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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第90話 自己犠牲の覚悟

 日没に合わせてリリアが魔術工房を立ち去った。

 残されたシエンは客間で紅茶を飲む。

 暫しの沈黙を経て、シエンは壁際に立つソキに目を向けた。


「たまには座りたまえ」


「遠慮しておきます。恐れ多いです」


「そんなことはない。少しだけ話し相手になってくれ」


「立ったままでも会話は可能です」


「では命令だ。ソファに座って僕の会話に付き合いたまえ」


「…………承知しました」


 ソキは渋々と命令に従った。

 そしてシエンの注いだ紅茶を受け取り、顰め面で少しずつ飲む。

 シエンは満足げに微笑した。


「いよいよだね」


「はい、力を振るえるのが楽しみです」


 頷いたソキを見て、シエンは眉を曲げた。

 彼は少し呆れた様子で言う。


「そんなに戦いたいのなら、最初から参加すればよかっただろう。君が希望すれば僕は許可したよ」


「私はご主人様の共に戦いたいのです」


 即答したソキは確固たる信念を宿していた。

 並々ならぬ覚悟を感じさせる気迫である。

 前のめりになったソキはシエンに話を切り出す。


「ご主人様。一つお願いしたいことがあります」


「珍しいな。何かね」


 ソキの目つきがさらに強まる。

 彼女は淀みなく告げた。


「この先、必要があれば私の命をお使いください」


「ほう、君は死にたいのかね」


「違います。私はどのような形でもご主人様のお役に立ちたいだけです。私が犠牲になるのが最適解となるなら躊躇わないでいただきたいのです」


 ソキの意志は本物だった。

 彼女は前のめりの姿勢のままシエンに念押しする。


「承諾いただけますか」


「当然だろう。僕を誰だと思っている。目的のために手段は選ばない。君の命だって例外ではない。そこは安心したまえ」


「ありがとうございます」


 不敵に笑うシエンに対し、ソキは深々と頭を下げる。

 彼女は喜びを安堵を感じていた。

 ソキにとって最も恐ろしいのは、シエンから存在価値を認められないことだった。

 認められるためなら彼女はなんでもできる。

 たとえ自害を命じられても、ソキは涙を流して歓喜しながら実行するに違いない。


 シエンはカップの底に残る紅茶を見つめる。

 彼はそれを飲み干すと、穏やかな口調でソキに述べる。


「命の価値は不平等だ。我々は己の価値を正しく理解して行動しなくてはならない。過信せず、軽んじずに立ち回ろうじゃないか」


「承知しました」


 ソキは満足そうに身を引く。

 そしてほんの少しだけ笑顔になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ソキにとって最も恐ろしいのは、シエンから存在価値を認められないことだった。 とんでもねぇメンヘラを生み出しやがった
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