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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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完全な脅し

  考えたけど、それしか答えがない様だ。


「 分かりました…どういう風に転んでもそれが一番の選択のようですね。

  それはそうとして、記憶を消すって言ったのはどういう意味ですか? 」


 お兄さんは、間を置かず質問している。

 

 私を含めた6人は、死なずに済むということで少しは安心し

 先程までの死の淵にいた時と違い青白かった顔も今は精気が戻ってき始めて、

 お兄さんの質問にも耳を傾けていた。


「 そうですねぇ…私に回収されて行く人には新たな未来を一から構築する訳ですから

  記憶は必要ないんで邪魔なだけですし消すしかありませんわね 」


 転生って…漫画みたいだけど、奇跡の連続でマヒしてる私たちには受け入れるしかない。

 それに、前世の記憶が残ったまま転生なんて

 転生先の人たちに比べて不公平すぎるものね…納得。


「 それで、僕らは? 」


「 貴方達の場合はもっと必要ありませんわね

  ただし、この先も生きていくんで前後の記憶だけ削除します 」


「 でも、今この飛行機に…起きてしまった事象の改変になりますが… 」


 お兄さんの高度な質問の答えはあっさりと出た。


「  ああ、それに関してはこの事故内容ですから多少細工して乗れなかったということにします。

  

  原因はそうですね~誘拐されたとかどうでしょうか?

  または車の故障、時間間違え…とか

  なんでもいいですけど搭乗ゲートに入る事が出来なかったというのがいいですわね


  それに関する記憶も適当に見繕ってインストールします 」


 天井を見上げ、指を振りながらジャニスは答えた。


「 あの~、見送りに来た人とか空港職員とか、防犯カメラとか…通話記録とか

  物凄く搭乗の証拠や記憶があるんですが。

  それに乗れなかったって言うことの証明に関する事も膨大なんですが…  

  そんなこと可能なのですか? 」


 お兄さんは首をひねりながらジャニスに質問する。


「 大したこと無いですねぇ、時間を巻き戻すことに比べればゴミみたいなものですわよ 

  起きてしまった事象の改変はパラドックスに引っ掛かりますが

  全て記憶と認識の阻害及び改編で何とかなります。


  実際に起きていなくてもいいわけですから簡単ですよ。

  現状の記録、記憶に関して全て上書きの術式を… あの~理解できます? 」


 全員がぽかんとした顔になった。

 言っている意味は分かるが、詳細な内容を飛ばすんでいまいちピンとこないのだ。


「 ははは、ここは手法を聞いてもしょうがないか…無問題でできるってことですね 」


「 うんうん、そう理解していただくとありがたいですわ 」


 ジャニスがにっこり笑うと、シャクナゲの花のようで美しいが

 これは少し馬鹿にしてるなって…感じる私



「 僕らの保護と処置って…使命の意味は?

  今の話だと、僕らはこれからも生き続けることになるんですが具体的には? 」


 そうだそれ


「 う~ん…説明しても意味ありませんね…未来に関しては変数ですから。

  ただし、ある目的のため最低限10年以上は存命していただかないってことですかね。

  目的に関しては話せませんが…


  自殺は出来ない様に意識に刷り込んでおきますし、

  許されるだけの身辺の加護も付与しておきますから逆に言うと10年は死ぬことは絶対にできません 」


「 10年か… 」


  ため息交じりに何人かの声が聞こえた…何?その前に死にたい人いるの?

  目的って何だろう?って思うほうが普通なのに…

  ま、この電柱答えてくれるって思えないけどね。


「 ということで今の記憶なんか無駄でしょ?無かったはずの枝分かれした未来を歩む訳ですから。

  いや待ってね… ただ、時間軸を逆行せず、事象の改変ですから…

  これが本来の道筋かもしれませんけどね。 」


 言っている意味を直ぐには理解できなかった。


 しかし、確かに今のこの記憶など無駄だ。

 同じ機体にいる人が大勢死んで、自分達だけがって言うのは、

 記憶があれば確かに発狂するほど罪悪感に苛まれるけど、

 全く記憶で無くなるのだから罪の意識も残りはしない…死んでいく人に申し訳なく思った。


「 そ…そうですか。

  下手に記憶があれば 、罪悪感も相当酷いですから… 」

 

「 で…でも。

  さっき、時間を巻き戻せるっていったでしょ?

  私達の記憶が残して時間が巻戻れば飛行機を止めたり、乗る人を… 」


 泉ちゃんが思いついたように、突然、話に割って来る。

 そりゃそうだよね…でも、ごめん、それ最初に考えたけど…多分、無理だから。


 ジャニスは少し驚いたようだったが、未熟な子供に諭すような言い方で答えた。


「 お嬢さん、

  一応言いますけど私に何のメリットがあります? 今やってるのは仕事ですのよ… 」


「 ひ…人の命… 」


 私は頭を抱えた…誰に言ってるんだと。


「 は~人間みたいに私が見えるのだからそう思うのでしょうけど…別の存在ですのよ。

  人に命って言ってもね~特に思うことは無いですし、


  大体、転生するんだから…それにね魂を持っていく死神に命乞いする人いませんわよ~ 」


 そこで笑う顔はちょっと怖い…忘れそうになるが彼女は人間ではないのだ。

 それに彼女は仕事のために来たのであってボランティアでもないし

 助ける義理も美学も持ち合わせているわけがないでしょ…


 

「 まあ、それでも一応答えましょうか…

  時間の巻き戻しとか停止というのは狭い空間でしかできないんですよ…

  限定しないと無限に広がる宇宙全体をってなるでしょ。


   それに私の力なんて…精々半径100メートルがいいところですし

  停止なら、3日間ぐらい持続できますけど…逆転なら1時間がいい所でしょうね。


  時間を巻き戻しながら乱気流を収めることはもっと無理ですね 」


「 能力の限界だと… 」


「 そうそう、飛行機に乗っている乗客全員が離陸してから数時間…っていうのは、

  いくら私でも能力的にもできません…不可能ですわ 」


 ジャニスの能力の限界とか知るわけがなかったので

 これは大事な情報だ…無制限に使える能力ってわけじゃないってことは分かった。


 しかし、そういいながらもジャニスの顔は少し悲しげにはなった。


「 同じ種族なら私も同じ気持ちになりますが、物理的にも無理ですので納得してください。

  そうですわね…お別れを言うぐらいしかないんじゃないんですか?


「 うう… 」

  泉ちゃんは、その言葉を聞いてすぐそばの幼い女の子の方へ駆け寄って

  必死に頭を下げ出した。


「 ごめんね…ごめんね… 」

  終わりが無いのかって思うぐらい謝っている…涙が床に落ちるほど溢れている。


「 若い貴方には辛すぎるかもしれませんが、

  この飛行機が落ちて犠牲者が出るのは、確定事項なんですわよ… 」


 冷たい言い方にも思えるが、もし、ジャニスが来てくれなければ

 有無を言わさず全員海の藻屑になっていたんだ。


「 ほやな…、起きた惨劇を止めることなん出来る訳ないもんな。  

  か!まるで、安いSF小説みたいにやな何の救いもあらへんのや。」


  脂ぎったおじさんが悲しそうに赤ん坊を抱いているお母さんを見た。


「 あたいら…生き残っていいんか? 」

  

   先程まで成り行きを見ていた20ぐらいの女の子が

  彼女の隣席の時間停止で固まっている老夫婦を悲しそうに見やる。


「 あたいなんか、親にも捨てられたし、兄弟もいないわ。

  泣いてくれる様な親しい人もおらへんし、

  生きながらえてもいいことなんか今後もないんや。


  それを子供とか孫とかいっぱい泣いてくれる人がいそうな

  いい爺さんや婆さんが助かったほうが皆にはいいことなのに 」


  そう言うと若い女の人肩を落として俯いてしまった。


  私の目から見ると、

  結構、けばくてやんちゃそうに見える女性だけど…キツイなあそれ、

  その若さで生きていてもって言葉は…

  でも、私だって小さい子や若いお母さんなんか見れば、

  なんて言っていいか分からない…胸が張り裂けそうだ。

  

  ジャニスを持ち上げた若い男は、やりきれない顔で周りを見渡した。


「 やりきれんな~俺…こいつらと死んだ方がいいんじゃないか?

  これで生き残るのって辛い感じが… 」


  その言葉にジャニスは眉間に薄い筋を浮かせて、こう言った。


「 駄目ですわよ…

  貴方達全員を保護、決まった時間軸に送り返すのが私の仕事ですから。

  いやなら、この場で帰りますけど? 

  報酬は目減りしますけど、同意がなければどうにもなりませんし。」


  完全な脅しだ。

  ジャニスはこともなげに眉一つ動かさずに若い男に話した。


「 …しゃあないか。

  それだけは最悪だからな…従うよ。

  少なくとも皆、痛みも無く他の世界へ行けるらしいからな。 」


「  そうか、生き残れるのは決定か。

  回収される皆には、ほ…本当に悪いけど…

  ふ…不謹慎だとは思うけど…また、家族に会えるんだ…一緒にまた…ぐうう… 」


   お兄さんは、声を殺して泣いた。

  一気に緊張が緩和し同時に家族に会える自分と、

  他の乗客の様が死んでいく事で胸を痛めたのだろう…


  しばらく沈痛な時が…流れて行った。









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