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45.主婦、メロメロになる

 青く靡く髪に尖った耳。

 顔の造形背格好云々よりもまずその二点に誰もが目を向ける。

 今し方すれ違った三人の男達も例外ではない。

 皆が一様に、あからさまに、嫌悪感と忌避感とその他色々な負の感情を込めた視線を注ぐ。

 しかし、彼女はその髪と耳を隠す事もせず、堂々と歩みを進めていた。

 まるで、隠す必要など無いとでも言う風に。

 それを見送った三人は、口々に言う。


「何だよ、あの半端者。隠してりゃ可愛げもあるってのに」

「あいつだろ、王様のお気に入りって奴は」

「街の半端者を、片っ端から城の近くの廃墟に呼んでるってさ」

「マジか、何やらかすつもりだよ」

「何でも、半端者にも権利をとか言っちゃってるらしい」

「所詮半端者なのに、何を勘違いしちゃってるのかね」

「一度、人間様の怖さを知ってもらった方が良いんでないの?」

「だよなー、このままだと国ごと乗っ取られちまうぜ」

「でも、王様のコレなんだろ。ヤバくね?」

「言っても半端者じゃん。生意気な口きいたからお仕置きしましたー、で良いだろ」

「だなー。やっちまうか」

「よっしゃ、正義実行な」


 王城の廊下に谺する下卑た笑いは、彼女には届かない。



 -----



 ああ、この感じ。

 柔らかくてあったかくて、懐かしい。

 来てくれたのね、ニコル。


 じゃないわ!

 寝惚けてる場合か!

 私は池ポチャして死にかけたんだよ!

 水面にうつ伏せになって動かない私を不審に思ったワンドが助けてくれなきゃホントに死んでたわ!

 てかピラニア似の鯉に食われなくて良かった!


 しかし、魔力が無くなると動けなくなるの、これどうにかならないかな。

 部屋に運んでくれる途中にワンドが「魔力切れってホントにあるんだねー」とか言ってたから、普通は使い果たすまで魔力使わないんだろうけど。

 生まれた時から魔力持ってた魔物さん達と違って、こちとら数週間前に初めて魔力を授かった訳よ。

 自分の限界なんて知る筈もないじゃないの。


 それにしても、私ってホント持ってる魔力少ないんだな。

 もうちょっと行けると思ってたんだけど。

 黒い龍と闘った時より、魔力の量少なくなってる気がする。

 あの時も必死こいてたし、気のせいかもだけど。


 もしかして、回復し切ってないとか。

 何日も魔力使ってなかったのに、それは何か違うような。

 だけど、現に今も回復し切ってない感、というか全然回復した感がないというか。

 水に浸かりすぎて肉体的に疲労してるだけなのかもだけど、起き上がっても倦怠感が抜けてない。


 まあ、良いか。

 とりあえずこの膝の上のもふもふを堪能して……


 あれ、ノエルちゃん、こんなに大きかったっけ?


 ん?

 え?


「えええええっ!?」


 既に一度見た事があるのに、それでも私は声を上げずにいられなかった。


 はい、そこには黒い猫耳の付いた黒髪の美少女がちんまり鎮座なさっていらっしゃいましたとも。


 何と言いましょうか、ホントに美しい。

 美しいって言い方も何か違う気がするけど。

 これがノエルちゃんの人間の姿?

 何てきゃわたん!


 基本は毛玉、もといブランの毛が黒くなったバージョンで、目の色もついでに黒くしましたよ、な感じ。

 なのに何なの、この溢れ出る色気は!

 見た目三歳くらいの女の子に色気とか意味分かんないんですけど!

 ああ、あれか、服が黒いからか。

 いやいや服だけで色気がゼロから三百になる訳ないだろが。


 驚きながらも肉球から手を離そうとしない私を鬱陶しそうに見上げて、ノエルと思しき猫耳の女の子は溜め息を吐いた。


 溜め息ですよ溜め息!

 三歳児が色気のある溜め息!


 あー何かもうテンションおかしくて頭がクラクラして来た。


「そろそろその手をお離しなさい」

「あ、はいすみません」


 喋り方!

 これもう三歳児じゃないだろ!

 あ、考えてみたらこの子も魔物だし人間の三歳と比べても仕方ないか。

 でも毛玉、じゃなくてブランはほぼ三歳児だったよ。だったよね、私の記憶では。


「あなたには感謝しているわ」


 声も可愛いいいー!

 お顔も声も可愛いとか犯罪でしょこれ。

 もう犯罪でしょ!


「お陰様で人間の言葉を話せるまでに魔力が回復したもの」


 ああー、自分の子供がこんなだったら毎日胸キュンで家事頑張れる気がするー!

 まあうちの息子も可愛いもんだし、私と夫の子だったらこんなに顔面スペック高い娘は生まれないだろうけど。


 うん、少し冷静になったぞ。


「どうしたのー?」


 私の声を聞き付けたのだろう、ワンドが心配そうに顔を覗かせた。

 やっぱりワンドよりノエルの方が色気あるなあ。


「主様たち戻って来たけどー、ノエル……」


 ワンドはノエルを見て固まった。

 ノエルの人間の姿なんて見飽きてるんだろうに、何でそう驚くかな。

 色気がありすぎて毎回ビビるとか?

 な訳ないか。


「ノエルだよねー?」

「え、違うの?」

「ノエルが人型になったの初めて見たよー」


 ワンドでも初めてなの?

 え、どういう事?


 廊下からドヤドヤと声が近付いて来る。


「全く、儂の傑作をブチ破りおって」

「まあまあ、ソード。廊下に穴が空いてないだけ良いじゃないか」

「おいワンド、壁はお前が元通りにしておけよ。俺は手伝わないからな」


 格子から『魔王』とペンタクルとソードの姿が見える。


「待たせたな。話の続きを……」


 格子の扉を跨いだまま、『魔王』も固まった。

 何、誰かフリーズの魔法でも使ってるの?

 てか『魔王』の顔、これ見せちゃって大丈夫な奴?

 すっごくレアだと思うけど。


 ポカーンと顎を落とした顔、すっごくギャグな感じになってるんだけど。

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