56話 ロスト・ウィング
「いくぞ。セルフィラ」
「破壊された器を治し、そして魔力を完全回復させたことは褒めてやろう。
ミカエラとの契約の理由も理解した。
だがそれは一度切りの手段のはずだ。
何が変わる?
お前の切り札は二度受けたが、私の首はまだ取れてはいないぞ」
「そうだな。だがその翼達は腕と同じ様になぜ治さない?」
「……!」
セルフィラが気づいてすぐに翼に意識を向け、火の上位魔術によって受けた焦げ跡と、重力真珠によって複雑にへし折られていたボロボロの翼を元に戻す。
「見てくれは治せても、一度ズタズタになった中身まで本当に治っているのかは分からない。
どうやら思いの外、俺達の攻撃は効いていたようだな」
「……けるな、ふざけるな、ふざけるな!」
徐々に高められていく感情に呼応するかのように、翼の輝きが増していく。
「さぁ、決着をつけようか」
お互いに回復を済ませ、再び両者が激しくぶつかる。
セルフィラは遂に〈天の翼〉に手をかけて剣に形状を変え、レルゲンは浮遊剣を含む魔剣が四本。
手には黒龍の剣を携え、白銀の剣は分離させている。
鍔迫り合いにまで発展し、お互いの出力が拮抗し始めるが、まだセルフィラに純粋な力だけでは分があった。
更に力だけでレルゲンを押し込もうとし、ギリ、ギリと空中で羽ばたくことで更に押し込む勢いが増していく。
「どうした?
お前の自慢の攻撃はもう終いか?」
「さてな」
セルフィラに主導権が握られるよりも速く、三本の浮遊剣を遠隔で操作し、左右と上から猛スピードで串刺しにせんと突っ込んでいく。
「もうその手は食わんぞ」
鍔迫り合いを即座に止め、背後に下がる事で距離を取ろうとするが、
レルゲンの狙いに気づいたクラリスが、セルフィラの背後に心念の盾を展開して逃げ道を無くす。
「貴女もしつこいですね」
セルフィラが一瞬クラリスに注意が向いた時、レルゲンが三本の剣に命令を出す。
「回れ」
即座に超高速で剣の原型が分からなくなるほど回転を強めてセルフィラに迫る。
「こんなもの、避けるまでもありませんよ」
先に飛来した左右から迫る炎剣と氷華を翼で受け止め、
ワンテンポ遅れて頭上から迫る白銀の剣を受け止める為にもう片翼の〈天の翼〉に手をかける。
大きく火花を散らし、まるで鉄と鉄が擦り合わさる様に耳障りな音が響き渡る。
「そんなもので私の翼が…」
「お前のじゃないと言った。進め!」
追加の命令を出された剣達の進む勢いが上がり、発生する火花の量は更に苛烈さを増していく。
だが少しずつ身を守っている翼が潰されるようにセルフィラの本体へ寄って行き、やがて悲鳴を上げて範囲が狭まっていく。
先に火花を散らさなくなったのはセルフィラの翼。レルゲンの二重命令により薄く切れ目が入り、ゆっくりと着実に切先が翼に食い込んでいく。
「やめろ。私の翼が、離れろ!」
戦いを始めてから初めて苦痛を表現する。
どんなに攻防一体の強力な布陣を敷いたとしても、やはり天使の弱点は共通して翼。
翼の根本から徐々に、そして深々と食い込んでいく炎剣と氷華が完全にセルフィラの翼を全て断ち切った。
「くっ……!」
「後は召子の翼だけだ」
黒龍の剣と白銀の剣を〈天の翼〉で弾き飛ばし、セルフィラは口角を上げて悪い笑みを浮かべる。
「本当にそうかな」
「どういう意味だ?」
「私は複数の天使に翼を分け与えている。
つまり、翼のストックはまだあるのだよ!
無数にね!」
右手を天に掲げると純白の光の粒子がセルフィラの背中に集まって行き、全て切断されたはずの背中から一対の翼が現れた。
「感じていると思うが、敢えて宣言させてもらおう。百枚の翼を一度に斬ったくらいで調子に乗らない事だ。
この二百枚の翼を以て、お前達に終焉を贈ると約束しよう」
「二百枚……!? なんと惨いことを」
ミカエラは自分が呪いの契約で閉じ込められた時に、セルフィラ本人から聞かされていた枚数の倍に相当する宣言に戦慄すると同時に、
それだけの翼が奪われている現実に強く悲しみを覚えた。
背中の紋様越しにミカエラの念が流れ込んでくる。
だが、レルゲンは焦るどころか呆れた感情を含んだ瞳をセルフィラに向けていた。
「なんだ、その目は」
「お前は得意げに語っているが、何も変わらないぞ。百枚だろうが二百枚だろうが、千枚だろうが、それはお前の力じゃない」
セルフィラは薄く笑い、魔力を翼に通して輝きを増していく。
そして同時に光輪を改めて背後に出現させて完全に回復と戦闘準備を完了。
レルゲンを見下ろすように純白と紫の光からなる、神々しい光を威圧するように惜しみなく披露していた。




