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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
99/124

加藤 春奈の場合 ~大貴族~

  よく出来た映画の一場面を見ているような気がした。


 頭上から降りてくる得体のしれない生き物は、

 遠めでも凄まじく大きいし、明らかに別の世界のものだ。

 生き生きと畝まくる尻尾の様な部分には、鰐の様な鱗が見え隠れし、

 爬虫類独特の黄色い蛇腹が息をするように動いているのも分かる。

 その上でグライダーのようにゆっくりと降下はしてくるが、

 バサバサと羽ばたく蝙蝠の様な翼、

 ぬるぬるしてそうな外観はただただ気持ち悪い。

 下から見るとそんな感じだが凄く大きいし狂暴そうではあるけど、

 何か現実感は伴わないし怖くは無いんだけどね…猪より。


「 気をしっかり持ってください! 」


 ジンギさんが少し焦り気味にそんな事を言うが笑うしかない。

 だって怖くないもん。

 ここの猪の殺気に満ちた目と飢えた息遣いの方が余程怖いもの。

 

「 はは、大丈夫ですよ。

  春奈さんは下手すると私たちよりよっぽど肝が据わってますから 」


 ジャニスが失礼な事を呟いたが、少し声が明るめだった。

 死神に肝が据わっているなんて言われるのは心外だけど勘弁してあげる。


  第一、私を迎えに来たって言ってるぐらいだから、

 多少の危険は感じるけども飛行機が墜落するのと比べれば大したことは無い。

 相手は猪と違って言葉をしゃべることのできる生き物だ。

 うまく丸め込むことだって出来ないわけじゃないと思う。

 

 ズズン・・・と腹に来るような重い音と振動を伴ってそいつが降りてきた。

 公園の土に少しめり込んだようだから数トンはあるのだろうね。

 化け物の寸法は、

 体高は20メートルで、広げた翼が20メートルと言ったところ。

 尻尾の方は10メートルぐらいある。

 5メートルはある両の腕と胴体は蛇か龍の中間で脚は無い。

 体をくねらせてバランスを取って立っているという感じ。

 そして胴体に似合った西洋の龍のような頭…化け物であるのには違いない。

 でっかいゴルゴーンの怪物って感じかな…

 それよりも気になる事がある。 


「 ねえ、ジャニス…ここの公園ってこんなに大きかった? 」


「 拡張してますねぇ、空間が。」


 私は先ほど入ってきた公園の入り口の車止めを見た。

 確か、ここはそこから入って10メートルもしない場所だったはずだ。

 でも今は50メートルは離れて見える。

 そのうえ、まるでそれが当たり前のように景色も破綻していない。


「 空間を広げた? まさか、そんな事が出来るなんて 」


 ジンギさんがそんなことを言いながら周りを見渡した。


 ただ、ジャニスは逆に落ち着いて少し笑って私の方を向く。


「 人外のジンギさんがビビッているのに、

  ただの人間のあなたが平気そうなのっておかしいですわね 」


「 そうでもないわよ 結構驚いてはいるわ 

  でも慌てふためいても何も変わらないし疑問は直ぐに確認する性分なだけよ 」


「 なるほどね…流石、救世主ていった所ですか…

  上司がしきりに変わりは絶対いないから死守しろって言ったのも分かりますわね 」


「 え?そんな話だったの。 」


  救世主って私?というかだとしたら今の状況は私が中心か…


「 まあ、細かい話は後でするとして、まずは目の前の方とお話をしましょうかね。」


 目の前の方って…この怪物とかよ。

 なんか、元の脳天気そうなジャニスに戻ったようね。


 ジャニスは、怪物の前に立つと軽く見上げながら声をかけた。


「 ねえねえ、あなたジュールスでしょ?

  お名前なんて言うんですか?私はジャニスって言いますけど。」


 う~ん、数百歳のお嬢様…まるで小学生の聞き方だよね。


「 いやお前…大丈夫か? 我のこの姿を見てもなんとも思わないのか? 」


 目を丸くしてって表現は当たらないかもしれないが怪物は驚いてるようだ。


「 ウ~ン…怪獣?ってぐらいには思いますわよ…目がついてますからね 」


 ジャニス自体は人外だし、死神って経験もあるから怖いものも無いだろうけど

 傍から見てこの風景はかなりシュール。


「 ほお、そんな馬鹿みたいな聞き方してくるって嘘みたいだなぁ。

  大体が恐れおののいて言葉も発せないはずなのにな。

  まあ、その能天気さに敬意を評して名乗るとするか。

  我はジュールス七騎士団のシャックスって言うんだが 」

 

 目の前の怪物…ごっつい大きな人間のような腕が、龍の咢に手を当てて

 普通の日本語でやんわりと話しかけてきた。

 見た目と違って意外に普通の声だった。


「 ななきしだん? しゃっくす? だれ? 」


 ジャニスは、本当に何も知らないようで

 興味深々で聞いているようだ。目つきがランランとしている。


「 知らないのかよ?驚きだな。」


 シャックスは、目を丸くして思わず咢から手を放して驚いてる様だった。


「 俺も驚きだよ…相手がどんだけ有名なのか知らないのかよ 」


 それよりもさらに目を丸くしてジンギさんが驚いているようだった。

 

「 そうなの?全然知らないわ 」


 ジンギは頭が痛そうな顔をした。

 そして、怪物が大きなため息をついた…息臭い


「 おま…昔学校であれほど勉強したのに知らないって? 

  七騎士団にシャックスって教えられたはずだけど 」


「 だから、知らないってば 」


「 お前さ、まさかとは思うけどさ…

  ジュールスって名前の意味も知らないとか言わないよな 」

 

 ジンギは、呆れた顔でジャニスに尋ねる。


「 私って座学苦手だし…覚えてないわよ。

  でもさあ、ジュールスはジュールスでしょ?それでいいじゃない 」


 予想もしなかったという顔を一瞬したかと思うと、

 ジンギさんは思わず天を仰いでしまった。


「 おい…おまえジンギだろ?お前も有名だから知っている。

  悪いが、代わりに話をしてくれよ…このボケ娘と話しても埒があかんようだしな。」


 シャックスは、呆れてジンギさんを選択したようだ。

 ジャニスは少し赤い顔をして廊下に立たされた子供の様に下を向いている。


「 しょうがないなぁ…今回は俺はサポートの筈なんだけど。

  こいつに交渉させても埒が明かないからなぁ…

  七騎士団ていったらジュールスでも貴族中の貴族、侯爵って事だろ?

  あんたはその中でもリーダー格で相当な武闘派って聞いてるよ。

  その大貴族様が、こんな小娘…

  もとい春奈ちゃんを連れて行くってどういう事なんだい?

  俺たちは、こんな展開になるって思っていなかったんで戸惑っているんだが… 」


 すっかり場をしらけさせたジャニスではあったが、

 戦闘態勢で緊張をしていたジンギさんも、

 それなりの思惑で根性据えてきたシャックスさんも一気に緊張の糸が切れて

 スムーズに話が出来ているようだ。 


「 ああ、それな…実は娘をこのままにここで生かしておくと俺たちに都合が悪いんだ。

  こいつさえいなくなればこの世界の人口は激減し、文明も崩壊する。

  その後で、我ら7騎士団が入って統治するつもりなんだよ 」


「 文明が崩壊したのに統治する意味なんてないだろ? 」


「 いやいや意味はあるさ…

  まあ、我々が統治したほうが人間にはメリットがあると思うぞ。

  我らに従って言う事を聞けば、人を殺したり圧政を敷くことも無い。

  逆に我らの力でその後の人間界は保証はする。

  飢餓も戦役も差別も無く、人間たちは長きに渡って繁栄すらするだろうな 」


「 あんたらに従う?ってどういう意味だよ。」


「 文字通りの意味さ。

  我らを支配層として認識し、神の様に崇めて命令に従って行動すればいい。

  なに、今よりほんの少し封建的になるだけさ。

  むしろ生活の質は良くなることになるから、安心して任せればいいんだよ。」


 言葉使いはやんわりしたものだが、それってただの奴隷じゃあないのか?


「 へええ、しかしジュールス全員って結構多いだろ?

  数千万はいるって聞いたけどさ… 」

 ジンギさんは、ジャニスとは違う…冷静に話を進める。


「 ああ、でもここに来るのは数百体…程度かな。

  船頭が多いと運営が大変だし、我らを支える人間もそうは生き残っていないだろうしな。

  我らに賛同する要は、

  お前たちが言うジュールスの世界で不満を持つ者たちだけだからな。」


「 ああそうかい…ジュールスにもはみ出し者はいるわけだ。

  で、春奈ちゃんはどうするんだよ… 」


「  別に…なに、連れて行くといっても、

  その時…つまり我らがこの世界を牛耳るまで、我の世界でのんびり暮らしてくれればいい。

  ここでは無理だが、ジュールスでのわが領土であるなら贅沢も出来るし、

  この女ぐらいの器量なら、

  我の所の若い者が放っては置かんだろう…さすれば我らの一族になるだろうしな

  なんなら我の妾にでもなればいい…我の好みにもあっているからな 」


 と、化け物は大きな口を歪めて笑った。


 あほか!勝手な事を言ってくれる…

 私は少し胸糞が悪くなる思いだ…何が悲しくて人外の花嫁になって、

 死んでいく大勢の同胞を遠くから見ていなけりゃならんのだ!

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