39話 情報提供者
「はぁ……はぁ……」
「一度休憩を挟んだ方がよろしいのではないですか? 徐々に効率が落ちてきています」
ミカエラの心配を他所にレルゲンは首を横に振り、築城を続行すると判断。
そのまま新たな石材に魔力糸を飛ばして接続の安定を図って作業を進めている。
極度の疲労により、もう魔力糸無しの思念のみで念動魔術を安定発動することが出来ないほどになっていた。
(一つ一つは単純な作業だというのに、数が膨大になるだけでここまで疲労が溜まるのは計算外だ……
今の疲労感では戦闘でレイノールの相手をするのは不可能に近い)
「もう少しだ。ミカエラも後少しだけ頑張ってくれ」
「ええ。私は貴方の手伝いが主ですから、それほど疲労は溜まっていません」
徐々にクマが浮き上がっているミカエラの表情を間近で見て、強がりだと理解すると同時にレルゲンは頼もしさを感じていた。
レルゲン達が魔王の城に攻めに来てからクラリスは振り返るように口を開いた。
「レルゲン達が魔王城に来てから行方が分からなくなったのは二人います。
一人はヴァネッサ。
魔王城が崩れた時に瓦礫の下敷きになりその後消息不明。
そしてもう一人はマークス。
呪いの弾丸をレルゲンによって自身に返るように軌道を変更され、永遠と追尾する弾丸から逃れる為にまた消息を絶ちました。
ヴァネッサは魔王様に心から忠誠を誓っていましたが、ダークエルフのマークスは違う。
自身の利益となるから魔王様に付き従っていた。つまり、二人の内どちらが貴方達カリストルと手を組んだかというと。答えは明白です」
クラリスが半ば断定するような言い方で情報提供者を炙り出すと、レイノールはやれやれと肩をすくめながら反論する。
「おいおい。かつての仲間。
それも死んだかもしれない仲間をそう悪く言うもんじゃない。
それにそのマークスって男のダークエルフがどうやってここまで、魔界からカリストルまで来たんだ?」
「簡単です。
彼は弾丸よりも早く動ける。
それに、マークスが男のダークエルフとは一言も言っていません。語るに落ちましたね」
「あー、こりゃマズったな。
一旦退散した方が良いんだろうが、後ろでまだ城を建てているレルゲンの気配がドンドン小さくなっている。
そりゃそうだ。城は本来時間をかけて大人数で建てるのが当たり前なのによ。
一人で全部やっちまうんだ。そりゃ疲れるよなぁ??」
「レルゲンの下へ行かせると思いますか?」
「俺は瞬間移動できる。さっき氷の檻から出た時のようにな」
「ですが今、無駄口を叩きながら直ぐに瞬間移動しないのは一度に飛べる距離か、または他に何か制約があるのではないですか?」
レイノールの眉のしわが少しばかり深くなる。
「やれやれだ。黙って通しちゃくれないか。
ならここで死んでもらうしかない」
「私は別に貴方の命に興味はありません。命令は受けていますが、ここで黙って完成まで待っておけば殺しはしませんよ」
「あん? まるで俺よりも強いみたいな言い方じゃねぇか」
「少なくとも貴方よりは」
「あぁそうかい。
なら示してもらうか!その力を!」
クラリスが腰を落として構えを取ると、対照的にレイノールは自然体で瞬間移動のタイミングを気取られないように構えて姿を消した。
クラリスは瞬間的に魔力を球体上に解放すると、その領域とも呼べる中にレイノールのフラガラルクが侵入してくるのを感知する。
両手に魔力が集中し、フラガラルクの攻撃を払うように弾く。
反対の腕で正拳突きを放ちカウンターを正確に入れるが、またも瞬間移動で距離を取る。
空振りをしたと判断し後方へ瞬間移動すると予想したクラリスは、魔力で固めた拳が伸び切る前に遠距離の拳圧攻撃に切り替える。
拳圧が瞬間移動した先にいるレイノールの胸元を捉えた。
「ぐっ……!」
くぐもった声を上げながら土で出来た地面を削りながら十メートル程後方へ吹き飛ばされる。
「召子さん。動けますか?」
「はい。何とか」
「これをレルゲンに持って行ってください。
彼は私が抑えます」
手には二本の赤い液体の入ったフルポーション。召子は頷き〈飛翔〉で空へ向かって浮いていく。
「さてと。おや、随分と人間の割には頑丈ですね。今のをモロに受けてその程度ですか」
口に滲んだ血を乱暴に吐き出すと共に悪態をついた。
「命に興味は無いんじゃなかったのか?」
「ええ、興味がありません。
例え生きていても死んだとしても」
「はいはい。そっちの意味ね。だが俺はアンタの命を取りに行かせてもらう。
例え女であってもな」
「不思議ですね。貴方に女扱いされても全く心が動きません」
「まるで想い人でもいるような口ぶりだな!」
距離が離れていながらも、レイノールがフラガラルクを顔の横に構える。
遠距離から振り抜く途中に瞬間移動を織り交ぜ、回避不可能の一撃を放とうと剣気が高まっていく。
「なるほど……」
高められていくレイノールの剣気を間近に、クラリスはある予想を立てていた。




