね上がるハズだ」

「何ソレ~ウケるんですけど~」

「な、中々ぶっ飛んだお方みたいですね」


 本当に面白いと思っているのか不明な女性とは対照的に、若干引いているように見えるのは狐のお面を被った少年だ。何となくだが、彼が『仮面戦団(ペルソナ)』の常識人枠である気がする。


「…」


 そして今まで一度も言葉を発しないプロレスラーっぽい仮面…というよりマスクを被った無口な巨漢。彼らが『仮面戦団(ペルソナ)』の構成メンバーであるようだ。


「それにしてもよぉ、あのボスをあれだけハイテンションに出来る魔術師がいるたぁな。世界は広いぜ」

「魔術戦士のプレイヤーは結構多いし、そこそこ強いのもいましたけどね」

「そ~よね~。だってこの人、武技のバリエーションがとっても少ないもん。絶対純魔の職業(ジョブ)構成よ~」


 ハートの彼女が言っているのは、【剣術】や【槍術】には剣士や槍士などその武器を専門に扱う職業(ジョブ)に就いているのが条件の武技の話だ。


 純粋な剣士や槍士なら物理一辺倒の武技が、魔術も絡める魔術戦士なら魔術ダメージを内包した武技が追加される。色々と便利な武技が多いのに一切使わずに戦っていたから、私に魔術戦士系の職業(ジョブ)は無いと察したのだろう。


 最初から最後まで見物していた訳でもないのに、戦い方を見るだけで大体の職業(ジョブ)まで見抜かれてしまった。これだからプレイヤー相手に全力は出せないのだ。一つだけ神官系の職業(ジョブ)もある事は伝えないでおこう。


「それにしても、イザームさんは一体幾つの魔術系能力(スキル)を持ってるんです?いや、無理に聞き出すつもりはありませんけど」

「ふむ、明言は避けさせてもらうが…私はおそらく、全プレイヤーで最も数多くの魔術を使えると言っておこう」


 ここにいる面々がどう取るかは別として、私の予想は恐らく正しい。現状で知られている魔術で私が使えないのは【治癒術】と【探索魔術】だけだ。きっとまだまだ隠し要素があるとは思うが、現時点で私が最多であるのは自惚れでは無いと思う。


「ほほう、それは興味深いですね」


 うわっ!ウスバじゃないか!いつの間に戻ってきたんだ?


「…気配を消さないでくれ。心臓に悪い」

「おや?心臓があるのですか?」


 そう言うことじゃないだろう!…と怒鳴ったところで茶化されて終わる気がする。なのでさっさと本題に入るとしよう。


「全員揃ったところで、今から我々の計画の概要を説明する。問題があれば忌憚無い意見を聞かせてくれ」



◆◇◆◇◆◇



 結論から言えば、『仮面戦団(ペルソナ)』の協力を取り付ける事には成功した。私がやろうと思っていた役回りは彼らの得意分野であったらしい。これで作戦の成功率は格段に上がったハズである。


「では、私達は他のメンバーと合流する」

「ウフフフフ。襲撃の時にお会いしましょう」


 一点を除けば彼らも乗り気だったので、交渉したスムーズに進んだ。ついでに全員とフレンド登録した。なので私はPKクランと繋がりを持った事になる。確実に大多数のプレイヤーに疎まれる立場に立った訳だな!


 そしてここからは別行動だ。我々は他の仲間と合流すべく移動を開始し、『仮面戦団(ペルソナ)』の面々は作戦の邪魔になりかねない不確定要素を根絶やしにする。つまり、他のPKを狩りに行くのだ。邪魔されてはかなわんし、利益を横から掠め取られるのも癪だし。なのでここで一時解散、というわけだ。


「それと例の件、お忘れなく」

「…わかっているさ」


 だが、その一点に関して彼らは強硬に反対した。それが自分達のポリシーに反するかららしい。説得したところ、彼らは一つだけ条件を出してきた。


 それは彼らに私の知る腕利きプレイヤー、即ちジゴロウや源十郎と戦う機会を設けることだ。これは事後承諾になるし勝手に約束するなと言われる可能性は確かにある。だが、問題は無いと思う。むしろ対戦相手に飢えていた二人は感謝してくるかもしれない。


 対人戦に熱心な者の気持ちはわからんが、私が『少なくともしっかりと準備しなければ絶対に勝てない』と言った時に全員がワクワクしていたので相当嬉しいのかもしれない。…やっぱり怒られるかもしれんな。


「そうそう、イザームさんにお渡ししたいものがあるのですが」

「何?」


 エイジ達と合流に戻ろうとする私達だったが、ウスバが私を呼び止める。渡したいものだと?…ふむ。


「皆、少しだけ待っていてくれ」


 私は七甲達に断りをいれると、ウスバの下へ早歩きで近寄る。さて、何を言い出す事やら…


「さっき狩って来た小物のドロップです。お納め下さい」

「…どういうつもりだ?」


 最大限警戒していたのに、奴が見せたのは様々なアイテムだった。武器から消耗品まで多種多様である。PKであるウスバが決してお人好しではなく、むしろ腹黒いと言っても過言ではない事を私は察している。そんな男が純粋な好意でプレゼントなどする訳がない!


「楽しい時間を過ごせたこと、そして楽しそうな計画を持ち込んでいただけたことへのお礼ですよ」

「本当にそれだけか?」

「ウフフフフ。実は一つだけお聞きしたい事が」


 やっぱりか。さて、何を聞きたいのかな?私は無言で顎をしゃくって質問を促した。


「その仮面の下の素顔を見てもいいですか?」


 素顔、ねぇ?コイツ、絶対に【鑑定】を持ってるよなぁ。それだと私の【偽装】している種族(レイス)を見破られてしまいそうだ。いや、十中八九知られてしまうだろう。


 どう考えてもまともではない進化を遂げた私の種族(レイス)を教えるのは仲間内だけにしておきたい。しかし…よし。


「…絶対に他言しないと誓えるか?お前の仲間にも、だ」

「いいでしょう。彼らも私に秘密の一つや二つあるでしょうし」

「それなら…ほれ」


 私は『髑髏の仮面』を外してウスバだけに素顔を見せる。三つの眼窩と牙の生え揃った黒い骸骨の頭部が久々に曝された。クランの持ち物である家以外で仮面を外すのは私にとってとても珍しい事だからな。


「公開してもいいと思える時が来るまでクランメンバー以外には教えないつもりだったがね。手を組む相手の首領には見せておこうと思ってな」

「ウフフ…ウフフフフフフ!面白い!本当に期待を裏切りませんねぇ、貴方という人は!いいでしょう、この度は全身全霊を以て貴方の手足として働かせていただきますよ」


 そう言ってウスバは踵を返して洞穴に戻っていく。それを見送った私は仮面を被り直し、七甲達の下へと戻るのだった。

 特定の職業限定の武技があるからこそ、バランスがとれているという設定。相手の出方で大体の職業を見破るのは、対人勢の基本スキル。河を見て他家の当たり牌を予測する、みたいな感じですかね。(例として分かりにくいかも?)


 次回は10月25日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう上から目線の人、嫌いだわ
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