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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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一騎討ち

 私は魔術を使う余力を残すべく、あえて【付与術】を使わずに召喚した。だが、強化方法はまだ残っている。


不死強化(アンデッドブースト)!」

「「「「カタカタカタカタ!!!」」」」


 私の召喚した動く骸骨(スケルトン)達は強化された喜びを表すように歯を打ち鳴らしている。見る者によってはこれだけでも恐ろしい光景かもしれないな。


「【深淵のオーラ】、【死と混沌の魔眼】発動。行け」


 加えて私は様々な状態異常を引き起こす【深淵のオーラ】を解放し、更に深淵系魔術に掛かりやすくなる【死と混沌の魔眼】をも発動。身体からは黒い靄のようなものが垂れ流され、三つある眼窩には赤い光が灯った。


 同時に私は骸骨剣士(スケルトンソードマン)達に攻撃するように命令を下す。ウスバのレベルは恐らく私と大差ないだろう。なので骸骨剣士(スケルトンソードマン)では雑魚同然。それでも二対一且つ私の援護があるならば、どうだ?


「「カタカタカタ!」」

「…触れるのは不味そうですね。ではチクチクと攻めましょう」


 ウスバは骸骨剣士(スケルトンソードマン)の斬撃を躱しつつ、私に向かって一本のナイフを投擲した。それは中々の速度であったが、私の前に出た骸骨盾戦士(スケルトンシールダー)の盾に弾かれる。


「星魔陣遠隔起動、茨鞭(ソーンウィップ)


 私は骸骨剣士(スケルトンソードマン)の猛攻を涼しい顔で避け続けるウスバの足に巻き付くように茨鞭(ソーンウィップ)を発動させる。大して期待はしていないが。


「甘いですよ」

「やはりな。では星魔陣遠隔起動、暗黒糸(ブラックスレッド)


 ウスバは身を屈めながらいつの間にか両手に握っていた二本の短剣で茨を切り払う。だが、そんなものでどうにかなるとは私も思っていない。次の一手として本命でもある【暗黒魔術】によって拘束を狙った。


「ふふふ。魔術ではダメですよ?」

「何っ!?」


 驚いた事に、ウスバは迫る魔術の糸を短剣で切り裂いてしまった。魔術を切る剣だと!?そんなものがあるとは…!


「これがある限り、魔術師では私に勝てませんよ」

「それはどうかな?…退け!星魔陣起動、呪文調整、溶弾(ラーヴァブレッド)


 魔術を切る、というのなら対処出来ない数で攻めればいい。私は下僕に一歩距離を取らせると、ウスバに向かって溶散弾(ラーヴァブレッド)を放つ。


「それなら避ければいいだけですね?」


 マグマで出来た弾を五発叩き込んだというのに、ウスバはその隙間を縫う様に動いてこれを躱す。自信満々なだけの事はあるな。


 だが、お前だけが機敏に動けると思ったら大きな間違いだ。私が今まで、何回ジゴロウと源十郎(バトルジャンキー)の二人と手合わせをさせられて来たと思っている?


「ふん!呪文調整、酸霧(アシッドミスト)

「くっ!?」


 私は奴の頭部を包み込むような狭い範囲にだけ、【煙霧魔術】の酸霧(アシッドミスト)を使う。あってよかった呪文調整!


「子供騙しを…!?」

「爆ぜろ」


 視界を遮れたのは一瞬だ。だが、その一瞬が欲しかったのだ。私は突撃させた下僕を自爆させる。大量の骨が周囲に撒き散らされた。私は骸骨盾戦士(スケルトンシールダー)の背後に隠れているから大丈夫だが、至近距離で食らったウスバは無事では済むまい。


「…」


 しかし、倒してはいないだろう。そこまでの威力は無いハズだ。偶然骨が喉に突き刺さったなどのハプニングが起これば別なのだろうが、急所は重点的に守るだろうしな。


「ふふっ…うふふふふ!凄いですねぇ、私に傷を付けるなんて!クランメンバーを除けば数人…それも単体の魔術師では初めてですよ!」

「それは光栄だ。だが、誉めるのか自慢するのか片方にしてほしいね」


 こっちとしては私を誉めるというよりも、自分と仲間は強いと言ってるようにしか聞こえないぞ?


「いえいえ、本心から称賛しているのですよ。これは思った以上に楽しめそうですから…ね!」

「む!?」


 ウスバは両手に持っていた短剣を投擲する。すかさず骸骨盾戦士(スケルトンシールダー)が間に入った。盾によって弾かれ…ない!?突き刺さったぞ!?


 召喚した魔物が持つ武具は、レベル相応の性能しか無い。私の【召喚術】レベルは29。即ちレベル20から29までの二段階進化した魔物までしか呼び出せない。それ相応の武器というと、私の装備に比べれば遥かに劣る性能しか無いのだ。


 防御に特化した骸骨盾戦士(スケルトンシールダー)の盾であっても役不足であるらしい。やはりレベルが40オーバーの相手の攻撃から身を守るには荷が重かったか。


「ここからが本番ですよ?敏捷強化(アジリティブースト)器用強化デクスタリティブースト

「【付与術】だと?」


 いつの間にか先端から柄頭まで黒い直剣を握っていた。装飾と言えるものは一切無い武骨な剣が、並みの性能ではないのは明らかだ。しかしそれよりも気になるのは、奴が魔術を使ってみせたことである。


 魔術を使うには、杖を始めとする触媒が必要だ。正確に言えば無くとも呪文は発動するのだが、威力はかなり減衰するし魔力の消費量も増えてしまう。なので魔術を使うのなら杖は必須とも言えるのだ。


 なのにウスバは全身から仄かな燐光が立ち上る程に強化されている。つまり、奴は杖以外の触媒を持っていることになる。あの剣がそうなのか、それとも指輪や首飾りなどがそうなのか。不明ではあるが、勝ったら聞き出してやろう。


「なら、私も切り札を幾つか切るとしよう。突撃しろ」

「カタカタ!」


 私は最後に残った下僕に命じると、素早く装備を変更する。取り出したるは愛用の鎌だ。そしてブックホルダーから『暗黒の書』を抜き取る。これも杖と同じく魔術の触媒なので、呪文を唱えられるのだ。


敏捷強化(アジリティブースト)敏捷強化(アジリティブースト)敏捷強化(アジリティブースト)器用強化デクスタリティブースト筋力強化(ストレングスブースト)

「肉壁、いえ骨壁にもなりませんよ?」

「いや、十分だ。解呪(ディスペル)、そして呪文調整、魔術妨害(マジックジャマー)!」

「!?」


 私の下僕は一太刀で盾を両断され、自爆することすら許されずに返す刀で砕かれた。だが、私は下僕が稼いだ時間を一瞬たりとも無駄にしてはいない。


 私は【付与術】で己を強化しつつ【呪術】でウスバの強化を解除。一発で成功したのは間違いなく【死と混沌の魔眼】のお陰だろう。


 そして魔術妨害(マジックジャマー)で再度の強化を封じた。魔術妨害(マジックジャマー)は魔術の発動を阻止するが、既に発動しているものをキャンセル出来る訳ではない。二度手間になるし【呪術】という切り札を一つ見せてしまったが、仕方があるまい。必要経費と割り切ろう。


 これでウスバは再度強化を施すことも、新たに魔術を使ってみせることも出来ない。同時に私も魔術を使えなくなった訳だが、それでいい。これも策の内なのだから。


 【錬金術】によって普通の骸骨大賢者(ハイリッチ)とは違う種族(レイス)へ至った私は、筋力や敏捷に関しても誤差の範囲とは言えステータスは高くなっている。それをガチガチに強化すれば、どうにか前衛職に対応出来るステータスまで持っていける。


「いくぞ!」

「うふふふふ!本当に面白い方ですねぇ!」


 私はブックホルダーに『暗黒の書』を戻して鎌を両手で握ると、ジゴロウや源十郎との組み手を思い出しながら突撃を敢行した。触媒から手を離したので魔術妨害(マジックジャマー)を保っていられないが、呪文調整によって効果時間を延ばしているので大きな問題ではない。


「ふっ!せいっ!ぬん!」

「おお、これは意外な…」


 私と斬り結ぶウスバは、私が思ったよりも動けることに驚いているようだな。そりゃあ幾度となくダメ出しを食らいながら鍛練を積んだのだ。最低限は動けないと悲しくなるわ!


「…おや?視界が震える?恐怖状態?」


 ようやく効いたか。それはきっと【深淵のオーラ】の効果だろう。魔眼の効果もあってか、恐怖の状態異常に陥らせる事が出来たらしい。


「で、す、が!」

「ぐっ!」

「このくらいなら修正は可能ですよ」


 しかし敵もさるもの、最強のPKクランのボスである。恐怖に歪む視界であっても臆さずに剣を振るってくる。決して有利になったとは言えないな!


 脚を止めて刃をぶつけ合っていた私達だったが、いくらドーピングしても私は魔術師。斬り合いで勝つのは土台不可能だ。斬り合いの最中に毒状態にもすることが出来たのだが、焼け石に水であった。対応出来ると言っても、対等な力には至れない。徐々に防戦一方となっていき、それでも受け流しで対応し続けたのだが…


「剛破撃!」

「がぁっ!」


 遂に一瞬の隙を付いたウスバの渾身の一撃をまともに鎌の柄で受けてしまう。武技を使用しているらしく、無理な体勢で放った一撃であるにもかかわらずかなり重たい。私は自分の身体が浮き上がるのを感じた。


 不味い!このままでは私は地面に背を着いてしまう!そうなればきっとウスバは二度と立たせてはくれないだろう。


「飛行!」

「ほう?」


 私は『月の羽衣』の効果によって空中に浮かぶ。どうにか生き延びる事が出来…


「うおぉぉっ!?」


 あ、あっぶねぇ!ウスバめ、何も言わずにナイフを投げて来やがった!これではいい的でしかないので、私は早々に着地した。


「素晴らしい。若干手加減しているとは言え、一対一で私がこんなに手子摺ったのは貴方が初めてですよ!」

「それは良かった、と言うべきか?だが、私は君よりも強い奴を知っているぞ」

「ほほぅ?それは是非とも紹介していただきたいですねぇ!」


 私の挑発はむしろ彼を歓喜させているらしい。ちっ、やはり戦闘狂(バトルジャンキー)は始末に負えん!これ以上長引くならもっと様々な手札を切る必要が出てくるが…どうする?


「…ボス、時間切れ」

「おやおや、みんな集まってしまいましたか。夢中になっていましたよ」


 私達の間に割り込んできたのは、猫仮面の少女こと茜だった。どうやらウスバの命令通り、仲間を召集してきたらしい。辺りを見回すとウスバや茜と似た黒ずくめに仮面を被った者達が集まっていた。


「いやぁ、ボスと正面から戦える奴が俺達以外にいるとはね」

「ホントよね~」

「しかも魔術師なんだろ?すっげぇな」

「あのローブ、カッコよくね?どこで手に入れたんだろ?プレイヤーメイドっぽいけど」

「…」


 仮面の集団はウスバと茜を合わせて六人なのか。我々と同じ少数クランであるようだな。


「さて、イザームさん。貴方は見事、私と制限時間まで戦ってみせました。よって話を聞かせていただきましょう」

「合格点は貰えたようで何よりだ」

「うふふふふ!まさかまさか、合格点どころか百点満点の答案で二百点の解答を見せられたような気分ですよ」


 ウスバは剣を納めると、芝居掛かった仕草で優雅に一礼してみせた。


「それではご案内いたしましょう。我が『仮面戦団(ペルソナ)』の本拠地へ」

 実はお互いに最後の切り札を隠した状態での勝負でした。ウスバが最初からソレを使っていればイザームは初見殺しで瞬殺されとります。


 イザームはイザームで尻尾やもう一対の腕、さらに秘蔵の魔術を使っていれば圧倒出来ました。そのせいで接戦になったのです。


 次回は10月21日に投稿予定です。

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