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【12万pv完結感謝】念動魔術の魔剣使い -大切な人を護り続けたら、いつの間にか世界を救う旅になりました-  作者: 雪白ましろ
第四部 天界編

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58話 地獄に堕ちろ

「ありえない」


セルフィラは赤い槍を携えながら召子から無理矢理距離を離されたが、その声を発したのは引き剥がされた本人ではなくミカエラだった。


見てくれだけは回復しているセルフィラだが、レルゲンの一撃で半身半翼を失い再生に時間がかかる。


「あの槍は聖槍ロンギヌス……!

すぐにトドメを刺してください!でなければ間違いなく全滅する!」


ミカエラの言葉に全員が押されるように駆け出し、各々が持つ最大の攻撃を浴びせようと剣と杖に魔力を込め始める。


しかし、誰よりも早く接近していた小さな影が一つ。


セルフィラとレルゲン達の間に入り両手を広げて、まるで庇うようにレルゲン達を静止した。


「待ってくれ」


「アラエル!そこをどいてくれ!」


セルフィラの、否、セリエルだった頃に刺されたショートソードを手に持ってレルゲン達の進行を止めると、振り返ってセリエルを見つめる。


「はっ……ははは、なんと素晴らしき情だろうか。いいですよアラエル。


貴方が私を護ってくれるなら、奴らは迂闊に攻められない。


さぁ、共に参りましょう」


「ああ、そうだな。俺はお前と共に行くつもりだよ。例え腹を刺されてもな」


その言葉を聞いたセルフィラは笑いが込み上げるのを必死に我慢するような顔になったが、当のアラエルは俯いたままセルフィラの表情は視界に入っていない。


(なぜそこで貴方がセルフィラの味方をするのですか!アラエル!)


ミカエラの悲痛な叫びは声には出ず、代わりに悲哀漂う表情のみが現れていた。


「奴らは殺すのか……?」


確かめるようにアラエルがレルゲン達に向き直って尋ねると、返ってきたのは当たり前の答え。


「ええ、そうですね。

異分子の彼と魔王は元々殺すつもりでしたが、私の翼を奪った勇者とその仲間達もこの際殺してしまいましょう。


この槍と貴方がいれば、簡単な事です。

一人一人確実に潰して行きましょう」


「そうか、分かった。ところでその槍はなんで始めから使わなかったんだ?」


「この槍は神から与えられた私の正真正銘の武器です。


この槍を使うという時は敵の粛正ではなく障害の排除になる。

私に本来障害などあってはならない。槍を使うのは同じ立場の者でないとあってはならないのです」


「同じ立場……?

天界にアンタと同じ立場の天使なんていないじゃないか」


「ええ、天使は従える者。それに私は本来天使ですら無いのですよ」


「……!!」


(天使じゃない!? ならばコイツは一体何者なんだ)


レルゲン達が驚きのあまり戦慄している中で、一人だけ思い当たる節がある人物が一人だけいた。


「貴方、人間ですね。元ですが」


意外そうな表情をするセルフィラに声をかけたのはクラリス。


「ええ、その通りです。上で戦っていた時に何か掴みましたか」


「貴方と同じ紫色の光輪を持つ天使が言っていましたよ。

それは心念の盾だ。それを使えるのはセルフィラ様と人間だけだと。


貴方が元人間ならば、強力な心念を使えても不思議はありません」


「なるほど。お喋りな道具を持つと苦労しますね」







(私はこの世界に赤子として来てから物心着く前に前世が存在し、人間だった時の事を思い出した。


この世界は言ってしまえば何も無い。

それ故に私の生きてきた世界には無い物で溢れていた。


草木の匂い。

穏やかな陽光。

爽やかな風。


そして前世の知識。

私の知識を評価してくれるところは近くにはなく、毎日を精一杯に過ごす怠惰な日々だけが続いていくはずだった。


だが、前世の記憶を呼び覚ましたその夜。

私は夢を見た。

神と名乗る男から、この世界に転生させたのは私であると。


魔力が薄い、というより全くない環境での一生を終えた生き地獄を耐え抜いた特典として、この新たな世界で貴方だけの生き抜く術を与えると。


私は一度断った。

しかし、これがあれば今のただ消費されていくだけの日常から抜け出せると力説されて渋々承諾。


程なくして、一人の少女が空から降ってくる。


背中には純白の翼が一対生え、明らかに人間ではない容姿を見てこれも神の贈り物だと思った私は、その天からの使い。天使に声をかけた)


「こんな辺鄙な所に何か用か?」


「ここならゆっくりできると思って」


「なんだ、家出か」


「決めつけないで。私は家族を捨ててここに来たのよ」


ムッとする天使の少女は、抗議するように口を尖らせたが、どうやら図星のようだ。


「ここには私が一人で暮らしている。

数日なら匿ってやってもいいぞ」


「なんだ、貴方も一人なのね。

なら都合がいいわ。その話乗ってあげる」


「なんで主導権そっちが握ってるんだよ」


「そりゃ私は天使だもの。人間より偉いのは当たり前でしょ?」


「そうか?」


「そうよ」


のれんに腕押しとはまさにこの事。

これ以上話を続けていると妙な気分になりそうだと感じて家出少女は放っておき、今日の仕事に戻るために踵を返した。


「ちょっと」


「なんだよ?」


「置いていかないで」


「はぁ……私の家ならここから近くにあるが仕事が残っている。夕方までは帰らないぞ」


「じゃあ、私はここで貴方を待ってればいいのね?」


「適当に昼寝でもしていてくれ」


「ねぇ、貴方の名前は?」


「私は天司、天司アキト」


「アマツカ・アキト、じゃあアキトね。

私はセルフィラ。かわいい名前でしょ?」


そこからアキトとセルフィラを名乗る天使の少女との共同生活が始まった。


寝て起きて、たまには喧嘩して。

食事を必要としないというので、私が食べている時は少々気まずい時間が流れたが、やがて慣れる。


転機はセルフィラが天からやってきてから一年が経過する頃。


セルフィラの様子が、というより身体が細くなってきているように感じる。


「なぁ、流石に痩せてきてないか?

食事を摂った方がいいと思うぞ、、聞いているのか?」


「ん?ああ、ごめん。聞いてなかった。

最近ちょっと頭がボーっとしちゃって。

でも大丈夫!私は元気だよ!」


(元気かどうかは聞いてないぞ。気丈に振る舞ってはいるが明らかに衰弱してきている)


「そろそろ天界に帰ったらどうだ?」


「私の居場所はもうここしかないの。だからここにいさせて。お願い」


必死に懇願する痩せ細った少女の目には涙が滲んでいた。


「分かった」


私はこんな酷い顔をしている孤立無縁のセルフィラを家から追い出すことはついぞ出来なかった。


二年が経過する頃、セルフィラは遂に歩けなくなった。


背中に生えている純白の翼は依然として神々しい光を反射するように輝いていたが、段々と翼以外の身体は悲鳴を上げていた。


「どうして飯を食べないんだ?」


頑なに教えてくれなかった問いに対し、セルフィラはようやく重い口を開けて話始める。


「私達天使はね。ご飯を食べるようになると堕天。つまり悪魔になってしまうと言われているの。


悪魔になってしまったら、きっとアキトに迷惑が掛かる。

それだけは絶対に、死んでも嫌なの」


「だからって本当に死ぬことは無いじゃないか。


私は……俺は…!お前に死んでほしくない!

だから頼むよ。飯を食べてくれ…お願いだ」


目からいつの間にか大粒の涙が溢れ、自分にとってセルフィラという少女がいつの間にかかけがえのない家族になる程にこの時ようやく気づいた。


「……スープ」


「え?」


「アキトがよく飲んでいる羊のミルクで出来たスープ。あれなら飲めるかもしれない」


「あ、ああ!すぐに用意するよ!」


食事とは言えないかもしれないが、ようやく何か口にすると決心してくれたセルフィラに、私は安堵と同時にある心に気づいた。


手短に温かいスープを皿に入れて持っていく。

一口だけ口にしたセルフィラは、優しく笑って一言だけ


「美味しい」


その言葉を聞いて決心する。


「セルフィラ。話がある」


「何?」


「私と…

いや、俺と……一つになってくれ」


セルフィラは一瞬表情を失うが、すぐに片目から一筋の涙を音もなく流してから微笑んだ。


「はい」


それからというものの、セルフィラは一時だけ体力を戻し、穏やかな時間を共に過ごした。


人間と天使の寿命は大きく離れている。

私が死んだ後もきっとこの天使は悲しみを背負いながら生きていくだろう。


それでも今の時間は、この時間だけは誰にも奪わせない。


幸せな時間が流れる。


笑い合い、時には喧嘩しながらもそんな日々がこの先も続いていくことを信じて疑わなかった。


転機が訪れる。

セルフィラが再び歩けなくなった。


今や私と同じ食事を摂るまでになったセルフィラは、目に見えて成長していた。


背は伸び、女性的な身体付きになり、声も落ち着きを感じるようになった。

相変わらず翼は純白の輝きを放っている。


「ごめんなさい。アキト」


「何謝ってるんだよ。これからだろ」


「そうだね。私達はまだこれからずっと一緒にいる」


「だからまた元気に外を走って、二人でどこかへ出掛けて。子供だって欲しいんだ。大家族がいい」


「そうだね。私も貴方との間に子供が出来たらどんなに素敵なことだろうと何度も想像したわ」


薄っすらと虚な目をするセルフィラを、私は力強く抱きしめる。


身体はまた痩せ細り、抱きしめた身体は糸も簡単に折れてしまうのではないかと感じるほどに華奢になってしまった。


「ごめんね、アキト。

私は多分もう長くない。だから」


「ふざけるなよ。こんな時に冗談なんて言わないでくれ……頼むよ」


「私からの最後のお願い。聞いてくれる?」


「最後と言わずお願いなんていくらでも聞いてやる。だから……だから!!」


「私のこの翼を受け取って欲しいの。この翼があればアキトはどこへだって飛んでいける。


あの山を越えて、鳥達と一緒に海の上を飛んでいくことだって出来る」


「そんな翼、貰ったってお前がいなきゃ……

お前と一緒じゃなきゃ意味がないんだ!」


「嬉しい。ねぇ、初めて会った時のこと。覚えている?

アキト、とっても冷たかったんだから」


「悪かった。悪かったよ。俺に出来ることならなんだってする。だからセルフィラ。生きることを諦めないでくれ」


「手、握って?」


「ああ」


セルフィラは私の手を握り、消え入りそうな声で唱えた。


「トランスファー・デュラビリティ」


突如として握られた手が白く輝きを放ち、横になっていたセルフィラが少しベットに沈み込む。


消えた純白の輝きを放つ翼は、いつしか私の背後に生えていた。


翼を確認すると、握られていた手が力無くベットに落ちた。


「ありがとう」


最愛の妻は、最愛の言葉と呪いを私に残した。


絶叫。


もはや人の声とは思えない程の悲しみの声が家のガラスにヒビを入れる。


「許さない」


妻を殺した天使達を、世界を。

俺をこの世界に転生させた神を。

この世全てを。

翼が悲鳴を上げるように甲高い音色を上げる。


「地獄に堕ちろ」

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セルフィラぁ……
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