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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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川上 美智子の場合 ~死にたくない~

  いくら過ぎ去った出来事は、指一本も事実が変えれないというのは分かっていても

 目の前で繰り広げられた胸糞悪い出来事に何もできない自分が情けなくなってくる。

 

 どれだけ泣き続けても何も事情が変わらないのは分かるが、

 目の前で無邪気に笑っている自分がこれからどんな運命をたどるか知っている。

 

 現実は化け物の両親とも知らず、

 この先…今の今まで抱いてた幻の両親を夢見て生きていくのかと思うと悲しくなってくる。


 そんな思いを体に抱くと、降る雪も解けるほどの激情に狩られて長い間泣いた。

 喉は枯れ、強張った筋肉が体を痛みつけるようになっても

 しゃくりあげ、冷たい床に座り込み衝立のソファーの背を爪で何度もひっかいた。


 やがて、それも終わり少し落ち着いたところでジャニスが声をかけてくれた。

 私の気が済むまでずっと待ってくれたんだろう…


 「 大丈夫ですか? で、どうでしたご両親に会ってみて 」


 きっと私を気遣って、優しく穏やかな声でそう言ってくれた。

 

 あたいは、今までずっと気になってどうしても知りたい事があった。

 それはさっきまでの出来事で更に知りたくなった。


 私は必死に流れる涙を指で振り切って、鼻水を袖で拭きながら頑張って尋ねた。


「 ジャニス…あんたなら、さっきの馬鹿達ってこの後どうなったか知ってるでしょ? 」


 そう、それは私がずっと知りたかったこと。

 私が、これだけ人とは違う道で苦しんで生きてきたのに両親はどうなったのか

 聞かないほうがどうかしてる。

 あんな両親と知ったから語気が歩く馬鹿達ってなったけどさ。


 ジャニスは…天井を見上げふっと息をついて

 言い淀みながらも私にその答えを話してくれた。 


「 え…ええまあ…知っていますわよ。

 実際に今…さっきまでいた私たちの時間軸でのご両親の現状まで見てきて知っていますわ。


 まず、この後ご両親は半年後…あのお母様が…男を作って駆け落ちってことで別れます 」


 それは、あるだろうな…別に驚かない。


「 お父様の方は、その後…一念発起して20で高校に入学、29で大学を卒業 」


 はああ?


「 起業して…立派なお屋敷に住んでますわ。

  それはそれは大きな家でしたね…1億はかかってるんではないでしょうか建物だけで

  それに庭も広くてプールもあって、外車を数台お持ちでしたね。

  

  家族は美しい奥様に、子供たち。

  別荘で夏休みにテニス、冬にはスキーって感じで仲睦まじく

  それはそれは幸せそうでしたわ 」


「 成功?ふざけんな!なんだよそれ! あのババアの方は? 」


 思わず怒りで言葉に出して叫んでしまう。


 ジャニスは、今度は大きくため息ついた。

 

「 お母様の方は、その後駆け落ちした相手から金を吸い上げた後失踪し… 」


 ろくでもないなあの化け物


「 いろいろありましたが、最後にはお母様の方は玉の輿に乗りました。

  男扱いが上手くなっていましたわよ…凄く

  それで、捕まえたんでしょうねぇ…今では子供たちと何不自由なく生活されておりますわね


  おうちもご立派でしたし、メイドさんもいて凄く優雅な生活でしたわ 」


 あたいは、その言葉に更に目を丸くした。


「 はああああ? 自分らの都合でぼろ雑巾捨てるみたいに私を捨てておいてさあ!

  それが今じゃ何か?

  子供に囲まれて幸せにっやってるってなんやそれ!


  あたいが孤児でどんだけ嫌な思いや、苦労して… 」


 あたいの頭に一瞬にして施設時代の嫌な記憶が蘇る。


 勿論、悪い事ばかりではなかったが普通の子には無い嫌な思い出が五万とある。

 見もしない両親を夢見てどれだけ枕を濡らしながら寝たり、

 人に言えないような辛いこともたくさん経験して

 真理と一緒に、嫌な事ぶちまけながら寝た事やら数えきれない。


「 こ…殺す…殺してやりたい 」


  テレビや映画で捨てた両親との出会いとの葛藤しつつも、

 捨てられて苦労した筈の子供が大泣きしながら抱きつくシーンがあるが…

 そんなのは、物語の話だけだ。


 現実はそうじゃない…捨てたほうがいい生活を送っているだけでも腹が立つ。

 いわんや、こんな捨て猫置き去りにする様な所を見たら…殺意しか無い。



 ブロロロ…


 外に車が入ってくる音がした。どうやら見回りから警官が帰ってきたようだ。

 ドアを閉める音、何やら話しながら雪を踏む音、談笑する声、

 ガラガラと交番の扉を開け二人の警官が入ってきた。


 見えるわけではないので、あたいとジャニスは二人の方を自然とみる。



「 ああ、これって捨て子じゃないですか? 」


  若い警官の方が、赤ん坊の私を見て驚いて声を上げる。


「 んなもん、見りゃあ分かるよ。

  それより早く戸を閉めな、外の寒気はよくねえからなぁ 」

 

 年配の警官は、若い警官に指示しながら赤ん坊のあたいに近づいてくる。


 そして、優しくゆっくりと抱き上げてくれた。


「 生まれて…数か月ってとこか…首は座ってるようだからな。

  しかし、えらい汚いおくるみさんだなあ、病気になっちまうじゃねえか 」


 そう言いながら汚いタオルケットを少し剥ぐ。


「 名前とか分かるかなと思ったが、無いわなぁ… 」


 年配の警官は少し悲しそうな顔をしたが、


「  とりあえず署に連絡してだな、ついでに児相にも連絡入れよか 」


 固定電話で若い警官が連絡をしている間


「 そういやぁ、交通課の三宅さんが今日は当直で居る筈だから面倒見てもらおうかな。

  彼女、子育ての経験豊富だから応急で処置できるし相談所待ってるより早いから 」


 署に電話をかけている同僚に警察署に連れていく旨の指示を飛ばす。

 連絡が付き、同僚が頭の上で丸を書く。


「 なら、一刻も早くいこか…腹も減ってるだろうし…

  しかし、死体で川や公園に放置されんだけ幸いだったわ。


  折角、生まれた来たんだから普通に死ぬまで生きていかないといけないし、

  大きくなるまでは、大人の俺たちがちゃんと面倒を見てやらないかんしな 」

 

 年配の警官はそう言って安堵のため息をつく


「 交番の中が 」


 あちこちソファーの移動で散乱した交番の中を見回しながら若い巡査がそう呟く。


「 おいおい、人の生き死により大事な事あるか? そんなん後回しでいいわ。

  なあ、嬢ちゃん?かな… 」


 あたいが、まだ笑いながらその警官の指を握った。

 多分、反射だろうが警官二人の顔が急に和んだ。


「 そうすね、そっちが一番先ですね。

  三宅さんに連絡を入れておきましょうよ…ミルクや換えのおむつとか…どうしよかなぁ 」


「 大丈夫さ、署にはそういう備品も置いてあるし、

  電話一本で準備に来てくれる知り合いも多いしな。


  おっと、こんなおくるみじゃあ可哀想か… 」


 警官は、カビ臭いタオルケット外すと若い方の警官が

 そっと、ロッカーから暖かそうなダウンジャケットを取り出して渡した。


「 おい、これお前のじゃあ… 」


「 いいですって、その方が暖かいし…それより急ぎましょうよ。」

 

「 ああそうだな。 」


 そういいながら、二人の警官があたいを抱いてまた凄い勢いで、ミニパトで出て行った。



 後にほ、あたいとジャニスが残された…




「 どうです…まだ、生きていてもしょうがないですか? 」


 ジャニスの言葉が胸に響く。


 腐った両親を見たのはショックだったし、今は私とは関係なしに

 幸せな生活を送っているという事に、

 理不尽な物を感じて、なぜあたいが死なないかんのや!って気になった。

 少なくともそれは却下かな…


 それに、

 あたいを急いで警察署まで届けようとする赤の他人の警官の姿を見て、

 自分が誰かに助けられながらこれまで生きてきた事を思いだした。


 里親が見つからず、一人でぼけっとしていた時に、励ましてくれた禿の所長。

 結局、施設で暮らす事になって、甘え半分で反抗して困らせたワーカーの皆。

 でも、諦めず何度もしつこいぐらい話し合って仲良くなったし、


 実は、OBっていう調理の叔母さんには、

 給食のほかにポケットマネーで皆にお菓子を配っていたり、

 贅沢な物は出ないけど美味しいものを作ってくれた。

 小学校の遠足の度に準備を手伝ってくれた先輩たち。


 学校の先生や、同級生も何くれとなく声をかけてくれた…

 そりゃあ、汚い言葉で罵られる事もあったけど青い顔で謝ってくれた。


 そういや、商店街でラーメン屋のおっちゃんや食堂のおばちゃんに

 アーケードの中で声かけられて真理と一緒にご飯を奢ってもらったけ…


 んで、あたいらが中学に上がるころには下の子をよく面倒見ていた。

 お姉ちゃんありがとう…って無邪気な顔でお礼を言われた時は

 体中がこそばゆかった。

 初めて、支給金を貰った時は金額が僅かだったけど嬉しかった…


  真理と一緒に、今思えば結構、お金を使わずに町をブラブラしてたっけ。

 施設で18年…真理だって10年は入っているんで、

 町の人とも知り合いが多くなったし…お金が無くても結構遊べたような記憶がある。


 施設を出て、就職口が見つからなかったけどバイトだって、

 面接に行って落ちた事は一度も無い…

 真理は何とか町工場に就職できたしそれで彼氏だって出来た。

 あたいは…ずっとみんなに。



「 なんだ…あたい。いっぱい皆に大切にされてたじゃないか… 」

 

 思わず声が出た…。


 さっき腐った両親に怒りを覚えて流した涙と明らかに違う暖かい涙が流れてきた。



「 まだ、生きていてもしょうがないですか? 」


 再び、かすれた声でジャニスがあたいに問い詰めてきた。


 あたいは…もうこう答えるのが本当だと思った。



「 いやだ、死にたくない。」と。


  あたいが生まれて初めて”死にたくない”って答えを吐き出したところで、

 ジャニスは、私を笑顔を迎えながら優しく抱いてくれた…。





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