#67 囚世:乖離虚域 part11
あんまり進まなかったの巻
私の中の警戒心の中心、幻鳥。しかし、その理不尽はそれが理不尽たる所以を示した。フィールド全体に対する全体攻撃。
戦場は、開始早々警戒していても避けようのない炎幕の広域攻撃に彩られた。
戦闘開始直後に火を吹いた鳥は、フィールドを炎上させた今悠々と空を飛んでいる。
それと反対に、焔に直撃した私は既に厳しい状況。HPも大幅に削れた。
唯一幸いであったのは、その攻撃により戦士達のヘイトのほとんどが幻鳥に向かったこと。
今私を狙っているのは、46体中たったの3体。
(それでも───)
攻撃に回ることさえ出来ない。
「ぁッ?!」
包囲され、連携をとってくる戦士たち。個々の力ですら及ばない上、洗練された動き。
マチェットが頬を撫でる。戟が腹部を削る。
「回復っ!」
3人目、ガントレットが殴りかかってくる。
回避スキルを発動して追撃を避けるものの、後隙をつかれダメージが入る。
「回復っっ」
肩を戟で貫かれる。
マチェットで首にクリティカルダメージが入る。
「回───CTっっ!!」
HPは早くも残り3割。
ただその身が削れていく。ただ許されたのは死を遅延させることだけ。
「がはッッ」
回復が出来なかった動揺により、刹那硬直した身体。腹をガントレットに撃ち抜かれ、思わず息を吐く。
更にHPが削れる。
「くっ」
手札はまだ有る。が、それをここで出してしまったら、後に戦うであろう幻鳥はどうする?
「【一瀉閃離】!」
アジリティ補正スキルを発動。隙間を縫って駆け出す。
距離を取って回復を──────
『………』
「なっ!?」
突風。
果たしてそれは、その戦士の翼によるものだった。羽ばたきによる大きな加速。
スキルによって底上げされたアジリティをさらに上回る速度で、背後へと回り込まれた。
戟が繰り出され、横に突き出た刃が横腹を切り裂く。
「回復ッ」
回復をしながら、せめて少しもの反撃をしようと戟の柄を掴み、引き寄せて切りつけ──────
「ッッ!!」
──────翼を折り曲げ、体を覆うようにして防御されてしまう。
戦闘開始して数分、未だ敵の数体にすら及ばない。ダメージが与えられず、延命をするもいつ死んでもおかしくない。
少しでもミスをすれば、即死。いつ死んでもおかしくない。それが、5分ほど続いている。
隙をみつけ、攻撃をしようとすれば羽に阻まれ。
逃げようとしてもその翼の羽ばたきによって再び距離が縮む。
「!」
ガントレットの打ちつけをパリィした右腕が、マチェットにより飛ばされる。右手が欠損。
「なっ───」
戟で左胸を貫かれる。
逆刃により引き抜くことが出来ないまま体が固定される。
向かってくるマチェットとガントレット。
デスを覚悟し、目を瞑るが───
──────パアァァァァン!!!!
その戦士の脳漿が凶弾に穿かれる音。
目を開けば、目の前の戦士がグラりと揺らいだのが見える。
何処からか、援護があったらしい。
戟持ちの戦士に蹴りを入れ、持ち手の部分から抜く。
外部からの危機を脱したものの……
湊:やばっ、1割切った
ランラン:終わったT T
ホムラ:無理そう
(本っ当に、冗談キツイわよ……!こんなのどうしろって───)
少なくとも、私は配信者以前に1ゲーマーとして、実力のある方だと自分している。
それでも、これか。
私はこのゲームにおいて、非常に恵まれた軌跡を描いていることは間違いがない。
割と良いアイテムや武器、縁に恵まれ。レジェンダリークエストに恵まれ。
そして今、パーティメンバーに恵まれ。
この気持ちは、恵まれすぎているからだろうか。
プロのシーアさんならば、全員を倒してしまえるだろう。アマチュアの夜鳴でも、きっと全てを殴り倒すだろう。Lilyならばその頭脳にて、活路を見出すだろう。
(私は──────足手まとい?)
◇
──────乱戦。
敵味方が入り乱れる戦場のことを言うらしい。
だが、この戦場は違う。
敵と敵と敵が入り乱れる中、私は一人どうにか命を繋いでいる。
こんなもの、乱戦とは呼べない。少なくとも死闘ではあるのだが、その実態は徹底的な逃げという事実。
私の心が揺れている。
不愉快、なのだろうか。自分は今、確実に無力な存在。目の前の敵とは隔絶した力の差があり、逃げ回るしかない自分に嫌気がさしているのだろうか。面白くないと感じているのだろうか。
Alice様の奴隷:あっぶない!神回避連発しすぎ!
メガロ丼:なんでこんな混戦でまだ生きてるの?上手いねやっぱ
栗鼠虎:ギミッククリア難易度高すぎやろ……でもAlice様信じてる
違う。
斃停止姉:まだ耐え!
グリニッジ体内時計:こっからまだなんとか
「──────!」
襲い来る戟をパリィし、マチェットに当てる。
ガントレットを躱し、掴み、背負い投げの要領で───
マチェットにぶつける。
「まだまだぁ!!」
脳裏に浮かぶのは、最弱のステータスを持つU。初めて受けた衝撃を思う。
「ここから!」
あの日の彼を真似する。
対多数戦闘の最強は、彼だと思うから。
私は配信者以前にゲーマー。
逆境でこそ──────!
「らぁ!!」
攻めに転ずる。
1vs3だ、敵の攻撃を転用する。
(私は──────)
あの人達に並びたいという気持ちが、モチベーションが、勝機を生む。
「【精霊召喚】───」
そして私は、ゲーマー以前に配信者。
みんなと一緒に作りあげたこのキャラビルドを、簡単に負けさせてたまるかと思う。
「───【青】」
手に持っている短刀に、水が伝うエフェクト。
そして背後に、水色の人型が出現する。
私が使役している精霊。私は精霊術士だ。
対面する理不尽、その対処はUから学んだ。
弱い自分に不貞腐れている訳では無いが、悔しさはある。
「ボコす……!!」
逆境だからこそ、ゲーマーは強くなる。
なんか、起死回生!みたいな雰囲気出してるけど、ホントの逆境はこっからだからねアリスさん………




