室長
真っ裸で、鎌と話し始めたジャニスさんは傍から見ると少し奇妙な光景だが。
ジャニスの顔は少し緊張しているように見えた。
やっぱり、上司ってどこの世界でも部下にとっては苦手の存在なのね…
「 ジャニス君、君は確かこの間のソードとの戦いで派手に傷ついて
今は、治療を兼ねた休暇でいつもの旅館にいるはずだろ?
仕事以外には決して連絡よこさない君が休暇中に連絡ってなんだよ?
は…
おい、まさかまた…余計な事に首突っ込んで何かやらかしたんじゃあ… 」
で…電話機なの?その大鎌って。
「 いえ、別に何も…って遊びに来てまでドジ踏みませんて!
ちょっとしたお願いですわよぉ。
それと、
今、折角、横にヒルダさんがいますけど、何か話しますか?室長… 」
そうジャニスが言葉を放つと少し沈黙が流れた。
ジャニスは、半笑いして女将さんはニコニコして沈黙を楽しんでいるようだ。
「 あ…あ、そう?元気にしてますか…ヒルダさん 」
さっきまでの渋い声がちょっと少し声のトーンに変わった…
なにか緊張しているようだ。
「 ええ、ありがとうございます御蔭で、みんな元気にやってますよ。」
女将の方は、まるで平静そうだった。
「 そ…そうですか。それは良かった… 」
そのすぐ後に安堵のため息が聞こえてきた。
「 と、ところで…え…えほん! ところで、何の用だねジャニス君。
折角の休暇だろう? 」
少し、動揺をしているようだったが咳払いをした後は、落ち着いた元の声に戻った。
「 えっと、友達が出来ましてですね…その、行動範囲制限を少し緩和していただけないかと…
そうですねえ、この町…全域ぐらいまででいいです。
軽い登山や、麓の町で遊ぶぐらいしたいし。 」
ふ~ん、ホントに友達付合いするつもりなんだ…
でも、行動制限がかかっていたのね、人間じゃないんで当たり前か?
いやでも、この町の人はさっき町中を自由に行き来できるって言ってたんじゃあないのかな。
「 ふ~ん、友達ねえ…ま、いいか。
折角の休日だし、ソードに結構切られまくった怪我も治るのには時間もかかるし
暇ももてあそんでもなんだから…誰かと遊ぶのもいいか…ヒルダさんもいるし… 」
切られまくった?
目の前のジャニスの体にはミミズ腫れ一つもない綺麗な裸体だし、
動きに違和感のあるようなところは無かったんだけど…
「 まあそれに麓の町の人は、旅館でジャニスに会った事もあるし、
近くの幼稚園で園児と遊んだりするから結構、有名人だし逆に大丈夫か…
条件はそうだなぁ、当然、凶器の様な鎌を持ち歩くのは禁止。
何かあったらいけないので礼二君か、
ヒルダさんの手の者が同行することぐらいか…それが守れるなら、別にいいよ。 」
考え込む訳でも、他に連絡する訳でもなく即決で、上司が返答してきた。
「 ゆる~い条件ですね。 」
気の抜けた様な感じでジャニスが返す。
「 まあ、何かあっても君より頼りになるヒルダさんがいるしな。
君の口から友達って言葉を聞くのも久しぶりだし。
いいよ、楽しんできなさい、久しぶりの休暇なんだから。
ああそうだ、
丁度、オーバランデルの収穫期だったな…ジャニス君、必ず買ってくるように。
それと分かっているなぁ…桜神楽も忘れるなよ!以上。
それでは、ヒルダさんさようなら… 」
プツと小さな音がして、声が消え小さなブザー音に変わる。
「 酒の…心配の方が心配かよ室長… 」
ジャニスは、呆れたように鎌を摩ると、そのブザー音が消える。
まるで、電話の接続停止のボタンを押したのに似ていた。
その時、女将さんが苦笑いしながら呟いた。
「 相変わらず部下に甘いですね、そんなんだからいまだにあの部屋で… 」
女将は、ちらりとジャニスを見る。
「 はは、でもこんな大きな問題児いますから…無理ですか。
しょうがない、私がちょっと保険打ちますかね…ジャニスさん、その舞踊の鎌は没収ね 」
「 え? 」
「 ヒルゲ! 」
女将が小さく叫ぶと、大鎌が女将の手に飛んでいく。
「 バルケ! 」
女将はそう叫ぶと、凄い勢いで大鎌を夜空に放り上げる。
鎌は中空で凄い勢いで唸り音を上げて回転して上昇する…
「 凄…、10メートル以上上がってる… 」
思わず声を上げて見上げてしまう。
流石、人外…私より背が低くて華奢な女将からは想像できない力だ。
強い月明かりの中、刃物の部分が煌めく…
えっと…なかなか落ちてこないなぁ…あれ小さくなってるの?
鎌はゆっくりと落ちてきて、女将の手のひらに入るころには、
5センチくらいのアクセサリーの様になっていた。
「 相変わらず、すごい能力ですねぇ…詠唱も一言だけだし 」
「 そう?大したことでは無いわ。
ちゃんと保管しておきますから、安心してくださいね。
これさえなければ、
ジャニスさんは、初級能力と巨体のパワーだけですから…ほほほ。」
女将は、手を口に当てて笑った。
「 巨…そんなに力ありませんけど… 」
「 リンゴをジュースにしたり、
素手で猪を絞め落としたり、片手で大柄な高校生を吊り上げたり、
この間なんか、ここで同じ次元の大男が酒に酔って絡んできたのを、
ビンタ一発で5メートルも吹っ飛ばしておいてですか?
そういうの…怪力って言うんです 」
「 う…いや、まあ、そうですね。」
ジャニスがポリポリと頭を掻いている。
「 そうだわ、もう持ってきたランデルが飲みごろですわ。
小さなテーブルと椅子ならそこにありますから使ってくださいね。」
そう女将が、屋外にあるサウナ室の脇の方を指で差す。
ABS樹脂性の白い椅子と、
ガラスをはめ込んだ金属製の机がそこに有った。
え~と、さっきは見かけなかった気がしたけども…
女将さんは持ってきたお酒のバケツを再び、床から持ち上げて
そこに置いていってくれた。
「 それじゃあ、楓さん、ジャニスさん先に行きますね。
それと、脱衣場にバスローブを持ってきているので湯冷めしそうなら、着用してください」
そこまで言って、笑顔で去って行った。
後姿を見送ったが、このままでは本当に湯冷めしそうなので、
バスローブを軽く羽織って二人で座った。
「 何か…不思議ですよね。
驚くような展開なのに…何も不安が無いて言うか… 」
実際、不思議には思うが恐怖心も無く仲良くなれそうな気までしてきている。
まるで、暗示にでもかかっているかのように。
「 現実になると、そんなもんですわよ。
でも、細かい事は後後、今夜は飲みましょう。
初めてでしょ、この御酒は。美味しいですわよ! 」
ジャニスは、氷でキンキンに冷えたグラスを取って私の前に置いた。
そして、
冷えて水滴の浮いたボトルを開けて、
赤紫のややルビーがかった液体がグラスに注がれた。
初めて見た…ワイングラスのエッジになみなみていうの…
「 ジャニス…さん。注ぎ過ぎです!これ…アルコール度数は? 」
「 は?23度ぐらいかな。
他のお酒なら喉焼くぐらい高いですけど、大丈夫ランデルは優しい味で
赤ワインより飲みやすいですから。 」
23度…焼酎並み…このグラス大きいから350ミリぐらい入るのかしら。
えっと、日本酒換算でこれだけでさ…三合!
「 ちょ…お風呂の中ですよ?倒れるんじゃあ… 」
「 あ…そうですね。なら、
ビルヒデル シャーコオ …っと。」
ジャニスはまた、私に向かって呪文を唱えた。
「 さ~これで、大丈夫です。酔っても体に異常が出ない様にしましたわ。
一度飲んでみてください。美味しいですわよ! 」
「 へ~便利なもんですねぇ…。でも、ジャニス…さんはいいんですか?
これ飲んで、日本酒…今飲んでるでしょ?
ちゃんぽんですよ…いくら…えっとどういう存在なんでしょうか? 」
私はジャニスの事はなにも分からない。
これから、あのヒルダとかいう女将さんとの約束でこれから
暫く一緒に遊んだり、相手をしなくちゃならない。
最低限の事は知っておかないと、
こんな簡単な会話も詰まり気味になっちゃう。
「 ああ、お酒に関しては心配しなくてもいいです。
ウヲッカをリットル単位で飲んでも大丈夫なように出来てますから。
それに、呼びづらそうなんでジャニスって呼び捨てでかまいません。
私もみつきって呼び捨てにしますからね。
私が何者かって質問は、非常に答えづらいです…
一応、この次元では死神の伝承に最も近いんで死神だと思ってもらってもかまいません。
でも、一つだけ釘を刺しておきますわよ。
悪魔や妖怪と同一視する人がいますけど、全く違いますからね!
神様ってのに近いと思いますわよ…昔は実際呼ばれていたし。
まあ、ヒルダさんに舞踊の鎌を没収されたんで、
能力は初級レベルなんで、大したことはもう出来ませんけど… 」
酒で体を崩さない様にするようなのが大したことじゃないの?と思ったが、
自分を神様に近いという死神もどき?だっていうぐらいだから、
レベルも価値観も違うんだろう。
死神ね~見えないんですけど…
こんなダイナマイトなボディの死神ってピンとこないなぁ…。
伝承が近いって言ってたけど、どの部分が近いのか分かんないし。
「 へええ、神様を呼び捨てねえ、良いんですか?ジャニス!で 」
「 ええ勿論、じゃあ、乾杯でもしましょうか。
お友達になった記念ということで…ね。 」
正直、ほんの少し前に会ったばかりなのだから…友達って抵抗はある。
でも、知らない世界に、長逗留しなけりゃならないし、
その間は、この死神もどきと付き合っていかなくてはならない。
まあ、おかしな人…ではあるけれど、
ジャニスは、ここの女将と懇意そうだしいろいろと役に立ちそうだし、
しゃべった感じは、人のいい天然さんだ。
死神だろうが、なんだろうが、友達になって損はなさそうに感じた。
「 二人が友達になった記念に、乾杯! 」
お互いになみなみのワインがこぼれない様に優しくゆっくりと乾杯をした。
「 お…おいしい。 」
ランデルっていうこの酒は、
フルーティーなライトボディの赤ワインの口当たり…
シードルの様な鼻に抜ける梨の様な匂い…
舌を滑り、喉を通り、胃に到達するまでがはっきりと分かる存在感。
そして、多分23度の高アルコール分が胃を温めてくれて
体全体に行きわたる感覚…凄い酒だった。
「 ねえ、ジャニス…これって売れば商売に… 」
思わず抵抗も無く、ジャニスを呼び捨てにしていた




