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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第八章 古の廃都
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裏イベント、開始!

 次話と同時投稿しております。


 ご注意下さい。

 ログインしました。昨日はあれから十八號を連れてバーディパーチに帰還した。それで十八號の仕事だが、基本的にアイリスの工房で彼女の雑用を行うこととなった。故障した部分が直ったら、もっと様々な作業に従事出来るだろう。


 集めた装飾品の分配だが、私の物にしたのは『知力の指輪』と『集魔の指輪』という二つの指輪である。前者は知力をほんの少し強化する効果を、そして後者は魔力の回復速度を若干高める効果を持っている。


 レア度は両方共『R(希少級)』なので、そこまで稀少なアイテムとも言えない。効果も正直に言って誤差の範囲だ。しかし、私に必要と思えるのはこの二つしか無かったのだ。他の装飾品はそれぞれ必要な仲間の物になっている。


 私の取り分が少なく思えるが、問題はない。探索中に得たアイテムにとても有用な物があったからな!それよりも…


「さて、今日はこれからイベントか。楽しみだなぁ!」


 私の意識を埋めているのは今日のイベントについてである。正直に言って、年甲斐も無くウキウキしていた。その理由は何も久々の公式イベントに参加出来るから、というだけではない。勿論それもあるが、それ以上に新たな仲間と出会えるかもしれないからだ。


 防衛イベント、『鉱山都市を防衛せよ!』と連動するように不参加のプレイヤーを集めた『血戦の地へ』。イベントに不参加であった理由にもよるだろうが、わざわざ不参加を表明したプレイヤーなのに此方には参加するとなれば私のような捻くれ者が集まる可能性は高い。


 一癖も二癖もある仲間ばかり集まった『夜行衆(ナイトウォーカー)』に加わるなら、そんな奴が相応しいだろう。というか、そういう人物の方が仲間として楽しいと思う。逆に不倶戴天の敵になるかもしれんから不安もあるがね。


「おっ、兄弟!もうすぐイベントか?」

「ああ、そうだ」


 私は拠点として使っているバーディパーチのリビングで時間が来るまで待っていると、ジゴロウがログインしてきた。共にアクアリア諸島へ向かう源十郎を待つつもりだろう。


「当然、掲示板を騒がせてくれるんだよな?」

「なんだ、それは?無茶振りは勘弁してくれ」


 おいおい、私が行動を起こすことが掲示板を賑わせる事に直結するというのはおかしくないか?私は動くイベント製造器じゃあないんだぞ?


「へっ、期待してんぜ!」


 指摘の返事になって無いぞ。全く、私を何だと思っているんだ!


「んでよォ、イベントって何やるんだ?」

「さぁな。明確に何をするのかについての言及は無かったぞ。ただ、持ち込めるアイテムは制限されるみたいだ」


 イベントの概要についてはまたしても秘匿されているものの、今回は持ち込めるアイテムに限りがあるのが特徴の一つだ。持ち込み可能な装備している武器と防具、そして五種類のアイテムのみである。更に、同じアイテムは最大で十個までという制限付きだ。


 私は何を持って行くのかでかなり悩んだ。熟考の末、持ち込むのは予備の杖と愛用の大鎌、そして三種類の札を十枚ずつだ。その内訳は溶弾(ラーヴァブレッド)爆弾(マジックボム)、そして短転移(ショートテレポート)である。


 どの札を持っていくかでとても悩んだものだ。結局は威力がある溶弾(ラーヴァブレッド)爆弾(マジックボム)、そして逃亡や奇襲に使える短転移(ショートテレポート)に落ち着いたのである。


 ちなみに鎌を装備した状態で行かないのは種族(レイス)を誤魔化したいからである。明かせば絶対に根掘り葉掘り聞いてくる奴が出てくる。それで教えなければ逆恨みされるんだろ?知っているぞ!


「持ち込み制限ってこたァ、現地で集めて色々やらせるってことか?」

「わからん。ただ、無制限に何でも幾つでも持ち込めたら財力で大きく差がつくからな。そこを嫌っただけかもしれん」


 インベントリに制限が無いのは重量だの何だのを気にするストレスから解放されるが、今度はプレイ時間にほぼ比例して常備出来るアイテムに差が生じてしまう。休日以外は一日二時間前後しかプレイ出来ない私のような社会人と、朝から晩までプレイしている廃人とではリソースに差が生まれるのは当然だろう?


 なので可能な限り差を無くす為の策なのではないか、というのが私の予想なのだ。武装や消費アイテムそのものの質は埋め様が無いので、完全にフェアな条件には出来ないんだけどな。


「っと、そろそろ時間か。では、行ってくる」

「土産よろしく~」


 そんな事を話していたらイベントのお時間がやって来たな。ジゴロウの戯れ言を背に受けつつ、私のアバターは光に包まれて転移していった。



◆◇◆◇◆◇



 軽い浮遊感がしたかと思うと、私は真っ暗な空間に立ち尽くしていた。迷宮イベントの時は真っ白な空間に出たと掲示板で読んだが、イベントが異なれば呼ばれる場所も異なるのだろうか?


『お初にお目にかかりますな、プレイヤーの皆様』


 む、このダンディーな声は一体…って!声が出せないぞ!?どうしたことだ?ひょっとしてVRデバイスが故障してしまったのか!?


『我輩は死と混沌の女神ことイーファ様に仕える天使で御座います』


 混乱する私など無視して渋い声は続ける。イーファ様の天使ねぇ?使徒である立ち位置的には私の上司にあたるのかな?それとも部下?同格?何でも良いけど壊れたんなら修理に出さなきゃ…


『おお、言い忘れておりました。この空間では皆様の聴覚以外の五感を遮断しております。デバイスの故障ではありませんので、ご安心下さい』


 あ、はい。左様ですか。は~、良かった!修理代もバカにならないからな。


『さて、早速ですが本日から二日間のイベントについてお話させていただきます。舞台はファースの街などがあるルクスレシア大陸の北東。稀少な金属の鉱脈が多数存在する鉱山都市、イレヴスで御座います。実は現在、イレヴスの北から魔物の大群が南下しておりまして、このままでは街の存亡に関わります』


 おお、魔物の大移動が起こっているのか。そしてこのままでは鉱山都市イレヴスは滅んでしまう、と。


『そこでプレイヤーの方々には現地の住民と協力して都市を防衛していただく…というのが表イベントである『鉱山都市を防衛せよ!』の概要になります』


 表イベント、ね?なるほど。と言うことは…


『ですが、この場にお集まりの皆様に参加していただくのは裏イベント、『血戦の地へ』でございます。こちらはプレイヤーの方によって内容が異なるでしょう』


 やはり裏イベントなのか。だが、言い方が気になるな。プレイヤーによって内容が違うとはどういうことだろうか?全く違う場所に行く訳ではなさそうだが…?


『では本イベントにおいて、皆様にやっていただきたい事とは何なのか。それは…』


 そ、それは?


『何も御座いません』


 は?


『皆様には自由に、やりたいようにやっていただきます。各自の判断でお好きなように振る舞っていただきたいのですよ』


 ふ、ふふふ!ははははは!流石はイーファ様だな!自由と来たか!もし私が声を出せたなら、きっと大声で大笑いしていたことだろう。


 つまり、こういうことだな?都市の防衛に合流するのも良し、逆に魔物と共に都市を破壊しても良し、あるいは大規模戦闘そっちのけで素材の採集に励んでもいい、と。いいね、いいねぇ!面白そうじゃないか!


『何をしても構いませんが、一つだけ忠告をば。表イベントとの兼ね合いが御座いまして、リスポーンは一回のみとさせていただきます。というのも…』


 ダンディー天使の説明を要約すると、表イベントの主旨が『リアリティーのある戦場』であり、あちらに参加するプレイヤーと同じ条件にするためだそうだ。順を追って説明しよう。


 まず、表イベントの参加者は、最初にイレヴスの北にある五つの砦のどれかに配置される。魔物の大群は五つの部隊に分かれて砦に向かっており、砦を最初に陥落させるつもりなのは明らかだ。なので前哨戦として砦の防衛戦が確実に起こると予測出来る。


 きっとここで死ぬプレイヤーが多数現れるだろう。それでお仕舞い、だと流石に面白くない。しかし、だからといってリスポーンする事を前提としたゾンビ戦術を取られると緊張感に欠ける。なので砦で死亡した場合はイレヴスの十二大神殿でリスポーンすることになっており、即座に砦の防衛戦に参加することは出来ないようになっているのだ。


 その上でイベント全体でのリスポーン回数は一回きりに制限されているのも、戦いの緊張感を高めるためだそうだ。イレヴスにおける都市防衛も、無制限にリスポーン出来たらゾンビ戦術で防衛してしまうに違いない。


 なので二回死亡したプレイヤーは、その時点でイベントが終了になるらしい。次にリスポーンするのはイベントに参加する直前にいた場所であり、イベント報酬は終了し次第配布されるのだとか。


 因みに、防衛に失敗した場合はイレヴスの街は魔物に占領されてしまうらしい。そうなるとファースやイレヴスが所属している国であるリヒテスブルク王国主導の都市奪還作戦が行われるまではイレヴスは機能しなくなるとダンディー天使は語る。


 これは表イベントの参加者は必死になる者は多いだろう。鉱山の街であるイレヴスの重要性は言うまでも無いからな。それに砦を守りきれなくなった時も、玉砕ではなく撤退を選ぶ者も多かろう。一度きりの復活を活かすなら、イレヴス防衛に使った方が有意義なのだから。


『イベントに関する説明はこれにて終了とさせていただきます。三十秒後、皆様は砦の北にある原生林に降り立つこととなるでしょう。それでは、イベントをお楽しみくださ…あぁっ!』


 これで終わり、かと思いきやダンディー天使は慌てたような声を出した。今のは何かを思い出した時に思わず出てしまった、という感じだったぞ?


『私としたことが、失念しておりました。イベントに参加している間は、クランチャットやパーティーチャットは使えません。同時に掲示板も閲覧出来ないようになっております。表イベントの主旨であるリアリティーのため、とご理解下さい』


 チャットや掲示板が出来ないのか。ふむふむ、と言うことは情報の共有は口頭か手紙でやり取りするしかないのだな。もし使えれば通信機を使っているようなものだ。せっかくのファンタジー的な世界観がぶち壊しになってしまうのを避けたいのだろう。運営も難儀なことで。


『時間も丁度いいですな。それでは、イベントを開始いたします!』


 ダンディー天使の宣言と同時に私は森に転移…していないぞ?どうしたことだ?


『おお、我らが同胞たるイザーム様!貴方様には我らが主のからの伝言がありますので残っていただきましたぞ!』

「伝言?って、うおっ!声が出た!」


 聴覚以外の五感も戻っているらしい。前兆が無かったから気付かなかったぞ!


 いやいや、それよりも伝言を聴かねばなるまい。イーファ様から直々に…って妙なお願いでなければいいのだが。


『主の仰った言葉をそのままお伝えいたします。「面白そうなプレイヤーを近くに集めておいたので、彼らを率いてイベントを引っ掻き回して下さいね(はぁと)」だそうです』


 おいおい、プレイヤーの出現位置はランダムじゃ無かったんかい!これって色々と大丈夫なのか!?私に公言するつもりは無いけどさ。既に集められている時点で共犯扱いだろうし。


 そして、ダンディー天使よ!お前の声で『(はぁと)』とか言うんじゃ無い!背中がぞわぞわしたわ!


「イベントを引っ掻き回せ、か。それはクエスト扱いなのか?」

『いいえ、これは単なる主のお願いですぞ。絶対に聞く必要はありませんし、むしろ表イベントのプレイヤーと合流してもペナルティの類いは一切ありません』

「そうなのか?なら何故私だけに頼むんだ?他のプレイヤーでもいいだろうに」

『それは単純な理由ですよ、イザーム様。貴方様は主の加護を賜る使徒であらせられる。主の他愛なきお願いを任せらるのに、貴方様以上の方はおりません!』


 イベントにちょっかいを掛けろ、と言うのは『他愛ない』の範疇なのだろうか?あの女神様、本当に何を考えているのかわからなくなる事がありますよ、マジで。


「はぁ…わかった。可能な限り要望には応えよう」

『おお、ありがとうございます!』

「ただし!イーファ様が集めたプレイヤー達のやりたいことを最優先させるから、そのつもりでいてくれ。それに気が合わんプレイヤーばかりなら放っておくぞ。自由に行動して良いというイベントなのだし、それでいいだろう?」


 正直、見ず知らずのプレイヤーを纏めろと言われても困る。性格が合わなかったりすれば苦痛でしか無いのだから。それにイーファ様の頼みに縛られていては私に自由が無いではないか。


『もちろんでございます。あくまでも、主はお膳立てをしたに過ぎません。それを活かすも殺すもイザーム様の自由でございますよ』


 ダンディー天使はどこか満足げに聞こえるニュアンスを含んでいる。私の考えが見透かされているようで少し悔しい。


 捨て台詞代わりに嫌味の一つでも言ってやろうかと思った次の瞬間、私は背の高い針葉樹林に立っていた。どうやらここがイベントの舞台らしい。


「はぁ、まさかジゴロウに加えて女神様にまで期待されているとは…何だかプレッシャーを感じるなぁ」


 私は独り言を呟きつつ行動を開始する。何はともあれ、とりあえずはイーファ様の集めたプレイヤーと接触してみようか!

 というわけでこの章は終わりです。次章のプロローグでもありますね。


 久々の悪役プレイです!冒険が長かったですが、話の流れ的に必要だったんです…。もっと上手く書けるようになりたい…!


 次回は10月1日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
【推敲】 持ち込み可能な装備している武器と防具、そして五種類のアイテムのみである。 ⇩ 持ち込み可能なのは装備している武器と防具、そして五種類のアイテムのみである。 『おお、我らが同胞たるイザーム様…
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