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異世界たちと探し人  作者: みあし
二章 火敵星編

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4話 ガサツな竜との帰宅

 

 理解者から本を翻訳してもらった後、ゆづりはまた廊下に出た。

 ちなみに本の内容は火敵星の家系図だったようで、創造者の正体に繋がるものではなかった。


 このまま中継場にいても、目立った収穫はあるまい。それなら、一回地球に戻って、開発者が残した本の翻訳をしよう。

 ゆづりはなんとなく今後の予定を立てつつ、廊下を歩いていたのだが。


「やっぱ気になる…」


 地球への向かうはずのゆづりの足は、火敵星の扉の前で止まる。

 あの心霊現象を体験して、無視は出来ない。いや、無視すべきだとは思っているが、気になってしまうのだ。

 いけないと分かってても、好奇心に負けたゆづりは数センチだけ火敵星の扉を開ける。そして、その隙間から中を覗き見た。

 しかし、部屋の中に人の姿は見つからない。しんと埃が舞っているだけの、暗い雰囲気しかなかった。

 もしかしたら最初に聞いた音は幻聴だったのかもしれない。ゆづりは一人納得出来る理由をこじつけると、扉を閉じて背中を向けた。

 その後は寄り道せず、淡々と宇宙空間部屋へと入る。すると。


「あ、知ってる人だ」

「桃…」


 宇宙空間部屋の中央、敷かれた絨毯の上に竜人こと桃が転がっていた。昨日と異なり、今日はうつ伏せだ。大きな尻尾が力強く揺れている。

 ゆづりは彼女に絡まれないよう軽く会釈をした後、そくささと立ち去ろうとする。しかし、桃はまたもゆづりの足をつかむと、それを阻止した。


「ね、どこ行くの?」

「地球です。私の家は地球にあるから」

「へー」

 

 彼女から聞いてきた割には、あまり興味がなさそうな反応を見せる桃。ゆづりはもう行っていいかと足を軽く動かしたが、彼女は未だゆづりの足を掴んでいるため、その場から前には進めなかった。


「その…桃は今、何してるの?」

「ん、何もしてない」

「なにも…」

「神は人を殺せないから、桃は人を殺せない。だから暇」

「えっ、そうなの?」

「うん。殺せないようになってる」

「へ、へぇ…」


 桃はダラリと伸びた手を開いたり閉じたりする。

 殺せないようになっているの意味がよく分からないが、深く聞く気にはなれない。初対面の時に散々なぶられたのだ。下手に会話をしたくないし、目も合わせたくない。

 ゆづりはそうなんだと適当に相槌を打つと、そっと足を払う。すると、今度は難なく桃の手の拘束から逃れられた。

 やっと気が済んだらしい。ゆづりはラッキーと薄く呟きつつ、その場を後にしようとする。が、その背後で桃は急に立ち上がる。そして、無防備なゆづりの背中に飛び込んだ。


「うおっ?!な、なに!?」

「桃もお前についていく。暇だから」

「えっ」


 桃に抱きつかれた勢いで床に倒れていたゆづりは、茫然と桃を見上げる。

 桃が地球に来る。考えるまでもない。拒否するに決まっている。

 彼女は当たり前のように人を殺すモンスターだ。そんな彼女を地球に持ち込んだら、何か問題が起こるのは確定だ。勘弁して欲しい。

 ゆづりは流石に断ろうと、恐る恐る口を開くが。 


「ね、だめ?」

「……ま、まぁいいよ……」


 桃の良心に訴えるような視線に、ゆづりはあっけなく陥落した。そして、来てもいいと返事をしてしまう。

 ほら、神が人を殺せないのなら、殺人事件や暴力行為が起こることはない。それに、周りの人は桃のことは見えないのだから、彼女の人間離れした容姿も特に問題はないはずだ。


「いや、本当に見えないのか……?」


 ゆづりは何とか自分の判断を正当化しようとするが、早速行き詰まる。そして、ぼんやりと思う浮かべることは、ノアが地球に来たときと、ゆづりが土獣星に行った時のことだ。


 地球にノアが来た時、彼の姿は地球人に認識されていなかった。声も聞こえていなければ、姿も見られていない。幽霊のような存在になっていた。

 一方、ゆづりが土獣星に降りた時は、ツキやカケルなどの土獣人たちはゆづりを確かに映していた。

 ゆづりは、なんでこの認識の違いが生まれてるのか把握していない。だから、桃がどちらに区別されるのか分からない。


「……どうしよ…」


 もし桃の姿が地球人に見えてしまうとなると、色々厄介だ。地球人には無い、角と尻尾が生えているのだから。宇宙人が来たと騒がれるのが目に見える。


「ねぇ、桃。その角と尻尾仕舞えない?」

「え、なんで」

「地球人にはないからだよ」

「ふーん」


 桃はつまらなそうに返事をしたものの、指示には素直に従ってくれた。

 彼女はトントンと自分の角を叩いて角を引っ込め、床をベチベチ殴ると尻尾をしまった。まだ独特な髪色や格好などは目立つが、パッと見るだけなら地球人そっくりだ。


「どお?」

「うん。いい感じ」


 ゆづりは桃の頭を撫でて褒める。すると、桃はポカンとした顔で何と呟く。

 いすずは頭を撫でれば喜んでいたのに、竜はどうやら違うらしい。ゆづりはすっと手を引っ込めると、ごめんと謝った。


 

 ゆづりが桃の手を取り地球に戻れば、教室には誰もいなかった。

 時計を見ると七時過ぎ、校舎に人が残っていてもおかしくない時間だ。このまま廊下に出て、桃を誰かに見られたら厄介なことになる。

 ならばとゆづりは再びベランダに戻ると、地面へと飛び下りた。そして、桃の手をとると、そくささと学校の敷地内から出る。


「やっぱ見えてるな…」

「え、なに」

「なんでもない」


 道路に出ると、通りすがりの人からの不思議なものを見るような視線が刺さった。彼らはおそらく桃が見えているのだろう。彼らの目はゆづりの隣にいる桃の顔へと向けられている。


「お、ちきゅー、すごい」


 しかし、桃はそれに気付いていないのか、はたまた無視を決めているのか、大きな反応は無い。代わりに、近くの家の庭にある花をむしろうと、手を伸ばしていた。

 ゆづりはすかさずその手を掴むと、ぐいぐい引っ張って家へ連れて帰る。やっぱり拒否すればよかったと、さっそく後悔し始めていた。


「ここ家、入って」

「おー」


 そのまま桃の手を引くこと十数分。

 桃は意外にも大人しくついてきたため、すんなりと家へ着いた。ゆづりは玄関のドアを開けると、桃を中に押し入れる。今日は母親の姿は無く、家はしんと静まりかえっていた。


「や、ちっちゃい部屋」

「文句言うな」


 入室早々無礼なことを言いはなった桃。ゆづりは手を洗いながらむっとした顔で桃を見下す。すると、桃はごめんと謝った。意外にも素直な性格の持ち主なのかもしれない。

 それに気を良しとしたゆづりは気前よく菓子が詰まっている棚を開ける。そして桃を振り返った。


「桃、好きな食べ物とかある?」

「え、分かんない。アレルギーはない」

「そっか」


 ゆづりはノアにあげたのと同じクッキーを机に置く。すると、桃はひょいと手を伸ばし、口に投げ込んだ。

 おそらくクッキーなど食べたことはあるまい。どういう反応をするのかじっと観察していれば、桃は次から次へとクッキーに手を伸ばす。どうやらお気に召したらしい。


「桃はさ、なんで神になったの」


 クッキーが咀嚼されていく音だけが響く部屋。そんな空間に耐えきれず、ゆづりは桃の前に座ると口を開いた。桃はこちらを一瞥した後、すぐにクッキーへと視線を戻す。


「え、言われたから」

「えっ」

「ん、竜の偉い人になれって言われた。だからなった」

「……じゃあ、やりたいこととかは?」

「知らない。指示されたことをやる」


 桃はむしゃむしゃとクッキーを消費し続ける。そんな彼女をゆづりはポカンとした顔で見つめるしかなかった。

 神になりたかった理由は人に言われたから。やりたいことはない、目的もない。いすずの統治に不満を持っていたわけでもない。そんな他人任せの意思でいすずを殺したらしい。

 こんなの聞いたら激昂する人もいるだろう。しかし、ゆづりは怒りなどは一切覚えず、むしろ同情の念が生まれていた。

 人に言われるがままで、中身は空っぽ。自分に似ている、そんな気がして。


「………それならさ、結界は壊さないでおいてよ」

「え、なんで」

「平和な方がいいから。いすずはそう願っていたのだろうし……」

「ふーん」


 桃は分かったのか分かっていないのか、曖昧な返事をするだけだった。まぁ彼女は殺しを遊びの一種だと思っている。だから、言っても分かってもらえる可能性は低い。根底の価値観が違うのだから。


 議論を展開する気はないゆづりは、桃を差し置いて机に向かう。そして、電子辞書を取り出し、開発者の本を翻訳しにかかった。

 すると桃が空になったクッキーの皿を放置して、ゆづりの脇から顔を覗かす。


「ねね、何読んでるの」

「開発者が残した本」

「へー」


 桃はそれだけ言うと、その後は無言でゆづりの手を見ているだけ。

 興味があるのか、はたまた暇だからなのか。どちらにしても、じっと見られていてもやりづらいだけだ。

 ゆづりは翻訳を中断して立ち上がると、棚からゲーム機を取り出す。最近は滅法手を付けていないため、ちゃんと動くか心配だったが、無事起動してくれた。


「どうぞ」

「え、なにこれ」

「ゲーム。面白いよ」


 ゆづりが提示しているのは、かの有名な車を運転しタイムや順位を競うゲーム。そこまで複雑なルールではないため、慣れればすぐ楽しくなるだろう。

 桃は半信半疑といった様子でゲーム機を受けとり、カチャカチャとボタンを動かす。しかし、しばらくするとゲームの魅力に気づいたらしい、画面に吸い込まれるように前のめりになっていた。

 最初は赤子同然の拙い動きだったものの、三十分と経った頃にはゆづりと遜色ない腕前にまで成長していた。


「ねね、ゆづりやろ。一緒にやろう」

「やだよ。忙しいし」

「ちぇっ」


 桃はかなりゲームを気に入ったらしい。度々ゆづりの隣に来ては遊ぼ遊ぼと、腕を引っ張ったり、髪をぐちゃぐちゃにしたりしてくる。

 意地悪をしているんだか、他意はなく純粋に誘っているだけなのかは分からないが、普通に痛い。

 ゆづりは涙目になりながら、桃の狼藉を躱しつづけた。

神は人を殺せない

→神が人を害する行為をしても、初めからその行為がなかったことになります。(人をナイフで刺したら、ナイフが消滅して虚空を掴んでいる状態になる)


登場人物


ゆづり…主人公。不死の体を持つ。創造者を探している。

(トウ)…土獣星の神。喧嘩好きの野蛮な竜娘。

開発者…昔の地球の神。三大賢神の一人。

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