#64 囚世:乖離虚域 part8
前話が非常に読みづらかったかつ必要なアナウンスなど抜けてたので修正しました
『その日、訪れた穢れを身に受けた魔女は、全てを呑み込む暴食と化しました。その咎が解き放たれれば、世界は終焉に呑まれてしまいます。なので聖女は魔女を過去の世界の裏側に閉じ込めることにしました。しかし恐ろしいほど強大であったその魔女は、その小さな裏側を呑み込んで這い出てきてしまいました。黒く澱んだ霧の地は、その名残です。
そして聖女は決意しました。自分ごと魔女を閉じ込めて、閉じ込めた中で更に閉じ込めようという決意です。そのあとどうなったかは、これを読んでいるあなた達が1番分かっているのでしょう。(追憶の聖典 本編より)(外歴84年発行)』
「───そしてその封印を守り抜くまでが、私の務め」
◆
「それで、図書館で何をさせる気?」
「ふふふ、そんな怖い顔なさらないでください。争いに来たのは尤もですが、争うのは私達では無いのですから」
向かい合う2人の少女。一見空気は静かだが、その間には厳しい緊張が張り詰めている。
「いまから私たちがするのは、ちょっとしたゲームの様なものです」
そんな中、落ち着きを保ったまま金髪の少女は言う。
それに対するLilyの返答は
「……『神経毒』」
べちゃ
問答無用、先手必勝。そう言わんばかりの先制攻撃。魔法による、毒。本来ならスリップダメージを催すそれであるが───
「不躾な人ね、争うのは私達では無いと言ったでしょう?」
(───やはり……ね。)
少女に効果を及ぼす事は無かったらしい。
少し不機嫌になった少女だが、それでも意に介した様子は無い。
Lilyは思考する。
どうやらこの空間は、予想通り攻撃が許されないらしい。であれば、これからする必要があるのは何か?
そして───目の前のナニカの正体とはなんだ?ということ。
(態度から鑑みるに魔女ではない…………なるほど、そういう)
様々な疑問がLilyの脳内を飛び交うが、直ぐに少女に止められる。
「まぁ、そんなに考え込んでどうしたのですか?私たちが頭を使うのは、これからですよ」
「これから───なに、チェスでもしようっていうの?」
「ふふ、似たようなものです」
微笑みながら、少女は立ち上がる。
そして5つのテーブルを撫でる。するとそこには、5つの地図がそれぞれに映し出された。
正方形のその地形。一見しただけで、それが街だと分かる。
そしてそれぞれの地図に、2つの大きなアイコンが存在していた。
左から2枚目と3枚目の右上には──────
「──────【図書館】……ね」
1枚目中央には【門】が、1枚目と2枚目の左上には【神殿】、3枚目と4枚目の右下には【闘技場】、4枚目と5枚目の左下には【塔】という表示がある。
なんだこれは?という疑問が口を出る前に、少女が答えを提示する。
「これはですね、5つ重なって展開されている〘乖離虚域〙、そのそれぞれの基盤たるものです。そのエリアによって各フィールドは繋がっています」
聞き覚えのない単語に疑問が浮かぶが、今は情報とルールを正確に把握することに注力するLily。既に駆け引きは始まっている。
「この4つのエリアには、それぞれギミックが存在します。貴方の目標は、このギミックをクリアすること。そうして核を破壊すれば、私は〘乖離虚域〙の維持が不可能になり、自ずと魔女の封印が化現します」
つまりは──────どうにかしてこのギミックをクリアしろということ。そうすればこのフィールドが全て消失し、魔女の封印が現れる、と。
「でも、私一人じゃどうしようも無いのだけれど」
そのルールを聞いてすぐに思ったのが、『手札が足りない』という事。知らないフィールド、仲間の場所はいざ知らず。頼れる我が身はすでに相手の手中だ。
だが、ゲームというからには、公平でならねばならない。
そして少女もそれを理解していたらしい。
「安心してください。貴方と私が血を流さないという契約が図書館のギミックに存在する代償に、このゲームは可能な限り対等な筈です。」
「フィールド上のそれらギミックをクリアするのは、貴方ではない。言うなれば、貴方の駒達です。貴方はそれらに命令を出して、意のままに動かし、エリアを踏破すれば勝利を得られます」
再び少女がテーブルをなぞる。そうして浮き上がってきたのは、6つの矢印だ。一つの地図につき一つあるいは二つの矢印。少女曰く、それがLily の駒らしい。
一枚目の地図には、【神殿】の方へ動いていく矢印があり。二枚目の地図には、【図書館】と重なるように存在する矢印がある。
(この動き───あぁ、そういう)
他にも同じように矢印は存在していたが、Lilyは最初二つの情報により、少女のいう駒がプレイヤー──────つまりはぐれた仲間達であり、更に言えば【神殿】へと動いているのがAliceであると推測する。
【図書館】で微動だにしない矢印は自分であろうこと、そして矢印の数やらを鑑みればそれがプレイヤーを示すことは明確であり、最も動き出しの速い矢印が1番最初に転送されたAliceであるのは当然だろう。
「ですが、私は貴方に勝たれては困る」
初めて少女の笑みが消える。
その凍りついた表情から滲み出る壮絶な覚悟に、Lilyは少し気圧されたように身を引いた。
「なので、私も駒を使わせてもらいます。貴方の駒を、潰す。全力で」
威圧するように脅し文句を吐く姿は、先程の柔和な雰囲気からは考えられない。
「私の駒は四体存在します。私達がいる〘乖離虚域〙を除いて、それぞれにつき一体づつです」
足りない情報のピースが埋まっていく。
「そしてこれはサービスですが。私の駒───幻獣に会ったら迷わず逃げることをお勧めします。彼らは理不尽の体現ですから」
(幻獣……)
イマイチイメージが湧かないが、敵の存在は把握した。あと必要なのは、少しの詰めのみ。
「つまりは、その幻獣ってのを避けながら私の駒をギミックへと辿り着かせればいいのね」
再び微笑む少女。既に思考誘導が働いていることに本人は気づかない。
「質問、いい?」
「ええ、どうぞ」
にこやかに答える。
「まず一つ。プレイヤーと幻獣のフィールド間の移動は可能?二つ、幻獣の位置はマップに表示される?そして三つ、私の他の手札は何?」
少女の笑みが固いものへと変わる。少なくともLilyが警戒に値する人間だと判断したらしい。
「いい勘をお持ちなのですね、いいでしょうお答えします」
「一つ目ですが、不可能です。プレイヤーが基盤のエリアに侵入すれば両フィールドに影響を与えることが出来ますが、あくまでフィールドは固定。移動は不可能とお考えください。幻獣も恐らく不可能でしょう」
少し曖昧な表現。だが十分な回答だ。
「二つ目ですが、自分の駒は常時視認可能ですが、敵の駒は30秒に一回、5秒のみ映るようになっています」
つまり、限られた情報のみで移動の傾向を判断し、動きと命令を読む必要があるということ。
(一気に難易度が跳ね上がるのね)
面倒なことになった───と暫し思うが、しかしそれはお互いに言えることだ、Lilyは直ぐに思考切り替える。
「そして三つ目。よく気が付きましたね、確かに貴方のそれらと私の幻獣ではつり合いが取れないのは確か。ですので貴方にはこれをお渡しします。」
〘アイテム【制地権:エリアE】を獲得しました。それに伴い、地下に格納されている『L Series』の使用を許諾致します。存分に撃滅をお楽しみください〙
少女の声と共に、システムアナウンスが鳴る。手元のUIを見れば、確かに【制地権】というアイテムが装備されている。
一体なんのことだと視線を上げれば──────
「!───なるほどそういう訳ね」
「ええ、そういう訳です」
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〘L Series〙
『通常設備』
【追尾ミサイル砲】×3
【スナイパー】×1
【対物ライフル砲】×2
………
……
…
『神話級:Rep』
【揺レ動クモノ】×1
【粉砕スルモノ】×1
【破滅ヲ齎スモノ】×1
【滴ルモノ】×1
………
……
…
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上部には、種々兵装の名前。
そして下には『神話』を名乗るものが。
(これは──────いや、罠……ね。)
如何にも絶大な効果を発揮しそうなそれら。初めて見る武器種であり、更には『神話』を名乗るそれらを見て、心が湧かないわけは無い。
だが、Lilyは冷静さを保っていた。その兵装が、自分の駒すら滅ぼしかねない危険物である可能性を、見逃すことは無い。
『神話』の名を冠している兵装だ、その強すぎる効果が自分をも呑み込むのでは、使い物にならない。
つまり、使えるのは上部の通常兵装のみ。しかもその数は限られている。
「チェスに似ているというのは、そういう事ね」
「ええ、そうです。」
つまり、Lilyは限られた駒でギミックを取りに行き、少女は限られた駒でプレイヤーを取るのだ。チェスと似通う部分と言っていいだろう。
「でもね」
既に脳内に複数の策が立ち上がるLily。
静かにその戦場は幕を開けた。
「チェスは私の得意分野よ」
「そうですか、そうですか。ではお手並み拝見、と言ったところですね」
ゲーム進行の為に現れたシステムウィンドウに、複数の命令を入力していくLily。
先ずは2つ。
『Uが今向いている方向を北とし、これ以降の命令を行う。まずは東へ』
『シーアが今向いている方向を西とし、これ以降の命令を行う。西へ逃げて』
このシナリオの軸たるゲームが、緩やかに始動した。
〘乖離虚域第2層:【図書館】〙
〘参加人数:1〙
〘VS:光の聖女〙
〘虚ろなる聖戦が幕を開けました〙
その少女は聖女でしたとさ
聖女の思惑は、侵入者に空間と破壊されないようにして封印を守ること。
Lilyは、空間を破壊して封印を晒し撃破すること。
ですが聖女自身は弱いので、攻撃出来ない空間を作っています。その代償に勝負をしなければならないのです。
あとフィールドの構造の描写が少し分かりにくいと思いますので少し解説。
聖女の言うように、乖離虚域が5つ重なってこの空間が出来ています。言うなればダンジョンみたいなもので、エリア(神殿とか図書館とか)で、その異なる乖離虚域は繋がっています。
フィールドの形は全て同じで正方形です。唯一の違いは、基盤が何処にあるかと基盤が何かということ。
基盤というのは、階段のようなものと考えてください。
上のパラデイグマに行く階段(基盤)と下のパラデイグマに行く階段(基盤)の2つがあり、例えばAliceのいる左端の地図は、門によって外に繋がり、神殿によって2階に繋がっているんです。
ですがプレイヤーはそのフィールドに縫い付けられているので、階段を上がったり降りたりすることは出来ます(エリアに侵入することは出来る)が、階段から廊下に出ることはできません。
分かるかな(複雑で申し訳ないという顔)
多分Twitterかなんかで図を上げます




