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人造勇者の死想譚  作者: 結城 からく


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第76話 適応する魔女

 頭部を起点にミランダが溶けていく。

 黒い水を捕食したことで体内から崩れているのだ。

 肉も骨も臓器もどろどろになって一つに混ざっていく。


 その姿にノワールは呆れを隠せない。

 彼は侮蔑を露わに述べた。


「獣に劣る知能ですね。私に物理攻撃は通じませんよ。ここまでの戦闘で学ばなかったのですか」


「う……ぇあああ……んー」


 胴体まで溶けたミランダが、潰れた喉から間延びした声を発する。

 すると人体の溶ける速度が落ち始め、ついには断面から骨と肉が盛り上がって再生するようになった。

 己の力が阻止されたことでノワールが感嘆する。


「……驚いた。再生力が腐蝕を上回ったのですか」


「たましいの、あじを、おぼえたの。あなたの魂、苦味が良いわねえ。とても、癖になるわ」


 ミランダは喋りながら肉体を修復させていく。

 既に頭部まで再生しており、ぎらついた視線をノワールに向けた。

 さながら肉食獣のような目付きだった。

 口からは涎を垂らし、底無しの狂気と食欲を訴える。


 ノワールは何かを思案し、それから納得した様子で頷いた。

 彼はミランダを指差して告げる。


「別に構わないですよ。何度でも殺して差し上げますから」


 ノワールの指から圧縮された黒い水が放たれた。

 不意の一撃がミランダの首を撃ち抜くも、彼女は不気味に笑う。


「うふふふふふふふ」


 首の穴からミランダの肉体が溶け出すが、再生力と拮抗して留まっている。

 やがて傷ごと塞がって完治してしまった。

 これにはノワールも怪訝そうな表情になる。


(溶けにくくなっている……?)


 ノワールが黒い水を連射する。

 いずれもミランダに直撃するが貫通すらできず、皮膚を爛れさせるだけに留まった。


 反撃とばかりにミランダが飛び出し、両手を振り回してノワールを引っ掻いた。

 ミランダの爪は黒い水で構成された身体を素通りする。

 その瞬間、ノワールは強烈な痛みを感じた。

 魂にまで波及する苦痛に、彼は思わず呻いた。


「高強度の魂……想像以上に厄介です。時間をかけるほど不利になりますね」


「じゃあ短期決戦にする? 別にいいわよ」


「それではお言葉に甘えましょう」


 ノワールはすぐそばの下水に飛び込む。

 彼を中心に下水が漆黒に染まり、激しく沸き立って禍々しい魔力を迸らせる。

 ミランダは目を輝かせて笑った。

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