#55 縋り憑く深淵
つづきー
─────────ヴゥゥン
ジャンプ、『スプリントダッシュ』、パリィ、パリィ。体を捻って避け、腕で地面を押して避け、マトリックスもびっくりな体勢で避ける。
恐らく五分くらい耐久すると、通常形態あるいは新形態に以降する筈だ。
光の輪がすり減るスピードはそれなりに早い。
「おらっ!!」
2本の光剣の連撃を捌き、隙を見て消し飛ばす。攻撃の手は止まず、更に飛来する3本の剣。
この数分で分かったことだが、騎士が集中して動かす剣の本数が少なくなれば少なくなるほど、強度と練度が上がるらしい。
─────────ギィン!!
2本の時よりも単調な動き、さっきよりも楽に消し飛ばす。
どうやら光剣フォームは大して厄介では無いらしい。
ずっとこのままなら楽なのだが…………如何せんダメージが入っていない。それじゃあ意味が無い。
さて次の剣は──────来ない?
「ハァァァ!!」
聞こえてくる声。若干高めで幼さを感じるその声は……ヘラ!?
もう眠気が取れたのか。ちと心配ではあるが、やつの戦闘力は俺に匹敵する。多分。
俺が騎士の光の剣を捌いていた間に、騎士本体に攻撃しようとしていたらしい。だから光の剣はヘラに集中し始めたようだ。
最初の一撃は綺麗に入ったらしく、斬撃痕が残る首元から黒いモヤが出ている。
ふむ、この形態になったら2人でやるべきなのか。今光の剣はヘラに集中しているから、俺が本体を狙う!
「ボーナスタイムじゃあ!!!」
光の剣に狙われていない方が本体を狙い、ヘイトが切り替わったらアタッカー交代。
本来、前衛アタッカーが二人居ないと出来ない立ち回りだが、幸い俺たちの編成は悪い。
このまま削りきろう。
そう思った瞬間、動きが変わった。
「【震脚】」
轟音。
今まで微動だにしなかった騎士が、地面を踏み鳴らしたのだ。割れる大地、吹き飛ぶ俺とヘラ。
空中の俺を狙い撃ちしようと、光の剣が飛んできたのを辛うじて防ぐが、体勢を整えられずに落下ダメージを甘んじて受けた。
ヘラは──────さすが、無事だ。
大丈夫だと判断し、注意を騎士の方へ。
6本の光の剣が3つづつ合わさり、2本の大剣になった。
そして騎士は己の大剣も構え動き出す。
ここからが第3ラウンドらしい。
ヘラが先ず走り出す。俺は後ろから追従するように動いていく。形態が変わったとは言え、ここからも先程と同じような立ち回りでいいだろう。ヘイトを持つメイン盾とアタッカー要員。
しかし先程と違うのが、光の大剣を抑えるのが大変だということと、アタッカー要員は動く騎士を相手にしなければならないということ。
光の大剣がヘラを襲う。
俺が騎士か。
「行くぞッ!!」
己を鼓舞する掛け声。
それに応えるように、騎士も俺に向かって走り出す。
「………【降斬】」「『フラッシュリフレクト』!!!」
最初のアクションは、上からの振り下ろし。斧で横面を叩きパリィ。
「【掌握】」
剣から離した片手から繰り出される掴みモーション。
「『サイドスライド』」
スキルの強制力により無理やり避ける。
「『アクセルストライク』」
横に回った俺。脇腹を狙い長斧を叩きつける。
「【旋脚】」
が、パリィされた勢いを利用した回転蹴りが斧に直撃。拮抗して弾かれる。
「がァッ、!!」
弾かれた斧から手を離し、騎士と同じく回転の勢いを利用。戻そうとしている足に向かって、無手の肘打ち。
武器こそは失ったものの、未だ伸びきった足に直撃し、その衝撃で足の装甲部が破損される。
技量ステータスの真髄とは何か。
それは偏に、エネルギー保存である。
エネルギーが他の物質へと移り変わる場合、少なからず生じるエネルギーロス。それを極限まで減らすことが出来るのが、技量ステータスなのだ。
合気道の達人は、相手の力を受け流し無力化する。それを上回る、受け流しからの利用。それを可能とするのが技量ステータスであり、だからこそ技量なのである。
「【震脚】」
装甲部が破壊されたとはいえ、足はまだ存在する。少し仰け反ったものの、追撃を抑えようと発動された震脚。
地面に振動を与えることで、地面を介して敵に衝撃を与える技。多少振動が逃げても、足止めくらいにはなるだろう。
が、俺は同じ轍は踏まない男!
「ヘラ、跳べ!!!」
「了解!」
事前知識が無くとも、モーションを見ればいい。
地面に触れていなければいいと分かるのは容易だ。
「『スプリントダッシュ』!」
そして、地面に足がついた瞬間にスキルを発動する。
接近。
騎士は未だ体勢が崩れ、大剣を持つ手はダランと垂れたまま。
辛うじて抵抗しようと、空いた手から突きを放とうとする。
が、もちろん許すわけが無い。
「貫けェ、『飛牙』!!!」
流離人がもつ唯一の体術系スキル。それは、固く握り締めた拳による攻撃でも、先程のような掌底打でもない。
親指をまげ、残り4本の指をピチリと合わせる。その鋭利な形は、刃物を彷彿とさせた。突く事にのみ特化した技、いわゆる貫手である。
一点集中だからこそ出る高火力。もちろん、急所を狙うのが最高効率。
高速接近によりゼロ距離まで近づけば、狙い目になる部位は自ずと決まる。
貫手が鳩尾のプレートアーマーを穿き、急所に入った。
騎士の手は間に合うことはなく。
拳の形を保ったまま、静止した。
手を胸から引き抜き、一応警戒して距離を取る。
何故だろうか、嫌な予感がした。理由を言うとすれば、色だろう。
「お兄ちゃん、剣が消えた。終わったの?」
背後から近づいてくるヘラ。多少の傷を負いながらも、しっかりと持ち堪えられたようだ。
「終わってない………と思う。」
両腕は真下へ伸び、俯いた騎士。首から出る黒い煙は止まらず、腹と足はアーマーが破損して黒い肉体が見えている。そして貫かれた胸は、更に黒い。
既視感。
そして、答え合わせが始まる。
『レアエネミー【追憶の騎士】に特殊状態〘深化〙が発現しました』
『レアエネミー【追憶の騎士】が【縋り憑く深淵】への形態変化を開始』
『成功しました』
『あなたは深化MOBと敵対しています』
『ワールドシナリオAS【異端】が進行します』
「─────構えろ、第4ラウンドだ。」
縋り憑く深淵君のイメージは深淵歩き君です。
深淵懐いですね、ようやく再登場しました




