第二章 7話 中央の街ぶらデート 改稿版
常に気を張っていては身体ではなく心が疲弊する。
そこで兼ねてより約束していた鍛治屋、
もとい街のぶらり旅をレルゲンが提案したのだった。
「いいわね!私も振り回されてちょっと気分転換が
必要だと思っていたのよ。
今からだと陽がすぐ落ちちゃうだろうし、明日行きましょう!」
「分かった」
マリーが予想していたよりかなり乗り気な反応をする。
余程ストレスが溜まっていたようだ。
次の日、軽く朝食を済ませて、出かける準備をする。
もしもの時の為に剣を一本背負い込み、
待ち合わせに指定された噴水のある広場に足を運ぶ。
マリーを驚かす品物を鞄に詰め込む事も忘れなかった。
約束の時間までまだ余裕があった筈だが、
感知し慣れた魔力反応が既にある。
「お待たせ、マリー」
「ううん、私もさっき来たところ」
白いワンピースに茶系の帽子、
目には最近流行っていると噂されている日避け用の眼鏡をかけ、
白いサンダルを身につけている。
結ばれている金色の髪は真っ直ぐに下され、普段とは全く装いが違った。
思いがけず見惚れてしまい、
一瞬言葉に詰まってしまったが、
すぐに彼女の容姿について似合っている旨を伝える。
「とても似合っている、綺麗だよ」
「そう?時間をかけた甲斐があったわ。
でも貴方、それいつもと同じ旅の格好どうにかならなかったの?」
「すまない、街にふさわしい服を持っていなくてな。
流石に騎士服を着るわけにはいかず…」
これには本当に申し訳ない気持ちになる。
こうなるなら、セレスティアに相談しに行けば良かったかも知れない。
「まぁ、いいわ。それなら貴方の服装を私が見繕ってあげましょう!」
「それはありがたい」
「で、その大荷物はまた何?」
突っ込み所が多すぎて頭が痛いと言わんばかりに額を抑えるマリー。
ここで挽回しなければと思い、鞄の中から念動魔術で、
驚かす為の品を出す。
「それって」
「そうだ、アシュラ・ハガマの尻尾にある
増幅器代わりになっていた鉱石と、ユニコーン二種の角と魔石だ」
「なるほどね、それらを持ち込んで唯一無二の
装備を作ろうって訳か」
「そうだ、アシュラ・ハガマは武器として、
ユニコーンは魔石を使って武器の核にしようと思う。
残るはユニコーンの角二本と魔石一つだが、
これはマリー。君の防具か武器、もしくは装飾品を作って貰う予定だ」
思いの外喜ぶという感じではなく、冷静に分析を始めるマリー。
「武器はお母様から頂いた魔剣があるから間に合っているし、
残すは防具と装飾品だけど、ユニコーンの角だと装飾品が濃厚かしら」
「そうだな。とりあえずこの大荷物を下ろしたいんだが、
一番先に鍛治屋に行ってもいいか?」
「しょうがないわね、じゃあまずは鍛治屋。
発注したら貴方の服を選びに行きましょう」
「俺の都合ばっかりで悪いな」
「本当よ全くもう、これじゃどっちが主なのか分からないわ」
呆れたように笑うマリー。
これは出鼻を挫かれ、しくじったと感じるが、
先を歩いて行くマリーを見たが足取りは軽く、
何だか踊りの足捌きのような歩き方をしている。
(思っていたより機嫌は悪くない…のか?)
しばらく歩くと鍛治職人が集まる鍛治屋通りにつく。
道の両端に店が並んでいるからか、気温が他と比べて著しく高い。
一言で言うと暑い。その熱気を浴びたマリーが
「だから鍛治屋は最後が良かったのよね」
と独り言を言っていたのを聞いてしまう。
身体から汗がじわじわと出てくる。これは暑いからだ。
冷や汗ではない。
暑い道を歩いていると、マリーが歩みを止める。くるっと振り返り。
「ここが私達のお抱え鍛治職人がいるお店よ」
「ここが……ここが?」
見た所熱い窯も、剣を打つ為の槌なんかも置いていない。
あるのは剣と防具、それに装飾品のみが並んでいる。
「そうよ、中に入ってみれば分かるわ」
おもむろに足を店へと伸ばす。
なるほど、実際に剣を鍛えるのは地下で
地上階は商品のみが陳列されているというわけだ。
マリーがお店の奥へと消える。
「ドライドおじさーん、マリーです。いますか?」
「おう!思ったよりかなり早いじゃねーか!
久しぶりだなマリー嬢ちゃん!元気そうで何よりだぜ」
「元気よ!お陰様でね!」
まるで親戚の叔父に久しぶりに会ったような
様子で話し始めるマリー。職人もマリーの事をよく知っているようだ。
「それで、この兄ちゃんがマリー嬢ちゃんの言っていた依頼主かい?」
「そう、名前は……」
事前に出していた便りには、レルゲンの名前は書いていなかったようだ。
どうしようかとマリーが少し迷うが、
レルゲン自ら前に立ち、正直に自己紹介する。
「レルゲン・シュトーゲンだ。よろしく頼む」
右手を前に出す。
「ほぉ、「レルゲン」ねぇ。
まぁいいさ、こちらこそよろしく。俺はドライドだ」
職人も右手を出し、確かめるように握手をしてくる。
「いい手だ」
一言レルゲンの手を褒めて、工房がある奥へと消える。
マリーと顔を見合わせるが、奥からすぐに声が聞こえる。
「何してんだ。武具の発注に来たんだろう?さっさと来な」
予めマリーから、職人について聞かされていた事を思い出す。
「王国でお抱えの職人はね、相手を見て仕事をするか決めているの。
だから一見さんは基本お断りだから、私から便りを出しておいたわ。
貴方なら大丈夫だとは思うけど、断られたら他のいいお店を紹介するわね」
どうやらレルゲンは合格らしい。直ぐに工房の中へと足を運ぶ。
すると地下にしなければいけない理由が直ぐに分かった。
とにかく窯が大きい。職人の数も他の店と比べても段違いの規模だ。
職人達の額には汗が滲み、煤けた皮膚が印象的で、
その身体は筋肉で覆われていた。
戦士特有の筋肉のつき方ではなく、
重い物を持ち上げ続けた時につくような形をしている。
身体から流れる自然魔力はどの職人も同程度で、
特段変わった様子はない。
すると魔力感知に引っかかる剣が幾つかあった。
その中でも一際強い魔力を感じるのは、
職人専用の窯の奥の箱に収められている剣だ。
(後で聞いてみるか)
とりあえず案内された場所で事前に用意した素材を職人に見せる。
拡大鏡のような物を片目につけて、鑑定をしているようだ。
「これは五段階目のアシュラ・ハガマ。
こっちの角も五段階目のユニコーン亜種、そんでこっちがその魔石と。
面白い物を持ってきたな。これは全部レルゲンが倒したのか?」
「ユニコーンは単独だが、
アシュラ・ハガマはマリーとハクロウもいた。
こっちは単独とは言えないな」
「いいえ、このアシュラ・ハガマの尻尾を切断したのは
レルゲンの剣です。
この素材に限って言えば、彼の単独と言っても申し分ないかと」
「マリー」
「いいのよ、貴方の手柄を横取りする気は無いわ」
「そうかい、大したもんだまだ若いってのに。
五段階目なんて滅多にお目にかかることも無い魔物だ。
アシュラ・ハガマの尻尾なんて
その中でも中央ギルドのS級冒険者が持ち帰れるかどうかだ。
それを鍛えられるとは、職人冥利に尽きるってもんだ」
鼻息が荒くなり、
少々興奮気味のドライドに希望する武器の性能を伝える。
「希望通りの武器は作れる。だが、素材が素材だ、時間がかかる。
こいつは終わったらマリー嬢ちゃんに便りを出すとして、
嬢ちゃんは装飾品だったな。どんな物がお望みだい?
耳、首、手首と色々つける場所はあるが…」
ここでマリーがどんな物がいいか聞いてくる。
「俺のお勧めは首か手首だな、効果を複数付けやすいはずだ」
「そういうことじゃない。私に似合う物を選んで欲しいのよ」
キッと目が怒っているのが眼鏡越しでも分かる。
うーんと少し考えると
「やっぱり首かなぁ」
「何で」
「耳飾りも似合うだろうし普段使い出来るだろうけど、
今は耳に穴は開けてないんだろ?だったらそれは今後も大事にして欲しいな。
腕はそれこそ戦闘中に外れる可能性もあるし、
マリーにはあまり似合わないかも知れない──というよりイメージが湧かないかな。
となると後は…」
「首飾りって事ね」
ドライドの方に向き直し
「首飾りにするわ」
「お、おうそうかい分かった。
首飾りなら大体三日くらいで出来るぜ。マリー嬢ちゃんが取りに来るかい?」
「使いを送るからその時に」
「あいよ。時にレルゲン。マリー嬢ちゃんに随分と物を言えるんだなぁ。
流石は専属騎士だ。マリー嬢ちゃんも少し変わったかい?
前に見た時に似合わないなんて言われたら怒っていただろ」
「確かにそうかも」
不思議そうにするマリー。自分でも無意識だったようだ。
レルゲンが周りを見渡しながら、ドライドに話しかける。
「もう少しここを見ても良いか?」
「いいぜ、俺が案内してやるよ」
工房内を見て回り、気になっていた箱の近くの窯まで移動する。
「なぁドライド。あの箱の中身は何だ?」
ピクっと驚いたようにドライドが跳ねる。
するとニッと笑って見せ、窯の横に置いてある箱を数人掛りで机の上に置く。
ドスンと如何にも重そうな音を出し、箱の中身をドライドが空ける。
「コイツは伝説の黒龍の遺跡で発掘された素材で作られた片手直剣だ。
素材の時からかなりの重さで、使った砥石も通常使う分の倍以上。
剣として成立した瞬間更に重さが増しやがった。
コイツを扱える奴は、もう“魔族”と言っても良いだろう。
ボウズに持てるかな?」
漆黒の刀身に柄、鍔の装飾も質素な作りだが
こちらも漆黒を思わせるような黒さがある。
剣の柄を持ち、自身の筋力では到底持ち上げられない重さだと気付く。
「いや、無理だな、重すぎる」
「まぁそりゃそうか、
こいつは騎士団長のベンジーですら持ち上げるのに精一杯だったんだ。
悲観することはねぇよ」
「あぁ、だからこうする」
両手で持ち上がらなかった剣を、
今度は片手のみで持ち上げて見せた。
これにはドライド含め、他の職人達も驚きの声を上げる。
「一体どうやって持ち上げているんだ?」
「あぁ、実はレルゲンはね」
他の職人には聞こえないようにマリーが耳打ちする。
「なるほどねぇ、そんな魔術があるのかい。
なら他の職人には秘密にしといてやるよ」
「助かる。ところでこの剣は買うとしたらどれくらいかかる?」
「いいさ、遺物的な価値はあるだろうが、
誰も使ってやれねぇ代物だ。お代は取らん。
ただ、見せて貰いたい。剣が振られている所を」
「分かった。多分危ないから外で振らせてくれ」
「おう、裏に試し切り用の藁と薪がある。
そいつで試してみてくれ」
試し切りが出来る場所まで階段を使って地上に出ると、
暑さが和らぐ。
「そんなに遠くからで良いのか?」
「あぁ、多分このくらいで丁度良いはずだ」
置かれた薪までの距離はおよそ二十メートル。
この剣は魔剣と呼ばれる代物で、
魔剣とは多かれ少なかれ使用者の魔力を消費してその効力を発揮する。
ほんの少しだけ魔力を剣に込め、念動魔術で上段へ構える。
剣に魔力が込められ刀身が漆黒から紫色へと変化する。
念動魔術を使って軽く振られた魔剣は不可視の斬撃となり、
丸太をチーズでも切るかのように滑らかな切断面を残して両断した。
それを見たドライドが一言呟く。
「よかったなぁ、担い手が見つかって」
ドライドの工房を後にし、
レルゲンの服装を選びに洋服店が立ち並ぶ通りにやってきた。
付近には喫茶店やちょっとした軽食が取れるような、
上品な店が集中している。むず痒い気分になりながらも、
マリーの後を追う。
マリーは王族で、街にはあまり来ていない筈だが、
慣れた様子で人混みを抜けていく。
街ゆく人々はマリーの変装とも言えないような格好でも、
堂々と歩いていることから気づいていないようだ。
マリーが歩みを止めると、レルゲンの方を向き
「ここよ!」
他の服屋とは比べ物にならないほど規模がデカい……
庶民的な服もあれば、上流階級の宴用の服まで。
幅広い客層に展開しているようだ。
「普段は私の部屋まで来てもらっているんだけど、
今日は色々見られるわね」
当初はレルゲンの服装を何とかする筈だったが、
やはりお年頃と言うべきか、マリーの気分が昂っている様子が見て取れる。
「マリーの服から見ていくか?」
「ううん、貴方の服から見ていきましょう。
そこで待っていて!これから店員に言って個室を用意してもらうわ。
服はこっちで見繕うから、貴方には着せ替え人形になってもらおうかしら」
「わかった」
「やけに素直じゃない」
「さすがにこの格好でこの街は歩けないと気づいたよ」
「そ、ならいいわ」
一旦マリーが店員に説明するまでの間、改めて店内を見回す。
イカニモな格好をしている貴族の女性が、
こちらを見て小言で何か言っているが、
自分の服装を見てげんなりする。
(これは仕方ないな)
マリーは店員に説明が終わったのかこちらへ戻ってくる。
「準備があるから先に個室で待っていて欲しいって」
「そうか。じゃあ行こう」
お得意様専用のエリアに二人で消えていく姿を見た
貴族の女性達が後ろでざわついている。
レルゲンの服選びは思っていたより時間がかかった。
鍛えているだけあって、体の線が綺麗だか何だかで色々と試された。
結局のところ庶民でもなく、上流階級でもない、
中間の服装が似合うという事が判明し、更に着替え続ける。
最終的には少し余裕のある白のシャツに紺のジャケット。
下は黄色と茶色を混ぜたような色で合わせ、
靴は黒系の動きやすいものを選ぶことになった。
それを見たマリーがうんうんと何度も頷く。
「結構良いんじゃない!それで行きましょう!
貴方容姿が整っている方なんだからやっぱりちゃんとした方がいいわよ!」
「何だが妙な気分だが、ありがとう。お会計はどこですれば良い?」
「何言っているの?まだ一着選んだだけじゃない。
まだ二、三着は買うわよ」
「お、おう」
マリーの服は良いのだろうかと思っていると、
やはりそろそろ我慢の限界なのか、自分の服を選び始める。
店員を呼び、似たようなタイプで後二、三着分頼んで良いか?
と頼むと、笑顔で承諾してくれるのだった。
一着目の値段をこっそり確認すると、
全部で闘技大会の賞金分くらいの値段だったので、そっと見なかったことにする。
ユニコーンの討伐報酬もあるので、
一着目は何とかなるが……と思いマリーに相談する。
「足りない分は次の貴方の給料日に引かれておくように……
うーん、やっぱりいいわよ。私も何着か買うし、今回は面倒見てあげる」
「何から何まですまない」
「良いのよ、今までのお礼と思って頂戴」
レルゲンが初給料日に確認した金額の桁が予想よりも
多過ぎてマリーに確認しに行ったのは、また別のお話。
「休みなしで私の警護なんだから、そのくらいないと駄目よ」
と言われて一蹴されてしまったのだった。
時は服屋へと戻り、今度はマリーの服選びをすることになった。
一着分はレルゲンが選べと無茶振りされたので考え込んでいると、
店員さんがこっそりとマリーの好みを教えてくれる。
一通り選んで持っていくと
「あら?貴方結構いい物選ぶじゃない。
店員さん、これもお願いできる?」
「かしこまりました」
一通り満足したのか、マリーが店員を手招きする。
「彼の服と一緒にいつものところまで届けてもらっていい?」
「承知いたしました。いつもご贔屓の程、ありがとうございます」
深々と頭を下げる店員。
やっぱり王族なんだよなぁと実感する事が、
ここ最近王国に帰ってきてから思うところが多い。
昼下がりレルゲンは最初に買った服を着て、マリーの隣を歩く。
流石にお腹が減ってきたが、マリーはどうだろうか?
「マリー、お腹の具合はどうだ?」
するとパァっと表情が明るくなる。
「空いたわ。何処かで軽く食べましょう。そうね、お勧めは……」
マリーが周りを回りながら確認する。
白いワンピースが風に揺られて少し舞い上がり、
まるで何かの物語の一ページを見ている気分になり、
思わず見惚れてしまっていた。
「あそこにしましょう」
マリーが指差した先には、
馬車で移動が出来るようなタイプの移動式店舗のようだ。
付近には座席と机が何脚かあり、日焼け避けの傘もある。
椅子に座ると店員が歩み寄ってきて、
売っている品の一覧が書かれている紙をくれた。
「何が良いかしら、結構食べる?」
「そうだな、そんなに沢山はって感じだけど、
ある程度は食べたいかな」
「それなら、これにしたら?私もこれ食べたいし」
頷き、店員を呼んで注文を済ませる。
待つ事少し、店員がトレイに注文した品を乗せてやってきた。
「お待たせいたしました!ごゆっくりどうぞ」
底深のコップに氷の粒が入り、
紅茶をベースにした飲み物が混ぜ込まれている飲料に、
サンドイッチがバスケットに詰められて出される。
一口試しに飲んでみると、氷の冷たさが最初に飛び込んで来る。
そこから紅茶の香りが口いっぱいに広がり、
何とも言えない充足した気分になる。
紅茶といえばミルクと砂糖だが、ここもバッチリ抑えていた。
ミルクのクリーミーさと、
何やら砂糖のような甘い塊が中に入っている。
その塊は柔らかく、舌の上で少し転がしながら優しく噛むと、
溶けるように噛み切る事ができた。
(これは、うまいぞ!)
思わずマリーを見るが、この美味しい飲み物に夢中になっている。
恐らくマリーも初めて飲んだのだろう。
お次はサンドイッチだが、これもまた美味しかった。
仄かに焼かれたパンに新鮮な野菜とチーズが挟み込まれている。
他にも何種類か野菜が分けられて挟んであり、
最後まで飽きさせない味付けとなっていた。
二人とも満足した気持ちで店を出る。
お腹も満たされたところで、最初に待ち合わせた噴水前の椅子に腰掛ける。
お互いに暫く無言で歩いていたが、ここでマリーが口を開く。
「こんな気分で王国に帰ってくるとは思わなかったわ」
言葉は返さずマリーを見る。
「昔は拘束されるのがとにかく嫌で、王族って色々とやる事が多いでしょ?
だから逃げ出したかったんだと思う。武勲を立てるなんて言ってはいたけどね」
レルゲンは言われたことをやるのが王族の勤めだと教えられて育ったために、
疑問を持つことはなかったが、マリーのように反発する人もきっといる。
逆に何の疑問も持たない方が少ないだろう。
風がマリーの髪の毛を優しく撫でる。
ここまで穏やかな気持ちになったのはいつ以来だろうか。
マリーが立ち上がり、噴水前の石段に手をついてレルゲンを見る。
「だから、ありがとうレルゲン。私の事を助けてくれて」
「こちらこそ、君を護れる立場にしてくれて感謝しているよ」
「どうして?」
マリーが素朴な疑問を投げかける。
「俺は自分の素性をずっと隠してきた。
これからもずっとそうして生きていくんだと思っていた。
でも眩しい君がまた人と関われる機会をくれたんだ。
だから、ありがとう」
「そう──これからもずっと私の騎士でいてくれる?」
「仰せのままに、姫様」
良かったらブクマや評価をお願いします。
皆さんでこの作品を盛り上げて下さい!




