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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第97話 戦争の理由

 シエン達の乗る馬車は血みどろの砦を通過する。

 壮絶な戦いを制したのは人造勇者だった。

 アンデッド兵の自爆で大損害を受けた魔族を追撃で一掃したのである。

 完璧な蹂躙に対し魔族側ができることは何もなかった。


 砦に残された死体は、死霊術によってアンデッド化していく。

 そうして消耗した分を補充する新たな戦力となった。

 爆発で散らばった肉片も合体して塊となり、赤黒いスライム状の何かとなって這い進む。


 それらの光景を志願兵は気味悪そうに眺める。

 彼らの気力は削がれていたが、使命感を支えにどうにか精神を保つ。

 残酷な所業に目をつむれば、これほどに合理的な戦い方はない。

 危険を冒す必要がなくなったのだから文句を付けられるはずもなかった。


 一方、魔術で戦いを目撃したリリアは気分を悪くしていた。

 彼女は口元を手で押さえて呻く。


(これは戦争なんかじゃない……圧倒的すぎる)


 リリアは嫌悪感と恐怖に苛まれ、同時に一つの疑念を確信に変えた。

 彼女はそれをシエンに投げかける。


「一つ聞きたいことがあります」


「何かね」


「もう何年も前から魔王を討伐できる状況にあったのではないですか?」


 問われたシエンは表情を変えない。

 ただ悠然とした微笑を浮かべるだけだった。

 リリアは緊張気味に言葉を続ける。


「あなたの保有する戦力は強すぎます。単独の人造勇者でも上級魔族を倒せるのですから、三百人もいれば魔族の根絶さえ可能だと思います」


「それは君の予想だね。数値的な根拠が何もない」


「では数値を踏まえた意見を聞きたいです」


 リリアは怯まずに言い返す。

 殺気を纏うソキが「これ以上は……」と遮ろうとするも、シエンが手で制した。

 シエンは窓の外を見ながらあっさりと明かす。


「君の指摘は概ね正しい。僕の計算では、五年前の時点で魔王軍の討滅ができると出ていた」


「ではなぜそこから何年も引き延ばしたのですか」


「魔王の力が未知数なのが一点。そしてもう一つの理由は……」


 刹那、通り過ぎたばかりの砦が崩壊した。

 地面が激しく渦巻いて、砦の瓦礫を呑み込んでいく。

 渦の範囲は一気に拡大して近くにいた志願兵が取り込まれた。

 対処に動いた勇者も同様に呑まれてしまう。

 渦は付近一帯を浸蝕し、決戦部隊を丸ごと沈めようとしていた。


 席を立ったシエンは馬車を下りながらリリアに告げた。


「少々面倒なことになったようだ。続きは別の機会にしよう」

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