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異世界たちと探し人  作者: みあし
三章 金時星編

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Ⅳ 君は何者ですか 


 ひたすら地球に降りかかった災難の映像を見届けた後、ゆづりはいつも通り寝た。そして、普段通り朝五時に起床して、学校へと赴いた。


 世間は今も荒れに荒れている。日本では地震がちょいちょい起こっているし、他国でもテロやら災害やらで散々なことになっているようだ。


 しかし、だからといって、ゆづりに出来ることなんて何も無い。ゆづりはただ不老不死というだけの凡人なのだから。


「一番乗りかぁ」


 通常通り、ゆづりは静まり返った教室に一番で到着する。そして、よたよたと覚束ない足取りで自席に向かい、無造作に鞄から教科書やらノートを取り出して、ふとあることを思い出した。


「そういえば、古葉のこと調べないといけないのか」


 何かヒントが記されているかもしれないという『開発者』の残した日記。絶賛翻訳を進めているその本の後半部分が、何故か切り取られてしまっているのだが、桃の嗅覚により古葉がページを奪った犯人だと判明した。

 しかし、その時はイルゼやアリーセを待たせていたため、古葉に言及等はしなかった。が、今はもう障害はない。彼への対応も考える必要がある。


「切り取った紙、机の中にしまってたりしないかなぁ…」


 教室には誰もいない。古葉の机にページがあることを期待して、彼の机の中を漁ってみるか。

 ゆづりはチラリと黒板の上にある時計を伺う。時計が示す時間は七時二十分。残念ながら古葉が登校してくる時間に近い。


「…止めておくか」


 人の机に手を出しているところを、他人に見られたら怪しまれる。危ない橋は渡らない方が良いだろう。

 ゆづりはきっぱりと古葉のことは忘れて、机の上に開発者の日記を出す。すると、予想通り古葉が教室に入ってきた。


「佐々木さん。おはよう」

「…うん、おはよう」


 古葉は愛想良く手を振り、こちらに挨拶を投げてくる。

 彼はゆづりと一緒に帰宅した日以降、毎朝このように声を掛けてくれる。が、それだけだ。学校生活の中で話し掛けたり、逆に話掛けられたりとかは一切していない。なんとも居心地の悪い距離を保っている。


 そこまで古葉と仲良くなる気がないなら、それで良かった。しかし、今は困る。こんな調子では、奪われたページは返ってこないし、古葉に話を聞くことも出来ないのだから。


「………」


 やはり、曖昧な距離感を捨てて、直接聞いてみるか。この日記破ったのは君だよねと。ただ、それをしたところで得られる成果が薄そうなのが、ゆづりの頭を悩ませる。


 仮に古葉に訊ねてみても、彼にそんなもの知らないと突っぱねられてしまえば、ゆづりは何も言えなくなってしまうのだ。それに反論する要素、古葉が犯人だと言い切れる証拠はゆづりの手元にないのだから。


「難しい顔してるね。悩みごとでもあるの?」


 ゆづりが小さく呻きながら頭を回していれば、古葉が声を掛けてくる。そして、いけしゃあしゃあとゆづりの席の隣へ腰かけた。


「うん、まぁ、そうだね…」


 悩み事も何も、原因はこの人だ。このクラスメイトが訳の分からないことをするから、ゆづりは困っているのだ。

 このゆづりの悶々とした気持ちなど、古葉は知らないのだろう。いや、知ってて隠しているのだろうか。とにもかくにも、彼は何も答えないゆづりに対して、不可思議そうな顔をしている。

 その顔に腹が立ったゆづりは、特に考えることもなく開発者の本を古葉に見せつけた。


「実は、この本のページがちょっと無くなっちゃって。いつ落としんたんだろうって悩んでいるんだよね」

「へぇ。それは大事なものなの?」

「うんまぁ…大切なものだね」

「それじゃあ大変だ。最後にページが揃っていたのはいつとか覚えてないの?」


 古葉は波風立てることなく、ゆづりの言葉へ返答を打ってくる。動揺も焦りもなければ、白々しさもない至って普通の態度で。


「………えっと…」


 あまりにも普通な古葉に、むしろゆづりが動揺してしまう。もしかしたら桃が彼の匂いを嗅ぎ違えたのかと。古葉はこの件について全くの無関係者ではないのかと。

 

 しかし、違う。桃の嗅覚は正確だった。彼女はゆづりの母の家と、父と姉が命を落とした場所を当てている。だから、桃の言ったことが当たっている。

 そして、古葉の言葉が偽物だ。この何処にも違和感がない会話も仕草も、全てが彼の上質な嘘だというだけ。悪いのは古葉だ。


「……あんまり覚えてないんだね、それが」 

「そっか。もし助けが必要なら言ってね。俺も一緒に探すからさ」

「ありがとう。助かるよ」


 古葉の態度を崩せそうにないと悟ったゆづりは、あっけなく会話を終わらせる。すると、彼もそれ以上は言及せず、自席へ戻っていった。そして、しばし机の中を物色した後、サラサラと鉛筆の音を立てて勉強し始める。

 

「…………」


 ペンを進める度に、サラサラと揺れる古葉の漆髪。それを後ろからじっと見つめていれば、とあることを思い出した。

 アリーセの髪を抜き取り、金時星へ持って行った時のことを。


「…そうか」


 今回も古葉の髪を金時星に持っていき、彼の過去を覗き見ればいいのか。

 そうしたら本当に彼が日記を取ったのかも分かるし、その後ページを何処にやったのかも分かる。流された映像を写真か何かで取っておけば、追及することだって出来る。


 なかなかいい案だ。というか、最善策だろう。

 計画が定まった。なら、さっそく髪の毛を頂戴しよう。ゆづりは特に迷うこともなく立ち上がり、古葉へと近寄る。


「佐々木さん?」


 ついさっき会話したというのに、またも近付いてきたゆづり。少々挙動不審なゆづりに、古葉は手を完全に止めて、戸惑ったように笑う。


「……君ってさ、その…髪が綺麗だよね」


 古葉の目に急かされて出てきた言葉は不自然すぎた。自分で言ってて笑いそうになるくらい、滑稽で意味が分からない言葉。


 ゆづりは羞恥心のあまり逃げ出しそうになる。が、もう今更引き返せない。ここでなんでもないなどはぐらかして帰る方が、よっぽど不自然だ。


 髪を抜くだけ。少し痛い思いをさせるだけ。そう無理矢理言い聞かせて、ゆづりは困惑している古葉の髪に手を伸ばす。そして、さっさと髪を抜き取ろうと、人差し指で毛先を摘もうとして。


「そうかな」


 不意に古葉が手を上げ、ゆづりの手を払う。そして、彼の黒瞳が真っ直ぐゆづりの目を射貫く。同時に、彼の口が緩やかに弧を描いた。


 やはりバレたか。

 嫌な予感に駆られたゆづりは、勢いよく古葉から手を引く。しかし、もう遅い。彼は素早くゆづりの腕を掴み取り、無理矢理引き寄せていた。

 

「あっ……」


 強い力で握られる右手に、ゆづりの頭は真っ白になる。マズい。捕まった。どうしよう。何と言い訳しようと。

 しかし、彼の口から吐き出された言葉は、ゆづりの言動を問いただすものではなかった。


「佐々木さんの方が綺麗だよ」


 古葉はそう囁いたのだ。ゆづりの耳元に顔を寄せて、息が吹きかかる近さで、シンプルな褒め言葉を囁いてきた。

 

「……は?」


 ゆづりは恐る恐る古葉の顔を伺う。すると、古葉の笑みが目に入った。肉食動物が草食動物に向けるような、余裕の笑みを。ニヤニヤと意地悪げに歪んでいる笑顔を。


 訳が分からない。

 ゆづりはカタゴトで、「ありがとう」と返すしかなかった。

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