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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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イベントの方針とそれぞれの出会い

 こうしてパーティーが出来上がった訳だが、満場一致で私がリーダーを勤めることになった。理由は単純で、私が最もレベルが高いからだ。パーティー名は『イベントパーティー』。なんの捻りも無いが、わかりやすくていいだろう。


「こうしてパーティーを組んだのだから、全員の得意分野について確認しておこう。先ずは私だが、簡単に言えば魔術に特化している。既存の魔術はほぼ全て使えるぞ。近接攻撃手段が無い訳じゃないが、苦手ではあるな。その代わり、魔術の火力はそこそこ高いと自負している」


 嘘は言っていない。ただ、私は自分の手の内を隠しておきたいので、腕が四本ある事や尻尾の存在などを明かすつもりは今のところ無い。彼らを是非とも我がクランに誘いたいと思えた時に全てを教えるつもりではあるが。


「じゃあ、次はぼくですね。ぼくは見た目通り、タンクです。種族(レイス)的にスピードは無いけど、その分タフでパワーもある。危なくなったらとりあえずぼくの後ろに逃げて下さいね」


 エイジは巨大な盾を掲げ、でっぷりと前に出た腹を叩きながら笑う。さっきの戦いを見た私は、エイジ姿に『要塞』を彷彿とさせられた。仲間を守る鉄壁の壁として立ちはだかることとなるだろう。


「次はアタシだね。アタシは逆に機動力を活かして双剣でガンガン斬るスタイルよ。防御はペラペラだから、フレンドリーファイアは勘弁してね」


 エイジとコンビだった兎路‐どうやらウサジと読むらしい‐は、彼とは真逆の戦い方らしい。防具と言えそうなものは身に付けておらず、あるのは扇情的な布の服だけ。デザイン的にはベリーダンサーのような恰好、と言えば分かりやすいだろうか。何はともあれ、このパーティーにおける物理攻撃の主役は彼女である事は確定だな。


「わたしの番だね。わたしは錬金術師で能力(スキル)も生産系が多くてあんまり強くはないかな。けど、薬と毒はいくらでも作れるから少しは貢献出来ると思うよ~」


 兎路とはうってかわって、しいたけは能力(スキル)の大半が生産に偏っているらしい。一応、幾つかの魔術も覚えているようだが、私には威力が及ばないようだ。


 ただ、毒動茸ポイズンウォークマッシュルームという自分の身体を活かして、毒ならば様々な物を分泌出来ると言っている。それを飛ばして攻撃も出来るようなので、おんぶにだっことはならないだろう。


「次はワイやな。ワイはワイで【召喚術】に特化しとる。お仲間(カラス)を召喚して数の暴力で押し潰すんが基本やな。逃げる時とかは任せてや」


 七甲は【召喚術】で喚び出した下僕によって圧殺するのを得意としているようだ。本人曰く、敵は鳥葬されているようになるのだとか。被害者になりたくないものだ。


 あと彼の職業(ジョブ)である召喚術師は、【召喚術】を使った時のペナルティが軽減されると言う。レベルの差があるので今はまだ私の方が強い下僕を産み出せるだろうが、既に一度に召喚出来る数では負けているかもしれない。


「最後は僕ですか。僕は蝙蝠の牙と翼爪で出血状態にするのを得意としています。特に牙で攻撃した時は回復出来るので継戦能力は高い方かと。あと体毛や翼膜を使って臨時の盾役も出来ますし、蝙蝠らしく超音波を使った探知も可能です」


 器用貧乏ってことです、とモッさんは締め括った。本人はこう言っているものの、このパーティーでは索敵出来る人材が少ないのでかなり重要な立ち位置である。私と共にしっかりと探知に励むとしよう。


「各々の得意な事がわかったところで、皆に聞いておきたい。このイベントでやりたいことはあるか?」

「やりたいこと?ああ、あの天使が言ってたことだね?」


 私はしいたけに頷いて肯定する。何をしてもいいというイベントであるなら、パーティーでの目標を定めるのが先決だ。自由度が高いが故の、贅沢な選択である。


「うーん、僕は取り立ててやりたいことは無いですね。強いて言うなら戦ってレベルを上げたいです」

「ワイもそうやなぁ…あ、そや。それやったらワイでも使える武器を見つけるっちゅうのを目標にするわ」

「ならアタシは実用的で見た目もキレイなアクセサリーが欲しいかな」

「僕も武器か装飾品が欲しいですね。丸裸だと流石に貧弱ですし」


 ふむふむ、レベル上げと装備を充実させたいのだな。と言うことは魔物の軍勢に合流するのが効率的か?プレイヤーと戦ってレベルを上げつつ、略奪して武装を整えられるし。


「うへぇ、マジで?わたしは錬金の素材集めを…ん?あー、街なら高性能な錬金術の資料とか器具とかありそうだよねぇ…?」


 おや?乗り気ではなさそうだったしいたけだが、街を襲撃した時の利益を考慮して悩み始めた。


 ほうほう。思ったよりも彼らにはプレイヤーを殺す事への忌避感は無いらしい。流石は自分の分身であるアバターを人外、それも魔物に設定したプレイヤーだ。


「そうか。では、私から提案がある。皆の…そう、全員の要望を叶える欲張りな計画だ。それは…」



◆◇◆◇◆◇



 自分達の方針を決定した我々は、早速行動を開始した。私の計画は非常に欲張りなものだが、五人は驚きつつも同意してくれている。祭りを大いに楽しむ気質の者ばかりなのは有難いことだ。


 しかし欲張りな計画を成功させるには、その規模に見合うだけの下準備が必要だ。とりあえず我々は他のプレイヤーが居ないかを調べつつ、この針葉樹林を探索する事にした。ついでに普通の魔物と出会ったら皆の戦力を確かめる事にしよう。


「へぇ?ほならエイジはんと兎路はんは同じ集落やったんがコンビ結成の切っ掛けやったっちゅーことやな?」

「僕達とはある意味正反対ですねぇ」


 我々は探索しつつ、互いの馴初めや苦労話で盛り上がっていた。まずエイジと兎路だが、二人は最初にファースから見て南東にある小鬼(ゴブリン)の集落が初期地点だったのだと言う。それが縁でコンビを組み、南に下って今は荒野を進んだ先にあるオアシスを中心にした豚頭鬼(オーク)の都市国家を拠点にしているのだとか。


 因みにFSWの豚頭鬼(オーク)は武人気質であり、高潔な紳士ばかりなのだとか。その都市国家には豚頭鬼(オーク)が最も多いが、上位種族の猪頭鬼(ボアオーク)屍食鬼(グール)犬頭鬼(コボルト)に乾燥地帯に適応した蜥蜴人(リザードマン)など様々な種族(レイス)が集まっているそうな。行ってみたいものだなぁ。


 次に七甲とモッさんの出会いだが、こちらは殺し合いだったらしい。七甲は西の森が、モッさんは我々も攻略した洞窟が初期地点だった。近い場所でポップした二人が出会うのは必然だったのだろう。互いにプレイヤーだとは考えず、全力で狩りに行ったようだ。


 しかしいざ戦ってみれば片方は烏を召喚しまくって数で攻め立てるし、もう片方は翼で殴り掛かったりする。余りにも奇妙な戦い方をするので、どちらからともなく話し掛けて互いがプレイヤーだと判明。話してみると意気投合してそれからは西の森の奥地を中心に活動している。


 夜闇に紛れて深夜の狩りを行っていたプレイヤーを奇襲で仕留めたこと何度もあると言っている。PKの手際に関しては私よりも上かも知れんな。


「他のプレイヤーとの絡みがあった分、マシなんじゃない?」


 自嘲気味にそう言ったのはしいたけである。彼女は北の山と湖の境界付近の湿地帯が初期地点だったらしい。彼女は運悪く同族のプレイヤーと出会う事は出来ず、さらにその近辺が初期地点である蜥蜴人(リザードマン)のプレイヤーに狩られるのを恐れて一人で山篭もりをしていたようだ。


 それからは薬草や毒草、さらに己の毒までも収集してひたすら【錬金術】でアイテムを生産しては小鬼(ゴブリン)相手に効果の程を確かめて実験していたらしい。個体差も考慮しつつ、毒薬の最適な調合比率などを研究していたと言う。…なんだかマッドサイエンティストのようだな。


 こうして聞いてみると、皆が皆、各々の冒険を乗り越えて来ているようだ。最初が優しくない分、魔物プレイヤーは波乱万丈さを満喫出来るのかもしれないな。


「ぼくもですけど、皆さん当たり前のように【言語学】を取得してるんですね。やっぱり同族以外とも会話出来ると便利ですよね」

「せやな。ワイはプレイを始める前に掲示板の情報を読んどったから取得したんや。あの情報を教えてくれたプレイヤーにゃ感謝やで、ほんま」

「魔物兄貴にはお礼を言いたいですね」


 掲示板…?ああ、そう言えば第二陣に向けたアドバイスとして【言語学】を取得するようにと書き込んだっけ。それを読んで参考にしてくれたのか。どうやら無駄にはならなかったようだな。


「あの書き込みが役に立ったようで何よりだ」

「…魔物兄貴ってイザームだったの?」

「その通りだ。まあ、魔物兄貴と呼ばれるのは少し恥ずかしいのだがね」


 そんなこんなで雑談しながら進んでいると、遂に何かの反応を察知する事に成功した。


魔力探知(マジックエコー)…向こうに五つ反応があるな。モッさん、そっちはどうだ?」

「確認したよ。数は五で、三対二で戦ってるみたいだ。二つは小さめで三つの影は結構大きいね。特に一番大きいのはエイジ君よりも大柄だ」

「いってみるか」


 我々は急ぎつつも慎重に反応のあった方向へと駆け出した。急ぐと言っても動きが鈍重で小回りが利かない豚頭鬼(オーク)のエイジがいるので決して速くは無い。


「ふむ、間に合ったようだな」


 それでも急いだ事に意味はあったらしい。我々がたどり着いた時、反応にあった者達がまだ戦闘中だったからだ。よし、介入する前に【鑑定】しておこう。


――――――――――


名前(ネーム):紫舟

種族(レイス)大蜘蛛(ビッグスパイダー) Lv9

職業(ジョブ):見習い戦士 Lv9


名前(ネーム):ウール

種族(レイス)(シープ) Lv9

職業(ジョブ):見習い魔術師 Lv9


種族(レイス)獣鬼(トロール) Lv33

職業(ジョブ):獣戦士 Lv3

能力(スキル):【悪食】

   【爪】

   【牙】

   【斧術】

   【体力強化】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【威嚇】

   【怪力】

   【高速治癒】

   【物理耐性】

   【火属性脆弱】


――――――――――


「ぎゃああ!?新手ェ!?」

「あー、終わったかー」


 我々が現れたのに気が付いた二匹の人外プレイヤーが反射的に声を上げる。片方からは絶望を、もう片方からは諦観を感じる。うん、むしろ助けに来たんだから安心してくれ。


「ギガッ?」

「グギゴ?」


 対する魔物達は困惑している様子。因みに声を出した二匹は(ホブゴブリン)だった。ステータスはファースの北の山のボスとほぼ同じだったので割愛する。


「グガァァ!」

「ギ、ギャギャッ!」

「ゲギャアッ!」


 呆然としている(ホブゴブリン)達を獣鬼(トロール)が一喝すると、奴らは慌てて紫舟氏とウール氏に向き直った。どうやら獣鬼(トロール)は監督のような立場で、(ホブゴブリン)達だけに戦わせていたらしい。そうでなければレベル差の暴力で瞬殺されていただろう。


「七甲とモッさんは(ホブゴブリン)達を片付けてくれ。デカイのは我々が引き受ける」

「おっしゃ、任せてや!」

「行きますか」


 エイジの両肩に乗っていた二人は勢い良く空へと舞い上がる。そして早くも最初の一手を打った。


召喚(サモン)魔烏(マギクロウ)!大盤振る舞いやで!」


 七甲によって召喚された五羽の烏が片方の(ホブゴブリン)に殺到する。そして頭部を集中的に攻撃し始めた。あれは鬱陶しいだろう。実際、(ホブゴブリン)は半狂乱になって持っていた棍棒を滅茶苦茶に振り回している。


「がぶりんちょ」

「ギャアアア!?」


 もう一匹の(ホブゴブリン)は機敏な動きで接近したモッさんに噛み付かれていた。即座に引き剥がしたようだが、頭上のマーカーに出血の状態異常が表示されている。鮮やかな手並みだ。


 あちらは二人に任せて問題はないだろう。レベル的には大差無いが、かなり戦い慣れているようだ。不覚をとる事は無いだろう。


「ゴアアアアアアアアア!!!」

「ぬぅぅ!」


 配下がいいようにやられているのに苛立った獣鬼(トロール)は、腰に引っ提げていた石斧を振り上げて此方に突進してきた。それをエイジが正面から受け止める。重い物体同士が激突する鈍い音が響き渡ると同時に、エイジが後ろに押し込まれていた。


 うん、三人よりもレベルが高い格上の相手だ。しかし私よりは弱いし、援護しつつ連携すれば勝てるはず。さて、しっかりサポートしましょうか!

 キノコや蜘蛛のプレイヤーは毒や糸などの自分の素材を一日に何回か回収可能です。もし市場に持ち込めれば、それだけで金策になるかも?前提として魔物でも取引出来る街を見付けなければなりませんが。


 次回は10月9日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
【誤字報告】 と言うことは魔物の軍勢に合流するのが効率的か? ⇩ ということは魔物の軍勢に合流するのが効率的か? 【推敲】  夜闇に紛れて深夜の狩りを行っていたプレイヤーを奇襲で仕留めたこと何度もあ…
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