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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第八章 古の廃都
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廃都の主 その二

「アァ…?どういうこったよ、こりゃあ?」

「冗談にしては笑えん類じゃぞ、十八號よ」

「グルルルルルル!」


 ジゴロウは威圧するような、そして源十郎は怒気を滲ませた声音で私に銃口を向ける十八號に詰問する。カルに至っては怒りに目を血走らせて低く唸っていた。おいおい、余り刺激してくれるなよ?私が撃たれたらどうするんだ。


「簡単なことよ、地虫。これ(十八號)にはのぉ、お主らが如き無知無謀な愚か者を儂の下へと連れてくる役目を任せておったのじゃ」

「騙した形になり、申し訳ございません」


 十八號は声だけは慇懃に謝罪するが、銃口を私の後頭部に向けたまま動かす気配は無かった。


「ですが、仕方が無かったのです。人面鳥酋長(ハーピィチーフ)であらせられるンケルフォー様に退去していただく為には」

「どういう事ですか?」

「ゲゲゲ、それについては儂が語ってしんぜよう」


 ンケルフォーというらしい人面鳥酋長(ハーピィチーフ)は、ニンマリと悪意を隠しもしない笑みを浮かべて得意気に語り始めた。


「これと儂は契約を交わしておったのじゃ。儂の種族(レイス)レベルが60に達して進化するまで、儂に供物を差し出すという契約じゃ。そして進化した暁には…」

「この巣を引き払う、ということか。なんとまあ貴様に都合のいい契約じゃないか」

「平等な契約じゃよ?儂はどうしても進化したい。これはどうしても儂らに出ていって貰いたい。利害は一致しておるじゃろうが。ゲッゲッゲ!」


 ンケルフォーは心底楽しそうに高笑いを上げている。邪悪な魔物らしく、その性格はサディストであるのだろう。醜い顔を更に歪めて嗤うのは、非常に嫌悪感と不快感を誘う光景であった。


「儂のレベルは59!貴様ら地虫を喰らえば、ようやく儂は真なる王、我が一族に伝わる伝説の人面鳥王(ハーピィキング)となれるに違いない!ゲェッゲッゲッゲッゲ!」


 なるほどねぇ…酋長(チーフ)の次は(キング)なのか。


「儂は(キング)となり!一族を率いてそこにおる(トカゲ)の親玉も殺し!そして行く行くはこの地を統べるのじゃ!」


 人面鳥王(ハーピィキング)になるだけではなく、(ドラゴン)の頭領である龍神を弑し、このヴェトゥス浮遊島を支配するのがンケルフォーの野望であるらしい。勝ち誇って自分の目的をベラベラと語るとは、まるでコミックで登場する喋りたがりのバカな悪役だな。


「ゲゲェ…お喋りはここまでじゃ。十八號!その骨をこちらに連れて来い!」

「はっ」


 十八號は銃口で私の後頭部を小突いて前進するように促してくる。私は仕方なく降伏するように両手を挙げてゆっくり前に進む。ジゴロウや源十郎、そしてカルは鋭い目付きでこちらを睨んでいる。おそらく、一瞬でも隙があれば十八號を破壊してしまおうというのだろう。


「動くで無いぞ?此奴が長である事は聞いておるわ。長が殺されても構わんのか?ゲッゲッゲ!」


 それを理解している十八號は、常に彼らと自分の間に私を挟むように移動している。なので私がンケルフォーの巣の前に辿り着くまで三人が飛び掛かる事は無かった。


「ゲゲゲゲゲ!儂は優しいからのぉ!一息に踏み潰してやるわい!」


 そう言ってンケルフォーが身体を起こす。私を人質にとって動けない仲間達を殺そうと言うのだろう。あの趾で踏まれれば、貧弱な私は勿論、頑丈で体力も多い源十郎ですらあっさりと死んでしまうだろう。


「愚か者は貴様だ、阿呆め。()()()!」

「はっ!」


 私は叫ぶと同時に左に飛ぶ。それと同時に右に飛んだ十八號がンケルフォーに向かって発砲した。高速で撃ち出された銃弾が、奴の顔面に着弾する!


「ゲッ!?ゲギャアアアァァァァァ!?」


 ンケルフォーは聞くに堪えない濁声で絶叫を上げた。予期せぬ攻撃を食らったンケルフォーは、歩き出そうと趾を上げていたこともあってバランスを崩して転んでしまった。


 ふっふっふ、やはり不意討ちが決まると気持ちがいいなぁ!騙されていたのはンケルフォー君、君なのだよ。


「かぁ~、演技ってなァ疲れるぜ」

「そうか?儂は割りと楽しかったぞ?」


 皆はそれまでの張り詰めていた雰囲気を一気に弛緩させた。作戦が成功してホッとしているのだろう。ボス戦そのものはここからが本番なので、余り油断し過ぎるのも問題なのだが。


 この不意討ちを企んだのは当然私である。そもそもの始まりは十八號にある。忘れ物云々と彼女が私と二人きりになった時、彼女は私に真実を告げたのだ。


 彼女はンケルフォーに従って、屋上からの退去を条件にごく稀に中央ビルまで辿り着いた者を誘導して供物としていたらしい。十八號はンケルフォーが約束を守るとは思っていなかったが、故障している彼女としてはこうするしか他に方法が無かったそうだ。


 しかし、予想外だったとは言え低いビルの屋上に巣食う人面鳥(ハーピィ)達を絶滅させた事と、後からやって来た人面鳥(ハーピィ)を始末した我々の手腕を見て、彼女は考えを変えた。我々と共に本当にンケルフォーを倒してやろうと思い立ったのである。


 それを聞いた私は少しだけ驚いたものの、それよりも心の奥の引っ掛かっりがとれた気がした。というのも、ここに来てから話がトントン拍子で進みすぎていたのだ。特に彼女の気前の良さに違和感を感じていたのは事実である。


 出会ったばかりであるし、騙されていた事への怒りなどはほぼ無かった。むしろ私はそれを聞いてこの不意討ち作戦を思い付いた。それは私を人質にとって接近し、初手で手痛い一撃を食らわせるという策だ。


 十八號は地下街で僅かに残っていた監視カメラで集めた我々の大雑把な情報を既にンケルフォーに伝えていたらしく、それを逆手に取ることにした。リーダーである私を人質に出来ていれば、ンケルフォーはより油断するだろうと踏んだのである。


「作戦をパーティーチャットで送られた時はびっくりしたけど、上手く行くもんだね!」

「私達は喋らなくて正解だったね。きっと棒読みになったと思うし…」


 そして十八號の事情と私が立てた作戦をパーティーチャットで皆に伝えていた。なのでジゴロウと源十郎の醸し出した剣呑な雰囲気は演技である。こうすれば演技が出来ないであろうカルに自然な反応をさせつつ、作戦を共有出来るというものだ。


 『敵を騙すには先ず味方から』という言葉があるが、今回の場合はそれでは芳しく無い。何故なら、作戦を伝えていないとジゴロウ辺りが私の身など省みる事なく突っ込む可能性があったからだ。


 ハッキリ言って風来者(プレイヤー)に人質としての価値は無い。死んでもリスポーンするんだからな!何度でも蘇る我々にとって、命とは常にバーゲンセール状態である。普段から下らん死に方はしたくないので気を付けてはいるがね。


「よし、逃げるぞ。短転移(ショートテレポート)

「はい」


 私は【時空魔術】の短転移(ショートテレポート)で、十八號は私が渡した短転移(ショートテレポート)の札を使って距離を取る。私はカルの側へ、十八號はアイリスの背後へと移動した。


「じゅうぅはちごおぉぉぉ!!!何をするかぁぁぁ!?」


 痛みから来る苦痛と突然の裏切りによる混乱、そしてその双方が原因となった激怒に震える声でンケルフォーは吠えた。顔面から血の筋を何本も流しつつ、憎悪に濁った眼で此方を睨んでいる。


 おや、眼の片方が潰れているぞ?それもあって怒り狂っているのだろうな。おお、怖い怖い。


「飼い犬に手を咬まれたのがそんなに腹立たしいか?いや、それよりも得意満面で勝ち誇っていたのを覆されて恥ずかしいのか?」

「お、おおおお、おのれえぇぇぇ!!!」


 それに対して私は純粋に疑問を抱いているかのように尋ねてみる。勿論挑発なのだが、面白いように乗っかってくれたようだ。


「カル!行くぞ!」

「グオオオオン!」


 私は当初の予定通り、カルと共に空へと飛び上がる。十八號から聞いていた通り、ンケルフォーは飛ぶのが苦手らしく、忌々しげに此方を見上げていた。


「不遜にも空を飛ぶか、地虫がぁっ!行けっ、者共!あの無礼者を引きずり下ろせ!」

「「「「ゲギャアアァッ!」」」」


 ンケルフォーの命令に従って、奴の巣の近くで侍っていた四羽の人面鳥(ハーピィ)が飛び上がって来る。よし、連中を【鑑定】するか!


――――――――――


名前(ネーム):ンケルフォー

種族(レイス)人面鳥酋長(ハーピィチーフ) Lv59

職業(ジョブ):魔鳥戦士 Lv9

能力(スキル):【悪食】

   【大牙】

   【鋭爪】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【火炎魔術】

   【暴風魔術】

   【硬化】

   【飛行】

   【射出】

   【捕獲】

   【奇襲】

   【指揮】

   【連携】

   【風属性耐性】

   【火属性耐性】


種族(レイス)人面鳥神官(ハーピィプリースト) Lv47

職業(ジョブ):治癒術師 Lv7

能力(スキル):【悪食】

   【牙】

   【爪】

   【水氷魔術】

   【治癒術】

   【飛行】

   【捕獲】

   【奇襲】

   【指揮】

   【連携】

   【水属性耐性】

   【土属性脆弱】


――――――――――


 これが人面鳥長(ハーピィリーダー)を省略したンケルフォー達のステータスだ。私に向かって来ている四羽の内、三羽は人面鳥長(ハーピィリーダー)だったが、最後の一羽が人面鳥神官(ハーピィプリースト)である。


 人面鳥神官(ハーピィプリースト)は名前の通り、神官らしく【治癒術】が使えるようだ。ぐぐっ、私の【魂術】よりも戦闘向けの術じゃないか!う、羨ましい!


 それはさておき、厄介なのはやはりンケルフォーだな。レベルは自己申告の通りに59で、我々が戦ってきたどの魔物よりも高い値だ。【矮躯】どころか弱点となる属性もなく、逆に火属性と風属性に至っては耐性まで獲得している。


 加えてステータス上昇系の能力(スキル)に、【牙】と【爪】が進化したと思われる能力(スキル)も持っている。コイツ、ひょっとしたら毒炎亀龍(タラスク)よりも強いかもしれないな。油断は出来ないぞ?


「作戦は手筈通りに行く!任せるぞ!」

「やっと戦えるぜェ!」

「行くぞ!」

「どうにか手綱を引いてみるよ」

「頑張って援護しましょう、十八號さん!」

「承知いたしました」


 一応改めて作戦通りに行こうと声を掛けるが、男二人は既にンケルフォー目掛けて飛び掛かっている。そんなに戦いたかったのか?そういう性格だってのは知っていたがね!


「下は皆に任せるとして、私達は私達で戦うとしようか」

「グルッ!」


 私はカルの首筋を優しく撫でつつ、人面鳥長(ハーピィリーダー)達に向き直る。さあ、久々のボス戦だ!

 NPCの間ではレベルという概念が普通に認識されています。人格があるとしても、ゲームの世界の住人なのだからその方が自然…ですよね?


 次回は9月19日に投稿予定です。

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【誤字報告】  しかし、予想外だったとは言え低いビルの屋上に巣食う人面鳥ハーピィ達を絶滅させた事と、後からやって来た人面鳥ハーピィを始末した我々の手腕を見て、彼女は考えを変えた。 ⇩  しかし、予想外…
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