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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第六幕 罪 ~Punitions sévères~
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エピローグ ~幻影~

  肌を焦がす強烈な光を体に受けながら、

 俺は、大きめの麦わら帽子を目深にかぶってトラクターを転がしている。

夏の牧草地は輝く様な光の反射と熱で

 トラクターにその姿は揺らめく姿となってみえるほどだ。 

 

 咥え煙草で家路に向かっていると、遠くで幸恵がこちらを見て手を振っている。

 18歳で後先考えずに結婚した俺たちだが、

 30を過ぎた今でも後悔など何も無い結婚生活を楽しく送っている。


 中学の時に体育館での幸恵の告白から始まった付き合いだが

 俺はそれ以来、他の誰にも目移りはしなかった。

  

 これからも、俺と幸恵の物語が永久に続けばいいなと、そう思いながら

 ニヤリと笑ってスロットルを吹かす。

 時速30キロも出ないオンボロトラクターだが、少しでも早く彼女の元へと

 それだけを思っている。





  「 なあ、ギーちゃん…これで良かったのか? 」


 ヒラリーはギーディアムと一緒に事務所の机に広がって見える世界を見ながら

 気だるそうにため息をついた。


  「 いいんじゃない?彼の魂は作り物なんだし他も皆、作り物でしょ。

誰の人生にも何も影響は無いし、起こった出来事も実世界には反映されないもの…

   それに、中身のない外側だけの存在だからタダの映像ともいえるわ。


   これから…70年も経って幸恵の番が一生分終わったら瑞希の番になるだけだわ 

   それに、この方法しかないでしょ…

   ベスやジャニス、姉様とも話してこう決めたんだからこれで良かった?

   って聞くなんて可笑しいでしょ 」


 ギーディアムが能力で健二の映像を拡大すると幸せそうに笑っている顔が映り、

 ヒラリーは何か物悲し気に、ギーディアムの方は少し微笑みながらその映像を見る。


  「 まあ…そうなんだが…しかしこれは監禁と一緒じゃないのか? 」


  「 しょうがないでしょ、

    健二がウイルスとしての機能が無毒化されて文字通り煙のように消えるまで…

    彼の望むような人生を再生しなきゃならないもの。

    数万年に及ぶ悪夢の歴史を差し引いてゼロにするにはさ

    出来過ぎご都合主義でもいいから幸せに幸せに過ごさせるしかないって結論でしょ 」


 抑揚のあまりない事務的な口調でギーディアムは話した。


  「 まあ…そうなんだが 」


 ヒラリーは頬杖をついて

 夏の牧歌的な草原、緑濃い山々、眩く光る空の光景を漠然と見ている。


  「 しかし、羨ましい気もするなぁ…現実ではないにしろ精細な夢だもの。

    感覚的には現実とは区別などつかないだろ。


    あたいら死神だのなんだのって言われてる割に

    自分の望むようには世界にも変えれないし運命も変える事などできないもの。


    あんたの趣味の操作もあるけどさ… 」


  「 あたしの趣味って言っても…設定とか自動思考の調整とかそれしかやってないけど 」


   ( そうかなぁ…

     幸恵の衣装とか健二の雰囲気とかギーちゃんの好みそのものじゃねえのか?

     なんだかんだ言いながら…遊んでるなこいつは )


  「 …それに、健二は望んでる未来を体感できるんだろう?憧れるよ 」


  ( 望んでいる通りに進む世界も気持ち悪いがな…と心の中では思うけどな )


  すると、ギーディアムは苦虫を噛んだような顔でヒラリーを振り返る。


  「 ヒラリーさぁ、そんな事言ったら、フェリルが聞いたら真っ赤な顔して怒るわよ。

    彼女は…いや、いいか…あの男と暮らせるなら国も何もかも要らないって言ってたのを

    ヒラリー…あんたは労せず手に入れたでしょ? 十分じゃない 」


 ヒラリーが少し渋い顔をしたが、直ぐに軽く笑って


  「 労せずは酷いなぁ…ちゃんと取り合いして勝ったんだけど…

    まあ、あいつとは確かにいい時間を過ごしたけど…あたいにしてみたら過去は過去だろ?

    それに、あたいは、最近さぁ… 」


  「 知ってるわよ…新しい男でしょ?

    しかも、今は赤目のリンドの亭主じゃない…人の物盗っちゃあフェリルと同じで

    また揉めるだけでしょうに 」


 ( また人から盗る気かい!他人のものは他人のもので諦めんのか? )


  「 しょうがないやん…いい男なんて大概は見つけたときは誰かのものだもの 」

 


  「 当たり前よ、優良物件なんて争奪戦だし早いもの勝ちじゃん。

    でもさぁ…横から盗まれるのって嫌に決まってるでしょ 」


  「 ああ、ハイハイ分かってるってそんな事はさ。

    あたいだって自分のものに手を付けに来る女なんか八つ裂きにしたいもんね 

    そう言う意味じゃあフェリルの気持ちも分かるけどさぁ…

    でも、

    あいつの場合はちゃんと正面切っての奪い合いだろ?フェアじゃんか…


    それに、結局は”魅惑”と”発情”の能力で男誑かして

    毎晩淫乱の限りを尽くしている色キチガイになってるんだし… 」


  「 頭が痛いちゅうねん… 」


   ベスに話を聞いているので、ギーディアムはそれが代償行為って知ってるし、

   命を削ってまで惚れた男を再生しようとしているのも知っている。


   ( なんで、こっち選んだのかなあの馬鹿男ってば )


   不貞腐れて鼻の穴を広げているヒラリーを見ながらつくづくギーディアムは思うが、

   男と女の事は当事者にしか分からないものとも知っているので

   そう納得するしかなかった。


  「 それに、あたいの思う通りに世の中が動くわけじゃあねえだろ?

    羨ましいって思っても当然じゃねえか… 」


   大きく手を頭の後ろで組んでヒラリーが呟いた。


  「 そうかねえ…それが現実でないって分かってもか? 」


  「 人間にしたってあたいらにしたって、感覚で物事を捕らえてるから

    そこを全部抑えちまったら…作り物でも現実に感じるのと変わらないよ…


    昨今のVRなんか、音声と映像だけで一瞬現実に感じるからなぁ…

    事象の実在なんて第三者の視点が無ければ照明も何もできないだろ?

    早い話、

    今全てがあたいの見る夢で在ってもどこもおかしくないって事だな… 」


  「 虚しいこと言うなぁ…

    それって自分が死ねば世界は終わりってぐらいくだらない認識だろが… 


    まあそれでも、何万年も悪夢を見続けさせられた健二自体も同じか…

    魂という形で存在する

    意識を持って認識するものだからな 」

  

   ギーディアムは、止めどない話をされて少しイラっとした。




   大きな樹が見えて来る…その傍に幸恵が立っている。

   そこへ、ゆっくりゆっくりトラクターが近づいていく…


   その姿をヒラリーは何度か見た所で携帯の振動が胸に響いた。

   胸から取り出し時間を確認するとヒラリーは少し驚いた。


  「 おっと、もう時間か…悪いなギーちゃんここでお暇するわ。

    ああ、それと…これってどのくらいの時間続くんだよ。 」


   ヒラリーが立ち上がり椅子に掛けていた赤いコートを急いで羽織る…

   急ぎの用事の様だ。


  「 さあ、数千年はかかるかしら…勿論この中でね。

    さっきヒラリーが言ったように幻想体と健二という名のウイルスが織りなす

    タダの情報なんだけどね… 」


  「  そうか…作り物とはいえ健二は幸せだろう…

    永遠に近い時間の中で気持ち悪いほどの地獄を経験してるんだしその権利はあるだろう。

    例え認識という名の情報だけだとしても

    望む内容の人生をこれからは好きなだけ見られるんだから 」


  ヒラリーはこれが最後とばかりに健二を見ると、

  それは形容しがたいほども満足した顔だった。



  



  

  納屋が見えて来た。

  そこで幸恵は娘の愛里をあやしながら片づけをしている

  

  いい笑い声が俺の乗るトラクターまで響いて来る。


  ああ、生まれてきて幸せだなぁ。


  大空は晴れ上がり、納屋の横の大きな樹の影から

  光のシャワーが入って来て、

  ふわふわとした草花が燃え上がる様に白く輝いていた。



  

   


  





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