緋村 信二の場合 ~リンドという女~
記憶の回復は、霧雨の様に頭と体に染みいるように回復していった。
印象深い赤い目のリンドの事を最初に朧気に思い出して、
その後は順番に泉の事、ジャニスの事、人形の事、坊さんの事…
学校の事、家族の事…やがて漏れも無く全てを思い出す事が出来た。
でも、なんでリンドの奴がここにいるんだろう?
「 まったく、ベスの奴…なんで私がこいつを別に、嫌じゃないけどさ 」
草原に体育座りで、頬を染めて独り言を言っているリンドに質問した。
「 あの後どうなった?
お前、この世の終わりみたいな顔でぶっ倒れて強引に連れて行かれたから、
少しは心配…してたから聞かせてくれよ… 」
本当、少しは心配したんだ…なにせ、半年も一緒だったんだから。
「 あ、ここいいか? 」
僕は、リンドの直ぐ横に断ってから、ゆっくりと座った。
「 あのさぁ、さして面白くもなんともないぞ。
この世界に戻ってベスとヒラリーに落とし前って事でさ、
まずは女好きの変態女のヒラリーには、
真っ裸にされて体中揉みまくられて舐めまわされてさ、
体中の穴という穴から貴重なお迎えの力の大半を吸われまくられたわ… 」
リンドは何かを思い出して顔が歪ませる。
「 それで? 」
頭の中に体中を舐めまわされるリンドを一瞬想像したが、
リンドが真っ赤な顔をしてこっちを見てたから直ぐに辞める事にした。
人外だし心が読めるのかもしれないから。
「 私はそんな小さい胸なんかしてないし、体毛だってそんなに…ウ、ヲホン…ゲホゲホ
勝手な想像するなよ!
それに、そんな風にどぎつくはなかったぞ! 」
プンプンと頬を膨らませるが、急に真顔になる。
「 まあ、目を瞑って耐えれば、気持ち悪いし変に反応するけど所詮は肉の拷問じゃん。
その後のべスの方は凄くきつかったなぁ…
ヒラリーに蹂躙されて呆然自失になったところで問答無用で精神浸食。
あらゆる負の精神を暗黒エネルギー変換して死ぬ寸前まで吸い出されちまったわ…
おかげで貯めこんでた能力もすべておじゃん…ひどい目にあったわ
精神的にも肉体的にも痛めつけられた落とし前は確かにきつかったけど、
それより折角死ぬほど努力してこの仕事の資格も取って、
事務所に配属されて就職もしてお金も稼げるようになった事。
更に必死に努力して、
やっと2級まで上がって生活が楽になるかって思ったのにさぁ…
ちょっと欲出して馬鹿なことしたせいでそれが皆パーになっちまった方が堪えたかな。
ベスに吸いだされたので今じゃあ、能力はせいぜい5級程度。
体力だって、そこらの人間とそうは変わらない所まで落とされた。
ジャニスが不問にはしてくれたけど、
事務所も能力不足と業務命令違反で今までの職はクビになったわ 」
本当に面白くなさそうに答えてくれた。
「 へええ、業務命令違反って会社組織みたいなんだな 」
異形の世界に会社って面白く感じた。
「 あのさ、こう言う社会形態や組織はジャニスの所だっておんなじだよ。
人間社会とおんなじで貨幣制度だからさ、
いろんなルールの上で金をばらまいて世の中を回さないといけないから、
組織って絶対に必要なんだよ 」
「 へ~大変だなぁ 」
既に人間社会から完全に降りてる僕は能天気に返事する。
「 気楽だなぁお前…
事務所でクビって言われてもお金無ければ食っていけないんで、
事務所の上司に泣いて頼んだら、
復帰はないけど管理人の仕事をやっってみれば?って紹介された。
やったー、これで食っていける~って喜んだんだけど。
誤算だったのは、この部門の統括幹部がベスって事。
更に派遣先がこのグランドって世界。
そこを治めてるの女王が変態ヒラリーって事。
この二人は性格に問題があってさぁ事務所も手を焼いていたんだよ。
事務所の知り合いに聞いたら、
ベスとヒラリーが私を嬲り尽くしたのが気にいったみたい。
手元に置きたいって事で上司に脅しをかけたらしいんだ。
どうせ使い物にならない私を、あの二人のおもちゃ代わりに差し出せば、
少しは大人しくなるって思ったんじゃないの?
エース級の二人を満足させれば仕事も頼みやすいしね。
実際、そうなったし…
それでも、拒否は出来なかったわ…ご飯食べれなくなるもんね 」
なんだか苦労はしたんだろうなぁ。
しかし、さっきから生活とかご飯とか…貧乏ってどの世界でもあるんだなぁ。
あ、一つ聞いておくことがある。
「 しかし…長剣や白いドレスはどうなったんだよ?なんでピコハン? 」
リンドは嫌な事聞くなぁって顔で答えた。
「 さっきも言ったけど好きでやってる訳じゃないし、
あの服も長剣も事務所が貸与する会社の所有物なんだ。
一度クビになった私にはもうそれらを持つ資格が無いんだよ 」
「 へえ…じゃさっきのあの態度とか…にゃんとかいう… 」
うすら笑いを浮かべると
「 格好や挨拶は…単純にヒラリーの趣味さ…
そうやって私が恥ずかしくて死にそうなのを、どこかで見て喜んでいるのよ。
んで、そうやって貯め込んだ暗黒エネルギーを実益を兼ねて、
ベスと二人で楽しみながら食っていかれるって感じかな…
さっきも言ったけど、拒否なんかできないからね。
なんだかんだって言ったって、あの二人のおかげでご飯も食べれるからさ。
それにあれ…一回拒否したら、また真っ裸にされて
ヒラリーに、今度は念入りに一晩中かけて根こそぎ精気を舐めとられたんでもうこりごりだし、
実際の話、私にはそう言う趣味がないから気持ち悪いだけだしな 」
そうか…同じ変態ではないんだって少し安心した。
「 それと、このピコハンはさ~ 」
そういって、再びピコピコハンマーを取り出して僕の目の前で立てる。
「 こいつはさ、見てくれはアレなんだが結構凄い武器なんだ。
ベスの秘宝とやらで高いレベルの敵でも
光の粒子にまで分解できる何とかって言う効果の入ってる優れものなんだよ。
私の能力が極端に落ちているんで護身用に持たせてもらってるんだ。
人が振れるほど軽いし…まあ、格好は悪いんで背中に背負っているけどさ。
きっと、玩具の私に何かあったら大変なんで持たせてくれただけだろうけどね 」
そういえば、かなりフランクになったなこいつ
こんな風に自然に話す奴じゃなかったんだけどなぁ…
「 はあ、そうかい…なんか変わったなリンド
そういや、あんな名前だったんだ。 」
「 んな訳無いって、ベスとヒラリーの名で、ここの地名のグランドを挟んでいるだろう?
つまりは、リンドはこのグランドの地にいるベスとヒラリーの持ち物だって意味。
もう、なんか物扱いだよね。」
リンドは昔の様な真っ赤な目でおどろおどろしい部分はすっかり無くなり、
陰鬱な言葉使いや馬鹿みたいな自信家みたいなところもすっかり無くなっていた。
話に聞く限りではベスとヒラリーとやらに散々なぶられて調教されたのが効いたのだと思った。
生意気な子供を調教するのとおんなじだ…やり方は感心しないけど。
ま、でも、こっちの方が僕にはいいけどさ。
「 ところで、僕ってどうなるんだ? 」
「 なんも…、ここはただ転生するまでの退屈な世界さ。
敗者復活で人生をやり直すための間に存在する世界だな。
他の世界だと…大体200年以上は軽くその世界で生きられるけど、
ここは精々30年ってとこ。
新しく生まれる生命が優先なんでキャンセル待ちがそのくらいだからな。
そうだなあ、信二。
お前の世界で言うところの、自給自足が出来る田舎の大したことの無い国ってところだ。
信二には、村で牛でも育ててもらう事になると思うぞ、
最近、そこの爺さんが転生してだな管理人の私が面倒見てるからちょっと大変なんだ。
信二が継いでくれれば助かるし…。
まあ、知らない仲じゃないし、
どうだ?一緒に暮さないか?前の時みたいにさ。 」
え?って思った。
確かに一緒には暮らしていたが、俺は病人だったし…の頃は、お前…異形のものだったじゃないか。
今は…確かに別の意味で異形にも見えるけど、綺麗だし…その魅力的だしだなぁ…
「 ふ~ん、いやなら一人で暮らすのか?
寂しいぞ一人って…わ…私だって独り身だからいいだろうが!
それとも、私だと嫌なのか? 」
いや、別に悪いわけじゃないけど…う~ん。
「 ああ~、やっぱり一緒に暮らすわ。でも、その俺男だし… 」
ここ重要だから言っておこう。
こんな、すごい美人相手に理性なんか持つものかよ!
「 はあ?まさかお前…
まあ、お前が我慢できなかったら一緒になってやってもいいぞ。
どうせ暇だし、同性のヒラリーに一晩中、体中舐めまわされるよりよっぽどましだ。
わたしだって、そ…その性欲ぐらいあるしなぁ…
うん、うん、その方が健康的じゃないかな? 」
思いもしない答えが飛び出してきた。
異形でも性欲ってあるのかいな?
「 いや、お前…その、結婚とか出来るのかよ? 」
結婚って言ってるけど平たく言って、Hが出来るの?異形とさ…ていう意味だから。
「 な…結婚だと?信二さ~
それ…一応さ、出来るんだよ死んだからさ。
で…でも、手も握って無いし…キスもしたかとないのにけ…結婚とか…。」
なんだか恥ずかしそうに答えてきた。
確かに、リンドが僕の家にいた時にはそんな事は一切無かったからな。
「 いや、お前さ~そんな物凄い可愛くて綺麗なのと一緒に住んだら、
手を出さない方がどうかしていると思うよ。
何といっても、今健康になったみたいだから…男なら普通にしちゃうだろ?
それはそうと…僕は承知の通り病気だったけど、
そう言うのは13の時には経験しちゃっているけどお前はいつ? 」
失礼かなって僕は思ったけど、
一応、昔は完全な異形だったし年齢だって良くは分からないけど
かなり年上だと思っていたから知っておいてもと聞いたのだが、
リンドの答えには閉口してしまった。
「 へええ、凄いじゃないか…わたしはその、異性とは付き合った事が無い。 」
消え入りそうな声だった。
「 はああ? 」
人の魂を、回収するような異形が処女…って…
「 経験どころか、手も握った事は無い。
で…でも、し…心配するな…い…一応は知っているさ。
その、お前の部屋の箪笥の引き出しの一番下の… 」
くあああ、それって僕の御宝本じゃないか…しかもバリバリの洋もの。
あ…赤毛の外人さんも載っていたんじゃないか?あれ。
「 でっかいあれが…お…女の…
結構刺激的だったぞ…いつも隠れて見ていた。
その、なんかちょっと怖かったけどな… 」
そう言うと、みるみる頬が赤くなって、そっぽを向いてしまった。
しかし、
僕に隠れて、真っ赤な瞳孔もない異形のリンドが毎日エロ本?
なんか信じがたいが、この態度を見ていれば事実らしい。
その時初めて分かった…リンドも僕の事をなんとなく意識していた事を。
そして、泉には偏執的ともいえる愛情を、
どす黒く練り込むようないびつな形で向けていたけど、
リンドには、異形で恐ろしい存在ではあったけども、
綺麗な女性として見ていたかもしれない。
思い出して行くと…僕もリンドには興味があったんだ。




