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転生☆お嬢様育成ゲーム!プリンセス系になりたい私vsパンク系に育てたい転生プレイヤー 3話


 オリビエお兄様は私の前にしゃがむと、にっこりと微笑んだ。一方、ノラは心配顔だ。


「オリビエ様……」

「心配しないでノラ。たとえ見つかったとしてもすぐに立ち去れば怒られたりしないよ。父上はああ見えて、子どもには優しいから」


 ああ見えて? いかついパパだったりすのかな。

 どうしよう、怖い人だったら。泣いちゃうかも……いやいや、せっかくパパに会えるんだもん。絶対に泣かないぞ!


「ただし、ミーティア。約束が二つあります」

「あいっ!」

「静かにすること、俺の抱っこから下りないこと!」

「やくしょく、すう!」

「よーし」


 元気に返事をすると、オリビエお兄様がよしよしと頭を撫でてくれた。んへへ。


 そりゃあ言うこと聞くよ、もっちろーん!

 こっそり連れて行ってもらうんだから、静かにしてないとね!


 私、おりこうさんにできるよ! なんていったって心は女子高生だからねー!

 集団生活とかしてきた経験があるもん。ふふーん。


「で、ここからが取引」

「んあっ」


 そうでした、取引するんでした。


 ニヤッと笑ったオリビエお兄様がなんとなくこわい。い、一体どんな取引を……?


 真剣なお顔を作って続きの言葉を持っていると、どこから取り出したのかオリビエお兄様がバッとドレスを見せてきた。


「このドレスを着て!!」

「んびっ」


 み、見事なパンク系ドレス! 黒を基調とした短いヒラヒラしたスカートのドレスで、チェーンやスタッズ、安全ピンを模した布製飾りがついている……!

 アシンメトリーでところどころに赤い布も使われてて、けど私の好きなフリルやレースもついているという歩み寄りが見られた。


 で、でもこれは完全なるパンク系。フリルもレースも黒だし。

 いいのか、私っ! こんなことで信念を曲げてもいいのかっ!


 んぐぬぬぬぬぬ、でもお父様には会いたい、今すぐ会いたいぃぃぃぃ……!


「んぎゅむむむぅ……」

「ああっ! お嬢様が人にはお見せできないお顔にっ」

「ノラ、大丈夫! それでもミーティアはかわいいから!」


 ぐぬぬ、やりおる。おぬし、やりおるのぅ!

 好奇心とパンク系ファッションを天秤にかけ……ふんぬぬぬぬっ!


 むんずっ、とオリビエお兄様からドレスを掴み取ると、私は高らかに宣言した。


「きりゅっ!!」

「マジで!? や、や、やったぁーっ!! ミーティアのパンクファッションが見られるぅっ!!」

「す、すごい喜びよう……ですがオリビエ様、お嬢様のお顔がまだ人様にお見せできる状態ではっ」


 んむぅぅぅっ、仕方ない。こればっかりは仕方ない。

 でも顔が元に戻らないのはどうしようもない。


「ねぇ、ミーティア。できれば笑顔で着てほしいなぁ?」


 笑顔ね。うん、笑顔。ほっぺをもにもにしちゃう。


 オリビエお兄様はいつも私のためにいろんなことをしてくれるし、これがお礼になるなら笑顔で着てさしあげたい。

 それに正直ここまで喜んでもらえるのは悪い気がしないからね。私がかわいいんだから仕方ない。


 ほら、にこにこ。うん、女はあいきょーが大事っていうし。

 男はなんだっけ。にんきょーだっけ。


 なにはともあれ、全てはお兄様のため、そしてお父様に会うために!

 パンク系ドレスでもなんでもどんとこーいっ!


「ノラ、きせてー」

「はい、すぐに! ああ、いつものおかわいらしいお嬢様に戻りましたね!」


 にぱっと笑いながらノラに頼むと、ノラもオリビエお兄様もでれっとした顔になりました。


 二人の方がやばいお顔になってるよ。ほら、笑顔! いや、これもでれっと顔も笑顔と言えなくもない、のかな? まあいっかー!


 ~ お 着 替 え 中 ♪ ~


 じゃじゃーん。パンク系ミーティアちゃんでーす!


「ふぐっ、俺の妹がかわいすぎてつらい……!」

「オリビエ様、お気を確かにっ」


 うん、かわいい。やっぱり私は何を着てもかわいいね。

 本当はプリンセスがよかったけど、似合っちゃうものはしかたない。


 そして今、私はオリビエお兄様の前でくるくる回転させられています。

 ゆっくりとはいえ、こう何度もくるくるしてると目が回っちゃうよ。もういいでしょー?


「おいびえおにーしゃま、だっこー!」

「ぐふっ、うん。約束だもんね。よし、おいで」


 今にも鼻血を出すんじゃないかという勢いで顔が真っ赤なオリビエお兄様に近づいたはいいものの、ちょっと変態度が高めだから戸惑っちゃう。


 引き気味の私に気づいたのか、オリビエお兄様は何度も深呼吸を繰り返しつつ、ぶつぶつと数字を呟いてから私を抱き上げてくれた。なんの数字?


「さ、行こうか。隠密行動を心がけよう」

「おんみちゅ」


 スッと真顔になったオリビエお兄様はかっこいいね。

 復唱したらまた顔が緩みそうになっていたけど、どうにか我慢できたみたい。


 オリビエお兄様に抱っこされて向かったのは、玄関ホール。

 おぉ、速い。私の足だとすっごく時間がかかっちゃうけど、オリビエお兄様の足だとあっという間だね。


 階段の上にある植木の影からそーっと階下を観察。

 手すりもあるからよく見えないけど、玄関ホールにずらーっと並ぶ使用人さんたちがいる。


 ふぁー! すごいお金持ちっぽーい! お金持ちなんだけど!


 約束したので声を出してしまわないように両手で口を押えていると、なんだか身体が小刻みに揺れた。

 あ、震えているのはオリビエお兄様だ。さっきからちょいちょいこうなる。


『ミーティアたんがかわいすぎて正気を保てる自信がない……! やばい、人類の至宝! 俺のミーティアたんは誰にもやらん!!』


 日本語で何度も似たようなことを言い続けるオリビエお兄様。頼むから正気は保っていてね。


 おっと、そうこうしている間に玄関のドアが開きそう。

 クイクイッとオリビエお兄様の服を引っ張ると、お兄様もハッとなって階下に注目した。


 両開きのドアが開かれ、外から屋敷に入ってきたのは……とっても大きなおじ様だった。


 はわ……マッチョだ。マッチョがいる。


「あれが父上だよ」

「ありぇが!!」

「あっ、声が大きいっ」


 うっかり! 大人しくしてる約束だったのに衝撃的すぎて声が大きくなっちゃった!

 せっかくオリビエお兄様はコソコソ喋ってくれていたのに。


 ばっちり私たちは見つかり、マッチョなお父様がこちらを見上げてきた。


 わぁ、目が合った。私とおんなじ金髪だけど、かたや愛らしい幼女、かたや筋肉ムキムキなマッチョだからまったく似てない。

 オリビエお兄様ともあんまり似てないよね。遺伝子どうなってんの?


「む、オリビエか。それと……まさか、ミーティア?」

「はい。ミーティアが父上に会いたいと」


 観念するのが早いオリビエお兄様はすぐさま私を抱えて立ち上がると、軽く頭を下げた。

 抱っこされたままだけど、私も一緒になって頭を下げる。


「ごめしゃい。……おんみちゅ、しっぱい」

「だね。ちゃんと謝れてえらいね、ミーティア」


 怒られちゃうかな、と思ったけど、意外にもお父様は構わないからこちらへ来いと言ってくれた。

 おっ、近くでマッチョが見られるチャンス。


 オリビエお兄様が私を抱っこしたまま慎重に階段を下りると、少しずつお父様へ近づいていき……ふぉ、迫力も増していくぅ。


 気のせいかな、お父様もどことなーく緊張しているように見える。

 ぐぬってなってるもん、眉間が。ぐぬって。


 そうしてついに目の前までやってきました。

 はー、でか。背も高いけど横から見ても厚みがあるというか筋肉というか筋肉というか。


「……」

「閣下、失礼ながらそのように見下ろされますと幼児には恐ろしいかと……!」


 パパの近くに控えていた執事さんが私に気を遣ってくれている。

 いやいや大丈夫だよ、執事さん。むしろこれはご褒美ですとも。


「……おとーしゃま、かっこいーねー」

「!?」

「きんにく、しゅごい」


 んむーっ、触りたい。

 鍛えられた筋肉ってかたいのかな? 柔らかいのかな? 私、気になります!


 抱っこしてほしいなぁ……。そうしたらどさくさに紛れて筋肉をまさぐれるのに。さすがに無理かな。


「ミーティア、父上はとてもお強いんだよ。悪い人を簡単にやっつけられるんだ」

「ふわぁ、しゅごい」

「この間も、陛下に近づく悪い人をあっという間に倒したんだって」

「おとーしゃま、ちゅよい!」


 オリビエお兄様が色々と教えてくれるので、ついキャッキャとはしゃいでしまう。


「んはっ、へーか、きてりゅ?」

「はっ! そうでした。父上、陛下をお迎えするのにお忙しかったですよね。すぐにミーティアを部屋へ……」

「……よい」

「え?」

「ミーティアも連れて来て構わぬ」


 うっかりオリビエお兄様とお父様のお話で盛り上がっちゃったね。

 だけどお父様ったら満更でもないご様子で許可までしてくれちゃった!


 んふー、誰だって褒められたら悪い気はしないよね! 私も褒められるの大好きだもん。

 胸の奥がぎゅわーってなって、うわーってなって、ハッピーでいっぱいになる!


 お父様もそんな感じかな? だとしたら私もうれしいな。


「陛下もかねてから末の娘に会いたいとおっしゃられている。丁度良い機会だ」

「わぁ……!」


 お父様はごほんと咳をして誤魔化しているけど。うれしいならうれしいって言ってもいいのに。

 公爵家の当主ともなると威厳が大事だったりするのかな? 大変だなー。


 まぁいい。せっかく私も一緒に来ていいって言ってくれたんだもん、喜んじゃおう!

 でも緊張しちゃうね。だって陛下ってこの国で一番えらい人でしょ? 王様だもんね?


「おめかち、ちなきゃ!」

「おめかし? 十分かわいらしいドレスを着ているじゃないか! これ以上なく! 素晴らしいドレスを!!」

「や。おひめしゃまのドレスに、すう」

「そんなぁ」


 ここは譲れません。だって、第一いんしょーが大事だもん。


 パンク系ドレスの私を見て、ミーティアはこういったものが好みなんだな、って陛下に思われたら立ち直れない!


 自己紹介もかねるし、私の大好きな格好をするのがいいと思います!


「慌てずともよい。ゆっくり支度をして中庭に来るがよい」

「中庭、ですか?」

「うむ。タチアナ様に我が家のバラを贈りたいのだそうだ。ご自分で選びたいとのことだ」


 えっとたしか。タチアナさまっていうのはお妃様で、お父様の従姉妹なんだっけ?

 あれ、もっと遠縁だったかな。忘れちゃったけど、とりあえず親戚!


 へぇ、バラを送るなんて陛下はロマンチックだね。私も中庭のバラ見たい。


 あっ、バラを選んでいる間少し時間があるってことか。

 それならお着替えもできるね!


 あ、ちょっと、オリビエお兄様。ガッシリ抱っこするのやめて。もうパンク系ドレスは堪能したでしょ。おしまいでーす!


 ~ お 着 替 え 中 ♪ ~


 ノラの素晴らしい手際によって、あっという間にお着替えした私。


 淡いピンクのプリンセスラインのドレスはフリルとレースがたっぷり使ってあって、すっごくかわいい!

 それでいて幼児だから動きやすさもある。素晴らしい。


 なんでも、陛下がお求めの中庭のバラをイメージしたドレスなんだって。ふぉ、最高。


「おとーしゃま! おまたしぇ、ちまちた!」

「ごほっ…………うむ」


 え、大丈夫? 咳き込んだあとに少し間があったけど。喉の調子でも悪いのかな?

 喉にいい飲み物とか淹れてもらえるように、あとでノラに教えてあげよう。


 きょろきょろと辺りを見回してみたけど、まだ陛下は来ていないみたい。

 もう来てるかもと思ってドキドキしていたけど、このドキドキはまだ続くようだ。んひぃ。


 ああ、緊張する。そういう時はお喋りするのがいいよね!

 オリビエお兄様とはいつもお話しているから、ここはやっぱりお父様でしょ!


 私がクイクイッとオリビエお兄様の服を引っ張ると、お兄様は話を聞こうと私に顔を近づけてくれた。


「あにょね、おとーしゃまと、おしゃべりちたい」

「ふふ。きっと父上もミーティアとお話したいと思うよ。一緒に行こうか」

「あいっ」


 オリビエお兄様は私と手を繋いでお父様の下に行ってくれた。

 歩幅を合わせてくれるオリビエお兄様、優しい。


「父上、ミーティアがお話したいと。陛下が来られるまでよろしいでしょうか」

「ああ。構わん」

「ミーティア、いいって!」

「はわ……えっとぉ、えっとぉ」


 ……あれ? あれれぇ?

 せっかくオリビエお兄様がつないでくれたのに、いざお喋りしようと思うと何を話せばいいのかわからない!


 そっか、オリビエお兄様やノラとのおしゃべりはいつも向こうから話題を出してくれていたから……!

 私から話しかけることもあるけど、その時その時で起きたことを話すから「さぁ、お話ししましょう」と言われると困っちゃう!


「んむぅ」

「話題が思いつかないのかな? じゃあ、父上に聞いてみたいこととかはない?」


 ふぉ、ナイスアドバイス! 聞きたいことならあるよ!


 私は思い切りビシッと片手を上げた。

 まだ腕が短いので頭と指先がだいたい同じ位の高さなのが締まらないけど、勢いだけは伝わってほしい。


「おとーしゃまの、ぶゆーでんが、ききたいでしゅ!」

「武勇伝! それはいいね。父上、ついこの間のことをお話するのはいかがでしょう」

「ふむ、そうだな。だが、まったくもって手応えのない連中だったからな。その上、実にけしからん者どもだった。証拠が並んでいるというのにいつまでも言い逃ればかりでな。陛下のお耳汚しになる前に、私がぶち殺……」


 はた、とパパと目が合う。

 ん? なぁに? ぶち? ころ?


「閣下、汗が……」

「ぶち、ぶち、ころ……」


 どうしたんだろう。なんとなく顔色が悪いような?

 さっき咳もしていたし、風邪かなぁ。やっぱりノラに教えておかなきゃ!


 内心でそう決意を固めていると、ようやくお父様がポツリと呟いた。


「……ブチ(﹅﹅)模様の、ころ(﹅﹅)っとした猫を町で見かけた」

「えっ、猫……?」

「見 か け た な ?」

「っ、は、はいっ! それはもうとても愛らしいブチ模様のころっとした猫でございましたっ!」


 えぇっ、猫ちゃん!? ブチのころっとした!? 見ーたーいーっ!!


「いーなー、ねこちゃ! あたちもみたぁい!」

「よし、すぐに捕まえてこい」

「ええっ!? 閣下、さすがにそんな無茶……あっ、は、はい。すぐにっ!!」

「にゃーお、にゃおにゃお、にゃーお、にゃおん!」

「んぐっ……!」


 はっ、猫ちゃんに会えるのが嬉しくてルンルンだったけど、やっぱりお父様は具合が悪いみたい!

 でもでも陛下も来るし、まだがんばらなきゃだよね……。うぅむ。そうだ!


「……ミーティア?」


 私は思い切ってお父様にえいやっと抱きついた。

 でも身長差がありすぎて足にしがみつくことしかできなかったけど。


「あにょね、おとーしゃま、かぜかなって。だから、あたちが、あっためてあげう!」

「っ!!」


 ああっ、ついに手で顔を覆ってしまった! そんなに具合が悪かったの!? どうしよう!


 焦っていると急にぐんっと身体が浮かび上がった。ひょえ。


「ありがとう。おかげで治った」

「えっ、ほんと? よかったぁ」

「優しいのだな、ミーティアは」

「んへへー」


 お父様は私を腕に抱いてぐりぐりと頭を撫でてくれた。

 やった、抱っこしてもらってるぅ! 目標達成!


 お父様の筋肉は、ちょっとふわふわしてて気持ち良かったです!


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