第14話 欠陥品
ルーンミティシアが目を細める。
その表情には嫌悪と侮蔑が滲み出していた。
「あら、欠陥品がいますわ。まだ廃棄処分になっていなかったのね」
「うるせえよ。サボってばかりのお前の方が欠陥だろ」
ケビンは平然と言い返す。
彼は剣呑な雰囲気でルーンミティシアに歩み寄っていく。
その際、ユナが頭を下げた。
「ご無沙汰しております、ケビン様」
「呼び捨てでいい。俺はただの奴隷だ」
足を止めたケビンに対し、今度はルーンミティシアが前に出る。
彼女は睨み付けるようにして尋ねた。
「何の用ですの」
「戦争に参加しろ。お前のせいで大勢が迷惑している」
「お断りしますわ。今の生活が好きなんですの」
ルーンミティシアが冷笑する。
ケビンの眉間に深い皺ができた。
苛立ちのままにケビンは主張をぶつける。
「俺達は人造勇者だ。魔族と戦う使命を捨てるな」
「わたくしは生きたいように生きます。使命や命令なんて関係ありませんわ。奴隷精神を押し付けないでくださるかしら」
両者の間で殺意が衝突する。
道行く人々がそれに気付いて距離を開けていた。
ユナは周囲に被害が出ないように結界魔術の準備をしている。
「自我ができてから記憶を吸収してないだろ。つまり弱いまま成長してない。とりあえず賢者の工房に戻れ。いつか負けて死ぬぞ」
「指図しないで。あなたも似たようなものでしょう。元人間で最弱の人造勇者……面汚しのくせに」
刹那、ケビンの姿が霞む。
彼はルーンミティシアの真横に立っていた。
鞘から抜かれた剣がルーンミティシアの首筋に突き付けられている。
「なっ……」
「面汚しだって努力すりゃ強くなれる。お前と一緒にすんな」
ケビンは剣を鞘に戻す。
その間を見計らってユナが発言する。
「人造勇者ケビンは新進気鋭の英雄です。個としての強さは発展途上ですが、集団戦による連携で武功を立てています。人柄の評判も良いです。ルーンミティシア様が貶せる立場ではありませんよ」
「……ッ」
自身への非難を聞いたルーンミティシアは、顔を真っ赤にして逃げ出した。
軽々と跳躍して近くの屋根に着地すると、そのままどこかへと姿を消す。
それを見届けたケビンは、面倒そうに髪を掻いた。
「あー、言いすぎたか」
「いえ。あれくらいがちょうどいいです。むしろ代わりに説教させてしまい申し訳ありません」
「気にすんな。割とスカッとした」
ケビンは少し笑ってから地面を見る。
ルーンミティシアの跳躍で地面が靴の形に陥没していた。
「使命を果たそうとしない、記憶の吸収も面倒くさがる……とんだじゃじゃ馬だよなぁ」
「まったくです」
ユナは嘆息する。
二人はルーンミティシアがいなくなった方角を見つめた。




