25話 アンツヴェルト
カリストル国、要人会議が再度開かれる。
既に中央王国が秘密裏に軍事侵攻をしたという名目で、医療品とその人材の差し止め。
新たな築城に必要な石材の輸出を即時停止という強力な経済制裁を課し、軍事同盟を結んだ周辺国家にも同様に中央王国に対する貿易の停止を決定していた。
制裁は完璧に機能し、中央王国は出来た隙を突かれる運命になるはずだった。
しかし、結果はどうだろうか。
再び要人会議が開かれたという事は、不測の事態が発生したからに他ならない。
会議室には重苦しい空気が淀むように流れていた。
「どうされますか、王よ。
既に我らと軍事同盟を結んだ国々は半数以上連絡が途絶え、同盟としての機能が既に働いておりません」
用意された資料を片手でキツく握りつぶし、抑えられない怒りを露わにしている。
「どうして奴らはこんなにも早く同盟国を切り崩せた。なぜ経済制裁の効力が発揮されるよりも早くここまで動ける!
王位継承戦はどうした!
なぜこんなにも身軽に動けるのだ!」
乱心気味の王にメフィストが声をかけて落ち着かせる。
「恐れながら、同盟による包囲網が無くなったとしても、我らの軍は中央王国と比較しても二十倍は少なく見積もってもございます。
それに加えて代々継承してきた転生武器を使った我が軍の最大戦力。レイノールがいれば問題なく轢き殺せましょう」
王は大きく息を吐き出して怒りを収め、二つ目の作戦でいけば問題ないと自身に言い聞かせるように言葉を導き出す。
「そうだ。直ちに軍を率いて中央王国に攻め入る。
大義名分を忘れるなよ」
「承知致しました。
どんなに単体戦力が強くても、数で押し潰せば問題ないかと。
他の国々に公開していない部隊を全て動員すれば、間違いは決して起きないでしょう」
「我が国の最大戦力、全ての部隊を使うというのか!
それではあまりに酷い結果になりそうだが、しかし良い!
奴らにはそれくらい万全の状態で臨むのが胸を貸す礼儀というものだ」
「ええ! それでこそ王の器にございます!
レイノールよ」
「はい、こちらに」
「すぐに軍の編成を指示する。必要な物は全て持っていけ」
「お言葉ですがメフィスト殿。
軍の編成は既に終了しております。
それと必要な物ではありませんが、一人だけ私に帯同させたい人員がいます」
「良い良い。すぐに軍が動かせるのであれば報酬として好きな人員を連れて行くが良い」
「ありがとうございます」
二度目の会議が終わり、レイノールは人の気配の無い書庫で今も作戦内容の修正をしている幼女軍師の下へ訪れていた。
「なぁ聞いてくれよ軍師様よ。これから本格的に戦争が始まるみたいだぜ。
俺はレルゲンに介錯してやる事以外には興味ねぇんだけどよ、皆殺しコースなのは変わらなさそうだ」
「そうか。君がまたここを訪れたということは軍事同盟もほぼ白紙なんだろう?
真っさらになったところで、私の作戦が必要になったというわけだ」
「ああ。それとアンタは俺の側近にした。
レルゲン以外にも手強い奴が多いことが分かったからな。
王位継承戦も読み通り恐らく終わってるだろうぜ」
「は? いやいや、軍師を戦場に連れて行ってどうする。通信魔道具を君が持っていけば良いだけの話じゃ無いのか?
そこまでして私が行く理由がわからんよ」
「この作戦は全軍で向かうらしい」
「全軍!? 何を言っているんだ……
いや、正気か? 国の護りはどうするつもりだ」
「そこはさっさと行って、サクッと皆殺しにして帰ってくるつもりなんじゃねぇか?
俺も全軍はやり過ぎだと思うが、上層部の決定なら従うしかねぇ。
聡明なアンタなら分かるだろ?
どこが一番安全なのかは」
「はぁ……精々馬車馬の様に私を護ってくれたまえよ、騎士レイノール」
「仰せのままに。幼女軍師のアンツヴェルト殿」
ようやくその名を呼ぶに足る人物だと認めた証拠に、レイノールはニヤっと白い歯を見せる。
中央王国の動向を何度も見破った天才軍師も、これに応えるように不敵な笑みを浮かべていた。




