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【9.5万pv感謝】念動魔術の魔剣使い -大切な人を護り続けたら、いつの間にか世界を救う旅になりました-【第六部】  作者: 雪白ましろ
第二部 ダンジョン編

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9話 再びの出会い

十層の空中階段を登った広間にレルゲン達はいた。


「牽制します!」


セレスティアがマルチ・フロストジャベリンが空中を優雅に飛んでいる鳥型の魔物、ヒュージ・スワンに向けて放たれる。


しかし、大きな体躯とは思えない俊敏な翼捌きで全て回避し、セレスティアに向けてテンペストに似た風の刃を無数に発射してくる。


すかさずレルゲンがセレスティアとヒュージ・スワンとの間に割って入り、矢避けの念動魔術で軌道をずらし、少しの間膠着状態が続く。


やはり空中にいる魔物には念動魔術で無理矢理に肉薄するか、遠距離攻撃で徐々に削っていく他ない。


この五段階目の十層の中ボスクラスのヒュージ・スワンはそれだけではなく、翼や体表に鱗に似た硬い羽を有しており、攻撃が当たった時は瞬時に傷ついた羽を落として、新しい羽が内側からすぐに生えてくる。


何とか動きを止めて地面に叩き落とし、下で待機しているマリーに重い一撃を入れてもらいたい。


レルゲンは念動魔術で空へと飛翔しヒュージ・スワンの後ろにつける。


「ウィンドカット」


ヒュージ・スワンの真後ろから放たれた風魔法は連続して羽や尻尾付近に当たったが、威力の低い魔法では見向きもしてくれない。


「やはり火力が足りないか…!」


今度は黒龍の剣に魔力を込めて斬撃を飛ばそうと構えると、危険を察知したのか急旋回しながらマリーとセレスティアに向けて下降していく。


これでは黒龍の剣による遠距離攻撃は使えない。


(こいつ、俺が仲間が延長線上にいて打てなくなる事を理解しているな…!)


「マリー!セレスを頼んだ!」


「任されたわ!お姉様!タイミングを合わせましょう」


「ええ、行きます!」


二人の魔力が溶け合うように混ざっていく。

完全に混ざり切った後に、二人同時に突進してくるヒュージ・スワンに向けて叫ぶ。


「「ユニゾン・テンペスト!」」


二人の神剣と神杖が重ねられ、魔力の高まりと一緒に共鳴しながら、風の上位魔術であるテンペストを遥か凌ぐ威力にまで昇華された遠距離魔術が放たれる。


これを辛くも躱しながら速度は落とさないヒュージ・スワンは、近づくほど攻撃密度が上がっていくユニゾン・テンペストに体中切り裂かれていく。


突進の勢いがだいぶ弱まったところで、マリーが足に魔力を集中させ、念動魔術による空中浮遊を併せて使用してヒュージスワンの首元へ神剣を薙ぎ払う。


しかし、急所だからか、羽が集中しているからかは定かではなかったが、神剣の切れ味を以てしても断頭するまではいかず、軽く鮮血が散っただけだった。


「惜しい…!」


「大丈夫だ、間違いなく二人の攻撃は効いている。一気に叩こう!」


「ええ!」


「はい!」


ここで空中で肉薄していく二人目掛けてヒュージ・スワンが大きく羽ばたき、鋭い羽を飛ばして牽制してくる。


これを矢避けの念動魔術で回避すると、一旦体制を立て直すために移動を試みるヒュージ・スワン。


「逃すか…!」


全速力の念動魔術による飛翔でヒュージ・スワンの進行方向の先に回り込む。


刀身が赤く染まり、上段に掲げられた黒龍の剣は、天を衝くように光が伸びてゆく。


振り下ろされた赤い光はヒュージ・スワンの片翼を容易く切断し、バランスを崩して落下していく。


落下の途中で新しく翼が再生し、何とか体制を立て直そうと羽ばたくが、落下速度が多少緩まるだけでさほど意味がない。


落ちていくヒュージ・スワンを下で待っていたマリーが神剣に魔力を限界まで込めて待ち構えると、神剣が青く光り始める。


この変化に一瞬マリーが驚いて神剣を横目で見たが、すぐにヒュージ・スワンに集中し直し、裂帛の気合いと共にマリーが跳躍しながら迎え撃つ。


「やああぁぁぁぁぁ!!!!」


今度はしっかりと首から上を斬り飛ばし、頭と翼、そして羽が地面へと落下して残ったが、残りの胴体は巨大な魔石へと還る。


レルゲン達は十層の中ボスとも取れる五段階目の魔物、ヒュージ・スワンを無傷で撃ち倒したのだった。


空中から床に降り立ったレルゲンとマリーはお互いに親指を立て合い、労い合う。


「二人ともお疲れ様。そういえばさっきの合体魔術だけど、いつの間にあんなの覚えたんだ?」


「ふふん、凄いでしょ?貴方がいない間にセレス姉様と練習したのよ」


「レルゲンを驚かせようと頑張った甲斐がありましたね」


マリーが得意げに笑い、セレスティアは柔らかくふふふと笑っている。


中ボスクラスのヒュージ・スワンを討伐し、十層の中継地点である冒険者拠点に戻ることになるレルゲン達。


冒険者拠点とは、言ってしまえば有志の冒険者達がダンジョン内に設ける活動拠点で、魔物がポップしづらい場所を選びつつ、定期的に魔力揮発剤を撒いてポップを完全に抑えているらしい。


王国と似たポップの抑圧方法に近いと言えるだろう。


規模の大きさからちょっとした街に近い形状まで発展しているのは、この十層で攻略が止まっている状況を表していた。


ヒュージ・スワンの素材と魔石を持ち帰ると、拠点に滞在している冒険者から注目を集めていた。


「あの人数でヒュージ・スワンを倒したのか…?」


「馬鹿言え、三人で倒せるはずないだろ。遠距離魔術の一斉攻撃でようやく倒した魔物だぞ」


「歩いてる娘達、めっちゃ可愛いじゃん。強くて可愛いの羨ましいわぁ」


とレルゲン達が倒したことを信じていない様子で、マリーとセレスに向かって羨望の眼差しを送っている者達もいる。


周囲の反応は無視して、一度借りている簡易宿に腰を落ち着け、武装やドロップ品を下ろす。


ダンジョン攻略を開始してから四日目の昼下がり、かなりダンジョンの特性にも慣れてきたと感じていた。


「十層もようやく中間地点まで来たな。お昼を済ませたら今度は迷宮に挑戦してみようと思うけど、行けそうか?」


「ええ、問題ないわ」


「はい。私もまだまだいけます」


マリーとセレスティアはまだまだやる気だ。

これにはレルゲンも負けていられない。


「分かった、じゃあ適当にお昼食べにいくか」


「賛成ー!」


適当な店を探していると、一層で見慣れた顔がそこにはあった。


「ミリィか?」


「おや?レルゲンさん達じゃないですか!奇遇ですね!」


「いや、そうではなく……君はこのダンジョンの攻略は諦めたと思っていたが、どうしてこの最前線にいるんだ?」


「私、どうしても諦められなくて、お願いしてついて来たんです」


なんてはた迷惑な娘だろうとレルゲンが若干呆れていたが、マリーとセレスティアは再開を喜んでいたようだ。


「久しぶり!でも無いけど無事でよかったわ」


「ミリィ様。お元気そうで何よりです」


「はい!お二人もお元気そうで!

凄腕の三人パーティがどんどん攻略して最前線まで登っているという噂が流れていますが、きっとレルゲンさん達ですよね!


初めてお会いした時から強い方々だと思っていましたが、このミリィ。なぜか鼻が高いです」


「本当になんで君が得意げなんだ」


「ふふーん」


腰に手を当てて顔を上に向けて笑うミリィ。

だが、何やら心配事があるようで


「実はレルゲンさん達にお願いがありまして」


「一緒には連れて行かないぞ」


「なぜ、バレたし…」


「大方、無理についてきた君からパーティが逃げようとしているんだろうが、一層で足踏みしている君では命を落とすぞ」


「うっ…」


マリーがミリィの味方につく。


「ちょっとレルゲン。そこまで言わなくてもいいじゃない」


「俺は周りに迷惑をかけるなって言ってるんだ。ただでさえ危険なダンジョン、生半可な力じゃ共倒れになるぞ」


「なら私達がそこまでカバーしてあげればいいでしょ!」


「何でそうなる!ミリィにはここを諦めてもらう方がいいに決まってる」


ガルルルルとお互いが一歩も譲らない状況となり、セレスティアも会話に入れずにいた。


「実は…」


とミリィが言葉を詰まらせながらも説明する。

どうやら至急お金が必要で、病気の家族へ治療費を贈る必要があるというのだ。


そのため、住んでいた近場にダンジョンが出現したのは天啓だと感じたミリィは、高難度で自分には難しいと感じながらも挑戦する必要があったとのことだった。


これにはセレスティアもミリィ寄りに考えが傾いているようで、レルゲンに何とか連れて行って欲しいと目で訴えてくる。


はぁ、と大きなため息をつき、ミリィを見る。


「君の事情は分かった、連れていくことは構わないが、君はセレスと同じ後衛にいて支援をしてもらう。これが最大限の譲歩になる、構わないか?」


「荷物持ちでも何でもやります!よろしくお願いします!」


「それは間に合ってるから…」


再びの大きなため息をついて、ミリィがパーティに加わるのだった。

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