第69話 隠れた悪
数日後、ハロルドとミランダは森の中を歩く。
ハロルドは羊皮紙の束を読みながら移動していた。
隣から覗き込んだミランダが尋ねる。
「次の標的は何なの?」
「帝国から独立した都市国家だ。宗教団体が占拠した場所でな。魔族との繋がりが噂されている」
ハロルドが羊皮紙を指で叩いた。
ミランダは首を傾げて疑問を口にする。
「宗教なのに魔族? どういう信仰なのかしら」
「大々的に魔族の味方を名乗ってるわけじゃない。表向きはごく普通の内容らしい」
「裏の顔があるわけね。誰が調べたの?」
「他の勇者だ。潜入とか情報収集が得意な奴がいる」
ハロルドが羊皮紙をめくって見せる。
そこには様々な情報が所狭しと書き記されていた。
筆跡が異なる注釈がいくつも加えられており、お世辞にも読みやすいとは言い難い状態である。
羊皮紙の端には、それぞれの情報に携わった者の名が書かれていた。
五号ことラルクが概要を担当し、注釈の担当者にはケビン、ルーンミティシア、エナ、マギリ、リグルといった勇者の名がある。
複数人の勇者が情報の信憑性を保証しているのだ。
羊皮紙に目を通したミランダは、興味なさそうに肩をすくめる。
「うーん、よく分かんないわ」
「今から都市国家に向かう。そこの支配者をぶっ殺す。理解できたか?」
「完璧よ。ハロちゃんは説明上手ね」
「頭脳明晰だからな」
その日の深夜、二人は件の都市国家の近くに到着した。
都市全体が城塞となった土地で、外周部は常に兵士が巡回している。
闇夜に隠れた状態でハロルドはミランダに告げる。
「ここから先は二手に分かれるぞ。後で合流しよう」
「了解。潜入方法は何でもいいの?」
「別に構わないが、騒ぎにならないようにだけ注意しろ」
「はーい」
ハロルドは蠅型の魔族に化けると、そのまま兵士の目を盗んで都市内に潜入した。
物陰で滞空するハロルドは正門の方角を一瞥する。
(あいつは……大丈夫か?)
心配した直後、慌ただしい声が聞こえてきた。
それは兵士達の怒声と悲鳴だった。
「侵入者だァッ!」
「ぐわああああああああああぁぁっ!」
嫌な予感がしたハロルドが確認しに行くと、ミランダが多数の兵士を蹴散らしているところだった。
魂を切り裂く爪で人体を解体しながら、ミランダは大声で呼びかける。
「ハロちゃんごめんなさーい! 見つかっちゃったー! やっぱりいつも通りの殺戮でいきましょうー!」
「……クソッタレが」
悪態をついたハロルドは狼の姿に変貌し、ミランダのそばへと着地した。




