表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/53

51.主婦、無双する

 駆け寄るついでに、ニコルの前に立ちはだかる邪魔な男の頭を『破魔の剣』から出した触手で掴んで、鎧が立ち並ぶ一角へ放り投げる。


 そういえばこれ、ここに来るまでずっと握ったままだったな。

 グーのまま毛玉を抱っこしてて、ちょっと自分が何やってるか良く分かんなかったけど、結果的には持ったままで良かったよ。


 その場にしゃがみ込むと、ニコルは濁った目で私を捉えた。


「チカ、さん?」

「うん、遅くなってごめん。すぐに片付けるからね」


 そう言って再び立ち上がる。

 ポカンとしていた残り二人の顔に、怒りが湧き上がるのが見て取れた。


「お前、何者だ?」

「お前も半端者か? それとも魔物かよ」


 軽く息を吐いて、私は首を振る。


「どっちでもないよ、人間。でも『勇者』だから、ちょっと魔物寄りかもね」


 剣を構え直す二人に、私はわざと笑ってみせた。


「そんな物を『勇者』に向けて良いの? それって、王様に歯向かうのと同義だよね」


 二人は顔を歪めた。

 口から出まかせだったのに、やっぱり『勇者』ってその位の立場だよね。

 二人はすぐに、それを引きつった笑いに変えちゃったけど。


「問題ないね。口を封じさえすれば、後は何とでも言える」

「例えば『勇者』が魔物に成り下がったから成敗した、とかな」

「つまり、私はあんた達に成敗されると」


 わざと貼り付けた筈の笑みが本物になる。


「本気で言ってんの、それ」


 笑い声を出すのは流石に失礼かなと思って口をつぐむと、ククク、と悪役的な声が漏れた。

 やだ、ヘソでお茶が沸かせそう。


「試してみるか?」


 背後で金属がガチャガチャ音を立てる。

 多分さっき吹っ飛ばした奴が、鎧を押しのけて立ち上がった音だ。


「やれるもんなら、どこからでもかかって来なさい」


 両手を広げてやると、三人は雄叫びを上げながら私に向かって剣を振るって来た。

 全然遅いし威力もない。

 魔物三人と魔幼女との闘いを見た後だと、迫力がなさすぎる。

 簡単に避けられるし、剣なんか指先の触手で往なせるし。


「つまんないの。もっと楽しませてよ、ニコルにしてたみたいに」


 煽ってみても、スピードは多少増すけど精度は下がるばかりだ。


「あー、もう良いや。そろそろこっちから行くよ」


 三人とも手を止めて下がった。

 扉近くの一人なんて、部屋から出ようとしてる。


「おっと、逃す訳には行かないんだよね」


 私は右手の触手を伸ばして扉をバタンと閉め、逃げようとした男をその触手でグルグル巻きにした。

 悲鳴が聞こえたけど、多分気のせいだよね。

 大の大人が、まして男が、情けない声を上げるとかあり得ない。


「アレックス!」


 それ、こいつの名前?

 完全に名前負けしてるじゃん、カッコ悪。

 そんなアレックス君を助けようと、しゃにむに剣を振るって二人が突進して来る。

 ちょうど良いから二人同時に左手の触手で捕まえた。

 三人まとめて右手の触手でふん縛ると、彼らは口々に助けを求める言葉を発する。

 私は深く溜め息を吐いた。


「ニコルをこんな目に遭わせて、ただで済むと思ってんの?」


 男達の悲鳴、煩いなあ。


「そうだなー。手始めに、あんた達の股に付いてるその貧相な棒と玉を切り落とすでしょ。それから、汚い言葉を使えない様に舌を抜くでしょ。後は、そうそう、暴れられない様に手足ももいでおかないとね」


 なーんちゃって。

 そんなグロ、頼まれてもお断りだわ。


 鼻で笑っていると、扉が遠慮がちに開く。


「チカ、やりすぎ……」


 毛玉を抱いて扉から顔を覗かせたルードが、ドン引きの表情で言った。


「そう? そんな事ないでしょー」


 だって、ニコルに滅茶苦茶酷い事しようとした奴らだよ。

 地獄より怖い思いをさせなきゃおさまんない。


「いや、男にとって大事な部分を切り落とすって、聞いただけで鳥肌立っちゃうでしょ」

「悪いのはこいつらじゃん」

「そうなんだけどさ」


 部屋に入ろうとしたルードを、アルが制止する。


「お入りになるのはお止しくださいませ」

「え、何で?」

「薬剤が撒かれておりますので、危険でございます」

「ああ、この香り。また懐かしいものが出て来たね」


 汚いものを見た様に眉間にシワを寄せて、ルードは鼻をつまんだ。

 毛玉も両肉球で鼻を押さえる。

 一人部屋に入ったアルは、ポケットから出したハンカチで口元を覆った。

 肩には縄を担いでいる。

 執事の格好とミスマッチすぎて逆にしっくり来てる気になるな。


「今も流通していると聞いた事はございますが、貴族の間でも売り買いされていた様でございますね」


 ただのエキゾチックな香りの香水みたいだけど、これの何が危険なのか。

 ニコルがこの香りでおかしくなっちゃったのは、トラウマがあったからでしょ。


「こんなものニコルに投げつけやがって。一生消えないトラウマ植え付けてやるからね」

「チカ様も、落ち着いてくださいませ」

「何よー。私、別に取り乱したりしてないし」


 アルは私に目を細めてみせると、触手に捕われた男達に視線を移した。

 ちょっときつく縛りすぎたかな、泡吹いちゃってるよ。


「そうでございますね。ではこの三名は私どもでお引き受けいたますので、チカ様はニコル様をお連れになってお風呂へお行きくださいませ。ニコル様の身体に付いた薬液を落とさなくては」


 あ、そうだね。

 ニコルをこのままにはしておけない。

 どんな酷い事か想像したくないけど、この香りが纏わり付いてる限りニコルは辛いままだ。


「分かったよ。じゃあ、こいつらには社会復帰出来ない位の罰をよろしく」


 触手を消して『破魔の剣』を懐に仕舞うと、私は膝をついたまま固まっているニコルに肩を貸して立たせた。

 アルが肩に担いでいた縄を男達に巻き付けるのを尻目に、私とニコルは部屋を出てお風呂に向かう。


「って、どこだよお風呂」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ